先日、われわれの研修で、若者の街、渋谷を訪れ、「雑貨屋イメージの百貨店」、西武ロフトの金谷信之館長の話をうかがう機会があった。  当日はあいにくの雨であったが、じつは引率者の私にとっては「慈雨」であった。なぜなら、平日の昼間でも晴天だと相当の混雑が予想され、店内の見学が十分には行えない危惧があったからである。若者のニーズの把握は難しいとか、あるいはもともとのニーズなどはないのかもしれないなどと言われる中で、ロフトはそれほど若者を「吸引」しているのである。  「生活必需品」に対して、若者が今までと違うものを求め始めている。「非日常」の余暇以上に、日常生活そのものを「余暇」として楽しんでいる。衣類、文具などのタテワリの商品配置では、このようなニーズに対応できない。「業際」が求められる。  そこでは、カルイかもしれないけれど、時、瞬間を大切にして、トレンドや風俗を提供する。それによって、「生活自遊人」という都市生活者のくらし方を提案する。「生活自遊人」とは、集団より、個の世界のマインドをもっている人のことである。生活領域が広く、頭だけでなく、実践をする。  これらの人々はシビアーで、買物もしろうとではない。モノを知っている。そういう人をターゲットにするためには、百貨店ではいけない。ロフトでは、「高度情報装備性」、「高密度・高集積」を売物にしている。商品絞りこみはしない。売場はいわばインデックスであり、主役は客、使い方はそれぞれである。  各階は、イチ(市)とクラ(蔵)から構成されている。市は中央にあって、市場感覚、エキサイティングでトレンディーである。蔵は壁際高くまであって、定番商品がきちっと揃えてある。たとえば、同じ茶碗を、すべてのサイズ揃えて、個に合ったものが選べる。  従来の売場分類では領域の間が抜けてしまい、不都合である。ロフトは、身体、空間、仕事、余暇というような分類とフロアーの設定をしている。  「身体」では、ヤングは朝シャワして身ぎれいでないと仲間扱いされない。そのための商品は、従来の化粧品、薬品などには分類しきれない。  「空間」では、住宅事情もあり、ヤングは収納にこっている。ポットも象印ではなく、そのままオープンに置かれ、デコールになるもの。これらは、インテリア、家具、家電などの分類では、分類しきれない。  「仕事」では、職場で用度品ではなく自分の気に入ったものを使っている。家事も、日用品、雑貨などの考え方ではなく、楽しめるものを求める。衣服をオープンにハンガーに吊しているが、そのカバーがよく売れる。そういうヤングが求めるものは、従来の分類では買うことができない。  「コミュニケーション」では、日々のギフトが大切。それも誕生日などではなく、普通に遊びに行くときの200円位のギフトである。これをイキに行うため、若者は商品選択、ラッピングなどで、勝負する。200円のものだろうが、彼らのチョイスは高額商品と同様に真剣なのである。  ロフト社員320名中、100名が「モノマスター」である。モノマスターは、社内外公募で選ばれている。たとえば、国鉄からの転職者が鉄道模型を担当している。彼の知識は尋常ではない。そのようなモノを使いこなせる人が、仕入れからすべてやる。  CIとしては、MONO−PRESSを発行。これで生活モチベーションをうまくとらえる。(本号は「新しくデビュー」)  雑誌での掲載には、提供主を入れてもらってどんどん商品提供する。ただし、イメージが落ちないよう、雑誌セレクトをする。  人件費が高く、棚揃えが悪いなどの問題はあるが、年間110億の売り上げがある。 東京都渋谷区 イチ(市)とクラ(蔵)によるモノの拠点  −西武ロフトがとらえた若者のニーズ− 22×21×2=924 924÷36=25