週刊教育資料 生涯学習ホットライン 東京都府中市 13万uまるごと博物館 ――市民意識を育む「郷土の森」―― 入口を入ってすぐの芝生広場は「ゆとり」にあふれていて、思わずポッとため息が出る。広い園内は市民の「憩いの場」そのものである。 昭和六十二年四月、多摩川のほとりに「総合博物館」としてオープンした、ここ「府中市郷土の森」の職員も、そう受けとめられることを歓迎しているようだ。「13万uまるごと博物館」というコピーも、職員が作った。確かに「ホッとため息を」ついた時こそ、歴史や文化を受け入れる用意が心の中にできるのかもしれない。 中枢施設として、延床面積七千uのりっぱな博物館本館が置かれ、その常設展示は、自然考古歴史・民俗の四分野にわたっている。また本館の中には、日本最大級のプラネタリウムもあり、全天周映画(アストロビジョン)ではスペースシャトルの打ち上げなどがマルチ音響で映し出される。 しかし、「郷土の森」はあくまでも園内が全体として博物館なのである。十三万uの敷地の中央に立川段丘崖(ハケ)を造成し、ハケ上に町場の民家を、ハケ下に水田農家を復元している。 園内一帯は、広場と滝・流れ・池・野外ステージなどが組み合わされた多目的ゾーンである。七、八人のテニスルックの主婦のグループが芝生で弁当を広げ、子どもを人工浅瀬で遊ばせながら、その横で父親がビールを飲んでくつろぐといった光景がみられる。缶ビールは園内の売店で売っている そして、たとえば梅園では琴、尺八の演奏会を開きながらの「梅まつり」(梅は市の花)が、水田では子どもたちの『コメッコクラブ」による米づくりが行われる。 このように、娯楽と個人学習と集会学習と集団学習が、「郷土の森」のあちこちで自由にのびのびと展開されている。 園内のほとんどの「展示」が、さわったりできる「体験型」である。旧町立尋常高等小学校の教室に入り、昔の木の机(生徒用)に向かって座ってみたが、府中に住んでいたわけではない私でさえ、なつかしい気持ちになった。 府中というベッドタウンに新しく転入した何人もの市民が、この「郷土の森」を訪れて、このようにして府中を好きになってしまうのだろう。(生涯学遊研究会 西村美東士)