現代学校教育大事典 社会教育主事(補) [職務]社会教育主事は、都道府県及び市町村の教育委員会の事務局に置かれ(社会教育法第9条の2)、社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える(同法第9条の3)。ただし、命令及び監督をしてはならないことになっている(同)。 [経緯]社会教育法制定の2年後の1951(昭和51)年に法に追加される形で新設された。当初は都道府県だけが義務設置だったが、1959(昭和34)年の法改正において市町村も義務設置となった。ただし、経過規定として、人口1万人未満の町村については設置が猶予されている。 [資格]社会教育主事となる資格を有するためには次の四つの方法がある(同法第9条の4)。@大学等に2年以上在学して62単位以上を修得し、3年以上社会教育に関係のある職に就き、社会教育主事講習を修了する。A教育職員の普通免許状を有し、5年以上教育に関する職に就き、社会教育主事講習を修了する。B大学に2年以上在学して62単位以上を修得し、大学において社会教育に関する科目の単位を修得する。この場合は、1年以上社会教育主事補となることを要する。C社会教育主事講習を修了し、社会教育に関する専門的事項について上記の者に相当する教養と経験があることが都道府県の教育委員会によって認定される。  なお、ここで、大学とは短大を含む。また、社会教育に関係のある職には、地方公共団体の教育委員会における社会教育に関する事務のほか、社会福祉主事、改良普及員、そして、市町村規模以上の社会教育関係団体の規約に掲げる役員の職などが含まれる。教育に関する職には、学校の教員及び事務職員の職のほか、少年院、教護院において教育を担当する者や、保育所の保母の職などが含まれる(ともに昭和34年文部省告示第53号及び昭和35年文社社第71号社会教育局長通知)。  以上の規定は、社会教育主事の高い専門性を確保しようとするものである。さらに、臨時教育審議会は、広く民間からも人材を求めるなど、広域的な視点から優秀な人材を確保するための措置を一層拡充するよう求めた(第2次答申)。 [社会教育主事の専門性]社会教育行政が一般行政から区別される重要な要素の一つは、実体的には専門職員、とくにその代表格である社会教育主事の存在であるといえる。学校教育であれば教員という専門職員が置かれているわけだが、社会教育主事はそれに対応する。あるいは、教育公務員特例法で専門的教育職員として指導主事と社会教育主事が併記されていることから、指導主事の専門性と同列であるとも考えられる。  ところが、学校教育では、教員は児童・生徒の教育をつかさどると規定されているのに対して(学校教育法第28条)、社会教育では、行政は「すべての国民があらゆる機会、あらゆる場所を利用して、自ら実際生活に即する文化的教養を高め得るような環境を醸成するように」(社会教育法第3条)努めるのであって、社会教育主事は国民の教育を直接つかさどる立場にはない。そこに社会教育主事の専門性を考えるにあたっての複雑さがある。  しかし、市町村の社会教育主事を、住民の自発的な学習を助成し、その地域における社会教育活動を推進するための実際的な世話役としてとらえ、都道府県の社会教育主事を、全県的な立場からの社会教育行政の推進や市町村教育委員会に対して助言・指導をする者としてとらえるならば(1971(昭和46)年社会教育審議会答申「急激な社会構造の変化に対処する社会教育のあり方について」)、その専門的力量を高めることこそが、結果的には住民自らが行う学習を促進することにつながると考えられる。  社会教育主事の専門性の内実については、しばしば3P論、4P論と呼ばれる議論がなされている。いずれもPで始まるプランナー、プログラマー、プロデューサー、プロモーターとしての資質・能力が必要だというのである。  また、最近の到達点としては、1986(昭和61年)10月の社会教育審議会成人教育分科会の報告「社会教育主事の養成について」が挙げられる。そこでは、学習課題の把握と企画立案の能力、コミュニケーションの能力、組織化援助の能力、調整者としての能力、そして、幅広い視野と探求心が社会教育主事に求められる、とされている。 [社会教育主事補]任意設置で置かれ、社会教育主事の職務を助ける。最近、教職経験者だけではなく、大卒者(大学において社会教育に関する科目の単位を修得した者)の採用が少しずつ増えているが、この場合は社会教育主事になるためには1年以上社会教育主事補として勤めなければならない。ただし、実際の職務は、社会教育主事と明確な区分はなく、むしろ、係長になるべき年数を勤めた時点で社会教育主事とするなどの給与上の位置づけとして2つを区分している自治体もある。しかし、法的には、社会教育主事補は専門的教育職員には位置づけられていない。 [派遣社会教育主事制度]1974(昭和49)年度から開始された。都道府県が社会教育主事を市町村に派遣する際に負担する給与費の半額以内を、国が「社会教育指導体制整備事業交付金」として補助している。派遣された社会教育主事は、派遣先市町村の職員(社会教育主事)の身分を併せ有し、専ら当該市町村の社会教育行政に関する事務に従事することになる。分限及び懲戒は県教育委員会が行うが、服務上の監督は市町村教育委員会が行う。1975(昭和50)年度からスポーツ担当の社会教育主事(スポーツ主事)の派遣も開始された。  もちろん、市町村の社会教育主事は市町村が独自に設置すべきであり、派遣社会教育主事制度はこれを奨励するためのものである。そのため、派遣社会教育主事制度が社会教育主事未設置の市町村の肩代りにならないよう、既に設置されている市町村への派遣を原則としている。ただし、未設置市町村の解消のため、派遣期間中に独自の社会教育主事を設置するならば派遣するという方針がとられている。  派遣にあたっては、市町村における社会教育指導体制の整備を図るために計画的なローテーションを組むようにされている。そのことによって、社会教育指導体制を広く整備するとともに、派遣された社会教育主事が専門性を高めることができるよう配慮されている。また、教員の派遣も多く、結果として、学社連携の促進にも貢献しているといえる。 [最近のその他の動向]学校教員と社会教育主事との人事交流については従来から盛んであり、それは両者の専門性を互いに生かすという意味では学社連携を促進する積極面も持っているが、処遇上の格差や現実の社会教育行政に教員の識見を生かすことの難しさなどの問題も抱えている。  最近では、社会教育主事資格を学校教員が取得して、本人はその後も教員として勤めたまま社会教育主事の発令も受けるという自治体が出てきている(仙台市など)。これなどは、社会教育主事の制度を活用した新しい学社連携の形といえる。  また、前述の報告「社会教育主事の養成について」では、民間の教育・文化・スポーツ事業や企業内教育等の学習関連部門においても、社会教育主事と同様な資質・能力を持って学習事業の企画・立案・実施に当たる人材が必要になっている、として、大学における社会教育主事養成コースにおいて民間への人材育成をも図り、そのコースの履修者が自己の適性に応じて、行政部門のほかに、そのような民間の機関・部門にも進路を選択できるようにすることを提言している。  社会教育主事の資格を持つ人が、行政に置かれる社会教育主事としてだけではなく、広く生涯学習関連事業に携わるようになる可能性もある。 〈西村美東士〉 社会教育主事講習 [法的根拠]社会教育法第9条の5に、社会教育主事の講習は文部大臣の委嘱を受けた大学その他の教育機関が行う、とあり、それを受けて、社会教育主事講習等規程(1951(昭和26)年文部省令第12号)で、講習の科目等が定められている。 [経緯]社会教育主事制度を新設した1951(昭和51)年に、同時に法に盛り込まれた。ねらいは、社会教育主事の養成とそれによる自治体への社会教育主事の迅速な配置である。  大学のほかの「その他の教育機関」については、1959(昭和34)年の法改正において追加され、実際には1972(昭和47)年度から国立社会教育研修所でも講習が始まった。  1986(昭和61年)10月に、社会教育審議会成人教育分科会の報告「社会教育主事の養成について」が出され、翌年2月に社会教育主事講習等規程が改正されて、講習で修得すべき科目が大きく変わった。 [受講資格]社会教育主事講習を受けることができる者は、次の五つのうちのいずれかに該当するものである(同規程第2条)。@大学等に2年以上在学して62単位以上を修得した者。A教育職員の普通免許状を有する者。B4年以上社会教育に関係のある職にあった者。C6年以上教育に関する職にあった者。D上記の者に相当するものとして文部大臣の認める者。  なお、ここで、大学とは短大を含む。また、Dに該当する者は、高卒以上で、8年以上社会教育関係団体の会長、副会長の職であった者(都道府県規模の団体の場合は事務局長等を含む)などである(昭和35年文社社第71号社会教育局長通知)。 [科目とその事項]講習で修得すべき科目は、それまでは、社会教育概論、社会教育史、社会教育行政、青少年教育、成人教育、体育及びレクリエーション、社会教育演習、社会教育特殊講義などとなっていたが、規程の改正によって、社会教育の基礎(社会教育概論)、社会教育計画、社会教育演習、社会教育特講の4科目に組み変えられた。  社会教育の基礎としては、社会教育の意義、生涯教育と社会教育、社会教育と学校教育、社会教育と社会教育行政、一般行政と社会教育行政、社会教育の内容・方法・形態・学習者、社会教育指導者の各事項が挙げられている。  社会教育計画としては、地域社会と社会教育、社会教育調査とデータの活用、社会教育事業計画、社会教育の対象の理解と組織化、学習情報提供と学習相談、社会教育と広報・広聴、社会教育施設の経営、社会教育の評価の各事項が挙げられている。  社会教育特講としては、国際化、高齢化、情報化、家庭教育、青少年問題、婦人問題、環境問題、同和問題、社会福祉などと社会教育(の関連)、社会教育行政、視聴覚教育、学校開放、ボランティア活動、社会体育、健康教育、消費者教育、文化財の保護、企業内教育・職業訓練、民間の教育・学習機関の各事項が挙げられ、そこから選択して行うことになっている。  科目とその内容については最善の組み合せがなされているとは必ずしもいえないが、各科目の単位数との調整の面からやむを得ない点もあったのであろう。それよりも、むしろそれぞれの事項に注目すべきである。前述報告では、社会教育が当面する課題を様々な角度から解明し得るように総合的な編成をするとともに、実践的な能力の養成を図るため、演習・実習や実地調査等をできるだけ取り入れることなどを提言しているが、その考え方が各事項や講習全体の学習方法に反映しているのである。 〈西村美東士〉 青年海外派遣事業 [経緯]1959(昭和34)年度、皇太子殿下(現在の天皇陛下)の御成婚を記念して、青年海外派遣事業が開始された。1981(昭和56)年度からは、派遣先を開発途上国に絞り、各班1ヶ国を3週間程度、訪問するようになって現在に至っている。このほか、1967(昭和42)年度からは青年の船、1974(昭和49)年度からは東南アジア青年の船、1979(昭和54)年度からは日本・中国青年親善交流、1987(昭和62)年度からは日本・韓国青年親善交流、1988(昭和63)年度からは、明治百年記念事業として、青年の船を発展的に改組して世界各国の青年も乗船するようになった世界青年の船などの事業が行われている。 [派遣と招へい]上に掲げた事業は総務庁の青少年国際交流事業として行われているが、同庁ではほかに1962(昭和37)年度から外国青年招へい、1985(昭和60)年度から国際青年の村などの事業を行い、外国の青年を招へいして日本の青年との交流を図っている。また、上の青年の船や親善交流の事業においても、外国青年の招へいを行っている。 [他省庁等の事業]外務省では、指導的地位に就くであろう有為な青年を対象にした青年日本研修、所管の特殊法人国際協力事業団(JICA)の実施による地方におけるホームステイプログラムを含めた21世紀のための友情計画の招へい事業を行っている。文部省では、全国的な組織をもつ青少年団体による派遣・招へいの事業に対して補助金を交付しており、それらの団体が実施する国際交流事業も盛んである。その他、青年技能労働者や農村青少年などの国際交流事業が関係省庁・機関によって実施されている。また、自治体による青年の船、青年の翼などの事業も各地で行われている。 [事後活動]総務庁の各事業に参加した青年たちが「日本青年国際交流機構」を自主的に組織するなど、それぞれの事業を契機にさまざまな事後活動が行われている。事業で得た経験が将来にわたって本当に生かされるためには、これらの活動が重要であり、地域の関係諸機関においても彼らがボランティアとして活躍できる場を提供するなどの配慮が求められる。 〈西村美東士〉 長寿学園  1989(平成元)年度に開始された。国がこの事業を開設する都道府県に対して定額補助を行う。この事業は、多様化、高度化する高齢者の学習要求に対応して、幅広い分野と高度で専門的な内容をもつ講座を開設するとともに、修了者を地域活動等の指導者として積極的に活用することをねらったものである。  長寿学園は単位制をとり、1単位の授業時間は15時間を標準としている。課程には、基礎課程と専門課程がある。基礎課程では、高齢者が生きがいをもって生活する上で必要な生活・健康に関する共通科目と、地域の指導者として必要な基礎的教養を養うための基礎科目が開設される。専門課程では、地域活動の指導者として基本的に必要とされる資質を身につける内容の共通科目と、専門性を高める内容の専門科目が開設される。その他、研究科、通信制コースの開設や、特別講座、クラブ活動、学生相談事業などが行われる。  単位の授与については、長寿学園が直接開講するもののほか、地域の大学、民間教育事業、放送大学、市町村の学級・講座、職業訓練校、農業大学校等における学習なども課程として指定する。学習場所についても、生涯学習センター等のほか、同様の広がりをもたせることとなっている。また、指導者の資格取得者を専門分野に従い人材バンクに登録するなどして、広く周知、派遣するとともに、活動の場の開発に当たっては、教育委員会、首長部局、学校、社会教育施設、社会福祉施設、民間教育事業、企業等の地域の関係機関と積極的に連携・協力し、これらの機関が実施する事業に学園修了者や指導者の資格取得者を派遣しようとしている。  このように長寿学園は、高齢者の学習の特性を考慮しつつ、関連諸機関の連携の上で、広く地域にその知恵や経験を生かしてもらうことによって、生きがい対策の充実とふるさとづくりの推進を行おうとするものである。 〈西村美東士〉