「社会教育」第42巻 昭和62年3月号 特集「社会教育施設とボランティア活動」 参考資料 「目でみるボランティア活動」 はじめに  本来、ここでの「参考資料」が「参考資料」たりうるためには、取り扱う内容を焦点化した上で、それに関わる基礎データを省略せずに紹介すべきであろう。  しかし、社会教育審議会社会教育施設分科会から出された「社会教育施設におけるボランティア活動の促進について」の報告でも「ボランティア活動が社会教育施設で行われるようになったのは、比較的新しいことである」とあるように、テーマ自体が開発的なものであり、オーソライズされたデータが少ないことに鑑み、ここではむしろ視覚に訴える関係資料を拾いあげてトピックス的に紹介する。そのため、本資料は全体としては、いくつかの特徴的な「断片」を羅列したものであり、「体系」にはなっていない点はお許しいただきたい。  さて、上の報告では、社会教育施設のボランティア受け入れ体制のための第一の留意点として、「施設職員がボランティア活動に対する認識を改めること」があげられている。そして、ボランティア活動そのものが「一つの重要な学習活動」であり、援助すべき対象であるとともに、ボランティアの新しい発想を、社会教育施設の運営や事業の実施にむすびつけることがいかに重要であるかが強調されている。  このように、社会教育施設の既存の「枠内」にボランティア活動をどう組み込めるかのハウツー論をひたすら追求するよりも前に、現代のボランティア活動が実際にどんな特質をもっているかを認識すること、それらから施設は何が学べるかを考えることが大切である。したがって、本資料では、われわれにとってボランティアに関する認識と思考のための問題提起となると思われるものを、社会教育や社会教育施設の「枠」にこだわらずに広く集めてみた。私自身、集めたナマ資料をじっくり見つめることにより、さまざまなことに気づくことができたのである。  なお、それぞれの資料により「社会参加活動」、「社会奉仕活動」、「ボランティア活動」などの用語が使用されていて、それぞれのニュアンスも、少しづつ違ってきている。しかし、ここでそれ以上、各用語の相違について明らかにした上で、厳密に使い分けるということができなかった。ここでは単純に、それぞれの各資料の原文どおりの表記に依っている。             国立教育会館社会教育研修所 専門職員  西村美東士                                         図表−● グリーンキャンプ‘86のイメージ展開図  ボランティア活動は、事例・情報・体験・人間関係などのさまざまな交流を通した「新鮮接触」によって活性化される。  昭和61年8月に行われた日本列島ユースアクション中央推進委員会、中央青少年団体連絡協議会主催「グリーンキャンプ‘86」の「イメージ展開図」である。中央青少年団体連絡協議会は、前年、「国際青年年」と「国際森林年」を記念して“水と緑”をテーマとした「日本列島ユースアクション運動」を始めていた。そして、この「グリーンキャンプ」は、自然保護ボランティアなど、これらのさまざまな活動を実践している全国の青年たちが一堂に会して、情報交換やフィールドワークを通して交流するために開かれた。  この図は、「新鮮接触」をキーコンセプトとして、「事例・データ」「体験」「人間関係」の交流や、そこで生ずるニーズに対応した「中央組織」としてのシーズ送り出しの役割、「異次元交流」「子弟交流」「情報交流」「世代交流」などの新鮮な接触が「超日常性」としての魅力をもっていることなどを、イメージ的に説明したものである。  出典−日本列島ユースアクション中央推進委員会、中央青少年団体連絡協議会主催「グ  リーンキャンプ‘86 プログラム」の巻末資料のうち、「イメージ展開図」を抜粋  した。なお、本大会は、8月29日から31日までの2泊3日、山梨県富士山麓で開  催された。                                         図表−● 青年海外協力隊の派遣現況(国・職種別)  日本のボランティアは、アジア・アフリカ・中南米で多く活躍している。特に「教育・文化ボランティア」が増えている。  昭和61年3月現在の「青年海外協力隊」の派遣状況である。青年海外協力隊は、「現地の人々と一体となって」というボランティア精神に支えられている。所管は「国際協力事業団」である。  このボランティア活動は、決して華やかなものではなく、地球上のすべての人を貧困や無知から解放するための地道な努力である。そして、特に発展途上国の人々の「限りなき学習」を援助する国際的生涯教育ボランティアとしての役割ももっているととらえることができる。現在は「教育・文化」部門の者がもっとも多いことに、注目したい。  出典−国際協力事業団青年海外協力隊事務局編「青年海外協力隊事業概要」のうち、「  派遣現況(国・職種別)」を抜粋した。数字は、昭和61年3月31日現在のもので  、合わせて32カ国に派遣されている。総数の6401名は、昭和40年発足以来の  参加した協力隊員ののべ人数。                                         図表−● 高齢者が地域の人々に教えたい気持ち、教えたい内容  高齢者には地域の人々に何かを伝えたり、教えたりする気持ちがある。問題は「地域は自分に何を求めているか」と「自分にできることは何か」である。  昭和60年11月に千葉県の10市町の60歳以上の男女、2,050 名に対して行われた調査。ただし、結果として70%が「高齢者教室」や「老人クラブ」に所属する人々の回答となっている。  それにしても、「伝えたり教える気持ちがある」が71%いるのに、「教えたことがある」は14%という「志向と実態」のギャップは大きい。「内容ははっきりしないが、自分にできることがあったら伝えたい(教えたい)」という人が多いのだが、それが何かについて本人もはっきりしないし、地域からの高齢者一人一人への理解も不十分である。「人生経験を伝える」というのも、そのままでは、同様に活かされない可能性が強い。  高齢者の社会参加活動の機会を増やす直接的な方策とともに、高齢者自身が自己を見つめなおし、また、地域の要請にも気づくような機会や情報などを提供することも必要なのである。  出典−千葉県総合教育センター調査報告第6集「高齢者の社会参加活動の実態と参加意  欲−知識・技能・経験の教育的活用を中心として−」、昭和61年3月                                         図表−● 社会参加活動の助成施策の概要  各省がさまざまな形で、高齢者の社会参加活動を助成している。  高齢者の社会参加活動の助成施策の概要である。参加人数などは昭和59年度の実績、予算額は昭和60年度のものである。  量的に見れば、厚生省の「老人クラブ活動等社会参加促進事業」が予算額、参加人数(会員数)ともにずば抜けている。しかし、質的に高度な高齢者の自覚的なボランティア活動が十分に盛んになっているとは、まだいえる状況ではない。社会参加活動を受け入れる現在ある基盤を活かしながら、各省がさらに高度な社会参加を促進するための条件づくりに努めている段階であることが、読みとれる。  なお、特に予算額については、そこで表記された金額がすべて、直接、ボランティア関連で計上されたものとは限らない。部分的にボランティア、またはボランティア関連の事業が行われた場合でも、この種の「関連予算調査」には、ひとまとまりの事業の全体の予算額が算出の基礎になることはおおいにありうるからである。そして、ボランティア関連施策というものは、他の諸施策を含めた総合的施策の一環として行われることも多い。そのこと自体は「誰でもボランティア」というボランティア関連施策の健全なあり方の一つともいえるのである。したがって、この数字を根拠にして、どの省が一番多くボランティア活動の助成のための予算を組んでいるかなどを単純に比較することはできない点で注意を要する。  出典−総務庁行政監察局「高齢者対策の現状と課題−総務庁の実態調査結果からみて−  」、昭和61年8月のうち、「社会参加活動の助成施策の概要」(表)から作成。施  策の内容は、文部省、厚生省及び農林水産省の関連通知等によっている。                                         図表−● 高齢者の社会参加の達成のための「場」「組織」「情報」のシステム  「潜在的社会参加」から「場」「組織」「情報」のシステム化を通して、地域に「顕在的社会参加」を生みだすことができる。  経済企画庁国民生活局「高齢者の新しい社会参加活動を求めて」の中で、その活性化のための社会システムのあり方について、図示したものの抜粋である。CHAOS (カオス=混沌)からFUNCTION(ファンクション=機能)にまで導くためのシステムやフローのこの基本的な考え方は、高齢者だけに限らず、あらゆる世代の人々の社会参加の達成のために共通に必要ととらえられる。  出典−経済企画庁国民生活局「高齢者の新しい社会参加活動を求めて−高齢者の能力活  用に関する実態調査−」、昭和58年10月から抜粋。                                         図表−● ボランティアのタイム・スタディ(入浴介助)  組織的な協力体制ができていれば、無理をせずに普段の日常生活の一環にボランティア活動を組み入れることができる。  入浴介助のボランティア活動のタイムスタディである。脱衣に始まり、ドライヤーで髪をかわかすまで、意外に複雑な作業に細分化されるのだが、リフトセンターなどの施設・設備と、ボランティアどうしの協力体制が整備されていれば、一人一人のボランティアは日常生活の中で無理をせずに活動に参加できることを表している。  それでもこのボランティア活動のおかげで本当にひさしぶりに入浴できて、この●●●はどんなにうれしく思うことであろうか。  出典−○○○○「○○○○」   東京ボランティア・センター(東京都社会福祉協議会)、ボランティア・センター研  究年報‘82、昭和58年3月から抜粋。補助線の追加など、若干、手を加えた。                                         図表−● 社会奉仕活動の年齢・学歴・職業別の行動者率  社会奉仕活動の行動者率は、学習活動よりは、年齢・学歴・職業の違いによる影響を受けにくい。  年齢・学歴・職業の違いによって、社会奉仕活動の行動者率がどう変化するかを示している。ここでは、学習活動と比較するために、社会奉仕活動の方のスケールを学習活動の2倍の長さにとってみた。厳密にいえば、総数でみて、社会奉仕活動の行動者率は学習活動の57.3%である。  調査時点は昭和56年と少し古いが、総数が9万人弱、そのうち有業者総数が6万人弱という比較的大規模な調査である。  本調査でいう「社会奉仕活動」とは、「報酬を目的としないで自分の労力、技術、時間を提供して社会や地域の福祉増進や個人・団体のために行っている活動をいい、いわゆるボランティア活動のこと」であり、「単に役員・幹事等になっただけでは社会奉仕活動に含めないが、その団体と共に奉仕活動を行えば社会奉仕活動に含める」とされている。  出典−総理府統計局「昭和56年社会生活基本調査報告 全国 生活行動編 上」、昭  和58年3月から作成。                                         図表−● 社会奉仕活動の行動頻度  社会奉仕活動の行動頻度は、ひと月に一度にも満たない不定期なものが多い。例外は、民生委員・保護司などの「公的な社会奉仕」の場合だけである。  社会奉仕活動の種類別の行動頻度を表している。「定期的ではない」、しかも「年に10日未満」の場合が、「公的な社会奉仕」を除いたすべての種類の社会奉仕活動において、半数を超えている。  このことは、毎週、定期的に行われるような「しっかりした」ボランティア活動への援助とともに、月に一度にも満たないような「普通」の人々のボランティア活動を援助することも大切であることを示唆している。  出典−総理府統計局「昭和56年社会生活基本調査報告 全国 生活行動編 上」、昭  和58年3月から作成。                                         図表−● 社会教育施設におけるボランティア活動の促進の図式化の試み  社会教育施設におけるボランティア活動は、施設にもボランティアにも、それぞれの発展をもたらしてくれる。  社会教育審議会社会教育施設分科会の報告の図式化を試みた結果がこれである。図式化するにあたり、筆者の主観的判断を交えざるをえなかった点はお許しいただきたいが、本報告でも述べられているとおり、社会教育施設におけるボランティア活動が、施設とボランティアの両方に良い影響を与えるという流れが、この図によりいっそう理解されると思う。  出典−社会教育審議会社会教育施設分科会「社会教育施設におけるボランティア活動の  促進について」、昭和61年12月3日から作成。                                         図表−● 社会教育審議会社会教育施設分科会報告「社会教育施設におけるボランティア活動の促進について」の図式化の試み ボランティア活動の意義 生活水準の向上  自らを向上させるボランティア活動の新しい魅力         自由時間の増大    教えかつ学ぶ相互学習                              知的・精神的世界の広がり                 日常的で楽しい活動 ボランティア活動のいっそうの拡充              郷土愛・奉仕の精神 我が国古来の伝統  新しいコミュニティの形成に貢献     社会教育施設に   学習活動としての側面     社会教育施設として援助の責務  対して      新しい視点・独創的な力    社会教育施設に新たな発展             多くの人々に親しまれる発想  施設と地域をむすびつける    実際に予想される場面 1 事業の推進・協力                              2 施設の環境整備             施設ごとの概観 ( 略 )     3 広報・広聴活動への協力                           + 短期の催しや、学習相談事業への助力などの不定期なもの             ボランティア受け入れにあたっての社会教育施設側の留意点 1 施設職員がボランティア活動に対する認識を改めること                ・・・省力化ではなく、施設の教育機能の充実                2 ボランティアの活動領域の設定、窓口の明確化、必要経費の計上などの計画化   3 ボランティア情報のネットワークの整備                       ・・・ボランティアに関するデータ・バンクの設置              4 費用負担・・・活動のための実費を施設等が負担・・・交通費,食事代など    5 事故防止のための安全教育,ボランティアに関する保険制度の活用        6 施設の特色を生かした養成、研修のためのプログラムの用意 7 ボランティア活動の導入を施設経営評価の指標の一つとする