地域の指導組織とどう連携・協力したらよいか Q9 地域には、少年スポーツクラブなどの多くの指導組織があります。子ども会活動が 盛んな地域もあります。学校週五日制との関連で、このような地域の指導組織とど う連携・協力していったらよいか、その具体的なあり方を示してください。    教育開発研究所『小学校教育』「子どもの成長を支える教育環境の課題」    昭和音楽大学短期大学部助教授 西村美東士 1 指導性の過少と過剰      子どもたちのための地域の指導     組織を、社会教育の分野では「少     年団体活動」と呼ぶことが多い。     少年団体活動のもつ教育力につい     ては、@体験のもつ教育力、A参 画のもつ教育力、B地域活動のもつ教育力、 C 仲間集団や異年齢集団のもつ教育力、 などを挙げることができる(拙著『生涯学 習か・く・ろ・ん』学文社)。  しかし、その組織で発揮される大人の指 導性については、「過少」と「過剰」の問 題が指摘される。田中治彦によれば次のと おりである(『学校外教育論』学陽書房)。  たとえば、年に一〜二回の行事を行なう だけであったり、大人がすべて手配してし まって子どもはたんなる「お客さん」にな ってしまったりしている子ども会がある。 これらは、指導の欠如、または指導法の貧 困の問題である。一方、チームが強くなる ことや試合に勝つことを目的化してしまい、 その結果として、過酷な練習を強いたり、 レギュラーでない子どもに劣等感を植えつ けたり、身体を壊したり、というようなス ポーツクラブもある。これらは、指導の過 剰の問題である。  小学校側としては、地域の指導組織の現 状に失望するのでも、幻想を抱くのでもな く、地域での子どもの成長をともに援助す る立場から、能動的かつ建設的に連携・協 力を進めることが望まれる。 2 啓発・融合・浸透  全国組織を有して活動を展開している主 要青少年団体の連絡調整機関として、社団 法人中央青少年団体連絡協議会(略称、中 青連)が設立されているが、その特別研究 委員会の提言『青少年団体と学校教育との 連携を深める』(昭和六〇年3月)による と、学校教育と団体活動の連携の進め方に ついて、「啓発型」「融合型」「浸透型」 の三つのタイプが挙げられている。  「啓発型」とは、団体指導者と学校教師 が連携に関する学習を深め、相互の理解・ 協力の促進を図ることをねらいとしたもの で、具体的には、青少年の育成指導に関す る相互の補完的役割について、団体指導者 と学校教師との相互の啓発、研究・調査等 を促進するなどの活動が考えられる。  「融合型」とは、団体活動と学校教育活 動とが、いわば一体的に展開され、双方の 教育機能の相乗効果を高めることをねらい としたもので、具体的には、学校が青少年 施設を利用して集団宿泊指導などを行う場 合、団体が求めに応じて学校に協力して行 うなどの活動が考えられる。  「浸透型」とは、団体、学校双方の教育 機能を反映しあいながら、児童の日常生活、 学校生活に好ましい影響を及ぼすことをね らいとしたもので、具体的には、学校が指 導方針を立てて児童の団体活動への参加を 奨励し、また、団体は、積極的に児童の団 体活動を拡充し、その地域参加を促進する などの活動が考えられる。  華々しい「学社一体型のイベント」だけ が学社連携の姿ではない。地域の指導組織 との連携・協力の基本は、このような通常 の教育活動の中にこそあるのだといえる。 3 学校週五日制における親や大人たちの  主体性の獲得への援助を  中青連の特別研究委員会は、平成二年度 に「学校週五日制時代に向けて豊かな人間 交流を−時間・空間・仲間を生かす青少年 団体活動−」を提言した。そのキーコンセ プトは、「地域子育てネットワークづくり」 である。  その前年の提言では、委員会は、「根本 的には、集団の存続より『個の深み』の発 揮が大切」と主張していたが、この「個の 深み」の現代社会の疎外状況の中で、学校 週五日制は、もっと親たちや地域の大人た ちの主体性の獲得に向けられるべきだと考 えられる。いま大切なことは、学校週五日 制の本格実施を前にして、学校依存症など の「病」を抱えている親たちも、子どもと いっしょに時間と空間をわかち合うことに よって、子育ての力をはじめとする大人自 身の主体性を回復することなのではないか (拙著『こ・こ・ろ生涯学習』学文社)。  学校側としても、土曜日の子どもたちの 「受け皿」を血眼になって探すことに終始 するのではなく、地域住民とともに育つ成 人教育の視点から、「地域子育てネットワ ークづくり」における教育機関としての専 門的役割を果たすことが期待される。 キーワード(20字×9行×2段) 「地域の指導組織」  田中治彦は、前掲『学校外教育論』で「遊 びを中心とした子どもたちの自発的な集団と は別に、大人たちによるなんらかの指導が加 わった少年少女活動」を3つに分類して論じ ている。その第1は、「スポーツ少年団、ボ ーイスカウトなどの目的が明確な少年団体」 (目的少年団体)、第2は、「地域性を基盤 として子どもたちを組織している子ども会な どの地域団体」(地域少年団体)、第3は、 「子ども文庫、親子劇場、大学の児童文化部 の活動などの子どもの文化活動」である。  より具体的に中青連の会員団体の中から少 年少女団体を挙げると、ボーイスカウト日本 連盟、ガールスカウト日本連盟、日本海洋少 年団連盟、青少年赤十字、全日本鼓笛バンド 連盟、日本スポーツ少年団、全国子ども会連 合会などがある。 ロングバージョン 1 指導性の過少と過剰  子どもたちのための地域の指導組織は、社会教育の分野では「少年団体活動」と呼ぶことが多い。少年団体活動のもつ教育力については、 @ 体験のもつ教育力 A 参画のもつ教育力 B 地域活動のもつ教育力 C 仲間集団や異年齢集団のもつ教育力 などを挙げることができる(拙著『生涯学習か・く・ろ・ん』学文社)。  しかし、そこで発揮されている大人の指導性については、「過少」と「過剰」の問題が指摘されている。田中治彦によれば次のとおりである(『学校外教育論』学陽書房)。  たとえば、地域子ども会によく見られる現象として、年に一〜二回の行事を行なうだけであったり、大人がすべて手配してしまって子どもはたんなる「お客さん」になってしまったりしている子ども会がある。また、キャンプなどで次々とプログラムを展開し、それに振り回されて指導者も子どもも疲れてしまうなどのケースも見られる。これらは、指導の欠如、または指導法の貧困の問題として理解される。  一方、スポーツクラブによく見られる現象として、チームが強くなることや試合に勝つことを目的化してしまい、その結果として、過酷な練習を強いたり、レギュラーでない子どもに劣等感を植えつけたり、身体を壊したり、というようなことが起こる。これらは、指導の過剰として理解される。  このようなことから、小学校側としては、地域の指導組織の現状に失望するのでも、幻想を抱くのでもなく、地域での子どもの成長をともに援助する立場から、主体的かつ建設的に連携・協力を深めることが望まれているといえる。 2 啓発・融合・浸透  全国組織を有して活動を展開している主要青少年団体の連絡調整機関として、社団法人中央青少年団体連絡協議会(略称、中青連)が設立されているが、その特別研究委員会の提言『青少年団体と学校教育との連携を深める』(昭和六〇年3月)によると、学校教育と団体活動の連携の進め方について、「啓発型」「融合型」「浸透型」の三つのタイプが挙げられている。  「啓発型」とは、団体指導者と学校教師が連携に関する学習を深め、相互の理解・協力の促進を図ることをねらいとしたもので、具体的には、青少年の育成指導に関する相互の補完的役割について、団体指導者と学校教師との相互の啓発、研究・調査等を促進するなどの活動が考えられる。  「融合型」とは、団体活動と学校教育活動とが、いわば一体的に展開され、双方の教育機能の相乗効果を高めることをねらいとしたもので、具体的には、学校が青少年施設を利用して集団宿泊指導などを行う場合、団体が求めに応じて学校に協力して行うなどの活動が考えられる。  「浸透型」とは、団体、学校双方の教育機能を反映しあいながら、児童の日常生活、学校生活に好ましい影響を及ぼすことをねらいとしたもので、具体的には、学校が指導方針を立てて児童の団体活動への参加を奨励し、また、団体は、積極的に児童の団体活動を拡充し、その地域参加を促進するなどの活動が考えられる。  このようなことから、何も華々しい「学社一体型のイベント」だけが学社連携の姿ではない、ということを私たちは確認しておく必要があるといえるだろう。むしろ、地域の指導組織との連携・協力の基本的な姿は、通常の教育活動の中にこそあるといえる。 3 学校週五日制における親や大人たちの主体性の獲得への援助を  中青連の特別研究委員会は、平成二年度に「学校週五日制時代に向けて豊かな人間交流を−時間・空間・仲間を生かす青少年団体活動−」を提言した。そのキーコンセプトは、「地域子育てネットワークづくり」である。私もこの提言に起草委員長として関わる機会を与えられたのだが、そこでの問題意識の根底にあるものは、土曜日の子どもたちを学校が面倒を見なくなるのならば今度は社会教育(少年団体活動)だ、という安易な受け皿論を克服して、人びとがもっと主体的に生きる土曜日を創り出せないだろうか、ということであった。  その前の年の提言では、私たちは、個人が集団に埋没することなく、それぞれの方向性をもつ個人として生き、固有の方向に向かって深く踏み入ったり踏み入ろうとしたりして、自らの所属する集団に対しても独自の役割を個性的に発揮することを「個の深み」としてとらえ、「根本的には、集団の存続より個人の存在が、そして個の深みの発揮が大切」と主張した。この「個の深み」の現代社会の疎外状況の中で、学校週五日制は、もっと親たちや地域の大人たちの主体性の獲得に向けられるべきだというのが私の考え方である。いま大切なことは、学校週五日制の本格実施を前にして、子育てに関する学校依存などの「病」を抱えている私たち大人でも、子どもといっしょに時間と空間をわかち合うことによって子どもの「個の深み」と接し、子育ての力をはじめとする大人自身の生きる主体性を回復することなのではないか(参考文献、拙著『こ・こ・ろ生涯学習』学文社)。  小学校側としても、土曜日の子どもたちの「受け皿」を血眼になって探すことに終始するのではなく、地域住民とともに育つ成人教育の視点から、「地域子育てネットワークづくり」における教育機関としての専門的役割を果たしてもらいたいものである。