生涯学習のまちづくりにとって、学習情報提供と学習相談の体制づくりはどういう意義をもつのでしょうか。また、具体的には、どういう方法でそれを行っていけばよいのでしょうか。 昭和音楽大学短期大学部助教授  西村美東士 学習情報提供と相談体制の意義と具体的方法  生涯学習とまちづくりハンドブック              (第一法規) 学習情報提供の意義と内容  生涯学習の時代といわれる今日においては、社会教育行政に限らず他行政あるいは民間などにより、多様な学習機会がさまざまな形で提供されています。しかしこれらはあまりにも多種多様で広い範囲にわたるため、学習機会に関する情報を統一的に把握することは市民個人にとってはかなり難しいことだといえます。学習の施設や指導者、学習材などに関しても同様の状況です。  こんなことでは、せっかく生涯学習のまちづくりを「外側」からだけ進めても、一人ひとりの人間の「内側」としての学習にとってはあまり役に立たないということになります。ですから、生涯学習情報をなるべくもれなくとらえ、それらをある程度整理してわかりやすく情報提供することが必要なのです。  学習情報提供の中で扱う情報とは、以上の趣旨からいえば、もっぱら「学習案内情報」(学習の案内をしてくれる情報)であるということになります。これに対して、一般の「学習材」などは、「百科全書的情報」(学習の内容としての情報)の一つということができます。この2種類の「学習情報」のうち前者の方が、「(学習情報提供の中で)提供されるべき学習情報」であるとされています(平沢茂「学習情報とは何か」、『文部時報』昭和62年2月号)。 学習情報提供の具体的方法とネットワーク化  収集・整理した学習情報を実際に提供する場合には、利用する各種メディアの特性を活かした方法を考える必要があります。  広報紙やガイドブックなどの活字メディアによる場合は、その一覧性を活かして、関連情報も含めてわかりやすく提示することが大切です。電話や来訪などの口頭による場合は、対応する職員が学習者の一人ひとりのニーズに個別に応じ、最初はあいまいだったリクエストも対応の中で次第に明確化できるようにしなければいけません。  学習者が直接、コンピュータから学習情報を引き出せるようにする場合は、直接、コンピュータに命令を打ち込んで素早く検索できるようにする方法とともに、検索には時間がかかっても、慣れない人がゆっくり気軽に使うことのできるメニューからの検索の方法も、同時に整備する必要があります。また、コンピュータの最低限の取り扱い(コンピュータ・リテラシー)の習得の援助にも配慮すべきです。  これらの情報は、いつでも、どこでも、だれでも、そしてどんな学習情報でも、手に入れられることが理想です。そのためには、さまざまな機関・施設から、多様な種類の学習情報に自由にアクセスできるよう、セクショナリズムの枠を越えて、情報をネットワーク化する必要があります。 学習相談の意義と方法  人格の危機をもたらしている現代社会において、カウンセリングに期待が集まっています。しかし、本来、カウンセリングでいう「相談」とは個人の心理的・精神的問題の解決のための援助です。だとすれば、こと成人の学習については、このような「治療的な相談」が日常的に行われることは考えにくいといえましょう。  むしろ通常は、学習者は実際には学習情報を求めて来るだけだが、それに行政が応ずる過程の中で、相談の機能も自然に生まれると考えられます。ただし、このように「付随的に」発生した相談であっても、行政側は学習相談の本質をきちんと踏まえていなければならないのは当然です。たとえばそこで一番かんじんなことは、学習者が真に欲している学習のあり方と進め方について、上から教え諭すのではなく、学習者自らが気づき決定するように援助することです。  そして、学習相談体制を本格的に実施する場合には、個人個人のケースへのていねいな対応という「相談」の魅力的な意味を活かして、生涯学習の計画・実施・評価に至るまでの個人の自律的行為に、非指示的に「自然体」の姿勢でつき合うことが大切です。むしろ、学習環境への注文もどんどん言ってもらって、その改善のためにフィードバックできる成長する柔らかなシステムが、相談体制とその関連行政などに求められるのです。