論文
学生の社会化を支援する大学授業の方法論
若者文化研究所西村 美東士
(徳島大学 大学開放実践センター)
要約:われわれは、学生の社会化状況を分析してその類型化を試みるため、次の研究を行った。T双方向要素を取り入れた授業を試行し、それぞれの要素が学生の社会化に対してどのような効果をもたらすかを検討した。U社会からの青少年の社会化に関する要請の近年の動向を、年次ごとの文献分析を通して把握した上で、大学教育がそれにどう対応すべきかを検討した。V社会化に関する学生の記述内容を分析し、「自分らしさ」に関する意識との関連から「主観的自分らしさ優先型」「同化圧力としての社会化型」「社会への組込まれ必然型」「社会と自己相互発展型」の4類型を導き出した。W現代青年への質問紙調査の結果を「合意形成への態度」と「自分らしさ」に関する意識との関連の観点から分析し、「貫徹志向とことん型」、「貫徹志向あきらめ型」、「状況志向あきらめ型」、「状況志向とことん型」の4類型を設定した。以上の4つの研究から示唆された方向に基づき、学生の社会化類型に応じた望ましい大学授業の方法に関する仮説を検討した。
(キーワード: 大学授業、社会化、自分らしさ)
Teaching Method at University Class which Supports Students' Socialization
Mitoshi NISHIMURA
Center for University Extension, the
In order to analyze a socialization situation of students and to try to
classify it, we performed the following researches. (T) Trying to teach a class
which took in the both-direction elements, we examined its effects. (U) Analyzing every year’s
reference, we found the trend of the recent years’ requests from society about
socialization of the youth , and argued how university education should
correspond to them. (V) Analyzing
the contents of description by students, we drew out the four types from the
relation with “self-consciousness”: 1) "subjective self-consciousness
priority type", 2) "socialized type by assimilation
pressure",
3) " inevitably included to society type ", and 4) " both
society and self developing type."
(W) Analyzing the results
of the questionnaire to the present-age youth from the viewpoint of the
relation to "the consensus-making attitude" and
"self-consciousness", we set up four types. Based on the suggestion
from the four researches above, we examined hypothesis about the desirable
teaching method at university class according to the socialization types of the
students.
(key
word: university class, socialization, self-consciousness)
1.本研究の問題意識
大学授業を行う者にとって、学生の社会化は、第1に「よい授業をするため」の喫緊の課題である。
われわれは大学授業において、積極的に双方向要素を取り入れようとしてきた。しかし、その際、多くの学生が他者、とくに集団に対して意見を述べあうなどの相互関与をすることに対して「苦手意識」をもっており、そして、それが学生の能動的な授業参加に対する阻害要因になっている。
第2に「よい人材を社会に送り出すため」の重要課題でもある。
社会は、卒業する学生に対して、望ましい個性とともに、その個性を社会で発揮、実現するための社会的な資質・能力を求めている。社会的側面での現在の学生の欠陥を指摘し、大学教育に対処を期待する社会からの要請の声は強い。
また、青少年施策や教育全般、青少年研究、世論、マスメディア等も、「引きこもり」等の現象を問題視し、広く現代青少年全般の社会化をますます重要な課題として認識し、対応しようとしている。
それでは、学生たち自身は、どう考えているのか。彼らの多くは他者への関与に「苦手意識」を持ちながらも、これを少しでも改善し、社会性を身につけ、職業などの社会生活を上手にやっていきたいと思っている。
しかし、現実には、大学授業にしても、青少年施策等にしても、彼らの社会化を十分効果的に支援しているとはいえない状況にあると考える。
大学授業においては、われわれは、その原因として、第1に、学生自身の社会化ニーズが、われわれの支援しようとする社会化の内容とすれ違いを起こしているからなのではないかと考えた。
もちろん、学生の社会化ニーズ自体が、未成熟であり、「適切」とは限らないものではある。しかし、学習者の学習欲求から出発しなければ、教育効果は上げられないのである。
第2に、われわれが彼らの社会化を支援しようとする際に、学生の社会化状況を的確に把握し、その状況に適切に対応した指導を行うという点で、不十分だったからなのではないかと考えた。それぞれの状況によって、適切な指導のあり方も異なるはずである。
さらに、第3に、われわれに「学習は個人的事象である」(1)という認識が不足していたからなのではないかと考えた。大学授業のすべてに個人対応を貫くというのは困難であろう。しかし、学生の内面の社会化は、本質的に「個人的事象」としての学習の一環であることを認識した上で、授業では学生の「集団」に対するということが必要である。
本研究では、社会化に関わる学生のニーズや状況を分析し、その類型化を試みたい。そして、これをもとに、学生の社会化を効果的に支援するための大学授業の方法と、そこでの学生指導のあり方について検討したい。
2.本研究の構成
研究Tでは、双方向要素を取り入れた授業を試行し、それぞれの双方向要素が学生の社会化に対してどのような効果をもたらすかを検討する。
研究Uでは、社会からの青少年の社会化に関する要請の近年の動向を、年次ごとの文献分析を通して把握した上で、大学教育がそれにどう対応すべきかを検討する。
研究Vでは、社会化に関する学生の記述内容を分析し、「自分らしさ」に関する意識との関連から類型化を試みる。
研究Wでは、現代都市青年の質問紙調査の結果を分析し、社会化の要素の一つである「友人関係」と「自分らしさ」に関する意識との関連から4タイプに分類し、それぞれのタイプの特徴を分析する。
以上の4研究の成果に基づき、学生の社会化状況に応じた大学授業の方法について検討したい。
3.研究T 双方向要素を取り入れた授業の試行とその成果
3-1.目的
われわれは、2000年度前期の徳島大学学芸員課程の科目「生涯学習概論」の2日間の集中講義の機会を用いて、自己決定の生き方を自ら選択するよう導く授業方法を検討した。そのことによって、学生の自己決定的な参加・参画に基づく手法であるワークショップ形態を中心にして、その指導の効果について明らかにしようとした。
学生の授業イメージの変容に関する質問紙調査や、学生の記述した文章及びWS(ワークショップ、以下同じ)成果の分析の結果、学生の「即自」→「対自」→「対他(対他者)」の気づきの発展プロセスが検証された。しかし本研究では同時に、他者への気づきが「対自」や「即自」の気づきに再び転化して深まっていくことが確認された。学生の気づきのこのような「段階を踏んだ循環」を教師が予めよく理解し、それに沿った授業を展開する必要があることが明らかになった。
このことについては大学教育学会『大学教育学会誌』に述べた。(2)
そこで、双方向要素を取り入れた授業を試行し、それぞれの要素が与える学生の「即自」「対自」「対他」の気づきへの効果を明らかにしたい。
3-2.方法
2000年度後期の共通教育(教育学)「大学・市民・ボランティア」において、すべての回について学生の授業イメージを調査した。(3)
「そう思う」を4、「ある程度そう思う」を3、「あまりそう思わない」を2、「そう思わない」を1として集計した。中間値の2.5は「どちらともいえない」を表す。
授業は、「昨年当初は、半数近くの学生がこの授業を受ける理由について『単位取得以外に理由はない』とした。他方で、多くの市民が生涯学習に関心を示している。なぜ、このようなギャップが生ずるのか。市民の学びや、ボランティア活動の可能性を考えることによって、どのように学生として生きるか、市民として生きるか、他者にとって意味ある存在としての自分を発見するかという課題に対して、各人なりの答えがもてるようにする」ことを目標とした。また、ほとんどの回で「双方向要素」を取り入れた。
表1 各回の双方向要素等とイメージ調査の項目 |
||||
月日 |
テーマ |
形態 |
双方向要素 |
授業イメージ調査(n=回答者数) |
2000 10/17 |
@なぜこの授業を受けるのか |
対教師観察型WS |
「なぜ受けるか」カード式発想法 |
カード式発想法は講義より n=120 |
10/24 |
Aなぜ「教育」なのか |
教師主導型文章表現交流 |
出席ペーパー(学生の自由記述読み上げ)システム |
出席ペーパーシステムは講義より n=83 |
10/31 |
Bどう「個の深み」と出会うか |
対教師観察型図解作成 |
「幸せの瞬間」カード式発想法 |
「幸せの瞬間」は講義より n=83 |
11/07 |
C何を伝えるのか |
教師の強制によるGW |
「学生の特権」カード式発想法 |
「学生の特権」は講義より n=70 |
11/14 |
Dフリーチャイルドを取り戻せ |
個人作業による図解作成 |
「フリーチャイルド」図解ワーク |
図解ワークはグループワークより n=60 |
11/21 |
E「総合的な学習の時間」の意味 |
共同作業による図解作成 |
「総合的な学習の時間」図解ワーク |
図解ワークは講義より n=37 |
11/28 |
F「セックス」を考える |
教師の講義とビデオ視聴 |
「性教育をどうする」ビデオ視聴 |
今日の講義は双方向授業より n=62 |
12/05 |
G共感の時空間のつくり方 |
グループ内相互の自己開示 |
「価値観ゲーム」と話し合い |
価値観ゲームは講義より n=47 |
12/12 |
H市民活動の仲間関係 |
個人による沈思 |
「価値観ゲーム」の分析 |
価値観ゲームの分析は講義より n=51 |
12/19 |
I組織や社会への対峙方法 |
共同作業による図解作成 |
自分らしさの判断基準(GW) |
自分らしさの判断基準は講義より n=22 |
01/09 |
J自分らしく生きる |
共同作業によるスローガン作成 |
自分らしさの方法(GW) |
「自分らしさの方法」は講義より n=17 |
01/16 |
K癒しの時空間のつくり方 |
特定学生対教師の対話観察 |
インタビューダイアローグ(特定学生) |
出席ペーパーシステムは講義より n=31 |
01/23 |
L学びとは何か |
学生対教師の対話(質疑応答) |
インタビューダイアローグ(全員) |
インタビューダイアローグは講義より n=22 |
01/30 |
M大学/市民/ボランティア |
教師による一方的講義 |
出席ペーパーシステム |
本日の講義はグループワークより n=36 |
02/06 |
N各自まとめ |
個人による沈思 |
学生個人の文章表現 |
この授業はほかの講義型授業より n=50 |
授業実践と研究方法の概要は表1のとおりである。他に毎回の内容に関する課題を与えて文章を
書かせ、その記述内容を分析したが、本稿では省略する。
3-3.結果
調査結果の数値を表2に示す。また、その主な結果を図1に示す。その結果から以下の諸点が指摘できる。
初回の「カード式発想法」については、「01進め方がおもしろい」、「02わくわくする」、「09授業に親しみがわく」、「10退屈しない」、「11わかりやすい」などのいわば「即自的」な項目において高い評定を得た。
これは「なぜ、この授業を受けるのか」を各自
表2 各回の双方向要素のイメージ数値結果 |
||||||||||||||||
項目 |
@ |
A |
B |
C |
D |
E |
F |
G |
H |
I |
J |
K |
L |
M |
N |
AVE. |
01 |
3.45 |
3.20 |
3.24 |
3.21 |
3.12 |
2.92 |
2.97 |
3.26 |
3.08 |
3.00 |
2.65 |
3.06 |
2.91 |
2.86 |
3.34 |
3.08 |
02 |
3.14 |
3.06 |
3.00 |
2.99 |
2.90 |
2.57 |
2.84 |
2.89 |
2.67 |
2.77 |
2.44 |
2.58 |
2.59 |
2.47 |
2.82 |
2.78 |
03 |
2.91 |
2.87 |
2.81 |
2.76 |
2.92 |
2.70 |
2.84 |
2.91 |
2.75 |
2.91 |
2.47 |
2.90 |
2.27 |
2.50 |
2.65 |
2.74 |
04 |
2.94 |
3.01 |
2.88 |
2.63 |
2.92 |
2.27 |
2.76 |
2.40 |
2.43 |
2.67 |
2.25 |
2.52 |
2.18 |
2.86 |
2.84 |
2.64 |
05 |
2.58 |
2.76 |
2.69 |
2.78 |
2.92 |
2.49 |
2.39 |
2.89 |
2.51 |
2.55 |
2.75 |
2.80 |
2.45 |
2.17 |
2.66 |
2.62 |
06 |
3.16 |
3.28 |
3.06 |
2.97 |
3.08 |
2.62 |
3.02 |
2.57 |
2.82 |
2.73 |
2.76 |
3.00 |
2.50 |
2.97 |
3.22 |
2.92 |
07 |
2.70 |
2.82 |
2.61 |
2.63 |
2.57 |
2.65 |
2.55 |
2.57 |
2.45 |
2.32 |
2.53 |
2.35 |
2.23 |
2.25 |
2.48 |
2.51 |
08 |
3.02 |
2.83 |
2.90 |
2.74 |
2.73 |
2.62 |
2.55 |
2.57 |
2.57 |
2.59 |
2.65 |
2.47 |
2.27 |
2.50 |
2.70 |
2.65 |
09 |
3.37 |
3.28 |
3.10 |
2.91 |
2.78 |
2.76 |
2.74 |
3.00 |
2.65 |
2.95 |
2.87 |
2.77 |
2.50 |
2.75 |
3.04 |
2.90 |
10 |
3.20 |
3.07 |
2.94 |
2.71 |
2.75 |
2.73 |
2.76 |
3.11 |
2.86 |
2.82 |
2.41 |
2.58 |
2.50 |
2.63 |
2.94 |
2.80 |
11 |
3.05 |
2.83 |
2.66 |
2.70 |
2.50 |
2.51 |
2.84 |
2.70 |
2.75 |
2.41 |
2.31 |
2.61 |
2.33 |
2.92 |
2.69 |
2.65 |
12 |
2.59 |
2.46 |
2.31 |
2.30 |
2.58 |
2.43 |
2.77 |
2.37 |
2.57 |
2.50 |
2.06 |
2.45 |
2.18 |
2.78 |
2.58 |
2.46 |
13 |
2.90 |
2.96 |
2.84 |
2.79 |
2.70 |
2.84 |
3.00 |
2.79 |
2.69 |
2.82 |
2.50 |
2.77 |
2.45 |
2.94 |
2.92 |
2.79 |
14 |
2.88 |
2.83 |
2.58 |
2.90 |
2.67 |
2.78 |
2.66 |
2.47 |
2.69 |
2.68 |
2.38 |
2.55 |
2.64 |
2.50 |
2.78 |
2.66 |
15 |
2.56 |
2.66 |
2.31 |
2.56 |
2.70 |
2.46 |
2.47 |
2.32 |
2.63 |
2.55 |
2.47 |
2.23 |
2.68 |
2.64 |
2.48 |
2.51 |
16 |
3.13 |
3.24 |
2.99 |
3.03 |
2.95 |
3.00 |
2.74 |
2.91 |
3.06 |
3.09 |
2.93 |
2.94 |
3.18 |
2.58 |
3.12 |
2.99 |
17 |
3.00 |
3.05 |
2.95 |
2.91 |
2.92 |
2.89 |
2.74 |
2.98 |
3.12 |
3.09 |
3.00 |
2.77 |
2.64 |
2.58 |
3.02 |
2.91 |
18 |
2.77 |
2.72 |
2.57 |
2.60 |
2.38 |
2.38 |
2.84 |
2.38 |
2.48 |
2.45 |
2.44 |
2.29 |
2.59 |
2.81 |
2.54 |
2.55 |
19 |
2.50 |
2.41 |
2.28 |
2.49 |
2.48 |
2.65 |
2.39 |
2.66 |
2.24 |
2.86 |
2.63 |
2.58 |
3.00 |
2.19 |
2.60 |
2.53 |
20 |
2.26 |
2.33 |
2.05 |
2.57 |
2.15 |
2.84 |
2.15 |
2.68 |
2.29 |
2.73 |
2.41 |
2.19 |
2.09 |
2.22 |
2.34 |
2.35 |
21 |
2.19 |
2.12 |
2.07 |
2.21 |
2.08 |
2.65 |
2.06 |
2.55 |
2.25 |
2.68 |
2.44 |
1.97 |
2.00 |
1.86 |
2.28 |
2.23 |
22 |
2.32 |
2.41 |
2.11 |
2.23 |
2.33 |
2.59 |
2.23 |
2.46 |
2.38 |
2.55 |
2.38 |
2.10 |
2.27 |
2.11 |
2.22 |
2.31 |
23 |
2.75 |
2.78 |
2.39 |
2.67 |
2.67 |
2.70 |
2.45 |
2.68 |
2.63 |
2.91 |
2.76 |
2.35 |
3.00 |
2.44 |
2.54 |
2.65 |
24 |
2.86 |
2.88 |
2.67 |
2.93 |
2.73 |
2.76 |
2.55 |
2.94 |
2.67 |
2.86 |
2.88 |
2.45 |
3.27 |
2.22 |
2.92 |
2.77 |
25 |
2.86 |
2.89 |
2.84 |
3.03 |
2.90 |
2.78 |
2.76 |
2.89 |
2.71 |
2.77 |
2.65 |
2.74 |
2.27 |
2.47 |
2.80 |
2.76 |
26 |
2.96 |
3.05 |
2.99 |
3.09 |
2.92 |
2.86 |
2.77 |
2.96 |
3.08 |
3.27 |
3.06 |
3.03 |
2.91 |
2.64 |
3.02 |
2.97 |
27 |
2.56 |
2.48 |
2.36 |
2.50 |
2.55 |
2.49 |
2.58 |
2.57 |
2.47 |
2.64 |
2.41 |
2.29 |
2.27 |
2.33 |
2.54 |
2.47 |
28 |
2.60 |
2.66 |
2.46 |
2.63 |
2.57 |
2.49 |
2.40 |
2.55 |
2.47 |
2.14 |
2.41 |
2.48 |
2.68 |
2.36 |
2.38 |
2.49 |
29 |
2.98 |
2.90 |
3.01 |
3.07 |
2.73 |
2.97 |
2.68 |
3.11 |
2.80 |
3.14 |
2.94 |
3.00 |
2.59 |
2.44 |
2.94 |
2.89 |
30 |
2.40 |
2.52 |
2.30 |
2.31 |
2.58 |
2.24 |
2.48 |
2.53 |
2.41 |
2.23 |
2.24 |
2.32 |
2.18 |
2.33 |
2.38 |
2.36 |
31 |
2.93 |
3.10 |
2.84 |
2.84 |
2.92 |
2.81 |
2.68 |
2.85 |
2.96 |
3.00 |
2.88 |
2.84 |
2.95 |
2.58 |
2.86 |
2.87 |
32 |
2.40 |
2.52 |
2.24 |
2.41 |
2.25 |
2.53 |
2.23 |
2.43 |
2.48 |
2.64 |
2.53 |
2.35 |
2.18 |
2.25 |
2.70 |
2.41 |
33 |
2.60 |
2.63 |
2.40 |
2.59 |
2.37 |
2.32 |
2.29 |
2.43 |
2.63 |
2.55 |
2.47 |
2.52 |
2.27 |
2.33 |
2.74 |
2.48 |
34 |
2.72 |
2.88 |
2.49 |
2.66 |
2.42 |
2.46 |
2.34 |
2.53 |
2.64 |
2.36 |
2.53 |
2.35 |
2.36 |
2.42 |
2.82 |
2.53 |
35 |
2.53 |
2.61 |
2.42 |
2.50 |
2.42 |
2.70 |
2.37 |
2.66 |
2.66 |
2.82 |
2.65 |
2.42 |
2.41 |
2.31 |
2.66 |
2.54 |
36 |
2.81 |
2.84 |
2.69 |
2.86 |
2.37 |
2.86 |
2.34 |
2.93 |
2.86 |
2.68 |
2.76 |
2.65 |
3.09 |
2.22 |
2.84 |
2.72 |
37 |
2.45 |
2.57 |
2.42 |
2.63 |
2.34 |
2.64 |
2.16 |
2.79 |
2.27 |
2.82 |
2.94 |
2.53 |
2.68 |
2.42 |
2.60 |
2.55 |
AVE. |
2.78 |
2.80 |
2.63 |
2.71 |
2.64 |
2.65 |
2.58 |
2.71 |
2.64 |
2.72 |
2.59 |
2.56 |
2.53 |
2.48 |
2.73 |
2.65 |
注1 丸付き数字は回数である。 注2 左列の01から37は授業イメージの調査項目で、それぞれ図1に示したとおりである。 |
がカードに記入して提出するWSであり、あとは教師が読み上げて黒板上で集計するのを観察していればよいというものであった。そのため、他者とのコミュニケーションが苦手な学生でも、気楽に参加することができたのだと推察される。
第2回の「出席ペーパーシステム」についても、
「01進め方がおもしろい」、「02わくわくする」、「06自分のペースで受講できる」「09授業に親しみがわく」、「10退屈しない」などの「即自的」な項目において高い評定を得た。
しかし、同時に、「16幅広い見方ができるようになる」、「29自分に気づける」などの対自的項目、「34友達にこのシステムについて話したくなる」などの対他的項目においても評定が高い。ラジオのディスクジョッキーに投稿するような形態での文章表現と、顔の見えない他者のそれを聴くことは、学生に適度な距離感を保証しながら対他の気づきを促す点で有効だったと推察される。
共同作業による「図解ワーク」は、前記2項目とは対照的に即自的項目の評定が低く、「04心が安らぐ」、「30くよくよしなくなる」などに対して平均値が中間値を大きく下回っている。
しかも、「33人の痛みがわかるようになる」も低い。ただし、「20団体で行動ができるようになる」、「21リーダーシップが身につく」、「22責任感が強くなる」に対しては肯定的である。
このことは、チームワークが苦手な学生に対して団体行動や統率力、さらには責任感をもつようにグループワークを強制しただけでは、かえって「人の痛み」などを無視して表面的なワークに走らせる危険性があることを示唆している。
図1 おもな結果
「価値観ゲーム」については、「04心が安らぐ」ということはないものの、即自面でも「03没頭できる」「10退屈しない」という評定である。その上で、「29自分に気づける」し、「20団体で行動ができるようになる」、「36相手のよいところを発見できる」のである。
「価値観ゲーム」とは、愛、自己実現、正義などの項目を一対比較法で順位付けし、自他の価値観を知るものである。(4)これをグループ内で発表させ、また、相手の判断基準を納得するまで質問させて、異なる価値観を受容させた。
「対他は苦手」という学生の中には、社会化とは、先述のように自他の痛みを切り捨ててまで、組織や集団に奉仕することだと考えている学生もいると思われる。そういうタイプの学生には、望ましい社会化に向けた気づきにつながるといえよう。
このような自他受容を促す「仕掛け」は、もっと初期の段階に配置すべきだったと考える。
「全員インタビューダイアローグ」については、「03没頭できる」、「04心が安らぐ」、「07夢がもてる」の即自的項目のみならず、「25自分と関係のある」という対自、「32人を信頼できるようになる」、「20団体で行動ができるようになる」、「21リーダーシップが身につく」などの対他の項目でも評定がかなり低かった。反面、「19言葉をうまく使えるようになる」、「23判断力が身につく」、「24自発性が身につく」「36相手のよいところを発見できる」については他から突出して高い。
「インタビューダイアローグ」とは、「(司会者を置かずに)参加者の代表と講師(教師)との直接対談が行われるため、参加者の理解や問題意識が高められる」(5)(カッコ内は引用者)というものである。前回の授業で有志の学生から教師にインタビューさせた後、その回は全員にマイクをまわして「できるだけ何か一つでもインタビューするように」指示したのである。
調査結果から、次のように推察される。講義型授業だけでなく、グループワークであっても、積極的に参加しない学生がいる。周りの学生もその学生に発言を促すことまではしない。グループの成果を上げることよりは、距離を置いて衝突を避けることの方が優先されるのだろう。しかし、積極的に参加しない学生は、じつは自己内の思考さえしていないおそれがある。
これに対して、その回は、教師がマイクをまわして発言を指示したことにより、そういう学生たちが仕方なく「自発的」に「自己の判断」を働かせて「言葉」を発し、他者にも気づいたのだろう。
しかし、見知らぬ大勢の他者の前で、発言を強制されることは、「心が安らがない」ばかりか、少なくとも当初は、学生自身にとって納得できる意義を感じられないことであることは、教師は留意する必要があったといえよう。教師が学生に「発問」することは、しばしば見られる指導行為の一つであるだけに、それを意識することは重要である。
しかも、その回、教師が学生に要請したことは、教師の問いに答えることではなく、教師に(「何でもいいから」ではあるが)インタビューせよということである。すなわち、問いを発するよう指示したのである。これは、「問うことを学ぶ」という学問の基本的姿勢を身につけさせるためのものであったのだが、「答えを教わる」ことに慣れてきて、しかもそれが正しい学習態度であると思い込んで安心している学生にとっては、いっそう衝撃が強かったものと推察される。
以上に述べたように、本授業の双方向要素の一定の部分は、一部の学生にとっては、主に即自的な面での不安、不快感が強く、そのため脱落者も多かったものと思われた。そこで、翌年度からは、全出席を前提とする学生参画型授業とすることを授業の初回に公言し、そういう授業に耐えられないと思う学生は「自分自身のためにも」受講を辞退するよう要請した。
そのため、翌年以降、受講人数は50人以下に精選され、双方向授業がやりやすくなり、学生の出席率も向上した。
しかし、双方向授業と聞いて、初回の授業の途中ですでに、がっかりして出て行く学生の姿が、われわれには気になっていた。結果として、われわれは彼らを疎外したのではないか。教師や親の言うとおりに「まじめに」勉強し、大学側も彼らの入学を認めたのである。われわれ教師はそういう青年たちを受け入れ、「まじめな勉強」とは異なる学問の魅力を伝える必要がある。
そして、「社会性を身につけること」が「曲がりなりにも」彼ら自身の願いでもあることを思えば、双方向授業に耐える社会性をもった青年だけを相手にするのではなく、それを恐れる学生に対しても、教師は社会化支援機能を発揮する責務があるだろう。
そのためには、学生個人個人の即自、対自、対他の気づきの状況、すなわち各人の個人化(後述)
と社会化の状況に的確に対応した指導行為が大学授業に求められる。「十把一絡げ」では双方向授業は成立しない。
4.研究U 社会の側からの青少年の社会化に対する要請と、大学教育の方向
4-1目的
1985年の臨時教育審議会「教育改革に関する第1次答申」以来、90年代の青少年(教育)施策は、その「個性重視」の考え方に大きな影響を受け続けてきた。
一方、「青少年問題」が発生するたびに、施策、教育、研究、さらには世論やマスメディアの論調において、教育としては当然の社会化機能の発揮があらためて訴えられた。
本研究では、そのような社会の動向を確かめ、大学教育がそれにどう対応すべきかを検討したい。
4-2方法
現在、われわれは、「青少年問題に関する文献データベース」を構築しつつある。
同データベースは、今日の青少年問題の動向とその対応、とりわけ青少年指導との関連を、文献の網羅的調査やキーワード分析などの実証的検討を通して究明することを目的としている。データは主に『青少年問題に関する文献集』(1969年度の文献から。現在は国立オリンピック記念青少年総合センター所管)から採っている。(6)(7)
表3 「社会性」と「個性」のヒット率 |
||||||||
|
全文献 |
該当文献 |
単純 |
社会性 |
個性 |
全文献 |
平均 |
社会性/ |
年 |
総数 |
実数 |
比率 |
ppm |
ppm |
文字数 |
文字数 |
個性比率 |
90 |
102 |
3 |
2.9% |
58 |
58 |
51,984 |
510 |
100.0% |
91 |
168 |
5 |
3.0% |
59 |
71 |
85,040 |
506 |
83.3% |
92 |
178 |
6 |
3.4% |
62 |
52 |
96,770 |
544 |
120.0% |
93 |
172 |
5 |
2.9% |
47 |
94 |
106,182 |
617 |
50.0% |
94 |
213 |
7 |
3.3% |
45 |
83 |
156,475 |
735 |
53.8% |
95 |
221 |
9 |
4.1% |
55 |
104 |
163,484 |
740 |
52.9% |
96 |
255 |
19 |
7.5% |
97 |
77 |
195,834 |
768 |
126.7% |
97 |
287 |
16 |
5.6% |
71 |
112 |
224,166 |
781 |
64.0% |
98 |
335 |
16 |
4.8% |
62 |
47 |
256,486 |
766 |
133.3% |
99 |
364 |
23 |
6.3% |
80 |
63 |
286,681 |
788 |
127.8% |
00 |
469 |
26 |
5.5% |
100 |
46 |
260,201 |
555 |
216.7% |
01 |
385 |
15 |
3.9% |
134 |
36 |
111,925 |
291 |
375.0% |
注1 「該当文献」とは題名や要旨に「社会性」という言葉が含まれるもの。ただし、1文献につき1回だけカウントして「実数」とした。 注2 ppm(parts per million)は百万分率で、該当文献実数÷全文献文字数×1,000,000 |
本研究では、われわれが解題を担当した「社会」「文化」の事項に該当する文献のうち、1990年から2001年3月までの文献3,149点について分析した。
文献の要旨(タイトル名を含む)における「社会性」または「個性」というキーワードのヒット率の経緯を調べた。また、その変化を及ぼした要因について明らかにするため、該当文献を調べた。
4-3結果
「社会性」と「個性」のヒット率の経年変化を表3に示した。
同表では、編集の都合から年度ごとに要旨の文字数基準が異なり、それがヒット率に影響するので、単純比率のほかに「該当文献実数」対「全文献文字数」の百万分率を算出した。
また、図2では、要旨の文字数基準に影響を受けない「社会性」対「個性」のヒット率の比の経年変化を示した。ただし、2001年分については激増しているものの、3月発行のものまでしか分析していないため、省略した。
表3と図2から、1990年代終盤には、「個性」という言葉を含む文献数が停滞し、それに替わって「社会性」という言葉を含む文献数が増えていることが明らかである。
この現象は、青少年の社会性育成が喫緊の課題であることを示している。同時に、われわれは、「個性尊重」「個性を伸ばす」という姿勢が置き忘れられ、外圧としての強力な「社会化機能」の発揮や規範意識の形成ばかりが求められることのないよう留意しなければならないといえる。
図2で1996年の「社会性」のヒット率が先行的に上がっている要因の一つとして、その年に東京都青少年問題協議会から「青少年の自立と社会性を育むために東京都のとるべき方策について」という題名の答申(8)が出され、これに関する文献が4件含まれていることが挙げられる。
この答申の主旨について、当時の協議会座長の高橋勇悦は「今日のさまざまな青少年問題は社会との積極的なかかわりの敬遠、社会に適応する努力の回避等のいわゆる非社会的行動が深く関わっており、そのような状況にあって、今青少年に何らかの対応を図るものでなければ、新しい世紀の担い手である青少年に少なからぬ危惧を感じないではいられないところまで追いつめられている」と述べている。しかし、同時に高橋は、「青少年自らが体験と行動を通して現状を打破」するための条件整備こそを行政に求めていることに注目すべきであろう。(9)
すなわち、90年代終盤の「社会性」重視の傾向に先行して提言された同答申は、「青少年問題」を深刻な社会問題の一つとしてとらえるとともに、その解決のためには「学習者中心」「青少年主体」の姿勢が重要であることを強調するものだったととらえられる。
そもそも、同答申がもう一つのキーワードとした「自立」とは、ある側面においては、「一人でも(よりよく)生きることができる」という社会化とは逆の「個人化」の本質をも有するものと考えられる。
社会からの要請に応えて、望ましい社会化を達成した学生を送り出せるよう努めることはこれからの大学の責務の一つといえるだろうが、それは学生の個性や主体性を排斥して行われるべきではない。また、「社会化」と「個人化」の二項対立の問題に取り組むことなしには、学生の望ましい態度変容はありえないと考えられる。(10)
さらには、「社会性を身につけること」、「職業人として立派にやっていけるようになること」などは、学生自身のニーズとしても存在していることに注目したい。高等教育を含めてすべての教育活動は、このような学習者のニーズを拠り所にすべきであるといえよう。学生本人の意向を無視して進めても効果は薄いと考えられる。
社会からの青少年に対する社会化機能が、「青少年問題」が起こるたびに繰り返される対処療法として行われる限りは十分に機能しないだろう。大学教育における社会化支援は、教育の一環として「学習者」から出発する必要があると考えられる。
5.研究V 学生の社会化の段階及び類型の理解
5-1.目的
先述の「社会化」と「個人化」の二項対立の問題は、個人の側面にも深刻な影を落としている。「友達から変だと思われたらもうおしまい」という言葉に象徴される「同化圧力」が指摘できる。他者との同質化というある種の社会化過程が、自己の異質性を犠牲にし、自己をかなぐり捨ててでも実現しなければならない重荷として意識される。しかも青少年の場合、同質化の対象はあくまでも「ピア」(peer:同等の者、同輩)であって、一般的な他者や社会ではないことが多い。
このようにして、個人化と社会化はますます背反するものになっていく。そこでのキーワードは「自分らしさ」と考えられる。「自分らしさ」と社会化との背反のなかで、多くの若者の「自分らしさ」への願望と絶望感には大きなものがあると推察される。
本研究では、「社会化」と「個人化」の関連の一側面としての「社会性を身につけること」と「自分らしく生きること」の矛盾を、学生がどのように受け止めているかを分析する。そのことによって学生の「社会化」の類型を設定したい。
5-2.方法
徳島大学2002年度共通教育(教育学)「大学・市民・ボランティア」において、「もし宇宙に他者がいなければ、自分らしさはもっともよく守ることができるということになってしまうのか」という教師からの「揺さぶり」の発問ののち、「自分らしさを守り育てることと、社会性を身につけることはどういう関係にあるか」について学生56人に対して文章表現を提出させ、その記述内容を分析して類型化した。(11)また、次の回にすべての記述を学生に示し、自分は他者のどの発言に共感したり、あこがれたりするかを回答させ、集約した。
なお、本研究では「社会性を身につける」という言葉を使い、ニュアンスとして友人関係にとどまらない「社会」をイメージさせることによって「社会的能動/受動」の傾向を調べようとした。
5-3.結果
記述内容を分析した結果、以下の4つの意見が象徴的、代表的なものとして浮かび上がった。また、これらは、次の回のアンケートでも、多くの学生が「共感する」、「(自分は違うタイプだけど)あこがれる」などと回答した。
T 「自分らしく生きたい」と思っている今その全てが「自分らしさ」。社会性が身に付いていてもいなくても、それがそのまま「自分らしさ」。言葉に振り回されてはいけない。結局自分自身で認めるかどうかの問題。
U 他人と違う行為や言動で仲間から外されるという恐怖があって自分の意見を言えない。意思を押し通そうとすれば「協調性がない」と煙たがられる。自分らしさを守り育てることと、社会性を身につけることは相反する。
V 自分らしさを守り育てることは、社会性を身につけることの中に含まれる。社会性を身につけた上での、社会に受け入れられる自分らしさじゃないと価値がない。両者は同時に並行して行われなければならない。
W 自分らしさは、人と接することでさらに磨かれる。健全な両者を持つということは他者へも良い刺激となり、再び自分へつながる。よってこれら2つの関係は、お互いに盛りたてあう関係にある。木と根っこのようにも思える。
Tを「主観的自分らしさ優先型」と名付けた。彼らにとっては自分の中にもともとある自分らしさが大切であり、たとえ社会性が身についていなくても自分らしさの存在には疑いをもたない。その点から、社会にはあまりプレッシャーを感じないままに、能動的に働きかけることができると推察される。
Uを「同化圧力としての社会化型」と名付けた。彼らも自分の中にもともとある自分らしさを本当は大切にしたいのだが、同化圧力を敏感に感じるため、自分らしさを出すことは苦手である。とくにピア・プレッシャーが強いと考えられる。この回答自体が、広い意味での社会性ではなく、「仲間」からの圧力を前提としている。これらの点から、社会に対して基本的には受動的であると推察される。
Vを「社会への組込まれ必然型」と名付けた。第T類型とは反対に、自分らしさも社会に受け入れられなければ価値がないとしているからだ。社会によって規定される現実を受け入れている。「社会に受け入れられる」ことを優先しているので、社会に対して受動的と推察される。
Wを「社会と自己相互発展型」と名付けた。社会の中にあってこそ、自分らしさが磨かれるというのだ。そして、自己が社会を「盛りたてる」というところから、社会に対して能動的と推察された。
このようなことから、図3のとおり「社会化の類型」を設定した。56人の記述分析をしたところ、Tは6人、Uは14人、Vは13人、Wは14人が該当した。価値中立または無価値型が6人いた。
ところが、「共感する」、「あこがれる」発言を集約したところ、Tは8人、Uは5人、Vは4人、Wは4人が支持を表明した。
結果として、少数派の類型に所属するTが一番支持を集めたのである。母数は小さいが、このデータの限りでは、(主観的には)社会から自由な「自己内自分らしさ型」が、逆にWS型授業等での学生同士の関係において他の学生によい刺激を与える可能性を示唆している。大学授業において「自己内自分らしさ型」の欠点を補いつつも、力点は彼らの長所を発揮させるところにおくことが重要と考えられる。
このことは、われわれは経験的には感じてきたのだが、後述するように、大学授業の運営に生かすために研究を進める必要があると考える。
表4 自分らしさ×友人関係4類型の設定(度数) |
|||
|
合意形成への態度 |
||
あきらめ |
とことん |
||
自分らしさの一貫性 |
貫徹志向 |
U=263 |
T=335 |
状況志向 |
V=272 |
W=205 |
各類型における社会化の特徴や問題点については、それぞれ次のように推察される。Tは自己を守ろうとする純潔さゆえに、組織や社会に対しては「仮所属」になりがち。Uは表面上は外部からの同化圧力に屈服した形をとり、主体的には社会に関わらない恐れがある。Vは過度に社会に適応しようとし、組織や社会になじめない自他の個性については否定しがち。Wは実際に自分らしさの危機に陥ったときに、それを認めようとしなかったり、挫折したりする恐れがある。
このように、4類型でとらえてみると、それぞれの類型ごとに異なる問題を抱えていると考察される。望ましい社会化のための近道や、ましてや普遍的な「唯一の道」などは期待できないといえよう。
6.研究W 現代青年における友人関係と「自分らしさ」との関連性と特徴
6-1目的
われわれは、現代都市青年の友人関係や自己意識などについて質問紙調査を行った。(12)同調査により、2002年秋に東京都杉並区と神戸市の16歳から29歳までの青年から1100標本を得た。(13)
友人関係は社会化の重要な要素であると同時に、ピア・プレッシャーなどの重大な問題も抱えている。本研究では、その傾向と「自分らしさ」に関する意識との関連を検討するとともに、そこで表れたそれぞれの類型の者の社会的活動等の特徴について、量的データをもとに明らかにしたい。
6-2方法
同調査の質問項目のなかから、「自分らしさの一貫性」として「どんな場面でも自分らしさを貫くことが大切」を取り上げ、肯定を「貫徹志向」、否定を「状況志向」とした。「友人関係における合意形成への態度」として「友だちと意見が合わなかったときには、納得がいくまで話し合いをする」を取り上げ、肯定を「とことん」、否定を「あきらめ」に分類し、表4のように4類型を設定し、各類型の特徴を分析した。
縦軸は他の質問項目を音楽活動、メディア、親友・友人、恋人、対自己、自己意識等、影響(自分の大きな出来事に関わった人)、判断材料、社会意識などに分類して、それぞれの事項に沿ってまとめた。
6-3結果
各類型について、他のすべての類型を合わせたものと比較し、有意差のあった項目を表5に示す。検定結果は、危険率0.05以下のものは○、0.01以下のものは●で示した。「有意差なし」と表記したものは、0.05より大きいものである。「対自己」については、「ありのままの自分でいることが大切」に共感する者を「現存重視型」、「自分の個性や自分らしさを探求し,発見することが大切」に共感する者を「探求発見型」とした。
表5からは、それぞれの類型に応じた社会化支援のあり方について多くの示唆を得ることができる。
「貫徹志向とことん型」は運動部系部活歴、音楽活動、友人関係など活発で自己肯定感が強い。勉強や仕事にも真剣に取り組み、日本の将来にも関心があるという。
「貫徹志向あきらめ型」は、本人は「どんな場面でも自分らしさを貫くことが大切」と考えているのに、友だちと意見が合わなかったときでも、納得がいくまで話し合いをするということはないという者たちである。
音楽活動、携帯電話やインターネット等のメディア利用があまり盛んではなく、親友や友人とも深入りしない。自己同一感、自己肯定感が弱く、日本の将来にもあまり関心がない。
「状況志向あきらめ型」も同様に携帯電話の利用を含め、全般的に不活発である。
携帯電話をあまり使わないから、そのかわり、フェース・トゥー・フェースのコミュニケーションが盛んになる、あるいは親友や友達との信頼関係が深まるということではないのである。
「状況志向とことん型」は、親友・友人関係については活発である。場面によっては自分らしさを貫かないときもある。しかし、「納得がいくまで話し合う」という。
このようなことから、大学授業においても、各タイプの状況や特徴に応じた社会化支援を行うことが効果的であることは明らかである。
しかし、この4類型の特徴は、図3で想定した「社会化の類型」とは必ずしも一致しない。その原因としては、友人との合意形成への態度が、必ずしも社会的な能動/受動にはつながらないということが考えられる。
そこで、社会的能動/受動との関係を調べるため、「貫徹志向」の類型の者については、「個人の力だけで社会を変えることはできない」の回答により、「状況志向」の類型の者については、「みんなで力を合わせても社会を変えることはできない」の回答により、それぞれ否定を「社会的有能感」、肯定を「社会的無力感」ととらえ、8分類に細分化した。これを類型ごとに有能感/無力感で比較したものが表6である。しかし、表6を見てわかるとおり、表5に見られるような目立った特徴(後述)は多くは見られず、むしろ友人関係の傾向が同じならば、同じ類型として共通する特徴の方が多かった。
その理由として、社会的有能感が、「友だちと意見が合わなかったときには、納得がいくまで話し合いをする」という友達との合意形成への態度ほどにはリアルなものにはなっていないこと、また主観的には社会的有能感がたとえあったとしても、それが図3で想定した「社会的能動」の展望までにはつながっていないことなどが考えられる。
学生を含めた現代青年の、家族や友人との関係以外の、たとえば職業遂行や市民性としての「社会性」や「社会的能動」については、ほぼ未成熟ととらえていよだろう。
また、「個人の力だけで社会を変えることはできない」や「みんなで力を合わせても社会を変えることはできない」をたとえ否定したとしても、それは社会的有能感というよりは建前的な判断が働いたにすぎないということも考えられる。もし建前だけだとしたら、教育が目指す「生きる力」(14)としての「社会性」とはほど遠いものと考えざるをえない。
このことは、社会化支援にあたって、社会的能動/受動以前に、多くの若者がその入り口としての友人関係の場面で、とくにピア・プレッシャーに対して立ちすくんでいることを念頭に置かなければならないということを示すものといえよう。
大学授業による学生の社会化支援の主目的は、彼らの友達づくりのためにあるわけではなく、より広い意味での社会性の獲得にあると考えられるのだが、現代青年の状況を考慮すると、他の学生との関係性の中で育まれる社会化機能を重視すべきであるといえる。
第U類型の学生は「他人と違う行為や言動で仲間から外されるという恐怖があって自分の意見
表5 現代青年の「自分らしさ×友人関係」各類型の特徴 |
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|
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|
貫徹志向とことん型 |
貫徹志向あきらめ型 |
状況志向あきらめ型 |
状況志向とことん型 |
属性 |
(属性関連の有意差なし) |
●男>女 ●低年齢>高年齢 |
●女>男 |
(属性関連の有意差なし) |
|
●親と同居(学生/非学生有意差なし) |
○親と同居していない |
|
|
部活歴 |
○運動部系に所属 |
○部活やサークルに所属しない |
○文化部系に所属 |
|
●運動部系の場合、積極的活動 |
○文化部系の場合、非積極的 |
●運動部系での積極的活動しない |
●運動部系の場合、非積極的 |
|
○文化部系の場合、積極的活動 |
|
|
|
|
文化 |
●演劇を観に出かける |
●演劇を観に出かけない |
|
(文化関連の有意差なし) |
○ブランド品を購入 |
○ブランド品を購入しない |
|
|
|
○写真・プリクラを撮る |
○エステティックサロン通いたくない |
○エステティックサロン通いたい |
|
|
|
○フィットネスクラブ等通いたくない |
|
|
|
|
○自己分析等の本を買わない |
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|
|
○留学したい |
○留学したくない |
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音楽活動 |
○ラジオで音楽情報得る |
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○インターネットで音楽情報得る |
●インターネットで音楽情報得ない |
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○カラオケで音楽情報得ない |
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●CDショップで音楽情報得る |
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|
○ディスコ等で音楽情報得る |
|
○ディスコ等で音楽情報得ない |
|
|
○フリーペーパーで音楽情報得る |
|
○友人・知人から音楽情報得ない |
○友人・知人から音楽情報得る |
|
●好きな音楽CD購入 |
●好きな音楽CD購入しない |
|
|
|
●DJブースのあるクラブに行く |
○DJブースのあるクラブに行かない |
|
|
|
●特定の音楽にくわしい |
○コンサートやライブに行かない |
●特定の音楽にくわしくない |
|
|
●音楽は自分のライフスタイル |
○音楽はまあ自分のライフスタイル |
○音楽は自分のライフスタイルでない |
|
|
●音楽を創るのが好き |
○該当する音楽行動ない |
●音楽を創るのが好きではない |
|
|
●サウンドよりも歌詞 |
|
○サウンドよりも歌詞とは思わない |
|
|
○気持ち変えるために選曲 |
|
○気持ち変えるための選曲しない |
|
|
●他者との場に合った選曲 |
○他者との場に合った選曲しない |
|
|
|
●機器の音質優先 |
●機器の音質優先しない |
○機器の音質優先しない |
|
|
●録音よりも生演奏が「本物」 |
|
|
|
|
●ジャケットや歌詞カード自作 |
●「MP3があれば」に不支持・未知 |
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|
|
●PC等で楽曲サンプリングする |
|
●PC等で楽曲サンプリングしない |
|
|
●PC等で音楽への愛着深まる |
|
●PC等で音楽への愛着深まらない |
|
|
メディア |
●携帯電話で通話 |
○携帯電話で通話しない |
○携帯電話で通話しない |
|
|
○発信番号を見ずに出る |
○発信番号を見ずに出る |
|
|
|
○固定電話で通話しない |
○固定電話で通話しない |
|
|
○オークション利用 |
●インターネット利用しない |
●インターネット利用しない |
○ホームページ閲覧する |
|
|
○テレビゲームする |
○テレビゲームする |
|
|
●自分もテレビに出られる |
○テレビ見ながらメールやりとり |
○テレビ見ながらメールやりとり |
|
|
●意味ある情報の入手可能 |
●意味ある情報の入手困難 |
●意味ある情報の入手困難 |
|
|
親友・友人 |
●親友や仲の良い友達が多い |
|
|
|
○親友を尊敬している |
○親友を尊敬しない |
○親友を尊敬しない |
●親友を尊敬している |
|
●親友と真剣に話できる |
●親友と真剣に話できない |
●親友と真剣に話できない |
●親友と真剣に話できる |
|
|
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●親友をライバルと思わない |
●親友はライバル |
|
|
○親友といても安心できない |
●親友のように生きたいと思わない |
●親友といると楽しい |
|
○親友との関係満足 |
|
○親友との関係不満足 |
|
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●親友に弱みさらけ出せる |
●親友に弱みさらけ出せない |
○親友に弱みさらけ出せない |
●親友に弱みさらけ出せる |
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●ケンカしても仲直りできる |
●ケンカしたら仲直りできない |
●ケンカしたら仲直りできない |
●ケンカしても仲直りできる |
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○職場で知り合った |
○職場で知り合ったのではない |
○学校で知り合ったのではない |
●塾や予備校で知り合った |
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○サークルで知り合った |
○部活等で知り合ったのではない |
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○インターネットで友達づくり |
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○友達たくさんを心がける |
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●友達たくさんを心がけない |
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●一人の方が落ち着く、はない |
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●一人の方が落ち着く |
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●互いに深入りすることがある |
●互いに深入りしない |
●互いに深入りしない |
●互いに深入りすることあり |
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●友達同士を引き合わせ |
●友達同士を引き合わせしない |
●友達同士を引き合わせしない |
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●初対面ですぐ友達になる |
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●初対面ですぐ友達にならない |
○初対面ですぐ友達になる |
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○遊ぶ内容で友達を使い分ける |
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●趣味や関心が近いこと |
●年齢が自分と近いこと |
○容姿や顔立ちが自分好みなこと |
●年齢が近くなくてもよい |
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●考え方に共感できること |
○同性であること |
○ファッションが自分好みなこと |
○同性でなくてもよい |
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恋人 |
●恋人とすべてさらけだす |
●恋人がいたことがない |
●恋人とすべてをさらけださない |
(恋人関連の有意差なし) |
○今の恋人よりいい人はいない |
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●今の恋人よりいい人はいる |
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○恋人といてうっとうしいときある |
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対自己 |
○探求発見型が少ない |
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●探求発見型が多い |
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●両方肯定型が多い |
○両方肯定型が多い |
●両方肯定型が少ない |
●両方肯定型が少ない |
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●両方否定型が少ない |
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●両方否定型が多い |
○両方否定型が多い |
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自己意識等 |
●今の自分が大好き |
○今の自分が大好きではない |
●今の自分が嫌い |
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●自分には自分らしさがある |
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●自分には自分らしさがない |
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○場面によってでてくる自分違わない |
●場面によってでてくる自分違う |
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●自分がわからなくならない |
○自分がどんな人間かわからなくなる |
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●まとまりがあるよう見える |
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○意識して自分を使い分け |
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●意識して自分を使い分け |
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●うわべだけの演技ない |
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●うわべだけの演技ある |
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●今のままの自分でいい |
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○今のままの自分でいいと思わない |
○いいと思わない |
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●仲のよい友達は私を理解 |
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●仲のよい友達でも私を理解せず |
●仲のよい友達は私を理解 |
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●勉強や仕事に真剣に取り組む |
●勉強や仕事に真剣に取り組まない |
●勉強や仕事に真剣に取り組まない |
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●経済的成功のためには個人の努力 |
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○経済的成功のためには個人の才能 |
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●「将来に備えるより今」肯定 |
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●「将来に備えるより今」否定 |
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○仕事選択で生活安定優先せず |
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●「孤立しても主張通す」肯定 |
○「孤立しても主張通す」肯定 |
●「孤立しても主張通す」否定 |
○「孤立しても主張通す」否定 |
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影響 |
○最も大きな出来事親が関わり |
○最も大きな出来事親が関わり |
○最も大きな出来事祖父母関わらず |
●祖父母が関わった |
●最も大きな出来事友達関わり |
○最も大きな出来事友達が関わらない |
●最も大きな出来事友達関わらない |
○友達が関わった |
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○先生が関わった |
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●最も大きな出来事がある |
●最も大きな出来事がない |
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判断材料 |
●世間評価や道徳は材料でない |
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○世間評価や道徳は判断材料 |
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●損得や影響計算は判断材料 |
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○アーティストの発言判断材料 |
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○アーティストは材料でない |
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●親友等の意見は判断材料でない |
○親友等の意見は判断材料 |
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○親の意見は判断材料 |
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社会意識 |
●日本の将来に強い関心あり |
●日本の将来に強い関心なし |
○日本の将来に強い関心なし |
(社会意識関連の有意差なし) |
○政治・経済面を読む |
○政治・経済面を読まない |
○新聞や雑誌の占いコラムを読む |
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●「選挙には行くべき」支持 |
○「選挙には行くべき」不支持 |
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○「目上の人には敬語使うべき」 |
●「敬語を使うべき」に消極的 |
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●「ボランティア参加すべき」 |
○「ポイ捨てすべきでない」に消極的 |
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●「割り込みすべきでない」に消極的 |
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表6 社会的有能感/無力感の青年の特徴比較 (n=該当者数) |
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貫徹志向とことん型 |
貫徹志向あきらめ型 |
状況志向あきらめ型 |
状況志向とことん型 |
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「個人の力だけで社会を変えることはできない」を肯定 |
「みんなで力を合わせても社会を変えることはできない」を肯定 |
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無力感 |
○文化部系の場合、積極的活動 n=235 |
○政治・経済面を読まない ○「ポイ捨てすべきでない」に消極的 n=190 |
○一人の方が落ち着く ○互いに深入りしない ●仲のよい友達でも私を理解せず ●日本の将来に強い関心なし n=75 |
●今のままの自分でいいと思わない n=53 |
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「個人の力だけで社会を変えることはできない」を否定 |
「みんなで力を合わせても社会を変えることはできない」を否定 |
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有能感 |
○運動部系に所属 ●ディスコ等で音楽情報得る ○DJブースのあるクラブに行く ○自分もテレビに出られる n=98 |
○「割り込みすべきでない」に消極的 n=70 |
○携帯電話で通話しない n=196 |
○友人・知人から音楽情報得る n=152 |
を言えない。自分らしさを守り育てることと、社会性を身につけることは相反する」と記述した。
社会化支援は、若者のそれぞれの実態に応じて行われなければならないと考える。たとえば、「貫徹志向とことん型」の若者に対しては、ピアに協調することを迫るのではなく、「趣味や関心が近いこと」、「考え方に共感できること」などの友達への考え方が、ややもするとピアとしての同化にもつながりかねないことを警告し、むしろ異質の者との交流を図る必要があるといえよう。
また、図3で想定した「社会と自己相互発展型」の若者に対しては、その楽観主義を助長するとともに、他の「貫徹型」や「あきらめ型」の若者と交流させ、現実を直視し、異なる他者を受容する体験を提供する必要がある。
7.討論
本稿では、まず、われわれの大学授業における学生の即自・対自・対他の気づきに与える効果を分析した。その結果、「対他者」を苦手とする多くの学生にとって、即自的な面での不安、不快感が強いことがわかった。また、「青少年問題文献」の動向から、近年「社会性」が強調されるとともに、個性や主体性重視の原則が忘れ去られ、「個人化」と対立する形で「社会化」が進められようとしている傾向を指摘した。
そこで、大学授業において効果的な社会化支援の方法論を見いだすために、学生の実態に基づいて社会化状況を類型化し、それぞれの類型の特徴に応じたもっとも適切な方法を探ろうとした。
最初に、「自分らしさを守り育てることと、社会性を身につけることはどういう関係にあるか」についての学生の記述内容を分析し、「主観的自分らしさ優先型」、「同化圧力としての社会化型」、「社会への組込まれ必然型」、「社会と自己相互発展型」の社会化に関する4類型を設定した。しかし、別途、現代青年の友人関係や自己意識などについての質問紙調査の結果を分析したところ、自分らしさの一貫性と友人との合意形成への態度から、「貫徹志向とことん型」、「貫徹志向あきらめ型」、「状況志向あきらめ型」、「状況志向とことん型」の4類型が設定できた。後者の類型の方が、社会化以前に「内なるピア」の前に立ちすくむ現在の学生の実態をよく示すものであったため、それ以降の考察は、前者の社会化4類型の課題を念頭に置きつつも、後者の類型を主にして進めた。
考察の結果、「対他者」を苦手とする学生でもある程度の社会化効果が期待でき、その他の各類型の学生に対してもそれぞれ効果的な指導行為が一定程度可能となる授業方法を提示することができた。ただし、社会的能動/受動に関わる類型化とその支援方策については、今後の課題として残された。
7-1.学生の社会化類型に応じた大学授業の可能性
表7 組み替え後の「大学・市民・ボランティア」 |
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回 |
テーマ |
形態 |
双方向要素 |
@ |
なぜこの授業を受けるのか |
対教師観察型WS |
「なぜ受けるか」カード式発想法 |
A |
なぜ「教育」なのか |
教師主導型文章表現交流 |
学生の自由記述読み上げ |
B |
共感の時空間のつくり方 |
グループ内相互の自己開示 |
「価値観ゲーム」と話し合い |
C |
市民活動の仲間関係 |
個人による沈思 |
「価値観ゲーム」の分析 |
D |
どう「個の深み」と出会うか |
対教師観察型図解作成 |
「幸せの瞬間」カード式発想法 |
E |
フリーチャイルドを取り戻せ |
個人作業による図解作成 |
「フリーチャイルド」図解ワーク |
F |
何を伝えるのか |
特定学生対教師の対話観察 |
インタビューダイアローグ(特定学生) |
G |
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教師主導で学生の希望を聴取 |
H |
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グループ分け |
I |
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グループワーク1 |
J |
大学/市民/ボランティアの提言 |
学生参画型WS |
プレゼンテーション1 |
K |
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グループワーク2 |
L |
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|
プレゼンテーション2 |
M |
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グループワーク3 |
N |
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プレゼンテーション3 |
本項では、研究TからWまでで得た結論をもとに、最初に提示した2000年度後期の授業「大学・市民・ボランティア」のプログラムの組み替えを試みた(表7)。
本プログラムにおける教育目標は次のように設定した。ただし、個人差によって到達度合いが異なることを前提とし、各人の個人化/社会化の状況に応じられるようにした。
@ 思考能力の側面
レベル1 個人としての自己について対自己、対他者、対社会の気づきを経て考えることができる。
レベル2 自分が個人として深まっていく見通しについて、言葉であらわすことができる。
レベル3 自分の将来を、社会的位置付けのもとに展望することができる。
レベル4 自己の位置について対自己、対他者、対社会の諸側面を統合して説明することができる。
レベル5 他者の「個」に対して、どんな支援内容、方法が適切かを判断することができる。
A 参画能力の側面
レベル1 自分の考えを小グループにおいて説明することができる。
レベル2 グループで話し合って、成果物をまとめることができる。
レベル3 他者の発言を明確化によって支援することができる。
レベル4 グループ内で共有した成果を、社会につなげるための接点を見出すことができる。
レベル5 社会に対して、個性ある有効な提案をすることができる。
プログラム組み替えにおける主な改善点とその理由は次のとおりである。
@「グループ内相互の自己開示」として、「価値観ゲーム」を初期の頃に設定した。本授業で行うグループワークが自他の痛みを切り捨ててまで行うものではなく、むしろ異なる価値観
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貫徹志向あきらめ型 |
貫徹志向 |
貫徹志向とことん型 |
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あきらめ |
★高校部活とは異なる魅力を示す ★エステ等通いたくない自分の理解と通いたい他者の理解 ★他者の音楽等の楽しみに共感させる ★携帯電話を即切りする便利さから、距離の取り方を学ばせる ★インターネットをする他者から学ぶ ★意味ある情報入手の困難性を表現させる ★真剣に話すことへの阻害要因を理解させる ★異年齢の他者と交流させる ★弱みをさらけ出す、仲直りする状況を聞かせる ★自分がわからないという気持ちを表現させる ★勉強等に真剣に取り組む人から話を聞かせる ★他者の孤立しないための戦術から学ばせる ★最も大きな出来事に友達が関わった状況を聞かせる ★日本の将来に関心を持つ人の話を聞かせる ★倫理規範を大切にする人の話を聞かせる |
★高校部活での積極性を引き出す★留学の夢を開示させる★探求発見型の他者を理解させる★音楽や演劇の魅力を伝えさせる★携帯電話利用を含めたコミュニケーションの積極性を評価し、活用する★即切りされた人の寂しさを理解させる★関心や考え方が異なる者と交流させる★弱みをさらけ出す、仲直りする状況を話させる★自分がわからない人の気持ちを理解させる★今のままではいけないと思っている他者を理解させる★なぜ努力が必要か、自明とせずに言語化させる★なぜ勉強や仕事に取り組むのか、内なる動機を見つけさせる★友達から理解された体験を話させる★他者の孤立しないための戦術から学ばせる★最も大きな出来事に友達が関わった状況を話させる★尊敬するアーティストについて話させる★損得や影響の計算が重要であるという他者から話を聞かせる★日本の将来や政治等に関心ない人の話も傾聴する態度を身につけさせる★「べき論」に消極的な人の話を聞かせる |
とことん |
||
★高校運動部とは異なる魅力を示す★エステ等通いたい自分の理解と通いたくない他者の理解★探求発見型の自己を受容させる★他者の音楽等の楽しみに共感させる★携帯電話を即切りする便利さから、距離の取り方を学ばせる★インターネットをする他者から学ぶ★意味ある情報入手の困難性を表現させる★真剣に話すことへの阻害要因を理解させる★弱みをさらけ出す、仲直りする状況を聞かせる★今のままではいけないと思っている部分を他者から受容させる★友達から理解された体験を聞かせる★勉強等に真剣に取り組む人から話を聞かせる★自己の孤立しないための戦術を客観視し、その逆機能を考えさせる★最も大きな出来事に友達が関わった状況を聞かせる★日本の将来に関心を持つ同世代の話を聞かせる |
★高校運動部とは異なる魅力を提示 ★自分らしさに執着する他者を理解させる ★ホームページ閲覧の魅力を表現させる ★弱みをさらけ出す、仲直りする状況を話させる ★今のままではいけないと思っている部分を他者から受容させる ★友達から理解された体験を語らせる ★自己の孤立しないための戦術を客観視し、その逆機能を考えさせる ★最も大きな出来事に友達が関わった状況を話させる ★世間の評価や道徳は判断材料ではないという他者から話を聞かせる |
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状況志向あきらめ型 |
状況志向 |
状況志向とことん型 |
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図4 教育成果に影響をもたらす学生の諸類型への対応 |
を受容するものであることを伝え、安心して授業に臨めるようにするためである。ここでのグループ分けは、後述の類型把握により、友人関係における各類型が混じるよう教師が操作することとする。
A前半は、個人で安心して取り組める「個人による沈思」や「個人作業による図解作成」を配置した。また、他者との交流についても、「教師主導型文章表現交流」や「対教師観察型」のワークを配置し、受動型学習を望む学生でも安心して対他の気づきが得られるように配慮した。
B中盤で、「教師との対話」として、インタビューダイアローグを配置したが、インタビュアーは友人関係の類型TやWから教師が指名し、承諾した者とする。あえて全員にインタビューさせて緊張を強いなくても、他者のそれを観察することだけでも「問うことを学ぶ」ことにつながると考えたからである。
C後半は、学生参画型WSとした。前半でWSの精神や魅力を感じた上でなら、それを真に体得するためには参画が必要であると考えたからである。ただし、その到達レベルは学生個人個人の状況によるものであることを教師が容認することによって、どんな学生でもそれは可能になると考える。
D学生参画型とはいえ、初回については、教師主導型で個人の希望を聞き取ることにした。「私はこのWSで(しかも与えられた「大学授業」という枠組みの中で)本当は何を作り上げたいのか」という問いは、これをまじめに受け止める学生にとってはじつは難問である。不可知の領域に属するとも考えられる。そのことを認識した教師が、双方向で聴き取っていく必要があると考えた。
EWSでは、1回のグループワークのコマごとに、次の回にプレゼンテーションのコマを配置した。教師の指導機能を発揮して、グループワークの成果を高めるためである。グループワークにおいても、「受容機能」や「揺さぶり機能」はある程度は発揮できるのだが、グループワーク自体の眼目は、学生同士の相互関与プロセスにあると考える。そこで、プレゼンテーションを小刻みに行うことにした。
とくに1〜2回目のプレゼンテーションでは、教育の場だからこそ得られる気づきを促すため、教師がその後のグループワークについて大きな方向転換になるようなことを指示することもありうると考える。その場合、グループの中に「良くも悪くも」ピア・コンセプトが形成されていて、「せっかく自分たちで一生懸命進めているのに」という反発があることも予想される。そのような声には責任をもって応えていく必要があろう。
なお、本プログラムは、毎回、自己の即自、対自、対他のいずれかの気づきを携帯電話等で電子掲示板に書き込みさせることを前提とした。教師が学生個人の気づきの状況を把握するとともに、学生同士のバーチャル上の交流のメリットを生かしつつ、教師がそれにコメントすることにより、通常のバーチャルなコミュニケーションでは得られない「気づき」を与える指導機能をねらうものである。(15)
類型の把握に当たっては、以下の2事項について、1そう思う、2どちらかというとそう思う、3あまりそう思わない、4そう思わない、を回答させることが適当と考える。
@ 友だちと意見が合わなかったときには、納得がいくまで話し合いをする。
A どんな場面でも自分らしさを貫くことが大切。
また、以下の2事項についても、個人状況の把握のために回答させることとする。
@ 個人の力でも社会を変えることはできる。
A みんなで力を合わせれば社会を変えることはできる。
さらに、図3の社会化の各類型の記述例を示し、自分の実態に一番近いものと、一番あこがれるもの(モデル)を選ばせておきたい。すでに述べたように、学生の社会化を支援する大学授業の方法論については、今後研究を進める必要があると考えるからである。図3のどの類型の者を、どの類型の者と交流させるか、社会化支援にとってもっとも効果的な組み合わせを意図的に提供する必要があるだろう。
図4では、研究Wで明らかにした各類型の特徴に基づいて、表6に示したプログラムにおける授業の具体的方法や留意点を示した。個人指導だけでなく全体指導においても、意識的に活用することによって、有効な社会化支援が可能になると考える。
7-2.大学教育としての社会化支援の課題
前項では、学生の社会化類型に応じた大学授業の可能性について検討した。しかし、その課題も大きい。
第1は、「授業における社会化の達成度をどのように評価するか」という問題である。近年、青少年教育のなかで、その必要性が盛んに叫ばれている「体験学習」については、10年前に実施した「長期自然体験活動事業」参加者の事業参加後の意識や生活観などについて調査する青少年教育施設もあらわれている。(16)
大学授業についても、卒業時に社会適応できて即戦力となる人材より以上に、職業生活の中でだんだんと自己の力量を発揮できる人材を育成することを目指さなければならないのではないか。
その観点からいえば、若い頃の多少の社会性のなさや、対他者に関する苦手意識などは、大学授業で問題にすべきことではないと考えられる。個人化(個人の充実等)と統合的に行われるような、もっと本質的な「社会化」こそが大学の人材育成の使命であり、授業評価もその観点から行われなければならないと考える。
第2は、第1にも関わるが、「大学授業が支援すべき真の社会化とは何か」という問題である。もちろん、大学授業が、たくさんの友達をつくったり、社交性を身につけさせたりするためのものではあるまい。そして、本稿で設定した「受動型」や「あきらめ型」などの学生を、一方向的に「能動型」や「とことん型」に追いやることでもないと考える。「受動」や「諦観」は、人間が一人で生きる、あるいは他者とともに生きるにあたって、重要な哲学ともいえるからだ。
このような意味から、大学教師が授業等をとおして学生に対する社会化機能を発揮する場合、教師自身の内なる社会化モデルに学生を沿わせようとするのではなく、それぞれの学生の状況とニーズに応じて、本稿でも考察したようにいわば「一人一人の持ち味を生かす」形でそれを行わなければならないのではないだろうか。
われわれとしては、授業実践とそれに関わる研究のなかで、自戒の念をこめてそう考え、また、迷い続けてもきた。
7-3.大学教育研究の方法上の課題
大学教育研究における方法上の課題としては、次の3点をあげたい。
第1は、「授業外での個人の気づきと、それが授業での気づきに及ぼす影響を、どう明らかにするか」という問題である。
前出『大学教育学会誌』に述べた研究は2日間の集中講義を研究対象としたものであった。しかし、研究Tの対象は各回の実施時期が1週間の間隔で離れている。その時間が学生に与える影響は大きいと考えられる。
大学授業の多くが隔週の実施であることを考えると、この課題は重要といえる。また、授業以外でも、自習時のみならず、生活、アルバイト、交友、さらには一人でいる時に思索を重ねる時間こそが学生が学生でいることの価値とも考えられる。そこでの気づきと授業での気づきの関連を把握する必要があるといえるだろう。
第2は、「青年としての学生の『文化』をどう理解するか」という問題である。
藤村正之は個人に及ぼされる諸効果の要素について、加齢(aging)、時代(period)に並んでコーホート(cohort)という要素を挙げ、「ほぼ同時期に生まれた者たちの集団」であり、同一年齢段階に比較的類似の経験をしていく「同時経験集団」と説明している。そして、「私たちは、『コーホート文化』として考えるべきものを、『青年文化』と概念規定していた可能性がある」と指摘している。(17)
この指摘は、諸個人を生物学的年齢によって区別する「自然主義的世代概念」や、近似的な年齢の諸個人を社会的・歴史的な生活空間の中で統一体として把握する「歴史主義的世代概念」(18)だけでは青年文化は正確には理解できないことを示唆している。
新しい世代としての学生の文化を分析し、学生理解を深めるためには、授業という実践の場でテンポラリーな調査を行うことによって、先行研究からは得られない知見を得ることが必要といえるだろう。
第3は、「個人の気づきをどう数値化するか」という問題である。たとえば、研究Tでは、授業イメージの調査項目を「即自」、「対自」、「対他」の3つに分類し、数量的な面から検討した。
しかし、項目ごとに「即自」、「対自」、「対他」の占有率があるはずであるし、さらには、学生個人の変容に焦点を当てた場合、その占有率の変化という動的状態こそを調べたいのである。そのことによって、学生の「即自」→「対自」→「対他」の気づきの発展プロセスや、他者への気づきが「対自」や「即自」の気づきに再び転化して深まっていく「段階を踏んだ循環」を、いっそう明らかにすることができるといえよう。
このようなことから、学生の社会化支援に関して、われわれ大学教育研究を行う者に与えられた課題は大きいと考えられる。
注
(1)
ロンドン大学・大学教授法研究部『大学教授法入門−大学教育の原理と方法−』喜多村和之他訳、玉川大学出版部、p68、1982.12.
(2)
西村美東士「ワークショップ型授業の構成要素とその効果−学生の自己決定能力を高める授業方法」、大学教育学会『大学教育学会誌』22巻2号、pp.194-202、2000.11.
(3)
同調査はメディア教育開発センター通信研修「学生による授業評価実践」の支援を受けて行った。
(4)
坂口順治『実践・教育訓練ゲーム』、日本生産性本部、pp93-100、1989.5.
(5)
坂本登『社会教育の団体と行政』、日常出版、p122-123、1988.7.
(6)
われわれは、1989年度分から現在に至るまで総務庁青少年対策本部「青少年問題ドキュメンテーション研究会委員」(1999年度分から文部科学省所管)として、次の研究を進めてきた。担当分野は「社会」と「文化」である。文献資料の依頼先は関係省庁、都道府県・政令指定都市等で、市町村には直接は依頼していない。また、ニュースやたんなる感想文集等は収集していない。他に、関係雑誌等から独自に文献を採集した。今回、分析の対象とした文献は、その「社会」と「文化」の分野のものに限っている。
(7)
西村美東士「青少年文献データベース構築に向けた構想と課題−青少年教育研究の視点から」、日本生涯教育学会『第23回大会発表要旨集録』、p44、2002.11.
(8)
東京都青少年問題協議会「青少年の自立と社会性を育むために東京都のとるべき方策について−青少年に体験と行動を−(答申)」、東京都生活文化局女性青少年部青少年課、1996.02.
(9) 高橋勇悦「第21期青少年問題協議会答申概要」、東京都生活文化局女性青少年課『青少年問題研究』181号、pp4-10、1996.04.
(10) 「社会化」と「個人化」の二項対立の問題については、われわれは主に「青少年の居場所づくり」に関して述べている。たとえば西村美東士「青少年教育施設の活動・経営をめぐる問題」、鈴木眞理編『生涯学習の計画・施設論』学文社、pp161-164、2003.4.
(11) 西村美東士「大学授業における学生の社会化過程の類型−個人化と社会化の相互関係に着目して」、大学教育学会『第24回大会発表要旨集録』、pp116-117、2002.7.
(12) 平成13年度〜15年度科学研究費基盤研究(A)「都市的ライフスタイルの浸透と青年文化の変容に関する社会学的分析」
(13) 「若者の意識と行動に関する調査」単純集計概要、青少年研究会、2003.5.
(14) 中央教育審議会第一次答申「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について−子供に[生きる力]と[ゆとり]を−」、1996.7.
(15) 西村美東士「人と学びのネットワークとしての情報教育」、徳島大学高度情報化基盤センター『広報』、pp.28-33、2003.12.
(16) 国立那須甲子少年自然の家『長期自然体験活動の効果に関する調査報告書−全国の国立少年自然の家における「長期自然体験活動事業」参加者の追跡意識調査』、2003.3. この事業への参加をきっかけとして、自分が変わったこと、新たに始めたことについては、「キャンプや登山など、自然の中での活動に興味を持つようになったこと」、「知らない人とも話ができるようになったこと」、「自分に自信を持ち、物事に積極的に取り組むようになったこと」、「他者の意見にも耳を傾けられるようになったこと」の順に回答が多かった。そのほか、参加青年と一般青年との比較も行っている。
(17) 藤村正之他『みんなぼっちの世界−若者たちの東京・神戸90’s・展開編』、恒星社厚生閣、pp.104-106.1999.5.
(18) 同p103.