タイトル 高齢者教育における学習課題をどのようにとらえればよいのですか? ジェネレーションとライフステージ  まず、成人一般の学習課題の把握が必要です。次に、高齢期特有の学習課題をとらえるためには、大きく二つの観点が考えられます。一つは、高齢者として同じ歴史的体験をしてきて、関心や考え方などに共通するものがあるというジェネレーション(世代)の観点、二つは、それぞれの高齢者が年をとること(加齢)によって受ける心身への影響に、共通するものがあるというライフステージ(発達段階)の観点です。  前者のジェネレーションの観点で言えば、戦前に青年期を過ごしてきた人間が現代を生きていく時の、苦悩、喜びなどを理解し、それを援助するとともに、現代社会が反省しなければいけないことを、今の社会の一員として有効に提起してもらうために必要な学習課題にも、目を配ることが大切です。  後者のライフステージの観点については、森幹郎氏の指摘が重要です。それは、老人問題を論ずる場合、暦年齢chronological agesではなく、社会年齢social ages や機能年齢functional ages でとらえることが必要だということです。そして、年をとり、かつ、労働を引退した人を、「社会年齢の上での老人」(ヤングオールド)、身体的、精神的、心理的に老衰し、かつ、日常生活行動の上で他人の介護を必要とするようになった人を、「機能年齢の上での老人」(オールドオールド)として、区別して考える必要があるというのです。 個人的課題と社会的課題  次に、高齢者教育における学習課題には、個人的な側面と社会的な側面とが考えられます。  「個人的課題」とは、「退職後の生活設計」「余暇活動」「老いの受容」「死の受容」などに関するものです。特に、「老い」や「死」を受容するか否定するか、あるいはその事実から逃避するかは、まったく個人の精神的内面に関わる問題です。しかし、あえてそれを「学習課題」としてとらえて、その学習を援助する手だてを探り出すことが、高齢者教育を行う者にあらためて求められているといえます。  「社会的課題」については、LESS DEPENDENCY EDUCATION =「できるだけ他人に負担をかけないための教育」(森氏)が、ポイントになります。その中味は、ヤングオールドに対しては、再就職教育、予防的健康教育、オールドオールドに対しては、リハビリテーション訓練などがあげられます。その他、核家族化が進行する今日、高齢者の知恵を活かし、また、他の若い世代と交流してもらうこと自体も、今日の高齢化社会において社会的意義をもつ学習課題といえます。 学習課題の実際の領域  稲生勁吾氏は、ハビガースト、エリクソン、ノールズの説や国立社会教育研修所の「成人の学習領域」の研究成果などを参考にしながら、次のように、高齢期の学習課題を整理しています。  「高齢期の理解」(老化と円熟の認識など)、「高齢期の過ごし方」(高齢期の生活設計など)、「家族とともに生きること」(家族関係など)、「社会とともに生きること」(地域社会についての理解など)、「高齢者に関する法律・制度」(老人福祉など)。  高齢者教育における学習課題をとらえるためには、先述のような基本的な観点がありますが、そのそれぞれがはっきりした境界線をもっているわけではありません。現に、稲生氏の整理した学習課題は、それぞれがいくつかの観点からの意義を同時に有しています。現実に学習課題を選択する場合は、複眼的視点が求められるわけです。 [参考]  (1) 岡本包治他編「社会教育の計画とプログラム」1987.1  (2) 森幹郎「高齢化社会における高齢者教育」、稲生勁吾「高齢者教育の内容」他  国立教育会館社会教育研修所『高齢者教育の目標と内容』1987.10