グループ・団体への援助形態  知恵くらべ生涯学習−生涯学習の現場から−  昭和音楽大学短期大学部助教授 西村美東士                 ニシムラ ミ ト シ メンバー個人の成長に注目する  青少年団体の全国的連絡組織である中央青少年団体連絡協議会によって設置された特別研究委員会は、昨年三月、提言「青少年団体活動は青少年の自己成長にどう関わるか」の中で「個の深み」という言葉を提起した。  提言では、「個の深み」を、個人が集団に埋没することなく一人ひとりがそれぞれの「方向性」をもつ「個人」として生きること、そして、固有の方向に向かって深く踏み入ること、あるいは踏み入ろうとすることとして定義した上で、青少年団体が今日の人々のニーズにこたえ、社会の新しい変化に対応するためには、「個の深み」の尊重を軸として、メンバー一人ひとりが自律的に成長できるような団体運営に転換することが必要、としている。  行政側が自らの行事の動員などの対象として団体をとらえていると、団体への援助も、つい、既成の大きな団体の維持・存続が目先の課題としてちらついてしまい、メンバー一人ひとりの成長にまでは関心が払われない結果になりがちである。しかし、いくつかの団体がメンバーの個性を大切にするネットワーク型の運営を取り入れようと努力している現在、行政、とくに生涯学習に関わる行政が、団体活動の中での個人の成長を十分意識した援助方策をとることは、大きな意味をもつ。 グループ学習の飛躍を誘う  東京都中野区では「講師派遣事業」を行っている。これは、「小さなサークルなどでは講師を呼びたくとも経費の点でなかなか呼べない」という実情に照らして、区の教育委員会が自主サークル・団体の学習活動に対して希望の講師を派遣するものである。  小グループによる学習の最も重要な意義は、メンバー同士が互いに教え合い、学び合う「共同学習」にあると考えられるが、その中で適宜、外部から専門の講師を招くことによって、日常の学習のいっそうの飛躍が期待できる。生涯学習関連行政は、自らが学習機会の提供を行うだけでなく、このような自主的なグループの学習の深化をも援助の視点に入れなければならない。 行政とグループに新しい風を吹かせる  東京都豊島区では「委嘱学級」の制度を設けている。これは、参加グループの創意工夫による多彩な学習企画や運営や参加者同士の相互学習などをねらって、学級の開設を区内の学習グループに委嘱するものである。平成二年度は、「世界に開かれた豊島区とするには、日本人である区民と外国人である区民とが、それぞれ文化・価値観を互いに尊重できるまちをつくっていくこと」という区の国際化に関する基本理念に沿って、課題を「国際化を考える」とし、広報で参加グループを募集して、七グループの参加を得ている。  このように内容を焦点化した上で、各グループの個性や特色を十分生かして学級を企画・運営してもらい、しかも、それを一般の住民との交流の契機とすることは、行政の行う事業にもグループの日常的土壌にも「新しい風」を吹かせることにつながる。 学習活動の多様性を受けとめる  和歌山県田辺市では「学習活動助成事業」を行っている。これは、グループの学習活動内容を「のびのび学習」「いきいき学習」「ふれあい学習」「さわやか学習」「がんばり学習」「ぬくもり学習」などに分類した上で、実際には市内ですでに活動しているさまざまなグループに、年間三万円の助成金を支出している。  たとえば、「青年がともに集い、語り合い、友情と連帯を強める中で、郷土発展の担い手となる意識を高める活動」が例に挙がっているが、これなどは、講座型の学習だけでは不十分であり、夜遅くまで飲んだり話したりする、まさに「ふれあい」の活動そのものが直接、効果を生むタイプの学習活動である。  田辺市の「学習活動助成事業」は、助成金の使い道についても「グループ・団体等で効果的な運用を図る」などとかなりゆるやかに定めており、現実のグループ学習の多様性に対応した援助になっている。 団体に地域で一役買ってもらう  兵庫県西宮市では県の補助金(半額)を受け、「ひょうごっ子きょうだいづくり事業」を行っている。これは、小中学生が自治会程度の小地域ごとに異年齢集団としての委員会をつくり、勤労・福祉活動などを実践するものである。その指導や協力のために、市は、現在では全地区(三六校区)の青少年愛護協議会に対してそれぞれ五十万円の事業費補助をしている。この協議会は、子ども会、自治会、老人会、婦人会、PTA、学校、青少年団体等の代表者で構成され、地域の「育成者組織」として機能している。  その他、県と市では、文部省の委嘱経費(青少年ふるさと学習特別推進事業)を受け、「町の冒険探検団」を実施している。市の「探検団」の本部は「西宮市子ども会協議会」に置かれ、二校区の子ども会が「探検団」となって町を探検し、「遊びマップ」の作成などを行っている。  また、同県芦屋市では文化・スポーツのグループや町内会、自治会などの代表者による運営委員会に「コミュニティ・スクール」(学校開放)の運営を任せたり、行政と団体で構成される「まつり協議会」によって春夏秋の三大まつりを企画・運営したりするなどの住民参加を進めている。  グループ・団体の現在の活動を援助することも重要だが、このようにそれらの団体がよりいっそう地域で役割を果たせるように行政からも働きかけ、そういう事業に対して援助することは、新しい「公私協働」の形といえる。 自主的な学習ネットワークのための援助を  最近は、しっかりした組織形態をもつ団体だけではなく、ゆるやかなつながりを持つ小さなグループの役割が注目されている。これらのグループの運営は、ネットワーク型ということができる。  このような活動を行政が援助しようとする場合、従来の団体援助のやり方は、当然見直されなければならない。基本的には、行政から団体に対して啓蒙的な立場から援助するのではなく、「公」と「私」がともに主体性を持って、一定の緊張関係を伴いながらも対等の立場で、それぞれの独自の役割を発揮すべきなのである。  そもそも、生涯学習の内容の幅広さと学習を行う個人の自由は最大限に保障される必要があり、行政が生涯学習の活動を行っているグループや団体を援助しようとする場合も、その団体の自主性を損なわないということが大前提である。しかし、今日の到達点は、行政が「助ける」または「お願いする」のどちらかに未だとどまっているといえる。したがって、ここに挙げた各地の事例も、理想の援助形態に至るための過渡的努力としてとらえるべきであろう。  たとえば、行政や公民館の行う学級・講座が終了すると、その後も学習を継続しようとして、「自主グループ」ができることがある。これ自体は歓迎すべきことなのだが、「自主グループ」側も行政側も、地域の他のグループよりもその「自主グループ」が優先的に援助されて当然という思い込みをもつ場合が見受けられる。これは、ネットワークの自主性の精神に反するのである。  このような反ネットワーク的な援助形態は、まっ先に改善されなければならない。そのためには、最初に述べたように、既存団体の維持・存続に執心するのではなく、個人の成長を大切にすることこそ教育行政独自の基本的な役割であるということを再認識する必要があるといえよう。