青少年問題の文献の動向 A 社会  平成14年度の「社会」分野の文献の特徴として、健全育成の重要性に対する認識が深まるとともに、そのためには国民運動としての地域の活動が不可欠であることが共通認識となりつつあることが挙げられる。また、児童虐待等の問題が焦点となり、その解決が急がれる一方で、児童福祉等の分野で子どもたちの心の問題にまで配慮するなど、量的な面だけでなく、質的な面でのサービス向上が議論された。 (1)青少年対策に関しては、福井県が「ふくい21青少年健全育成指針」のもとに推進している。茨城県青少年相談員連絡協議会は社会環境県下一斉実態調査報告書を出した。島根県は平成13年6月の風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律の一部改正を受け、ツーショットダイヤル等営業に関する規定の整備をするため条例等の改正を行った。ほかに、静岡県教育委員会は「保護者のみなさまへ」を発行し、「子どもの問題を、私たち自身の生き方の問題として考え、真正面から子どもに対峠してほしい」と訴えた。渡辺かよ子は米国を中心とする先進各国で青少年問題への対応に顕著な成果を上げているメンタリング・プログラムを分析した。メンタリングとは、成熟した年長者であるメンターと若年のメンティとが、基本的に一対一で、継続的定期的に交流し、適切な役割モデルの提示と信頼関係の構築を通じて、メンティの発達支援を目指す関係性を指す。星野周弘は「非行化を促す人間関係」として、行動準則の個別化の容認、過保護、連帯感の弱さ、匿名性などを指摘した。 (2)国民運動に関しては、茨城県が「青少年健全育成活動実践事例調査」を行った。愛知県は、前年度に引き続き青少年健全育成モデル事業を実施し、健全育成事業や市町村民会議による青少年の自然体験、社会体験事業を募集し、選定のうえ、実施を委託した。国民会議は有害環境モニター報告書を発行した。これは、青少年にとって有害と思われる地域の社会環境の実態把握を主たる目的に、平成14年度から取り組んだもので、主として18歳以下の子どもたちにとって好ましくないと思われる社会環境について、日常生活の中で感じたこと、見かけたこと、疑問に思ったことなどを、文書等で寄せてもらうものである。国民会議では、寄せられた意見をまとめた「ニューズレター」を年2回発行した。 (3)規範意識に関しては、古市勝也がマツダ財団の助成を受け、規範意識の獲得と通過儀礼について、小学5・6年生と、その保護者、地域の高齢者・青少年育成指導者を対象にアンケート調査を実施し、規範意識獲得のメカニズムを解明しようとした。 (4)社会福祉に関しては、竹内かおり他が児童養護施設に入所している子どもたちがかかえている問題と取り組みについて調査した。庄司順一他が、グループホームの実態と制度施行状況を調査した。高橋一弘が、育児の施設主義を見直し、家庭的保育を進めるよう提唱し、里親制度の活性化を訴えた。渡辺伊佐雄が児童自立支援施設(前教護院)北海道家庭学校高校生寮の取り組み、ニーズ等についてまとめた。西郷泰之が、子どもへのサービスの質の確保システムをめぐり、セーフティネットの一つであるオンブズマン制度を兵庫県川西市の事例から分析した。本間真宏他が日英比較分析を中心に、子どもの福祉と権利の法制史的研究を行った。小笠原恵が発達障害児・者における問題行動の研究動向を整理し、問題行動軽減のためのアプローチ法として@直接的なアプローチ法、A分化強化法、B機能的コミュニケーション訓練、C包括的な行動支援法の4点について分析した。木野裕美他が虐待防止や子育て支援のネットワークについて訪問調査した。竹中哲夫が2001〜2年の児童福祉の動きと論点を整理して、2004年法改正を展望した。 F 生涯学習・社会教育  平成14年度の「生涯学習・社会教育」分野の文献の特徴として、体験活動のもつ教育的意義への認識が高まったことが挙げられる。体験のなかで青少年が主体的に学ぶことの意義は、ボランティア等の社会参加、さらには青少年自身の参画にもつながる。「居場所論」を含め、多くの文献がこの文脈の一環としてとらえられる。他方、社会性あるいは「社会力」の育成がますます重視されつつあるが、それにも通じるものと考えられる。 (1)社会参加・参画に関しては、内閣府政策統括官が「青少年の社会参加活動ハンドブック」を発行し、アメリカの「発達資産」等の事例を紹介した。北海道教育委員会は社会参画推進事業「ステップアップセミナー」を開いた。水野篤夫は「京都市基本計画への青少年によるパブリックコメント」プロジェクト等を紹介した。 (2)「悩みを抱える青少年を対象とした体験活動推進事業」に関しては、文部科学省が報告書を発行した。本事業は、非行等の問題を抱えたり、不登校等で屋内に引きこもりがちな青少年等、悩みを抱える青少年に対し、自然体験や生活体験等の体験活動に取り組むモデル事業を実施し、青少年の社会性を育む体験活動を推進するものである。 (3)体験活動に関しては、文部科学省初等中等教育局が「体験活動事例集−豊かな体験活動の推進のために」を発行した。国立教育政策研究所社会教育実践研究センターは青少年の体験活動等に対して「事前学習」プログラムを勧めた。森田勇造が野外文化教育の体系化に関する研究成果をまとめた。星野敏男が「自然体験活動の効果とその要因」において「そのままの自分自身でいられる場、こころの居場所」の必要性を主張した。 (4)ボランティア活動に関しては、大分県は県のセンターに加え、10町村に市町村青少年ボランティアセンターを開設した。北九州市立青少年ボランティアステーションが開設1周年を迎えた。国立オリンピック記念青少年総合センターが「ボランティア学習プログラムの在り方に関する調査研究」を行った。文部科学省が「学校と地域を通じた奉仕活動推進事業」を行った。国立花山少年自然の家は、東北学院大学の授業「ボランティア活動」の運営に1年間携わり、「サービスラーニング(奉仕活動を正規のカリキュラムに位置づけた教育活動)」の一環として、花山ボランティアスクールに学生が参加した。 (5)長期自然体験事業に関しては、国立那須甲子少年自然の家が全国の国立少年自然の家における参加者の事業参加10年後の意識や生活観に関する追跡意識調査を行った。 (6)社会性、社会力については、こどもの城が、自己中心性から脱皮して、民主的な社会人として育つようキャンプを行った。JR北海道自然の村は、共同生活や行事を通じて規律と責任の大切さを悟らせると同時に日常の躾にも努めた。国立諫早少年自然の家は、中学生の社会性と対人関係能力をはぐくむプログラムを開発した。門脇厚司が「子どもの社会力は地域の教育力が育てる」とした。伊藤俊夫が「躾は文化伝承の第一歩」とした。 (7)通学合宿に関しては、結城光夫が地域で子どもを育てる新たな仕組みとして評価し、佐久間章が「我が町流通学合宿」を勧めた。 (8)「居場所」に関しては、新谷周平が公的中高生施設『ゆう杉並』のエスノグラフィーを論じた。西村美東士が「青少年施設の居場所機能」が指導者による指導と、青少年の主体性と、施設の魅力の両立という問題を設定し、近年の関連文献の動向から論じた。また、居場所づくりにはあえて「創り出す」という明確な意図=教育的意図が必要になるとした。佐川子が国分寺市立光公民館でライブ活動事業を行い、「居場所」の条件として@無理強いしない、A社会的ルールは守ってもらう、B主役は若者、を挙げた。 H 文化  平成14年度の「文化」分野の文献の特徴として、次の3点が挙げられる。@IT化の是非論ではなく、青少年にとってのその特性を理解し、望ましい対応を考えるための議論がされた。A他方、メディア社会のなか、彼らにとっての読書の意義を見直し、その推進を主張する論調が強まっている。B既存の青少年団体が、社会の価値観の変化等の厳しい状況のなか、それに対応し、さらには次の時代の展望を示すような、団体特有の存在価値をあらためて生かすための模索をしている。 (1)インターネットに関しては、内閣府政策統括官が「青少年を取り巻く環境の整備に関する指針−情報化社会の進展に対応して」に基づく取組等の実施状況をまとめ、また、「第4回情報化社会と青少年に関する調査報告書」を発行した。広島市青少年問題協議会が「電子メディアと子どもたち」に関する実態調査を行い、「広島発の特色を」など提言した。青少年育成国民会議がホームぺ−ジ上で「全国ネットシンポジウム」を開いた。 (2)言葉に関しては、旺文社生涯学習検定センターが「実用日本語語彙力検定」受検者の小・中・高校生を対象に「ことばに関するアンケート」を実施し、「大半の子どもが『乱れた日本語』を自覚しながらも使用」と調査結果をまとめた。 (3)読書に関しては、福岡県が「青少年アンビシャス運動」(県民運動)の一環として「本のわくわく探検事業」を行った。文部科学省が「子どもの読書活動の推進について」を発行し、全国子ども読書活動推進キャンペーンや支援事業等について紹介した。 (4)指導者に関しては、黒木宣博が英国のユースワーカーのもつマンパワーの意義から学ぶよう提唱した。 (5)団体活動に関しては、日本青年奉仕協会が「青年・社会人向けのボランティア活動及び社会奉仕体験活動にかかる長期参加プログラムに関する調査研究報告」を発行した。また、同協会は、「不登校児等支援」を目指す団体に1年間にわたる青年ボランティアを派遣し、問題解決のための支援のネットワークづくりを行った。ガールスカウト日本連盟・ボーイスカウト日本連盟が「地域ネットワークづくり」を行っている青少年団体、民間団体、地域団体の事例を調査した。松下倶子はこれを紹介し、@各団の自己診断、Aこれまでの実績が明確に理解されるような発信、B団体での活動を社会生活でも活かされるようにするなどを提案している。文部科学省が「子どもとインターネット」に関するNPO等についての調査研究報告書を発行した。 (6)江東区青少年センターが「子ども会活動事例集」を発行した。石井幸夫が、子ども会は「生きる力」をいかにして子どもたちに与えられるかを論じ、子ども会で育むべき具体的な能力として、@好奇心(いろいろなことに興味や関心をもったり、感動する能力)、A行動力(興味・関心をもって物事を観察したり創ったりする能力)、B表現力(自分の意見・考えをまとめ、発表したり、訴えたりする対人関係能力)を挙げた。 (7)国際交流に関しても、青少年団体のチャレンジが目立った。修養団青年部は、フィリピンのストリートチルドレンやスカベンジャー(ゴミ捨て場で働く子どもたち)を訪問し、支援活動・交流活動を実践した。ガールスカウト日本連盟のUKガイド招聘事業は、実行委員を会員から募り、若い女性が企画・運営の体験を通じて力をつける機会とした。そのほか、川上衛が、ワーキング・ホリデー制度は「自分で決めて何でもできるが、行動は自分の責任である」という自覚が大切とした。文部科学省国際教育協力懇談会が「ダカール行動枠組み」に対する我が国の対応等の資料をまとめた。