学習情報提供の実際 1ニーズにこたえる情報提供の実際  1 セクショナリズムを超えて、学習者の求める情報を広く提供する     〜中野区「中野の社会教育事業等 プラン1年」〜  2 民間の活力あふれる情報を提供する     〜江東区文化センター「タウン情報こうとう」〜  3 提供できる情報の「限界」について常に問題意識をもつ     〜仙台市中央公民館情報コーナー〜  4 「低次元」と思われるような情報要求に対しても、みくびらずに接する     〜東京都立江東図書館の「ヤングアダルトコーナー」〜 2市民参加の「しかけ」づくり  1 各種のメディアの特性をいかした情報提供をおこなう     〜国立市「くにたちビデオ広場」〜  2 情報の「受け手」も気軽に「情報発信」できるようにする     〜パソコン通信「アスキーネット」〜 3教育的機能の発揮の実際  1 「動態的奉仕」によって情報要求をほりおこす     〜調布市立図書館の読書会活動〜  2 地域課題に対して敏感なアンテナを張って、その学習のための先進的役割をはたす    〜置戸町立図書館と「オケクラフト」〜  3 個人の精神的・主体的営みを援助する視点をもつ     〜カウンセリング・グループワーク〜 4情報提供システムの工夫  1 レファレンスコレクションを活用してスムーズに情報を検索する     〜図書館のレファレンスサービス〜  2 ネットワーキングにより、情報提供の量と質をともに充実させる     〜日野市の図書館サービス網〜 5情報提供活動への支持の獲得  1 企業の「生き残り」のための情報活動に匹敵する、真剣な奉仕意識をもつ     〜企業の情報活動〜  2 市民に身近に感じてもらえるようなイベントを開催する     〜大阪府立文化情報センター〜  3 地域ぐるみ、行政ぐるみの支持を得るために働きかける     〜浦安市立図書館〜                                         この章のねらい  学習情報の収集・加工・提供を行うにあたって、実際に注意すべき事項について、先進的な事例をとおして学習する。  もちろん、みずからの行う学習情報提供は、究極的には、それぞれのおかれた条件に従ってみずからで切り開いていくべきものである。  しかし、ここで紹介した事例も、また、そのような状況の中で生まれたのである。それぞれの事例の特徴をつかみ、共通する考え方をつかんでほしい。  なかでも、市民の現実の情報要求に徹底的に対応し、さらには、潜在的な情報要求をほりおこそうとする積極的な姿勢とその実際の手法は、特に重要である。  それにしても、生涯学習を援助するという学習情報提供の理念は一致しているとしても、その理念を実現するための実践についてのどこにでも通用する完全無欠な「手引書」はありえない。実際の事例をみずからの実践に照らしあわせて主体的に学んだ上で、各々の学習情報提供事業を個性的・独創的につくりだしていただきたい。 第1節 市民の学習情報要求にこたえる情報提供の実際  学習情報提供を始めるにあたって、そこで提供される情報が、学習者の情報要求にこたえるものになるかどうかが、まっさきに問われる。  要求された情報にこたえるということは、ごくあたりまえのことのようにきこえる。しかし、それを実際に実現しようとすると、情報提供側はさまざまな具体的困難に直面する。学習情報提供には、その困難をのりこえるセンスと努力が求められるのである。  ここでいくつかの事例を紹介するが、その中から、事業主体の積極性と創意工夫の跡を読みとっていただきたい。  なお、図書館においてもそれと通じる評価すべき試みがなされているので、あわせて紹介した。図書館のいくつかの積極的な試みは、学習情報提供のあり方にも直接的な関連をもっており、示唆を与えるところが大きい。 1 セクショナリズムをこえて、学習者の求める情報をひろく、わかりやすく提供する    〜中野区「中野の社会教育事業等プラン1年」〜  この「プラン1年」は、教育委員会だけでなく、区行政の各部局でおこなわれている区民対象の学習・文化・スポーツ・レクリエーションなどの事業を紹介している。  昭和61年度のものは、B4版で104ページである。  各章の構成は、部局ごとではなく、少年・青年・成人・高齢者の順に対象別ごと、その次に、ボランティア教育・障害者教育・文化・芸術・視聴覚教育(テレビセミナー・映画会・プラネタリウムほか)・スポーツなどの目的別ごとに、それぞれ一覧表のかたちで続いている。  さらに、その次に、青少年問題協議会などの各種委員活動、講師派遣等の助成、「まちづくり講座」などの行政に関する講座、広報誌などの情報提供、そして保健相談所などを含む各種施設の案内が載っている。  以上の分類方法をとるならば、当然、さまざまな部局の事業が同じ分類の中で交錯することになる。実際、「プラン1年」でも、同種の事業は所管部局が異なっていても同じ項目に入っている。  各部局からあがってきた報告をそのまま部局ごとにまとめるのなら簡単ではあるが、それでは学習者にとっては一つの学習目的のためにあちこちのページをくらなくてはならず、不便である。欲しい情報を見のがしてしまう可能性もある。そこで、教育委員会以外の他部局の学習機会の情報を収録しているばかりではなく、その配置も学習者に便利なように工夫されているのである。  このように、学習情報誌の作成のためには、はば広い学習情報の収集とともに、バラエティーに富んだ情報を学習者の立場に立ってわかりやすく、かつ適正に編成しなおす「情報加工」のセンスと能力が求められる。  「プラン1年」の場合も、教育的事業をおこなうさまざまな部局の担当者によって構成される「社会教育事業等連絡会議」の中で連絡・調整された上で、社会教育主事が実際の編集にあたっている。昭和62年度からは、この会議やその他の類似会議が「地域センター連絡調整会議」に統合される予定であるが、この資料は引き続き社会教育主事が編集するとのことである。  なお、学習情報誌の発行などを目的とするこの種の「連絡会議」により、学習情報を広く的確に収集することができる。しかし、効果はそれだけにとどまらない。ばらばらにおこなわれている各局の生涯教育関連事業が、学習情報の収集・加工作業のための会議を通して、お互いの事業に対する認識を深めあい、結果的に連絡・調整されるという副次的効果もある。  「学習情報」(のための会議)が(セクショナリズムという)「教育的事業の実態」を改善する。情報が実態を変えるのである。 2 民間の活力あふれる学習情報を提供する    〜江東区文化センター「タウン情報こうとう」〜  江東区文化センターは、財団法人「江東区地域振興会」が区から委託を受けて運営管理している施設である。  年末・年始を除き年中無休、夜10時まで開館。電話で仮予約でき、正式手続きは開館時間ぎりぎりまで受け付けている。会議や総会などでの酒席、宴席も自由。事務所も奥にひっこめて、「管理」よりも区民のための実質的な学習援助をめざしているとのことである。  たとえば、夜、センターでの会合が終わった後からでも、次回の会場の正式な手続きができる。わざわざ、手続きのために出直すことなく、その日のうちに次回の会場が確保できる。  昭和61年の秋、センターが翌年の6月に5周年を迎えるにあたり、「意見聴取地域集会」が9地区で開かれた。(「タウン情報こうとう」では「聞かせて下さい 出向きます」と訴えている。その他に「フリーダイヤル」と称して、コレクトコールによる意見聴取もおこなっている。)その時のチラシによると、区民38万人に対して利用者は「300万人の大台にあとわずか」であり、ホールなどは100%、会議室なども80%台の利用率で「どうしたら、いつでもご利用いただけるのか苦慮中」とある。  このような利用者本位の考え方で、「タウン情報こうとう」も発行されている。一面はカラー、二〜四面はモノクロ。毎月10日発行。発行部数は13万6千部。6大紙朝刊に折り込みで各家庭に配られる。新聞紙大だから、他のチラシとまぎれることなく区民の目にとまる。  本紙の発行資金のために広告を導入しているが、それは区内中小企業発展のねらいもある。広告の掲載希望者が多すぎてさばききれない現状とのことである。  学習情報については、センター主催・共催の講座・イベント、区内の自主的なグループ・サークルの会員募集・催物のお知らせ(掲載は無料)などの他、4面は「生徒募集」と銘うって、民間のスクールビジネスや習いごとなどの3〜5行の広告が紙面いっぱいに組まれている(掲載は有料)。  これらの学習情報の提供によって、区民は民間の情報を含めた今あるさまざまな学習機会の情報を知り、それを自分で「はかりにかけて」選択することができる。  このように、「タウン情報こうとう」は、センター側の徹底したPR意識、区民の自主的グループ・サークル活動援助を援助する姿勢、そして、民間の学習ビジネス情報の活力をうまくとりいれる「企業的感覚」と柔軟性がすべて生かされて、いきいきとした構成になっている。  ひとことでいえば、「お客さま本位」の民間のセンスと、「学習援助」の公共的姿勢の両立である。公的な学習情報提供事業がその絶妙なバランス感覚から学ぶところは大きい。 3 提供できない情報についても常に問題意識をもつ    〜仙台市中央公民館情報コーナー〜  仙台市中央公民館では、情報コーナーを昭和58年10月から開設している。  オフィスコンピュータを導入しており、実際の情報提供においても、情報の半数近くがこのコンピュータから出されている。提供している情報は、施設、団体、事業、観光・文化財、人材などの領域のものである。  コンピュータによる大量な情報の迅速な検索のメリットについてはいうまでもないが、さらに「情報コーナーの概要」には次のようにある。  「電話、面接、郵便等による学習相談に対し、コンピュータまたは手持ちの情報源により回答します。この場合、相談者が明確な目的をもたずに相談に訪れることもすくなくありません。何をしたらよいか、本当に何がやりたいのか、充分な対話を行い安易な情報提供を行わないよう心がけています」。  コンピュータは便利な機械ではあるが、情報を提供する人間までが「機械的」にそれを利用するだけではいけないということであろう。「機械的対応」では、学習情報の要求に本当には応えていくことができない。  そしてそれと同じく、「提供できない情報」が要求された場合にも、機械的にわりきってしまってはいけない。  「提供できない」という意味は、二通りある。一つは、「その情報をもっていない」という場合であり、その場合に安易に「その情報は、今はないから答えられない」と答えてすませてしまうのでは論外である。それに近い情報や、本人がその情報に近づくための情報をなんとか提供すべきであろう。  もう一つは、その情報に関しては提供しないことになっているという場合がある。実際には、学習者の情報要求に真剣にこたえようとすればするほど、その問題で悩むはずである。  「概要」では、情報提供の範囲に含まれないものとして、「営利性が高いもの」、「政治、宗教、思想の宣伝活動に関するもの」、「その他、教育委員会が適当でないと認めたもの」があげられている。学習情報提供が公的に運営されていることを考えると、この制限は理解できないことではない。  しかし、「判断に苦しむ相談」として、次のような情報要求の事例が紹介されている。  「レンタル関係」としては、テント、スピーカ、楽器、ピアノ、自転車など。  これらについて、「当初は店の利潤につながるということで紹介しませんでしたが、社会教育活動を行う場合に、レンタル関係の情報が必要な場合が多く、このようなときは紹介をしてもよいのではないかという考え方をしています。」と説明している。  「報道機関からの問い合せ」としては、団体・サークルの催物、ボランティア団体の資料、問い合せをしてきた人のリストなど。  このことについては、プライバシーの問題や「目的外」という理由で情報提供を行っていないということだが、「報道機関も情報コーナーにとって有力な情報源であり、また、情報のネットワーク形成のためにも必要な機関であることから提供を拒否しにくい状態となっています。」とある。  プライバシーを侵害しないことは大原則であるが、その上で可能な情報提供はマスメディアに行ってよいであろう。マスコミにその情報がのることは、市民に対して間接的に学習情報提供をしたことになるのである。  その他、絵本の専門店、演劇の鑑賞券の購入場所などの「店の紹介になるもの」なども「判断に苦しむ相談」の事例としてあげられている。  以上の他にもさまざま生じるであろう「判断に苦しむ」事例のすべてについて、ことこまかに「対処のしかた」が載っている基準やマニュアルは、ありえない。「概要」には、「問い合せの内容によっては社会教育と営利との関わりについて明確に提供・非提供の線をひくことが困難な場合が少なくありません。」とある。このように、ナマの問い合せはけっして定型的なものではない。情報要求のひとつひとつについて、情報提供側が、主体的に判断して対応しなければならないのである。  趣旨から外れるものも無頓着にわかることすべてを答えてしまうとすれば、学習情報提供の本来の姿を歪めていく結果になろう。かといって、当初から予定された狭い範囲の情報提供にとどまるならば、情報提供側のダイナミックな発達はありえない。  かんじんなのは、仙台市中央公民館情報コーナーのように提供・非提供の既成の枠組みに常に問題意識をもち、柔軟に主体的に対応することである。さらには、この「概要」のように、市民や関係者に情報提供の考え方を明らかにし、そのあり方をひろく問いかけることが大切である。 4 「低次元」と思われるような情報要求に対しても、みくびらずに接する    〜東京都立江東図書館の「ヤングアダルトコーナー」〜  東京都立江東図書館(現在は、江東区に移管中)には、ヤングアダルトコーナーがある。そこには、ヤングアダルトに人気のある赤川次郎、新井素子、氷室冴子などの見方によっては「軽薄短小」な本やオートバイやヘビーロックに関する本などが置いてある。  東京都立江東図書館の当時の担当司書の半田雄二氏は次のように述べている。「ふつう『読んでほしい本』と『読まれる本』は一致しないことが多いものです。しかし、大人から見れば未熟であっても、彼らには彼らなりの選択眼があり、決して無原則に手を出しているわけではありません。読まれない本には、やはりそれだけの理由があるはずです。・・・読まれている本が、すべて読者の低俗な好奇心におもねるクズばかりと決めつけるのも危険です。大人たちがまだ気づかないだけで、数年後には中堅どころとして脚光を浴びているであろう作家が隠れていたりします」。  そして、「すでに趣味の固定してしまった成人に較べ、自己、そして自己と他者、社会、世界との関わりに日々新たな発見の喜びをもちうる青年の関心の領域は広い」ともいっている。  図書館のヤングアダルトサービスでは、青年をヤングアダルト、すなわち「若い大人」、知的権利主体としてとらえる。そしてその青年の要求に合った図書を提供するのである。  このヤングアダルトサービスは、図書館のおもに資料提供に関するひとつの試みであるが、学習情報提供においても、特に相手がヤングアダルト、すなわち高校生などの場合、情報提供側も相手をみくびりがちになるかもしれない。  たとえば、オートバイのツーリングクラブ(旅行会)について問い合わせがあっても、それは「学習情報」とはまったく異質に感じられる。しかし、じつはツーリングクラブの多くは健全なグループ活動のひとつであり、数少ない異世代交流の場でもある。その高校生の所属する学校でオートバイを禁止しているなどの事情がない限り、ツーリングクラブの紹介は、団体に関する情報提供として位置づけられるべきなのである。  さらに半田氏が「純粋に息抜きのための読書も、将棋の腕前をあげるために定跡書を読むことも、デートコースを決めるために行楽ガイドを調べることも、広い意味では大人になるためのこやしだといえます。」としてそのような「読書」の価値を主張しているように、学習情報提供においても、「学習」とはいえないような個人的な趣味や生活レベルの「低次元」な情報要求に対しても、それをみくびることなく、学習の発展の契機として尊重して対応する姿勢が求められる。  半田氏の問題意識は、児童サービスと成人サービスの谷間で、青年が図書館から離れていくのをなんとかしたいという気持から発している。そして、青年のこの「図書館離れ」をくいとめるためには、まず、青年の情報要求を的確につかみ、それにこたえていく必要があるというのである。  そのほか、図書館を身近に感じ、使ってみたくなるように「ヤングアダルト新聞」を発行してまわりの高校に配ったり、レコードコンサートを開くなどの努力をしたりもしている。  学習情報提供事業においても、一部の層がそこから離れていってしまったり、あるいは、特定の人のためだけの学習情報提供にならないよう、同様なあらゆる努力をすべきである。 第2節 学習情報提供における情報要求のほりおこしの実際  情報要求の中には、学習者が自ら意識して実際に情報を求めてくる「顕在的要求」もあれば、まだ本人から求めてくるにはいたっていないが、なんらかの形で触発された場合には情報要求として具現化されるであろう「潜在的要求」もある。  学習情報提供事業においては、顕在化された質問だけに答えているだけで良しとするのではなく、学習者が自らの「潜在的学習要求」や本当に必要な学習情報とは何かについて気づくよう援助することも一方で考えなければならない。  ひとつには、学習者のそれぞれの実際の情報要求に応じる時に、相手が言葉に表していない「潜在的要求」まで察する努力をした上で、必要な情報の提供を行うべきである。  さらに、次に述べる各種の情報提供においては、「潜在」を「顕在」に転化させるために、その他の積極的な働きかけが行われている。そして、それらは情報提供そのものにも効果的にむすばれている。このような取り組みにより、学習情報提供の価値がいっそう高まるのである。 1 自由にみちた文化度の高いイベントを開催する    〜大阪府立文化情報センター〜  昭和56年11月、大阪のビジネス街の中心、中之島のビルの5階に「大阪府立文化情報センター」が誕生した。教育委員会の主管であるが、全国で初めて「文化」情報センターと銘うち、はばの広い学習情報を提供している。  その最大の特色は、民間の文化・学習情報をあえて扱うことにいちはやくふみきったことであろう。  「文化情報センターの概要」によると、その運営の特色について「民間情報は企業の営利にかかわるから触れてはならない、というのがこれまでの行政側における伝統的な考え方であったが、当センターではカルチャー・センターから、音楽、映画、演劇、サークル活動にいたるチラシまで、文化活動や生涯学習に関する情報であれば、公・民を問わずすべてを扱っていることである。このことは、文化活動、生涯学習の多くが民間によるものであり、民間情報を扱わない情報センターは意味がない、という見解に基づくものである。」と明言している。市民サークルのものはもちろん、営利を目的とした催しのチラシまでもが、センターの「イベント情報コーナー」に置くことができ、市民は自由に持ち帰れるのである。  また、ホールやセミナー室があり、その会場提供も行っている。そこでは主催者が参加者から会費を徴収して催しものを行うことを認めている。このことについて「概要」では、「営利行為を認めないことについては、文化情報センターも同様であるが、催しものを成立させるために必要な経費の徴収をいっさい認めないということでは、公的施設における文化・学習活動は、おのずから厳しい制約を受けることになりかねない。」と述べている。  このように、大阪府立文化情報センターは、情報提供側の都合を優先するのではなく、まず、市民の文化の実態に歩みよって、それを援助しようとする姿勢をもっている。  この姿勢のもとに、文化・学習にかかわるイベントなども開かれている。  その特色は、民間団体と共催して臨機応変にどんどんセミナーなどの事業を組んでいることである。「概要」では次のように述べている。「設置の趣旨に沿った良い企画であれば、センターの側から積極的に共催を申し出て、施設の使用料を免除し、事業のPRにも協力している。ある事業を行政が主催なり、後援をするには、かなり厳格な基準に拠るのが通例であるが、当センターのような施設にあっては、共催の基準を緩やかにするほうが、『文化・学習活動の活性化のため』という設置の趣旨にかなうとの配慮から打ち出した方針である」。  結果的には、このようにして、専門性の高い民間の「文化力」を借りることによって、センターの事業の「文化度」は高いものになっているのである。  大阪府立文化情報センターは、作家などの文化人が手弁当で応援していることで有名である。センターは彼らの「連絡場所」にもなっている。それは、文化を育てようとするこれらの人々の気持をひきつける魅力が、センターの豊かで自由なイベントの中にあふれていることが一つの理由になっていると考えられる。  「文化のプロフェッショナル」としての文化人の支持を得ていることは、学習情報提供にとっては大きなメリットになる。新鮮で文化度の高い情報が、センターで日常的に行き来することになるわけである。センターがもつ「文化的人脈」も、その人たちを通して次から次へと広がっていく。  そして、それらの高度な情報がイベントの質を高める。今や豊かな文化・学習情報なくして、質の良い事業は打てない時代なのである。  もちろん、センターで行う事業の効果は、より直接的には、一般市民に対して発揮される。  ひとつには、市民ひとりひとりの学習情報要求が深化し発展する。講座などに参加することによって、その人の関心は深まり、学習情報要求が前よりも深化する。しかも、その人のそれまでの学習情報要求は、あくまでもその人の既成の概念の枠からしか発しえないのに対して、文化的インパクト(衝撃力)のある事業は、その枠をとりはらい、新たになまなましい学習情報要求を誘発する。  もう一つの機能は、そこで集う市民の「文化のネットワーキング」の促進の効果をもたらすことである。ひとりひとりの「個別的文化」ではなく、市民どうしや市民と団体との自発的な文化のネットワークの契機となる。  そのことによって、「個人個人が一方的に学習情報を問い合わせてくるだけ」という状態を克服できる。なぜなら、市民のあいだでいきいきとした文化情報の行き来がなされるであろうし、市民からセンターへの情報提供もなされるようになるからである。  このように、センターにおける事業は、市民の学習情報要求や文化・学習に対する「構え」そのものを変容させ、発展させる契機となっている。また、その変容・発展が、学習情報提供事業の内容をもいっそう豊かにしている。  大阪府立文化情報センターの情報提供が、このようなプラスの循環作用を実現できたのは、民間の高い文化度を活用してインパクトを与えられるだけのレベルを保っていること、行政から市民への文化の「おしつけ」にならないよう、高い自由度を確保していることの二つによるところが大きい。 2 学習情報がひろく活用されるよう、「動態的」にサービスする   〜調布市立図書館の読書会活動〜  人口19万人の調布市には、図書館が中央館1館と分館10館が半径800メートルに1館の割合で配置されている。  この豊かな図書館網が実現した理由として、本や図書館に対する市民の高い関心があげられる。そのような高い関心を育ててきた図書館の運営方針は次のとおりである。  (前文略)  S 買い物カゴを下げて誰でも気軽に立ち寄れる図書館づくりを  目指し、市民のだれもが自由に図書館サービスを受けられる様  にサービスの拠点を広げていく。  T 座して利用を待つという静態的な活動に終始することなく積  極的に図書館側から市民に働きかける動態的な図書館活動を目  指す。  U 略(児童サービスについて)  V 市民の身近なところで文化的事業(講座、講演会、著者を囲  む読書会、座談会、名画鑑賞会等)を開催し、文化創造の拠点  として積極的な図書館活動を展開する。  W 略(職員研修について)  つまり、「市民のだれもが」「買い物カゴを下げて」利用する図書館づくりのためには、分館網の拡大や文化的事業など、図書館側から働きかける「動態的」活動が重要だというのである。  元調布市立図書館長の萩原祥三氏は、「従来の図書館奉仕(図書館サービスのこと・・筆者)の概念は静態的であり、建物即図書館であると考え易い。図書館を、建物も奉仕員も資料も一切含めた、奉仕のための経営体と考え、動態的な、奉仕(サービス)という価値を産みだす有機的な機能体(オルガン)と考えるべきである。」として、「成人への働きかけを積極的に行い、不読者層の開拓を行う」ことの大切さを早くから主張していた。  当時の図書館は、まだ、「座して利用を待つ」静態型のものが多かった。そのままでは、受験生の「自習室」か、せいぜい一部の市民への奉仕以上のものにはなりえない。  学習情報提供事業が、今ちょうどそのような創成期にある。「座して待ち」、その結果、学習情報ニーズをもっている市民はごく一部であったと嘆くような姿勢なら、早晩その事業はたちぎえとなるだろう。  情報を使いこなす能力のある人は、情報を駆使してますます自己の情報に関する意欲と能力を磨き続ける。情報をうまく使う習慣のない人は、いつまでたっても情報と疎遠である。「情報格差」は、このようにして広がっていく。図書館利用でも、学習情報活用でも同じことがいえる。  学習情報提供は、すでに学習に親しんでいて学習情報を自由に活用できる市民のためだけのものになってはならない。「動態的サービス」による「学習情報要求のほりおこし」が必要である。  しかし、萩原氏は次のようにもいう。「図書館は奉仕することによって、市民に必要な価値を創るが、それは市民が利用するという実践行為によってである。また図書館は市民の要求によって創られるべきである。自由な市民の利用を基本の原則とする図書館は、強制することはできない。しかし、図書館思想が市民に浸透しない限り、図書館は実現しない」。この「ジレンマ」はどうしたら解決できるのだろうか。  調布市立図書館では「小学生読書会」を行っている。「大方は、子どもが関心を持ちそうなテーマを一つ設定し、このテーマに合う本を紹介したり、話し合いや実験や工作をしていく」ものである。たとえばそこで、「名前・なまえ」(佐久間英著・ポプラ社)という本をもとに「自分の姓は全国で何番目ぐらいだと思うか」などのクイズをしている。そして「読書会」の終了後、「この本を読みましょう」という「指導」をしなくても、「普段あまり借りられなかった」その本が借りられていく。「名前についての学習要求」は初めは「潜在的」だったのだが、この読書会によって触発され、あとは子どもが自発的にその本を借りていったのである。  学習情報提供事業における「動態的サービス」も、「強制」であってはならない。押しつけでない形で、学習情報提供事業への市民の関心と支持を獲得しなくてはならない。  市民の自発性や自由の尊重と、市民への図書館思想の普及の両方の理念を徐々に、しかし、ともに実現することをめざして、当時の萩原館長はみずから市内の読書会などをかけまわった。  学習情報提供を行う者も、情報の収集・整理能力がすぐれているだけではこと足りない。地域のさまざまな場所・機会において学習情報の提供をし、館の内外で学習情報の「専門家」として、その入手や活用の方法に関する専門的・技術的援助を行う必要がある。  しかも、それは、市民に対する強制や押しつけになってはならない。そのためには、市民と直接、対等に関わり、市民とともに考える姿勢が必要である。  そうしてはじめて、いきいきとした学習情報も集まり、また、それをひろく市民に提供できるのである。                               脚注 1)中野区教育委員会社会教育課編集責任 「'86 中野の社会教育事業等プラン1年」、中野区・中野区教育委員会発行、1986. 2)江東区文化センターについては、恩田大進 「カルチャーセンターの戦略と成果」、社会教育第41巻第6号、全日本社会教育連合会、1986、P.33〜43. 3)仙台市中央公民館情報コーナーについては、月刊公民館編集部 「仙台市中央公民館の情報コーナー」、月刊公民館第330号、全国公民館連合会、1984、P.20〜264)仙台市中央公民館 「情報コーナーの概要」、1985. 5)半田雄二 「図書館職員として青年とどうつきあうか」、むさしのインフォメーションマニュアル繞}縺A東京都武蔵野青年の家、1984、P.48. 6)半田雄二 「公共図書館の『青年問題』」、図書館雑誌Vol 75,No5 、日本図書館協会、1981、P.243. 7)前掲 「図書館職員として青年とどうつきあうか」、P.48. 8)大阪府立文化情報センター 「文化情報センターの概要」、1986. 9)調布市立図書館 「昭和61年度版 数字で見る図書館活動」、1986. 10)萩原祥三 「現代の図書館像を求めて」、ひびや101号、東京都立日比谷図書館、1970.なお、本論は同氏 『買物篭をさげて図書館へ』、創林社、1979、P.100〜109に収録されている. 11)同 「現代の図書館像を求めて」. 12)「小学生読書会スケッチ 名前・なまえ」、図書館だよりNo.118、調布市立図書館、1986. 章のまとめ  学習情報を提供するにあたっては、まず、市民の求める学習情報を提供することが大切である。そのためには、実際には次のような点に留意する必要がある。 1 一般行政の教育的事業などの学習情報も含めて、それを学習者の立場 に立ってわかりやすく編集・加工して提供する。 2 自主的な教育・学習活動や、時にはカルチャービジネスなどの民間の 学習情報も含めて、民間の活力にあふれる生涯学習の情報を提供する。3 政治・宗教・営利に関する学習情報など公共性の観点から取り扱いの 難しい情報の要求に対しても、機械的に切り捨てるのではなく、問題意 識を持って柔軟かつ主体的に対応する。 4 青少年などの「低次元」と思われる情報要求に対しても、みくびるこ となく、学習の発展の契機として尊重して対応する。 5 コンピュータ利用などによって、大量の情報の整理と迅速な提供をは かる一方、学習情報を求めてきた人との対話を大切にし、表面には現れ てこない潜在的な学習情報要求にもこたえられるよう努める。  次に、潜在的な学習情報要求をほりおこすことによって、市民の学習情報要求それ自体の発展を援助し、また、学習情報がひろく市民に活用されるようにすることが大切である。実際には次のような働きかけが考えられる。  1 衝撃力のある文化度の高いイベントを開催する。 2 「座して待つ」のではなく、地域のさまざまな場所・機会において、 学習情報を提供する。 3 学習情報の「専門家」として、ひろく市民に対して、学習情報の入手 や活用の方法についての専門的・技術的援助を行う。  ただし、これらの働きかけは、けっして強制や押しつけであってはならない。市民の自由と主体性を尊重し、市民と対等に接してともに考える姿勢が必要である。 重要事項の解説                  学習相談  市民が学習情報の提供を求めてきた場合、それに実際に対応する過程において、単純な情報提供だけにとどまらずに、「学習相談」としての要素が付随的に生まれる。  「学習相談」とは、求められた学習情報を機械的に提供するだけでなく、双方のコミュニケーションをはかりながら、学習者の「個々」のケースに対して最適と思われる個別的な対応をすることである。  特に、市民の側から学習上の悩みが出された場合、また、本人はまだ気づいていなくても、学習情報提供側が本人の学習の推進にあたっての問題などを察知しえた場合は、「説教」ではなく、カウンセリングマインドにみちた「相談」機能を積極的に発揮する必要がある。 カウンセリングマインド  学習情報提供や学習相談が、本当に市民の生涯学習を援助するものになるためには、学習における市民の主体性が損なわれず、むしろ発展するように心がける必要がある。  そのために、これらの対応において、カウンセリングマインドが基本的態度として重要になる。それは、相手の気持を理解しようと最大限の努力をすること、そしてそのことにより、相手がみずからの力で学習主体としての人格的発達を実現することができるように援助することである。  実際には、まず、相手の話を「こころを傾けて」聴くことである(傾聴)。その他、「受容」「繰り返し」「明確化」「支持」「質問」などのカウンセリングの技法も参考になる。  カウンセリングマインドにあふれた対応によって、相手は自己の学習阻害要因や学習要求についても、みずから気づくことができるのである。        非提供情報  仙台市中央公民館情報コーナーでは、「営利性が高いもの」、「政治、宗教、思想の宣伝活動に関するもの」、「その他、教育委員会が適当でないと認めたもの」については、その学習情報を提供しないことになっている。  また、情報公開制度の適用除外事項としては、「個人のプライバシーに関する情報」、「企業・団体の秘密に関する情報」、「事務・事業の公正又は円滑な運営を妨げるおそれがある情報」、「法令秘に関する情報」などがあげられる。  その他、図書館のレファレンスサービス(参考調査)では、医学的判断を伴うものなど、医者や弁護士などの専門職の仕事に関わる回答はしない。  これらの情報の「除外」は、それぞれ正当な根拠があり、学習情報提供においても同様な注意が必要である。しかし、それとともに、「非提供」の枠に「安住」せずに情報ニーズにこたえようとする鋭い問題意識も必要である。 参考図書  「読むための本」に対する「調べるための本」。レファレンスサービスを効率的に行なうために、図書館ではかなり重視される。  「情報を縮約ないし編成して項目にまとめ、それらを一定の方式にしたがって配列した冊子体の図書であり、それは、通常、そのなかに収録されている情報が容易に検索できるように編集されている」(長 雅男『情報と文献の検索』)ものである。参考図書には、オリジナルな見解などは混じらない。しかし、すでにあるたくさんの情報から必要な情報を探しだすには、非常に便利な道具となりうる。  学習情報についていえば、劇場・映画館のリスト、公共施設総覧など、学習・文化・スポーツ・レクリエーションに関する施設、事業、団体、人材などを「縮約・編成」したものが、この参考図書と同様の役割をはたす。  参考のため、学習情報の「参考図書」にあたるもののうち、全国規模のもので、まだ広く気づかれてはいないと思われるものの例を、以下にあげる。 〔施設〕…「ユースホステル−団体利用の手引き 合宿ハンドブック」、日本ユースホステル協会、 1 9 8 6  団体で合宿のできるそれぞれのユースホステルについて、スポーツ、野外活動、文化、音楽、研修会などに関する施設・備品・周辺施設の情報を掲載している。〔事業〕…「る〜んる〜んこ〜る ' 8 6」、電気電信共済会、 1 9 8 6   1 2 , 0 0 0のテレホンサービス情報を収録している。その中には、たとえば新聞社の行なう「テレホン英語ニュース」など、学習関連サービスも含まれている。 〔団体〕…「日本の青少年団体−第1集−中央団体編」、中央青少年団体連絡協議会、 1 9 8 5  各団体の目的・内容・組織・事業・沿革・機関紙・施設・加入資格などについて掲載している。 〔人材〕…「現代日本執筆者大事典 7 7/ 8 2」、日外アソシエーツ、全5巻、第5巻(索引)は 1 9 8 6   1 9 7 7年から 1 9 8 2年までの間に日本で執筆・公表した人の略歴、専攻分野、著書が掲載されている。第5巻には、事項索引もついている。 参考文献 ○ 西村美東士 「学習情報提供事業の企画と展開」、岡本包治他編『社会教育の計画とプログラム』全日本社会教育連合会、1987  社会教育行政が学習情報提供を行なうにあたっての、三つの基本的問題と十の留意点を述べた上で、「生涯学習情報提供事業の機能例一覧」「情報の種類・内容・収集方法」「情報の流れ」のそれぞれについて、その実際の姿を図表化したものである。 ○ 國分康孝 「カウンセリングを生かした人間関係・教師の自学自習法」、  社、 1984  初心者にもカウンセリングの基本がわかるように書かれている。そして、非指示的方法ばかり強調するのではなく、カウンセリングの立場から「情報提供」や「アドバイス」の効用と注意すべき点にもふれている。そのため、本来は教師向けに書かれた本であるが、学習情報提供においてカウンセリングの理念と技法を実践的に生かしていくためにも、直接の参考になるはずである。 ○ 長 雅男 「情報と文献の探索−参考図書の解題−」、丸善、1982  図書館のレファレンスサービスの考え方と、情報探索の「道具」としての参考図書の種類と活用の実際について書かれている。学習情報の「参考図書」の活用を考えるにあたって、示唆に富むものである。また、たとえば「全国図書館案内」(三一書房)など、ここで多数紹介されている参考図書そのものも、実際の学習情報提供においては利用できる機会も多いと思われる。 設問  行政の行なう教育的事業に関する学習情報を収録したガイドブックを作成する場合、留意すべき点を3つあげよ。(それぞれ60字程度) 解答 1、教育委員会の事業だけでなく、一般行政部局が住民に対して行う学習・文化・スポーツ・レクリエーションの事業までをも広く収録する。 2、各部局の事業を安易に部局ごとにまとめるのではなく、住民が情報を検索しやすいよう、対象や内容によって分類・配列する。 3、各部局の教育的事業の担当者による編集会議などを開くことにより、学習情報の的確な収集と、各部局の生涯教育事業の整合化をはかる。 解説  この場合、「教育的事業」とは、教育を主要な目的とする事業だけとは限らない。また、学習機会の提供だけではなく、施設提供なども含む広い概念である。 設問  公的な学習情報提供において、民間の学習情報も含めて収集・提供することによって期待できるメリットを5つあげよ。(それぞれ50〜60字程度)解答 1、学習情報の選択のはばが広がり、学習者は自分でその中から必要な情報を選択することができるようになる。 2、民間の専門的で高度な「文化力」のある学習情報を提供することによって、学習情報提供の文化的水準を高いものにすることができる。 3、自主的なグループ・サークル活動の情報を提供することによって、それに参加する人を増やし、自主的活動の充実を期すことができる。 4、民間の学習ビジネスの情報を提供することによって、それらの学習関連サービスをより活性化することができる。 5、民間の活力にあふれる学習情報を提供することによって、学習情報提供事業自体を活気のあるものにすることができる。 解説  1は学習情報の拡大、2はその質的向上、3と4は民間の学習活動の活性化、5は学習情報提供事業自体の活性化に関する事項である。 設問  公的な学習情報提供における「非提供」の情報の種類を3つあげよ。そして、それぞれについて、例のように、情報提供すべきでない事項と、それに類するけれども提供すべき事項の両方を、対照的な具体例で示しなさい。 (例)、営利に関わる情報提供・・非提供−「もっとも良いと思われるスイミングスクール」、提供−「市内のスイミングスクールの、それぞれのカリキュラム」 解答 1、政治・宗教などの宣伝活動に関わる情報提供・・非提供−「○○教の布教活動を行うための適当な会場」、提供−「○○教の信者が集まってスポーツ大会を開くための適当な会場」 2、個人のプライバシーに関わる情報提供・・非提供−「茶道について問い合わせしてきた人のリスト(茶道サークルの会員募集のため)」、提供−「本人の申し出などにより、茶道の指導者として人材バンクに登録されている人のリスト(茶道の指導を依頼するため)」 3、専門職の仕事に属する情報提供・・非提供−「糖尿病の治し方」、提供−「糖尿病の人たちが、その克服のために活動しているグループ」 解説  1は「布教活動」と「その他の活動」、2は個人情報の提供に対する本人の了解の「無し」「有り」、3は「医学的情報」と「団体情報」という点で、それぞれ対照的である。これを参考にして、「提供」と「非提供」の区別のあり方について考えていただきたい。 設問  学習情報提供事業において「動態的サービス」として必要と考えられるものを3種類あげ、もっとも基本的なねらいを、それぞれ、ひとことで示しなさい。 解答 1、イベントの開催・・市民の学習情報要求の深化・発展 2、地域での学習情報提供・・学習情報提供事業の利用者層の拡大 3、学習情報の入手・活用に関する専門的・技術的援助・・市民の学習情報に対応する能力の形成 解説  1については、インパクトをもつイベントであることが条件になる。なお、イベントの開催により、「学習情報提供事業への関心の獲得」、「学習情報の流通」、「ネットワークの自発的形成」なども期待できる。しかし、これらは、特別にそれをねらいとするイベント以外では、副次的効果としてとらえるべきであろう。3については、2と異なり、利用者層の拡大を直接ねらうものではなく、学習情報提供事業を現に利用している人も対象にして、学習情報のための基礎能力の形成をはかるものである。 重要事項の解説                  学習相談  市民が学習情報の提供を求めてきた場合、それに実際に対応する過程において、単純な情報提供だけにとどまらずに、「学習相談」としての要素が付随的に生まれる。  「学習相談」とは、求められた学習情報を機械的に提供するだけでなく、双方のコミュニケーションをはかりながら、学習者の「個々」のケースに対して最適と思われる個別的な対応をすることである。  特に、市民の側から学習上の悩みが出された場合、また、本人はまだ気づいていなくても、学習情報提供側が本人の学習の推進にあたっての問題などを察知しえた場合は、「説教」ではなく、カウンセリングマインドにみちた「相談」機能を積極的に発揮する必要がある。 カウンセリングマインド  学習情報提供や学習相談が、本当に市民の生涯学習を援助するものになるためには、学習における市民の主体性が損なわれず、むしろ発展するように心がける必要がある。  そのために、これらの対応において、カウンセリングマインドが基本的態度として重要になる。それは、相手の気持を理解しようと最大限の努力をすること、そしてそのことにより、相手がみずからの力で学習主体としての人格的発達を実現することができるように援助することである。  実際には、まず、相手の話を「こころを傾けて」聴くことである(傾聴)。その他、「受容」「繰り返し」「明確化」「支持」「質問」などのカウンセリングの技法も参考になる。  カウンセリングマインドにあふれた対応によって、相手は自己の学習阻害要因や学習要求についても、みずから気づくことができるのである。        非提供情報  仙台市中央公民館情報コーナーでは、「営利性が高いもの」、「政治、宗教、思想の宣伝活動に関するもの」、「その他、教育委員会が適当でないと認めたもの」については、その学習情報を提供しないことになっている。  また、情報公開制度の適用除外事項としては、「個人のプライバシーに関する情報」、「企業・団体の秘密に関する情報」、「事務・事業の公正又は円滑な運営を妨げるおそれがある情報」、「法令秘に関する情報」などがあげられる。  その他、図書館のレファレンスサービス(参考調査)では、医学的判断を伴うものなど、医者や弁護士などの専門職の仕事に関わる回答はしない。  これらの情報の「除外」は、それぞれ正当な根拠があり、学習情報提供においても同様な注意が必要である。しかし、それとともに、「非提供」の枠に「安住」せずに情報ニーズにこたえようとする鋭い問題意識も必要である。