日本教育年鑑1992「メディア利用学習」              昭和音楽大学 西村美東士 別紙 表1 学習・文化に関わる各省庁の情報・メディア政策  (去年の様式に合わせてこの原稿をもとに作表してください。) 表2 文京文学館の内容 表3 ハイパー・サイエンスキューブの内容 表4 岐阜県美術館ハイビジョンギャラリーのシステム構成 表5 町田市立国際版画美術館ハイビジョンギャラリー&ホールのシステム構成 「学習情報の基盤整備」 ●生涯学習と情報 《一次情報と二次情報》 ここでは、学習情報を一次情報と二次情報に分け、その両方を扱う。一次情報とは、学習者が直接そこから学習することをおもな目的とする学習情報である。一般の文献、映像、学習材、教材、ファクトデータなどがそれである。二次情報とは、一次情報に関する情報や、学習者が希望する学習活動を行うために必要な情報である。たとえば、どこでそういう学習が行われているか、どうしたらそういう学習ができるか、などを伝えてくれる情報である。 《学習情報のネットワーク化》 生涯学習の時代といわれる今日、社会教育行政に限らず他行政あるいは民間などにより、多様な学習活動が行われている。しかし、それらの発信する一次情報の中から求めるものを入手したり、二次情報を全体的に見通して把握したりすることは、市民個人の立場からは難しい場合がある。そこで、それらの学習情報をスムーズに流通させるための基盤の整備が必要になる。  この基盤整備の仕事の鍵になる言葉が「ネットワーク化」である。学習情報のネットワーク化とは、それぞれの情報や情報主体がもつ固有の価値を失うことなく、むしろそれを生かす方向で、情報主体の連携・協力を得て、ばらばらだった情報をシステム的に再構成することである。とくに、二次情報のネットワーク化については、学習情報提供システムにおいて取り組まれている。 ●学習・文化に関わる情報・メディア政策 文部省では、学習情報提供システム整備事業、新しい教育メディアの活用方策の検討、文教施設インテリジェント化パイロット・モデル研究、国立婦人教育会館WINET、通産省では、ニューメディア・コミュニティ構想、ハイビジョン・コミュニティ構想、郵政省では、テレトピア構想、ハイビジョン・シティ構想、放送ライブラリーの開設、自治省では、地域情報化の推進、地域衛星通信ネットワーク整備構想、地域情報ネットワーク整備構想、図書館情報ネットワークシステム、公共施設案内・予約システム−ハイビジョン・ミュージアム構想などが施策化されている。それらの概要と特徴は表1にまとめたとおりである。  また、表に上げたほかに、農業経営等の情報化を促すグリーントピア構想(農林)、アーバンフロンティアの創造を図る情報化未来都市構想(通産)、多極分散型の国土形成をめざすテレコムタウン構想(郵政)、高度な教育訓練についての地域間や企業間の格差の軽減を図る遠隔教育訓練システムの研究(労働)、都市を情報市場および情報活用の場として積極的に活用しようとするインテリジェント・シティ構想(建設)、国公有地の活用と情報機能等の導入を図る新都市拠点整備事業構想(建設)、自治体の役割を発揮する地域CATV事業(自治)、などが進められている。 ●生涯学習情報の全国的ネットワークの構想 《検討の経緯》 昭和六十・六一年度、文部省に設けられた「学習情報提供システムの整備に関する調査研究協力者会議」によって、昭和六二年七月に「生涯学習のための学習情報提供・相談体制の在り方」がまとめられた。平成元年度には「全国の生涯学習情報のシステム化に関する調査研究協力者会議」が同じく設けられた。この会議では、まず、システムについて検討する際の基本となるデータベース構築に関し、情報の分類と様式の標準化について検討を行い、同年一一月に「生涯学習情報の分類と様式の標準化について」のとりまとめを行った。  その後、社会の変化や人びとの日常生活圏の拡大、学習活動の広域化などにより、今後ますます拡大する学習ニーズに的確に対応するためには、より広域的、全国的な情報提供体制が重要となってくるという観点から、各都道府県で整備されるシステムの広域的な相互利用のあり方について検討する一方、あわせてこれらのサービスを全国的・総合的に支援するため、全国的レベルで共通に利用できるデータベースの構築や具体的な支援機能のあり方等についても検討を行い、平成三年八月に「生涯学習情報の都道府県域を越えた提供の在り方について」のとりまとめを行った。 《都道府県域を越えて生涯学習情報を提供する必要性》 とりまとめでは、次の5点を挙げている。  @情報量及び情報範囲を拡大し、提供される情報への信頼を高め、利用の促進を図るため、A豊富で多様な情報を提供することで、人びとの学習活動の活性化を図るため、B都道府県レベルにおけるデータベースの効率的な構築を進めるため、C都道府県レベルのシステムの普及促進に資するため、D情報提供の改善、新たな学習機会等の企画に資するため。 《全国センターの設置》 国、都道府県、民間において収集、提供される学習情報を、人びとが地域的制約を受けることなく適切に利用できるようにするためには、全国的な規模で情報の有効な利用を支援するための仕組み、全国的情報システムが必要であり、その中核的な役割を担う全国の生涯学習情報のセンター機能を整備することが最も効果的、ととりまとめでは述べられている。そして、このセンターは次のような機能をもつものと考えられている。  @全国的情報システムの整備と運用、A全国的情報の収集とそのデータベース化、Bデータベースのカタログの構築、C情報提供・相談担当者の研修、D新たな情報提供の方法についての調査研究、E情報提供に関する意見等についての調査。  情報には、もともと境界を越えるボーダーレスな傾向が強いが、以上のような構想はそれに対する積極的な取り組みとして評価されよう。               (西村美東士) 《参考文献》 1 西村美東士「学習情報提供事業の企画と展開」『生涯学習か・く・ろ・ん』学文社、一九九一年 2 自治大臣官房情報管理官室『地域情報化読本−地域情報化の考え方、進め方−』ぎょうせい、一九九二年 表1 学習・文化に関わる各省庁の情報・メディア政策 学習情報提供システム整備事業 文部省  87年度、群馬県、兵庫県に対して補助が開始された。国は県に対して定額を補助。県と市町村が連携して、コンピュータ等の活用によって、学習機会、施設、団体・グループ、指導者、学習教材、各種資格、学習プログラム等の学習情報提供と相談を行っている。  この補助事業のほかに、東京都の行うトミンズや市町村などでの独自の取り組みも盛んになりつつある。なお、91年度から、県立図書館を中心とした図書情報ネットワークの事業についても補助を開始している。 福島、千葉、奈良、石川が加わり、計17県に  個人への学習援助として重要、第一線の市町村職員の積極的協力が必要 新しい教育メディアの活用方策の検討 文部省  87年4月、社会教育審議会教育メディア分科会から「生涯学習とニューメディア」が出された。91年度、生涯学習審議会社会教育分科審議会教育メディア部会から、「新しい教育メディアを活用した視聴覚教育の展開について」という報告が出された。  マルチメディアやハイビジョンなどの新しい教育メディアが高機能で多様な教育・学習への応用性を持つものとして注目されるなどの理由から、その教育利用の可能性や活用のあり方などについて整理している。 92年3月30日、報告  人材育成体制の充実や全国的教育映像メディアのデータベース構築 文教施設インテリジェント化パイロット・モデル研究 文部省  88年7月に発足した「文教施設のインテリジェント化に関する調査研究協力者会議」が、90年3月、「文教施設のインテリジェント化について−21世紀に向けた新たな学習環境の創造−」をまとめ、その後、90年度から文部省が自治体にパイロット・モデル研究を委託している。  91年度の研究委託は、地域学習環境総合整備計画(新発田市)、特色ある文教施設複合型整備計画(鯖江市)、特色ある文教施設個別整備計画(埼玉県、具志川市)の3種類、4件である。 左記の1県3市にパイロット・モデル研究を委託  学校や生涯学習センター・施設を地域に開かれた情報拠点にする試み 国立婦人教育会館WINET 文部省  91年7月から、国立婦人教育会館でオンライン情報検索サービスが開始された。各地の婦人会館や教育委員会、首長部局の婦人問題担当室、生涯学習センター等の社会教育施設、大学図書館等を電話回線で接続し、女性・家族に関する全国的ネットワークを形成しようとするもの。  従来から蓄積されていた資料を、図書資料、地方行政資料、和雑誌記事、新聞記事インデックスの4つにデータベース化して提供している。また、利用の便宜のために、個別の依頼に応じた研修なども実施している。 初年度末(92年3月)で接続機関数は 117  女性・家族に関する学習情報データベースへの今後の発展が期待される ニューメディア・コミュニティ構想 通産省  83年、通産省の地域情報化施策として打ち出された。地域の産業だけでなく、社会や生活の各分野のニーズに即応した情報システムを構築。先端技術産業型、流通型、中小企業型のほか、保健・医療・福祉型、行政情報型、リゾート型などのさまざまなタイプがある。  鹿屋市では87年度に健康増進データベースを構築し鹿屋ネットを開局していたが、91年度には生涯設計情報データバンク(KIND)サービスも開始し、パソコン通信による市民ベースの盛り上りを見せている。 21のモデル地域と60の応用発展地域に、応用発展地域4地域追加  モノだけでなく地域の人々の学習・健康・生きがいなどの志向を反映 ハイビジョン・コミュニティ構想 通産省  89年度、開始。「次世代映像メディアであるハイビジョン」を用いて地域住民サービスの充実、地域産業の活性化を図る予定の自治体を指定し、その事業を行う者に対して財政投融資等の政策的な支援を講じている。  89年に指定された島根県仁摩町では、シルバーランド計画の実現に向けて、砂博物館にハイビジョン等の導入によるリアルな体験スペースを構築し、砂に関する初歩から専門までの学習・研究の場としている。 90年度までの20自治体に加えて、9自治体を指定  ハイビジョン普及支援センターにおいて、映像教育や博物館も研究中 テレトピア構想 郵政省  83年、「未来型コミュニケーション・モデル都市構想」のもと、日常的な情報交流を中心とした生活レベルでの情報圏の構築をめざして打ち出された。コミュニティタウン型、観光・レクリエーション型などのタイプがあり、教育・文化・カルチャー・図書館情報システムを含む。  CATVやローカルビデオテックスなどのニューメディアをモデル都市に導入し、地域が抱える問題点や、家庭、経済および地域社会に及ぼす影響などを実体験を通じて把握しようとしている。 85年3月の第1次テレトピア指定以降、指定地域は累積で102  生活情報圏への注目、多彩なタイプとシステム ハイビジョン・シティ構想 郵政省  88年度、開始。ハイビジョンを都市空間に導入して、活気と潤いにあふれた先進都市を構築することをめざしている。国は、支援措置を講ずるとともに、システムの導入、利用方法、ソフト供給、ネットワーク化などのあり方について調査研究を行っている。  91年度は、モデル都市のうち、厚木市七沢自然教室、大垣市スイトピアセンター図書館、名古屋市科学館、京都市社会教育総合センター、松江市生涯学習センター、佐賀市文化会館などでシステムが導入された。 88年度のモデル都市の指定以降、累積で24地域、25都市を指定  関連メーカーや団体でハイビジョン推進協議会を設置し普及促進活動中 放送ライブラリーの開設 郵政省  88年から「放送ライブラリーに関する調査研究会」を設置していた。その報告のもとに指定を受けた「放送番組センター」が、91年10月、横浜市みなとみらい21地区に放送ライブラリーを開設した。ここでは、放送番組の収集、保管、公衆への視聴サービスなどを行っている。  放送番組は、日々の現実の社会、人々の生活、風俗を反映した記録であり、映像による生きた社会史、生活史を検証する国民的財産である、との認識から、放送番組の価値の大きさに注目したものである。 89年度の放送法改正や予算措置の上で、初めて指定法人を指定  インナーライブラリーと異なる公共的ライブラリーとしての独自の役割 地域情報化の推進 自治省  90年1月、「地方公共団体における地域の情報化の推進に関する指針」を提示。この指針は、地域情報化計画の策定、地域情報通信基盤施設の整備、地域情報通信システムの開発、推進体制と人づくりの4本柱からなっている。  国の他省庁の地域指定やモデル事業についても、これを自治体の自主的な事業としてとらえ、地域情報化事業を総合的に推進していこうとしている。 とくに市町村の地域情報化計画策定の取り組みを推進中  縦に下りてくる国の他の施策をつなぎ、地域の包括的な情報化を推進 地域衛星通信ネットワーク整備構想 自治省  89年、自治体衛星通信活用検討会で検討。90年2月、自治体衛星通信機構、設立。現在の地上系無線による防災行政無線の機能を拡充し、回線数不足や回線品質の悪さを抜本的に改善するとともに、防災情報の画像伝送を行うことが目的。  全国の自治体の共同事業として実施することにより経済性や全国ネットワークの可能性を高めるとともに、「地域映像情報発信事業」で、観光、芸能などの地域情報を全国に向けて発信することもめざしている。 91年12月、運用開始  防災無線中心だが、研修・イベントなどの映像の地域からの発信も可能 地域情報ネットワーク整備構想 自治省  90年度から、個別事業ごとに自治体と共同で情報通信システム開発のあり方について検討。具体的には、地域カードシステム、図書館情報ネットワークシステム、公共施設案内・予約システムがある。91年6月に「コミュニティ・ネットワーク構想推進要綱」を各自治体に提示。  最近の情報化のポイントがコンピュータと通信との結合にあることを考慮し、情報通信システムの開発に関連する事業を実施するために必要な手順を明らかにしようとしている。 91年8月、合計16地方自治体を指定  自治体によるそれぞれの事情に即したシステム開発 図書館情報ネットワークシステム 自治省  90年度から検討を開始。複数の図書館をコンピュータと通信回線を利用してネットワーク化することによって、身近な場所で、全国の図書館の図書の検索、予約、借り受け、返却などができる図書のサービス供給体制を整備することが目的。91年度、5団体が概要設計に入った。  書誌データベースの標準化、業務運営方法の統一、コンピュータ異機種間接続の方法を検討し、並行して自治体間の重層的な図書館情報ネットワークの形成をめざしている。 91年10月5地方自治体を指定  複数の自治体にわたる統合のメリット(互換性)と問題(独自性など) 公共施設案内・予約システム 自治省  90年度から検討を開始。自治体が、公共施設、制度、行事、人材バンクなどに関する諸情報を、全庁的に一元化するデータベースを形成するとともに、ニーズに応じて各種メディアを通じて住民に提供する。いつでも、どこからでも、案内、予約ができることが目的。  各施設の事務手続の統一化、施設相互の協力関係の確立、コンピュータ異機種間接続の方法を検討し、並行して民間施設もシステムに取り入れつつ、広域的なネットワーク化をめざしている。 検討中  公共施設等の一元的管理のメリット(便宜性)と問題(各施設の個性など) ハイビジョン・ミュージアム構想 自治省  90年度から検討を開始。全国の美術館に収蔵されている絵画などの美術品をハイビジョン静止画像としてデータベース化し、これを全国の公共施設などのハイビジョンを通じて広く地域住民に提供することによって、全国各地で一流の美術映像を鑑賞する機会とすることが目的。  従来のテレビに比べてはるかに鮮明できめ細かな画像を提供することができるようになる。また、既存の美術館活動を補完するとともに、地方における美術鑑賞機会の拡大を図ることが可能になる。 91年4月、「ハイビジョン・ミュージアム推進協議会」設立  地方の美術館でも本当の絵に近いものを提供可能、課題はソフトの充実 注1 数字は91年度  注2 文章の表現は、筆者による。とくに「意義・課題」の項は、筆者が各施策を生涯学習の観点から位置づけたものである。 「ニューメディアの学習利用」 ●生涯学習とメディア利用 《情報処理の中の学習》 人々の学習には、必ずなんらかの情報が関わっている。人間の認識は、頭の中だけでの純粋な思索活動だけで発達するのではない。情報を収集し整理するという「外在的作業」によって、大いに育まれる。また、必要な情報を受け入れ、それを自己の思考のなかで加工し、新たな情報を生み出すことは、自己の認知の枠組を変えることでもあり、学習の過程そのものであるともいえる。  一方、人々の学習を援助するという観点からも、情報は重要である。学ぶ対象としての情報(教材など)や、その情報についての情報、その情報を得る機会や方法についての情報などを整備し、学習者の多様なニーズにこたえる情報環境をつくることが生涯学習行政にとって重要な課題になる。  このように学習にとって重要な意味をもつ情報を運ぶメディアの役割については、当然同様に重視されなければならない。しかし、その場合でも、情報の収集から発信にいたる作業には、その個人の認識を育てるすべての作用が内包されていることを考えれば、情報処理やメディア利用への学習者の主体的な関与、すなわち「参加」が大切であるといえる。  コンピュータやニューメディアに関しても、機器を使用しているか否かという外面的なことではなく、それが学習者個人のニーズにマッチしているのか、さらには、それぞれの人がより主体的に学習やメディア利用に取り組むために役立っているのか、という深い視点が必要である。 《メディア・リテラシーの修得》 リテラシーとは「読み書きの能力」という意味であるが、最近のメディアの発展やニューメディアの誕生の中で、人々は好むと好まざるとにかかわらず活字媒体以外のメディアにも直面するようになり、その活用の能力が重要になってきている。この能力をメディア・リテラシーと呼ぶ。  生涯学習援助の観点からは、まず、情報化の「光と影」のうちの「影」の部分が注目される。そこからは、メディアといっそううまくつき合えるようになるための教育サービスとともに、情報化が人間に与えるマイナスの影響を克服するための人々の主体的な営みへの援助も重視される。後者のように批判的にメディアと接することのできる主体性も、今日求められているメディア・リテラシーの一つなのである。  さらにつきつめて考えると、個人が情報を必要と感じるのは、当人なりの課題意識があるからなのだが、その課題意識そのものが空洞化しているという現代社会の人間の非主体的状況が浮かび上がる。しかし、その根本からメディア・リテラシーを構築するためにも、やはり、情報・メディアサービスから始めるほかはない。 ●新しい教育メディアの活用 《関連する報告の経緯》 昭和六二年四月、社会教育審議会教育メディア分科会が、「生涯学習とニューメディア」で、生涯学習を支援するためのメディア利用の可能性などについてとりまとめた。平成二年六月、社会教育審議会社会教育施設分科会が、「博物館の整備・運営の在り方について」で、新しいメディアを活用した展示の工夫やハイビジョンギャラリーの整備について提言した。平成三年六月、生涯学習審議会社会教育分科審議会施設部会が、「公民館の整備・運営の在り方について」で、マルチメディアやハイビジョンの学習活動への活用を提言した。  以上の経緯のうえで、平成四年三月、生涯学習審議会社会教育分科審議会教育メディア部会が、「新しい教育メディアを活用した視聴覚教育の展開について」の報告を行っている。この報告は、マルチメディアやハイビジョンなどの新しい教育メディアが、従来の教育メディアよりさらに高機能で多様な教育・学習への応用性を持つものとして注目されるなどの理由から、これらの新しいメディアの教育利用の可能性や活用のあり方などについて整理し、学校教育及び社会教育の場における教育・学習方法の改善等を図ることを目的としてとりまとめられたものである。 《教育の今日的課題と新しい教育メディア活用の意義》 報告では、教育メディアに関わる教育の今日的課題として、生涯学習の推進、自己教育力の育成、学習の多様化・個別化、社会の情報化への対応を挙げている。また、新しい教育メディア活用の意義としては、生涯学習の場の拡大、教育・学習方法の改善・充実、学習に関する情報の提供、視聴覚教育の現代化・一般化を挙げている。  なお、生涯学習の場の拡大に関しては、学習時間や学習場所の制約を克服する有効な手段としての教育メディアの可能性とともに、主体的な個別学習を援助することのできるマルチメディアや、精細な画面で学習資料を提示することのできるハイビジョンなどの可能性が示されている。以下、報告からその概要を紹介する。 《マルチメディアの教育利用》 マルチメディアの教育的特性としては、@映画やスライドなどの既存の映像資料が活用できるとともに、視聴覚教育で培った知識・技術等が活かせるなど、従来の教育メディアの特性を吸収した形の発展が期待できる、A多様なメディアを総合的に関係づけて利用できることから、これらの情報に個人が直接働きかけ、自分たちの手でもう一度内容を検証して問題を発見したり、付加的な学習情報を得ること等により、学習者の主体的な学習(個に応じた学習)が可能である、Bマウスやタッチパネルのほか、音声認識やペン入力など簡便に操作できるシステムが開発され、幼児や児童でも容易にコンピュータに慣れ親しむことが期待できる、Cビデオ、写真などを使用することで、自作の視聴覚教材を活用したマルチメディア教材の作成が可能になり、学習者のねらいに即した教材化が容易になる、D現在、通信衛星や高速通信網の整備が進み、画質や音質の劣化がない高品質の映像情報を双方向でやりとりする遠隔教育も可能となってきており、これらとマルチメディアを組み合せて人びとの学習機会の拡大を図ることが可能である、の5点が挙げられている。  考えられる活用分野としては、@多様な映像資料の蓄積と対話式情報検索機能を利用した情報活用能力の育成、A映像資料の多様な編集機能を利用した自作教材の開発、B電子メディアによる映像資料等と検索機能を利用した教材の提示・演示、C映像と音声による説明機能と多様な検索機能を利用した各種博物館などでの資料提示や作品案内、D映像、音声、データベース機能などを有機的に結びつけ多様な場面を造り出す機能を利用した仮想的な各種博物館の構築、E映像と音声による提示機能、学習者の音声記録・再生機能等を利用した学習、F映像と文字による説明とコンピュータプログラムによる画面選択などの多様な機能等を利用した情報提供、G映像等の入力機能と編集・表示機能を利用した教材提示、の8点が挙げられている。  利用に当たっての留意事項としては、マルチメディアは高度な仮想的現実をつくることもできるが、それが間接的体験であることに配慮し、実体験と合わせて完結する学習分野もあることに留意すること、映画、写真、放送、音楽など他人の著作物を取り込む場合には著作権等に、教材の開発等に当たってはプライバシー及び肖像権の保護に留意すること、などが示されている。 《ハイビジョンの教育利用》 ハイビジョンの教育的特性としては、@従来のテレビと比較して、音質が良く、高精細度の画質であり、これまで以上の臨場感や現実感の高い視聴体験が期待できる、A大画面でも高精細度の性能が発揮され、視野の拡大をもたらし、質の高い学習情報を提供できる、Bコンピュータの情報と親和性があり、コンピュータと組み合せて利用する学習が可能である、の3点が挙げられている。  考えられる活用分野としては、@迫力ある実写やリアルなシミュレーションを活かした鑑賞用ソフト、A各種博物館等での資料紹介、付加価値情報の提供や静止画データベース、B衛星を利用したテレビ会議等や双方向の遠隔教育の手段、C大画面によるハイビジョンシアター、Dハイビジョン技術を駆使した映像制作、E電子出版やビデオ出版、の6点にわたって、その利用の可能性が述べられている。  利用に当たっての留意事項としては、情報化の影の部分への配慮が必要であることなど、マルチメディアの場合と同様に考えられるとされている。 《視聴覚教育の展開方策》 新しい教育メディアを活用した視聴覚教育の展開方策については、@人材育成体制等の充実、Aマルチメディア教材等の開発促進と連携協力、B視聴覚センター・ライブラリーの機能整備の促進、C全国的教育映像メディアのセンター機能の必要性についての検討、D一元的な著作権処理システムの検討、の5点が挙げられている。  そこでは、たとえば、@については、マルチメディア教材の制作に携わる人材育成を図るための、映像に関する教育を中核とした大学・大学院等における関連コースの充実、Cについては、全国的映像メディアのデータベースの構築、Dについては、国と関係団体等による共同の検討などが提起されており、注目に値する。 ●マルチメディアの活用事例 報告では、マルチメディアおよびハイビジョンの活用について次の4つの事例が資料として収録されている。 《文京文学館》 夏目漱石や森鴎外が居住した観潮楼を中心とした明治の文豪の足跡をたどった「文京ゆかりの文人たち−観潮楼をめぐって−」(岩波映画、三八分、一九八八年教育映画祭優秀映像教材選奨最優秀賞)を利用し、その映像をレーザーディスク(三十分)に収め、さらに、映画に関連した資料や朗読音声などをコンピュータソフトに収めている。(表2) 《ハイパー・サイエンスキューブ》 岩波映画の「力の平行四辺形」、「風に向かって走るヨット」、共立映画の「川の流れと進む舟」に盛り込まれた4つの実験映像のほか、日常の物理現象・自然現象を集めたビデオ映像集をレーザーディスクに収め、さらに、映像に関連した資料情報などをコンピュータソフトに収めている。学習者はマウスを操作し、「講義」「問題集」「ライブラリー」「ツールボックス」の4つの内容を使って、映画とテキスト解説による講義を受けたり、謎とき形式で疑問を解決したり、理解度を試す問題集で画面と対話しながら解答したり、疑問点が生じたときや関連事項などを知りたいときに、もっと詳しい内容や必要な資料を取り出すなど、レーザーディスクからの映像とコンピュータからの関連資料情報を同時に画面に取り出すことができる。(表3) ●ハイビジョンの活用事例 《岐阜県美術館》 @入館者が好みや目的に応じて随時、作品を見ることができる、A美術品についての学習効果が高まる、B作品や作家についてのデータ提供ができる、などをねらいとしてハイビジョンギャラリーを設置している。三十五本の番組を少人数から多人数まで3室のギャラリーで見ることができ、また、収蔵作品のうち一、一〇〇点について約五十項目からなる作品ごとの情報を検索できるデータベースを有している。(表4) 《町田市立国際版画美術館》 収蔵作品は一万点を越えており、とくに版画は他の美術作品より光に弱く、そのため作品保護や展示スペースの関係から、ごく一部が展示され、ほとんどの作品が収蔵庫に保管されている。これらの作品により多く触れる機会をつくるため、ハイビジョン映像を利用し、いつでも気楽に見ることができ、展示と保管を両立させながら常設展示を保管できることなどをねらいとしてハイビジョンギャラリー&ホールを設置している。館蔵作品の中から、作家別、テーマ別などによって構成された五、六分の番組を三十二番組製作しており、入館者が見たい番組を自由に選択して見ることができる。(表5) ●視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準 《改訂の経緯》 従前のカリキュラムは、社会教育審議会教育放送分科会が、昭和四八年三月に「視聴覚教育研修カリキュラム標準案について(建議)」をまとめ、これを受けて文部省が社会教育局長通知「視聴覚教育研修の改善充実について」(文社視第七八号、昭和四八年四月)によって、「視聴覚教育研修カリキュラムの標準」として定めたものであった。しかし、「その後、教育メディア環境は大きく変化した。従前のカリキュラムが掲げている機材の中には、教育現場への普及が高まらず、その利用の度合いもかなり低くなっているものがある一方、機材としてあげられていない新しいメディアが急速に導入され、その活用方法の研修が緊急の課題となっているものもある」(平成四年三月「視聴覚教育メディア研修手引書企画編」より)との認識のもとに、生涯学習局長通知「視聴覚教育メディア研修の改善充実について」(文生学第一〇二号、平成四年三月)によって、新たに「視聴覚教育メディア研修カリキュラムの標準」が定められた。 《主な改正の内容》 @コンピュータ等の新しい機器の動向をも含む幅広い研修とするため「視聴覚教育研修」を「視聴覚教育メディア研修」という名称に改めた、A教育メディアの知識と操作技術のレベルによって初級・中級・上級に分けていたものを、「教育の場で直接応用する立場の者」(研修カリキュラムT)と「地域の視聴覚教育を推進し、指導する者」(研修カリキュラムU)をそれぞれ対象とする2つのコースに改めた、B市町村は前者、都道府県・指定都市は主として後者、国は後者のコースの研修を行うこととした、C研修事項にコンピュータ、通信システム、データベースなどの新たな教育メディアを含めることとした、D教育メディアの技術動向に対応できるよう、各コースに「総論」の講義を設け、この中で、教育メディアの最新動向や教育メディア活用の教育的意義などについて研修できるようにした、E弾力的な運用ができるよう、研修時間等をカリキュラムの標準から外した、の7点が挙げられている。 《コンピュータに関する研修事項》 カリキュラムTでは、知識としては、コンピュータの教育利用、基本機能、周辺装置の機能、ソフトウェアの役割、プログラム言語の基礎知識、データベースの機能と利用などが、活用としては、コンピュータの基本操作、ソフトウェアの実行(ワープロ、データベース、表計算、グラフィック、学習ソフトの利用)、学習指導へのコンピュータ利用計画の作成、パソコン通信の機能と利用などが示されている。  カリキュラムUでは、基礎コースとしては、OSとアプリケーションソフト、簡易言語によるプログラミング、オーサリングシステムシステム等による教材作成、ワープロ、表計算、グラフィックソフト等による課題演習などが、専門コースとしては、コンピュータ研修の企画、ソフトウェアの開発などが示されている。また、通信システム、データベースのほか、CAI教材や統合型教育メディアに関する研修なども他の「総論」や「教育メディア各論」などの中に組み込まれて示されている。               (西村美東士) 《参考文献》 1 西村美東士「情報の主体的な受信・発信をめざして」『生涯学習か・く・ろ・ん』学文社、一九九一年