文化映像の製作・保管・活用 中間報告 社会教育・社会教育施設・公民館各論A −学習(文化)情報提供における映像活用の課題−  生涯教育の時代といわれる今日においては、社会教育行政に限らず他行政あるいは民間などにより、多様な学習機会がさまざまな形で提供されている。しかしこれらはあまりにも多種多様で広い範囲にわたるため、市民個人が学習機会に関する情報を統一的に把握することは大変難しくなっている。それゆえ、豊富な学習機会の中から、市民が自己の必要とするものを的確かつ速やかに選び出すこともできなくなっている。学習機会のほか、学習施設や人材などはもちろん、文化映像などの生涯学習に関わる他の情報についても同じことがいえる。  こんなことでは、せっかくの「外側」の「学習社会」の実現も、一人一人の人間の「内側」としての学習にとってはあまり役に立たない。生涯学習情報をなるべくもれなくとらえ、それらをある程度整理してわかりやすく情報提供することが必要になる。  学習情報を提供する意義は、以上のようにまとめられるが、その趣旨からいえば、「学習情報提供」の中で扱う情報とは、もっぱら「学習案内情報」(学習の案内をしてくれる情報)であるということになる。これに対して、一般の「学習材」などは「百科全書的情報」(学習の内容としての情報)の一つということができる。たとえば、平沢茂は、前者を情報源情報、後者をファクトデータとも呼ばれる、として、生涯学習の観点等から、この2種類の「学習情報」のうち前者を、「(学習情報提供の中で)提供されるべき学習情報」と主張している(平沢茂「学習情報とは何か」、『文部時報』昭和62年2月号、文部省)。  このような趣旨からいっても、そこでの映像活用を考える場合、第一義的には、学習の機会、施設、人材などの「学習案内情報」を提供するにあたって、映像の利点を活かすという問題になるといえる。だが、種々の問題もあって、そのような学習情報提供に映像を活用している例は、今のところ存在しないようである。  しかし、「文化」の観点に立ち戻って考えてみても、「文化」をリアルに伝達するための一つの「手段」としての「映像」のもつメリットは、無視しえないわけであるから、「文化」を含む学習情報の提供に映像を有効活用することは、今後の重要な課題になるといえよう。その場合の映像は、いわば「学習案内情報」であるが、当然、それ自体もダイジェスト的な「文化映像」としての価値をもつことが期待される。  また、「文化映像」などのような「学習の内容としての情報」そのものの情報についても、学習情報提供をする具体的な機関・施設が、それをまったく持たずに「学習案内」だけをするということは、現実には考えられないばかりか、情報提供サービス全体の活力を失うことにもなりかねない。実際には、2種類の学習情報が、それぞれのケースによって、適宜、提供されることの方が、むしろ望ましいのである。  終わりに、学習(文化)情報提供における映像活用の課題を、直接ではないが象徴的に示唆する事例をあげて検討しておきたい。  「名古屋市学習情報提供システム」は、平成2年度末の情報提供開始に向けて、収集、データ入力などを進めているところであるが、そこでは、「講師(指導者)・グループ情報提供事業」の「運営要綱」「運用基準」を設けて、とくにコンピュータ処理に関わる個人情報の保護の条例に沿って、慎重に取り扱っている。これは、講師やグループ代表者の同意を得て、収集・入力・更新するようにしたもので、その者からの申し出による削除などをはっきりと定めたものである。他の県・市町村でも、形は違っても同様の努力が見られる。  著作権の問題もさることながら、本人などが「映像化」される場合には、プライバシーの保護についてもこのような配慮をする必要がある。  「遠野物語ファンタジー」は、「民話のふるさと遠野」における市民の舞台である。スタッフ、キャストなど、すべて市民で構成され、演劇に吹奏楽を組み込み、御詠歌でバレーを踊るなど、挑戦的な内容である。昭和59年にはサントリー地域文化大賞を受賞している。これは、毎年、遠野市民センターで行われ、センター内の社会教育課芸術振興係が録画し、テレビ放映をしている。  ここでは、民話という「文化」を町づくりの核に据えている点、しかもそれが市民の手作りのものであるという点で、注目すべきである。また、その際、文化遺産としての民話が継承されつつも、市民の手で新しい文化として変化している点にも、注意を傾ける必要がある。  そして、「遠野物語ファンタジー」のテレビ番組は、外見は「学習の内容としての情報」そのものであるが、じつは、同じ地域の「同時代」の市民が行う文化活動の実際の姿を「直接、全体にわたって」ではなく、映像を通して「かいま見る」という意味で「学習(文化活動)の案内をしてくれる情報」といえるのである。  文化の、とくに現在創り出されつつある文化の、「学習情報提供」にあたっては、その生きている姿をなまなましく伝える映像のメリットを大胆に活用すべきであるといえよう。