徳島大学大学開放実践センター紀要  第13巻(2002) 青少年施設の居場所機能 −90年代の青少年問題関連文献の分析から− 西 村 美東士 "IBASYO" Function of Youth Institutions: From Analyses of 90s' Documents on Youth Issue Mitoshi Nishimura 1 文献全体から見た居場所の動向 2 青少年施設における居場所づくりへの関与 3 国際化への対応−日常的機能の必要性 4 結語−青少年施設に居場所機能を 1 文献全体から見た居場所の動向  私は1989年度から総務庁青少年対策本部『青少年問題に関する文献集』の「社会」と「文化」の分野の文献の要旨を作成してきた(「学校」は含まない)。その1990年から2000年までの発行の文献(総数2530件,2000年は3月まで)1)の題名や要旨に「居場所」という言葉を含むものの割合は図1のとおりである。本図より97年から増加したことがわかる。それまでは0か,多くて2,3件であったのが,その年は8件に上った。96年までの該当文献の特徴は,地域に子どもの居場所が必要であるとする論調のほか,不登校児を対象とした居場所づくりの実践(秋田県)などが挙げられる。  97年には,中・高校生建設委員会の基本設計による東京都杉並区児童青少年センター『ゆう杉並』が開館し,彼らの地域での居場所が目指された。  98年4月,内閣総理大臣の下,関係審議会の代表者等の有識者から成る「次代を担う青少年について考える有識者会議」が「学校外での青少年の居場所づくり」を提言した。そこでは,「適切な指導者等の下に,子どもたちの主体性を重視した子どもにとって魅力ある活動を行うこと」等が挙げられている。  99年3月,兵庫県社会教育委員の会議審議報告「子どもたちに生きる力を育む社会教育の推進−心の教育の充実に向けて」では,「神戸市須磨区の事件以来,『心の教育』の一層の充実を図ることの大切さを改めて認識」し,青少年の健全な育成を図るための学校外活動の展開方策のなかで,青少年の心の居場所の重要性に注目した。同年10月には,東京都社会教育委員の会議が「中・高校生の自立性・自発性を育てるためには,青少年が気軽に立ち寄り,若者文化の発信や受信ができる居場所をつくることや,中・高校生世代が主体的に参画できる機会を設けることが必要」とした。その後,翌年にかけて,川崎市青少年問題協議会,愛知県青少年問題協議会,茨城県青少年問題協議会,東京都青少年問題協議会が,「居場所づくり」が必要であるとした。  繰り返し起こる青少年問題のなかで,青少年施策は,居場所づくりの対象として子どもだけでなく若者をも含め込み,なおかつ,「居場所が大切である」という客観的認識から「居場所をつくる」という能動的行為に進みつつあるといえる。  このような段階においては,次の点が問題になるだろう。前出「有識者会議」のいった指導者による「指導」と,青少年の「主体性」と,青少年自身がそこに「魅力」を感じることの3つを両立させることは,いかにしたら可能なのか。 2 青少年施設における居場所づくりへの関与  本研究では,上記全文献の中から青少年教育施設に関する文献を抽出し,キーワード分析などの検討を加えた。また,1990年から2000年3月発行分までの全文献と比較検討した。スポーツ施設,私立施設,児童相談所等福祉施設は除いた。施設所管の事業は含めたが,他部署主催のたんなる施設提供だけの関わりについては除いた。年毎の文献数を表1に示す。 表1 研究対象文献数 年 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 計 対 11 9 18 16 24 47 55 72 75 57 56 440 全 102 168 178 172 213 221 255 287 335 364 235 2530 % 10.8% 5.4% 10.1% 9.3% 11.3% 21.3% 21.6% 25.1% 22.4% 15.7% 23.8%  ※1 対=研究対象文献数,全=全文献数。  ※2 2000年は3月まで(以下同じ)。  440件の文献のうち,要旨に「居場所」という語を含む文献数は8件(1.8%)であった。全文献では43件(1.7%)であり,比率はさほど変わらなかった。8件のうち6件が公立施設に関わるものであり,「公立優位」といえる。  該当文献における「居場所」のとらえ方を資料1に示した。 資料1 「居場所」のとらえ方 1997/伊藤学(公立施設職員)/社会教育の青年対象事業に参加してくる若者は,初めから学習に付随する人との出会いや語らいを求めて来る場合が多い。また,不登校や引きこもりの若者が,公教育から離れて学習する民間施設も注目されている。つまり,現代社会において心を癒したい,という欲求は当然のことであり,またそれが学習の目的になる場合も少なくない,ということを教育者は無視できなくなっている。 1997/国立大洲青年の家/青年の家の『変革・創造』を求めて,今日的課題に適切かつ弾力的に対応するため,『不登校児童生徒対応事業』を大洲市,大洲市教育委員会,学校教育関係者,他の教育関係機関と連携し,本事業として推進している。体験をとおして,不登校児童生徒に,@生産の喜びや,親子及び仲間とのふれあいを体感させる,A自発性や積極性,協調性を高め,自立を促し集団生活への適応能力の向上を図る,B自己の存在感を実感させ,精神的に安心できる場所(心の居場所)の提供を行うこと,を目的としている。 1998/国立オリンピック記念青少年総合センター(飯田稔寄稿)/登校拒否の初期の段階では,何とか学校に復帰させようとする親や学校関係者の願望が強く,このことが登校拒否を長期化,複雑化させる原因になっている。また,長期化した場合は,学校復帰とは別の解決手法を見出すこともある。キャンプ療法の目的は,「心の居場所」を確保し,社会で生きていくのに必要な社会性を身につけることであり,学校復帰は,その副産物としてとらえるのが妥当ではないか。 1998/久田邦明/青少年の居場所の確保のために@首長をはじめとする行政の責任者が,住民に向けて,若い世代のための施策の必要を繰り返し提起すること。A若い世代への支援には,とりわけ熱心な職員や,有能な職員を想定するのでなく,どのような職員にも可能な基準を設けて対応の方法や技術を工夫すること。B熱心な職員や,有能な職員の活躍を妨げないよう,他の職員がそれぞれ可能な範囲で彼らの活動を支える仕組みをつくること。 1998/戸澤正行/センター職員で構成される「児童館の建設・運営の在り方」検討会が設置された。その報告の中で「中・高校生の居場所づくり」や「中・高校生の活動への支援」など中・高校生への取り組みが打ち出された。中・高校生には,やりたいことを見つけ,そのやりたいことを共感できる仲間と一緒に実現できる,こうした施設がせめて各市町村に一つは必要なのではないか。 1998/東京都青年の家/青年の家再編整備計画が平成10年度から実施に移される中で,これまでの青年の家の実績をふまえながらも,現代青少年にとって魅力的な居場所や拠点づくりを具体的に検討していく必要がある。そこで,まず,現在の青年の家の施設機能をソフト面から歴史的に振り返り,これまでの青年のニーズの変化とそれへの対応や,利用団体の変化と支援方法の推移を検証した。つぎに,これからの青年のニーズの行方と必要となる新たな施設・機能を模索し,その具体化に向けた事例を紹介した。 2000/松木要詩子他/「居心地のよい場所」が地域において自宅以外にほとんどない現在の中高生にとって,彼らが公共施設に求める条件の多くを備えており,中高生の身近な居場所として機能していることが明らかとなった。 2000/鈴木雄司/思春期の子どもたちの地域での居場所になっている。彼らはゆっくりとしたくつろぎを満喫する。学校に行っていない子も何人か姿をみせる。職員やスタッフとのおしゃべり,たわいのないやり取りが心をなごましている。目的を持った子は,自分にあった活動を選択している。利用する彼等と職員・スタッフの関係のあり方も新しい問題提起をしている。現在,否定的な行為が目立つ中・高校生において,この実践が一つの解決策を提示することができるかもしれない。  この資料から,次のようにキーワードを抽出した。出現順とし,重複は省いた。  出会い/語らい/不登校/引きこもり/癒し/自己の存在感/安心/社会性/学校復帰は副産物/若い世代のための施策/支援職員/職員の活動を支える仕組み/やりたいことを見つける/共感できる仲間と一緒に実現/ソフト面からの施設機能/ニーズの変化と対応/居心地のよい場所/自宅/思春期/ゆっくり/くつろぎ/職員やスタッフとのおしゃべり/たわいのないやり取り/自分にあった活動を選択/否定的な行為が目立つ中・高校生。  国立施設の該当文献の少なさは,上記キーワードに示された居場所という日常的な性格に対する,非日常としての宿泊型,自然体験活動型の施設の疎遠を表しているといえよう。しかし,現代青少年の価値観に対応した経営のためには,再検討を要する課題と考える。 3 国際化への対応−日常的機能の必要性 表2 「国際」の文献数 年 全文献 % 公立 % 国立 % 1990 16 15.7% 1 11.1% 2 28.6% 1991 40 23.8% 0 0.0% 0 0.0% 1992 53 29.8% 2 14.3% 4 33.3% 1993 45 26.2% 0 0.0% 1 8.3% 1994 51 23.9% 0 0.0% 2 12.5% 1995 58 26.2% 1 2.4% 6 18.2% 1996 68 26.7% 2 4.2% 7 15.9% 1997 67 23.3% 3 4.7% 8 14.0% 1998 68 20.3% 3 4.5% 9 15.8% 1999 70 19.2% 1 2.0% 6 14.3% 2000 38 16.2% 0 0.0% 5 13.5% 計 574 22.7% 13 10.9% 50 15.6%  次に,日常としてとらえられる「居場所」と対比するため,さしあたりは非日常としてとらえられるであろう「国際」について文献の動向を分析した。  題名・要旨に「国際」という語を含む文献数を調べ,その結果を表2に示した。「非日常施設」としての性格の強い国立が公立よりヒット数が優っているとはいえ,その国立でも施設以外を含む全文献におけるヒット数より劣っていることが指摘できる。  該当する63件のキーワードを集計したところ,下記表3のように交流35,理解21,地域5,環境4,留学4,アジア2の結果を得た。 表3 「国際」のキーワード分析 ○国立施設 ●公立施設 年 「国際」に関する記述 件 1990 ○地球環境に関する国際的な会議●交流活動研修会○地域の交流への積極的な貢献 3 1992 ●国際感覚の豊かさ○理解・交流○理解,交流●理解・交流に関する事業については,住民の組織づくり,公民館等における学級開設,外国青年に魅力的なプログラムの開発,語学ボランティアの養成○国際善隣学院長○国際善隣学院長 6 1993 ○交流事業 1 1994 ○国際理解教育資料情報センター所長○青少年教育施設における交流事業の概要 2 1995 ○交流事業○在日外国人との宿泊体験活動を通した理解○環境や国際問題(理解や親睦)を郷土とからめ●アジア・ネットワークフォーラム○国際的視野から学習する機会を青少年教育関係者に提供することを目的とした「青少年教育シンポジウム」○都道府県教育委員会がおこなった交流事業○青少年団体等が平成5年度中に実施した交流事業の実態把握 7 1996 ●平和を基調に多様な交流を進め,地域の国際化を主導する世界に開かれたまちづくり○交流○急激な国際化,高齢化,情報化○交流事業○青年交流の集いユースインゆふいん−ワインと音楽の夕べ○マレイシアの青少年センター○「青少年教育シンポジウム」の記録○交流館の完成に伴い創設されたボランティア●東京都青年の家における理解推進事業 9 1997 ●情報化・国際化に対応したインフラ整備○国際的視野から総合的に学習する機会を提供することを趣旨に「青少年教育シンポジウム」を開催○理解・交流○インターナショナルファミリーフェスティバル−阿蘇につどうファミリー○正義感や思いやり,創造性,国際感覚を育むことを重点○子どもの城国際交流部長○異なる文化・社会・生活・価値観等を尊重し合う交流活動,地域の伝統行事への参加によって理解を深め合う活動●青年の家理解推進事業の10年●世代間・国際間の交流ができるところ○留学生と日本人青年が身近な問題について話し合い,異文化理解を促進○国際化の進展に伴って,海外における青少年教育に関する最新の情報の提供 11 1998 ○交流・理解○理解が深められる○国際交流協会○国際化に対応する活動(交流,理解,環境問題,異地域)●ふれあい館等の協力のもと,理解や交流が図られるような事業や平和・人権教育○交流への取り組みと職員の関わり●理解,ボランティア●交流,地域活動の拠点としての機能○国際自然大学校校長○ボランティア活動をとおした国際交流は「Learning by Caring(助けあいのなかで学ぶ)」○外国人留学生と日本人青年等が1泊2日で集い,生活文化等に関する身近なテーマについてのディスカッションや交流・交歓活動を行い,各回の文化の違いを発見し,相互の理解を深め○ドイツ青少年国際交流協会 12 1999 ○交流関係団体○交流関係団体等○アジアの青少年や青年達との交流を通じて,日本との友好関係を促進することを目的○国際自然大学校校長○自然体験活動も,集団宿泊活動だけでなく,理解,環境教育,ボランティア活動などと関連付けながら,学校の校庭や神社,公園等など,身近な場所で実施●交流関係○世界青年交流イベント 7 2000 ○相互連帯意識を高め,郷土愛,祖国愛及び理解の精神を培う○青少年の海外生活,交流事業,留学,姉妹校,日本語学習,国際化に関する意識○理解のプログラムとしての「World Youth Club in 磐梯」では,外国の青年も日本の青年も区別なく青年に共通するテーマについて語り合い○日独大学生セミナー・ヒロシマ21○国際化の進展のなかで高校生と外国人留学生(高校生)及び高校の外国語指導助手との交流を通して,多様な文化に対する理解を深め,社会で主体的に活躍できる青年を育成 5  表3により,アジアのヒット率が低いことがわかったので,これを全体の題名と要旨で調べ直した。その結果を表4に示した。 表4 「アジア」の文献数 年 全文献 % 公立 % 国立 % 1990 2 2.0% 0 0.0% 0 0.0% 1991 4 2.4% 0 0.0% 0 0.0% 1992 5 2.8% 0 0.0% 0 0.0% 1993 9 5.2% 0 0.0% 0 0.0% 1994 6 2.8% 0 0.0% 1 6.3% 1995 7 3.2% 1 2.1% 0 0.0% 1996 15 5.9% 2 3.8% 2 4.5% 1997 12 4.2% 0 0.0% 0 0.0% 1998 8 2.4% 0 0.0% 0 0.0% 1999 12 3.3% 0 0.0% 1 2.4% 2000 6 2.6% 0 0.0% 0 0.0% 計 86 3.4% 3 0.7% 4 1.2%  全文献でのヒット数は青年海外派遣事業に拠るところが大きい。しかし,それにしても青少年施設文献におけるアジアのヒット数は極端に少ない。ボーダレス化に伴う意識の変化や,最近の若者のベトナムや韓国への旅行ブームを考え合わせると,次のようにいえよう。交流事業においても,アジアは現代青年のニーズでもあり,かつ彼らにとっては未知の世界である国際理解教育,開発教育の存在を伝える効果的な教材である。アジアにより焦点化して,国際交流・理解教育事業を推進する事業が必要である。  「国際」に関する文献の分析からも,とくにアジア等のより「日常」に近い要素への取り組みについては公立,国立ともに弱体であることが指摘できる。今後は,行政所管の青年海外派遣事業においても,青少年教育に不慣れな事務官が担当するのではなく,青少年施設が主体的,組織的に取り組み,これを事後の日常的活動と有機的に連携させるなどの取り組みが必要と考える。国際交流や国際理解教育も,このようにして日常的に行われることによって,わが国やアジア,他国の青少年にとって青少年施設が「居場所」になりうるといえよう。ここでも,青少年施設の日常的機能の必要が示されていると考える。 4 結語−青少年施設に居場所機能を  以上の文献分析から,宿泊型の施設においては,居場所という日常的機能が発揮しづらいことが推察された。しかし,彼らが安心して自分らしくいられると感じられる場をつくり,青少年教育施設特有の対他者,対自己の出会いの機会を提供することは重要である。それは国際交流,国際理解教育においても,同様であり,異文化が相互に受容されるという安心感のなかで自他への気づきを深めることにつながる。今の学校や職場は,そのような居場所とは感じにくいことが多い。家庭でさえ,今や危うい。このような今日の状況のなか,私は行政による「若者の居場所づくり」を提案したことがある2)。本稿では,青少年問題関連文献の分析から得た知見に基づき,青少年施設を中心とした「居場所づくり」の意義について考察したい。  先の提案では,まず,他者による居場所づくりの意図が働いていない居場所も含めて居場所全体を表5のように分類した。  第1に,「対自」(自分に向き合う)の居場所がある。学生に「自分らしくいられるところ」を聞くと,真っ先に「自分の部屋」という答えが返ってくる。自分の部屋では,他者に気兼ねなく過ごすことができるため,自分らしくいられるというわけである。自分の部屋にとじこもって外界との接触を断つ「ひきこもり」も,そのことによって「本当の自分」を守ろうとし,自分と対面する。長期・短期の差はあるにしても,だれにでもこのように一人になる時間が大切である。まわりに人がいても,黙想,音楽,散歩なども同様である。ここでは,一人でも安心して自分らしくいられることが,居場所成立の条件といえる。  しかし,次の対他なしに,対自だけで自己完結させようとすると,「自分らしさ」は十分なものとは感じられなくなってしまう。また,自分との対面の結果,他罰傾向に陥れば,「自分らしさ」どころか「対自」も置き去りになってしまう。  第2に,「対他」(他者と関わる)の居場所が考えられる。友達の部屋や放課後の教室,部室,街頭,コンビニの前などである。ここでも,本人が「自分らしくいられる」と感じる場合に居場所になる。仲間への気兼ねや対面への気後れなどから,「自分らしさ」を出していないと感じる人にとっては,居場所になりえない。しかし,そういう人でも,インターネット通信なら,対面ではないので「本当の自分」のままで発信していると感じるかもしれない。そうだとすれば,仮想的な電子空間がその人の居場所になる。ここでは,他者がいても安心して自分らしくいられることが,居場所成立の条件といえる。  しかし,先述の対自の深まりがたがいに交流できないような空しい関係に陥ると,「自分らしさ」は感じられなくなる。  第3に,対社会(社会に関わる)の居場所がある。たとえば,若者が地域でイベントを行ったり,地域や公共に関わる活動をしたりするとき,その仲間関係に「自分らしくいられる」雰囲気を感じ取る可能性が大いにありうる。活動の目的は自分たちの居場所をつくることではないのに,「自分にとっての居場所」という理由からそれに参加する若者も多い。  しかし,活動目的の遂行のために個人の対自・対他の気づきや深まりを重視する余裕がなくなり,「自分らしさ」が犠牲にされるようなことがあると,その人にとっては居場所とは感じられなくなる。ただ,だからといって,必ずしもその活動が非難されるものでもない。「居場所づくり」は,その活動の一次的な目的ではないからである。  上に述べたように,対自・対他・対社会それぞれの「無意図の居場所」は,居場所としての機能不全に陥りがちである。そこで,行政や,行政活動,青少年施設,地域施設,青少年育成活動等は,「無意図の居場所」の充実を期するとともに,それとは別に,次のような若者の居場所を意図的に創り出す必要があると考えた。  第1に,学習その他の特定の目的をもった事業を,参加した若者が居場所として感じられるように運営することである。もちろん参加者は,その事業目的にひかれて参加したのではあるが,同時に,「他者といても自分らしくいられる場」を潜在的に求めている。  第2に,特定の目的のもとに若者が集まって活動するための拠点を提供したり,先の1の第3の自主的な対社会活動を支援したりすることによって,それが居場所としても機能するよう働きかけることである。  上の2つに対しては,「本来の事業目的のため」あるいは「活動目的を同じくする仲間を見つけるため」に参加したという理由から,事業や活動拠点自体を居場所にすることについては「余計なお世話」という若者側の反発もあるかもしれない。そういう若者のスタンスは,それはそれで当然だ。行政側としては,居場所であるかないかの判断は個人に任されることをはっきりと示したうえで,わざわざ居場所をつくろうとしている理由を明示する必要があるだろう。  第3に,特定の目的をもたずに集まる「たまり場」を提供することである。そのうちに,何かをしようという話が偶発的に持ち上がる。しかし,行政側は,そのことよりも,そのたまり場が居場所になりえているかどうかに関心をもつことになる。この場合,彼らのあいだで偶発的に沸き起こった活動テーマに対してよりも,居場所を成立させる条件としての風土に関心を払うべきだ。  第4に,居場所であること自体を主要な目的とする狭義の「居場所」を提供することが考えられる。しかし,これは,特定の依存症に関わる自助グループなど,何らかの共通する課題に関するものでなければ,事業としては考えにくい。広く若者に対しては,会議室やロビーあるいは図書館などの施設提供において,対自,対他の居場所になりうる空間的条件を整えることが必要であろう。  とくに青少年施設に関しては,先の提言でいう第3の「無目的たまり場」機能を発揮することが期待できるのではないか。そして,その実現のためには,90年代の青少年問題関連文献の分析においても指摘したように,青少年施設が日常的な機能を発揮することが必要といえよう。そこで求められていることは,信頼と共感の持ちづらい時代のなかで,あえて「創り出す」という明確な意図=教育的意図であり,しかもその意図を日常的に発揮することである。これに反して,教育的意図なくして行政が一方的に「与える」居場所は危険でさえある。  では,その場合の「教育的意図」とは何なのか,「居場所をつくる」ことは「(たまたまどこかの場所が)居場所になる」のとは違って,どのような働きかけが行われることなのか。最初に述べた指導者による「指導」と,青少年の「主体性」と,青少年自身がそこに「魅力」を感じることの両立という課題を解決するためには,このように日常的に発揮される「教育的意図」の内実を明らかにすることが必要といえるだろう。 【注】 1) 総務庁青少年対策本部『青少年問題に関する文献集』第21〜31巻,1991年〜2001年。2000年4月分からは要旨の字数が大幅に削減されたため,今回の分析では比較の対象からとりあえずは除外した。今後の研究ではデータベースを補完し、検討材料に加える予定である。 2) 西村美東士「若者の居場所−行政が『つくる』教育的意図は何か」,兵庫県自治研修所『研修』No218,2001年3月。