学習情報提供機能への注目  知恵くらべ生涯学習−生涯学習の現場から−  昭和音楽大学短期大学部助教授 西村美東士                 ニシムラ ミ ト シ 最近の答申や法に見る学習情報の重視  社会教育関係者の間で「学習情報提供」という言葉が、今日のようにしきりに使われるようになったのは、そんなに古い話ではない。また、文部省の補助金を受けて県の学習情報提供システムの整備が本格的に始まったのは、昭和62年度の群馬と兵庫が最初である。  ところが、今日では、中央教育審議会の答申が、生涯学習振興の課題として、まず第一に「学習情報を提供することや学習者の相談体制を整備すること」(平成2年1月「生涯学習の基盤整備について」)をあげ、平成2年7月に施行された「生涯学習振興法」(正式名称「生涯学習の振興のための施策の推進体制等の整備に関する法律」)が、「生涯学習の振興に資するための都道府県の事業」として、その第1項に「学校教育及び社会教育に係る学習並びに文化活動の機会に関する情報を収集し、整理し、及び提供すること」をあげるまでになっている。 学習情報提供の意義と内容  生涯学習の時代といわれる今日においては、社会教育行政に限らず他行政あるいは民間などにより、多様な学習機会がさまざまな形で提供されている。しかしこれらはあまりにも多種多様で広い範囲にわたるため、市民個人が学習機会に関する情報を統一的に把握することはかなり難しい。学習の施設や指導者、学習材などに関しても同様である。そのため、学習環境そのものは豊かであっても、その中から、市民が自己の必要とするものをうまく選び出すことができなくなっている。  こんなことでは、せっかく生涯学習の町づくりを「外側」からだけ進めても、一人ひとりの人間の「内側」としての学習にとってはあまり役に立たない。生涯学習情報をなるべくもれなくとらえ、それらをある程度整理してわかりやすく情報提供することが必要なのである。  学習情報提供の中で扱う情報とは、以上の趣旨からいえば、もっぱら「情報源情報」(学習の手段や方法に関する情報)であるということになる。これに対して、一般の「学習材」そのものは、「ファクトデータ」(学習されるべき内容としての情報)の一つということができる。生涯学習の観点などから、この2種類の「学習情報」のうち前者の方が、「(学習情報提供の中で)提供されるべき学習情報」であるとされる(平沢茂「学習情報とは何か」、『文部時報』昭和62年2月号)。 民間の自由な文化の力を取り込む  大阪のビジネス街の中心地、中之島のビルの5階にある「大阪府立文化情報センター」は、昭和56年に全国で初めて「文化」情報センターと銘うってオープンして以来、はばの広い学習情報を提供し続けている。その最大の特色は、民間の文化・学習情報をあえて扱うことにいちはやくふみきったことであろう。  そして、平成2年度の「概要」によると、「人が集まれば情報が集まり、情報が集まれば人が集まる」という考え方をセンターの事業推進の基本にすえているということである。  ホールやセミナー室の会場提供も行っているが、そこでは主催者が参加者から会費を徴収して催しものを行うことを認めている。  また、文化・学習にかかわるイベントなども開いているが、民間団体と共催してセミナーなどの事業を臨機応変にどんどん組んでいる。「概要」では次のように述べている。「府民からユニークな企画がもちこまれた場合、積極的に協力し、共催します。また、その事業のPRに努めるほか、施設の使用料を免除しています」。  このようにして、民間の自由な力を借りることによって、センターの事業の文化性は結果として高いものになっている。そして、それらの高度な文化の可能性を秘めた事業が、センターが収集する文化情報の質をも高めているのである。 学習情報の提供によって輪と話をめざす  和歌山県では、「学習情報提供システム整備事業」が平成元年度から始まっている。  パンフレットには、将来構想として「自分のまちの情報や意見などを画面に入れて情報交換ができます」とある。このように、このシステムでは、住民が直接、パソコンなどの画面から学習情報を得ることができるだけでなく、みずから情報を発信できる機能までもが構想されている。  たとえば、「電子掲示板」については「窓口の職員や一般利用者が自由に伝言や案内等を掲示(書き込み)することができる(市町村情報の提供も本機能により行う)」ということである。  これは、「情報の輪=人の輪」という考え方のもとに、住民のコミュニケーションを学習情報提供においても重視し、そのためにパソコン通信の「電子掲示板」や「電子メール」などの機能を有効に活用しながら「生涯学習の町づくり」をめざす動きとしてとらえることができる。 プライバシー保護の努力 「名古屋市学習情報提供システム」が、今年の1月からオープンした。中でも、スポーツ・レクリエーション情報については、14の体育施設のどの施設からも、電話でも、空き情報を知り、そのまま予約申込ができるようになっている。  現在、さらにデータの収集、入力などを進めているところであるが、とくに「講師(指導者)・グループ情報提供事業」については、「運営要綱」や「運用基準」を設けて、コンピュータ処理に関わる個人情報の保護の条例に沿って、慎重に取り扱っている。これは、講師やグループ代表者の同意を得て、収集・入力・更新するようにしたもので、その者からの申し出による削除などをはっきりと定めたものである。  このようなプライバシーの保護については、他の県・市町村でも、形は違っても同様の努力が見られる。情報提供側が、「本人を非難・中傷しているわけではないから」と勝手に判断して、勝手にその人のデータを入力し、提供することは許されないのである。 学習情報を映像化して提供する 「遠野物語ファンタジー」は、「民話のふるさと遠野」における市民の舞台である。スタッフ、キャストなど、すべて市民で構成され、その内容は、演劇に吹奏楽を組み込み、御詠歌でバレーを踊るなど、挑戦的である。昭和59年にはサントリー地域文化大賞を受賞している。  遠野市では、民話という「文化」が町づくりの核に据えられている。しかも、この舞台では、文化遺産としての民話が継承されつつも、市民の手で新しい文化として発展している。市民の手作りのものである。 「遠野物語ファンタジー」は、毎年、遠野市民センターで行われているが、センター内の社会教育課芸術振興係が、毎回、それを録画し、その一部をテレビで放映している。  このテレビの映像は、外見は「学習の内容としての情報」そのものであるが、実際には、同じ地域の「同時代」の市民が行う文化活動の実際の姿を、「直接、全体にわたって」ではなく、映像を通して「かいま見る」という意味で、「学習(文化活動)の案内をしてくれる情報」としてとらえることができる。  文化の、とくに現在創り出されつつある文化の情報の提供にあたっては、その生きている姿をなまなましく伝える映像を活用することのメリットは大きい。また、施設、人材などの一般の学習情報についても、今後は映像の活用を進めることが考えられるべきであろう。