日本青少年育成学会第6回研究集会20050917 青少年文献分析の意義と枠組 〜現代青少年の社会化支援の視点から〜 西村美東士(聖徳大学)  1985年の臨時教育審議会の「個性重視」の方針は、青少年施策に大きな影響を与えた。他方、「青少年問題」が起こるたびに、施策、教育、研究、さらにはマスメディアの論調において、当然のことながら社会化機能の発揮があらためて訴えられたりもしたが、それに伴って今まで積み上げられてきた「学習者中心」「青少年主体」の援助という基本姿勢が置き忘れられ、外圧としての強力な「社会化機能」の発揮や規範意識の形成を求める傾向も見受けられた。  われわれは、2002年度から3年間、日本学術振興会の科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受け、「青少年問題に関する文献データベース」(代表者西村美東士)を構築し、ホームページ上で公開するとともに(http://mito.vs1.jp)、その分析・研究を進めている。  収録した文献は、1970年度以降に発行された単行書及び定期刊行物の掲載記事のうち、青少年問題を主題とした文献約6万件である。とくに行政資料等については、国が都道府県等をとおして毎年、全国的かつ組織的に収集したものである。  本データベースによって、関連文献の要旨における「社会性」と「個性」のヒット率の経年変化を比較した結果、次のことが明らかになった。1993年に「個性」は「社会性」の2倍になるが、98年に逆転し、「社会性」優位の状況が現在まで継続している。  このような「揺れ」の根底には、青少年が個人として深まる「個人化」と、社会の一員として適応する「社会化」との二項対立の問題があると考える。この二項対立は、青少年個人に対しても「同化圧力」などとして深刻な影を落としている。  そこで、文献分析をとおして、青少年の社会化に関わる施策や言説の変遷や問題点を明らかにする意義は大きいと考える。  われわれは、1990年代の文献分析から「現代青年の価値観の変化に対応した青少年施設経営の動向」(『日本生涯教育学会論集』23号、p85-92、2002年)を発表した。ここでは、「生きる力」や「居場所」などについてキーワード分析を試み、施設経営に関するいくつかの知見を得ることができた。  また、2005年度から2年間の計画で、科学研究費補助金の交付を受け、「現代青少年に関わる諸問題とその支援理念の変遷−社会化をめぐる青少年問題文献分析」(基盤研究C)(研究代表者西村美東士)を進めている。ここでは、個人としての充実や個性の尊重、社会のなかでの充実や社会化等に関わるキーワードを探索的に検討して抽出するほか、ワークショップ型学習、居場所づくり、社会参加等、最近の支援方策に関する事項について、チラシ、プログラム等の生データを含めた資料を収集し、電子化して、分析しようとしている。  他方、われわれは自らのワークショップ型授業の研究により、学生の気づきが対自/対他者/対社会、そして、受動/能動と循環し、発展する過程を明らかにしようとした(西村美東士(研究論文)「ワークショップ型授業の構成要素とその効果−学生の自己決定能力を高める授業方法」、大学教育学会『大学教育学会誌』22巻2号、p194-202、2000年)。本発表では、そこで得られた知見も組み込んで、社会化支援の視点からの青少年文献の分析枠組を提起したい。 日本青少年育成学会第6回研究集会20050917 青少年文献分析の意義と枠組 〜現代青少年の社会化支援の視点から〜 西村美東士(聖徳大学) 1 科研費(成果公開)「青少年問題に関する文献データベース」の概要 1-1 研究の種類  平成14、15、16年度日本学術振興会科学研究費補助金(研究成果公開促進費) 1-2 研究代表者  青少年文献データベース作成委員会委員長 西村美東士 1-3 データベースの名称  日本語名 青少年問題に関する文献データベース  英語名  Documents on Youth Issue Database(略称:DYI-DB) 1-4 対象分野  青少年問題に関する文献(収録件数約6万件) 1-5 作成目的・学術的価値  本データベースは、今日の青少年問題の動向とその対応、とりわけ青少年指導との関連を、文献の網羅的調査やキーワード分析などの実証的検討を通して究明することを目的とする。代表者は平成元年度分(1989年度)から現在に至るまで総務庁青少年対策本部「青少年問題ドキュメンテーション研究会委員」(平成10・11年度は研究協力者、平成12年度から文部科学省)として『青少年問題に関する文献集』の執筆に関わってきた。代表者以外の委員が担当した分野や、平成元年以前の昭和45年度発刊当初からの『文献集』のデータ、さらには他機関の関連書誌データもあわせると、その数は膨大である。ところが、それらのデータは、それぞれの施策立案や研究のために個別に利用されることはあっても、総体としては機能していないのが実態である。可能なメディアが限られていて、横断的な活用が不可能だからである。一方、各省庁や青少年育成国民会議などの団体等の施策や方針等も、その都度さまざまに錯綜して打ち出され、統合的な把握ができていない。本データベースは、これらの文献データを全体的に把握し、必要に応じて補完し、電子化することによって広く活用に資するものである。  これによって、次の3点の解明に役立てたい。 @ 青少年問題の動向に対する従来の施策立案の問題点。 A 打ち出された施策と、その実践としての教育プログラムや研究成果との関連。 B 今日の青少年問題に真に対応できる施策及び教育プログラムのあり方。 1-6 データベース作成計画(平成16年度実施計画時)  作成代表者は、平成元年度分(1989年度)から平成15年度の現在に至るまで総務庁青少年対策本部(後に文部科学省スポーツ・青少年局、独立行政法人国立オリンピック記念青少年総合センター)「青少年問題ドキュメンテーション研究会委員」及び「青少年問題ドキュメンテーション協力者」として『青少年問題に関する文献集』の執筆に関わってきた。担当分野は「社会」と「文化」の全文献であり、今まで3000点以上の青少年対策や青少年の生涯教育・社会教育に関する行政資料や論文の目録や要旨をまとめている。そこで、他委員、他組織や以前のデータを加え、すべてのデータを改めて組織的・体系的に整理し、統合的に検討するためのデータベースを構築する。本計画最終年度の平成16年度は書誌情報のみの過去のデータを含め、昭和44年度発行の文献(『青少年問題に関する文献集』第1巻に該当)まで遡及して入力する。  データベースに収録する内容は次のとおりである。当該年度に、我が国で発刊された単行書及び定期刊行物の掲載記事のうち、青少年問題を主題とした文献を収録する。ただし、単行書のうち、リーフレットは除外する。また定期刊行物のうち、新聞など、巻頭言・短文の時評、月評、ニュース、短息随筆、雑感、グラビア記事、原則として1頁未満の短文及び教科書は除外する。 各文献にはカテゴリー(小事項)の見出しを付す。 単行書・パンフレットの項目は次のとおりである。@書名、A著・編者名、B出版者名、C頁数、D出版年月、E要旨。 論文・記事の項目は次のとおりである。@論文名・記事名、A著・編者名、B収録誌名、C巻号数又は通号数、D掲載頁、E発行年月、F要旨。 1-7 データベース公開の具体的方法  『青少年問題に関する文献集』に掲載された要旨等をそのまま提供することについては、著作権等の処理が必要になるが、現在では、ドキュメンテーション作成者の了解を得て、原著作者の著作権の侵害にならぬよう留意しつつ、要旨も含めて公開している。また、他方で、各地方公共団体、公共機関等の行政資料などに関しては、施策やその成果、課題等について、本文からの自由語検索を可能にすることが、わが国の青少年施策の充実にとって緊急不可欠と思われる。そこで、行政資料の書誌情報については、要約や抜粋を含めて優先して公開している。  公開方法は常時公開しているホームページを通して、自由語検索できるようにしている。検索システムとしてはフリーソフトのCGIを使用している。なお、日本生涯教育学会、青少年育成学会等での口頭発表や、関連雑誌への投稿などにより、関係者の認知度をより高める努力をしている。 1-8 想定している利用対象者及び想定される利用内容  青少年教育研究者、青少年施策担当者、青少年施設職員、その他広く青少年関係者の利用に供したい。利用内容としては、それぞれの立場から必要な文献の検索、青少年に関わる施策や研究の動向把握等、幅広い活用が考えられる。これらの多様な利用形態に柔軟に対応する。 1-9 本データベースの今後の課題  今日の青少年問題の動向とその対応、とりわけ青少年指導との関連を、文献の網羅的調査やキーワード分析などによって実証的に検討できるようにするため、本データベースについて次のような進展を考えている。 @ 全文収録 今後は「全文収録」を進めていきたい。当面、われわれの研究成果としての論文約4,500点の全文を収録したい。研究会等で発表された文献については、未公開のため、ふだんは人の目に触れないものである。また、公開されている文献についても、原文のまま収録することにより、具体的記述まで検索できるようになる。さらには、キーワード検索だけでなく、ロジック、内容、文脈など、いくつかの骨格で検索できるようにしたい。 A 即時収録  雑誌『社会教育』『青少年問題』については発行月中に収録する体制が整いつつある。これが実現した段階では、データベースの新たな活用法が可能になると考える。 B ファクトデータ収録  青少年活動等におけるチラシやプログラム、統計データや調査結果データにまで、収録範囲を拡大したい。 C 近接領域への収録範囲の拡大  社会教育全般等、青少年教育との近接領域にまで、収録範囲を拡大したい。 D 網羅的文献収集  過去には、政令指定都市を除く市町村に対しては、県をとおして収集を依頼してきた。そのために収集漏れした市町村行政資料については、できる限り遡及して収録したい。また、毎年、事業報告書、研究報告書を発行している自治体、諸機関に対しては、本データベースのための直接収集の協力を呼びかけたい。 2 科研費(基盤研究C)「社会化をめぐる青少年問題文献分析」の概要 2-1 研究の種類  平成17、18年度日本学術振興会科学研究費補助金(基盤研究C) 2-2 研究代表者  聖徳大学人文学部児童学科教授 西村美東士 2-3 研究課題 現代青少年に関わる諸問題とその支援理念の変遷 −社会化をめぐる青少年問題文献分析− 2-4 本研究の目的  現代青少年に関わる諸問題については、青少年教育をはじめとする多様な分野で対応が試みられてきた。そこでの実践や研究においては、「個性尊重」による個人としての充実のための支援とともに、望ましい社会化を支援するための理念が形成されてきた。  しかし、それは次の2つの理由から、不十分な結果に終わっていたと考える。第1に、「一人でも(よりよく)生きられるようになる」ことを望む「個人化」欲求を社会化とは二項対立的にとらえたため、社会化を「個人化」と調和的に支援することができなかった。第2に、「仲間と(よりよく)生きられるようになる」ことを望む萌芽的な「社会化欲求」に対して、魅力的な方策を示し、さらには社会参画につながるようになすことができなかった。  そこで、本研究では、これまで蓄積してきた「青少年問題ドキュメンテーション」及び現状の分析によって支援理念の変遷を明らかにし、青少年の社会化に関する支援理念の構築に貢献したい。  本研究が対象とする領域は、「青少年問題ドキュメンテーション」の領域に沿って、社会、意識、心身の発達、家庭、学校、職場、文化、非行とするが、とくに家族問題、職業支援等については、現在喫緊の課題となっている諸事項について、多様な理念を広く把握し、その構造的理解に努めたい。 2-5 本研究の特徴  研究代表者は1989年度からの関連文献を「青少年問題ドキュメンテーション協力者」として解題・分析し、『青少年問題に関する文献集』の作成に携わってきた。そして、平成14年度から16年度の3年間、日本学術振興会の科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受け、「青少年問題に関する文献データベース」を構築・公開している。本データベースは、青少年問題の動向とその対応、とりわけ青少年指導との関連を、文献の網羅的調査やキーワード分析などの実証的検討を通して究明することを目的とするものである。  また、データベースの作成過程のなかで、他の「青少年問題ドキュメンテーション協力者」とのネットワークを形成することができた。  今回の研究では、本データベースとネットワークを最大限に活用し、実証的な検討を進める。また、その研究過程のなかで、本データベースを、研究や実践の立場からより使いやすいものにすることができると考える。 2-6 本研究の位置づけ  本データベースで蓄積された関連データは昭和45年発行まで遡及することになり、その数は膨大である。しかし、本データベースが構築されるまでは、個々のデータは研究や実践のために個別に利用されることはあっても、横断的な活用は難しかった。各省庁・青少年関連団体の施策等も、その都度さまざまに錯綜して打ち出されてきている。  『青少年問題に関する文献集』作成のためにいただいた全国の関係者の協力、そして個々の文献にかけられた執筆者の労力と期待、さらには現在多発する「青少年問題」を考えると、これを放置しておくことはできない。  本研究では、青少年の社会化をめぐる支援理念について、これらの膨大な文献データから全体的に把握し、その変遷を明らかにすることができると考える。 2-7 研究目的を達成するための研究計画・方法について  本研究が分析の対象とする文献は、わが国で発刊された単行書及び定期刊行物の掲載記事のうち、青少年問題を主題とした文献全般である。研究者や実践家による単行書、論文等、行政・団体発行の資料が主な対象となるが、『青少年問題に関する文献集』では除外されてきた新聞等も今回の分析対象に含めたい。  現代青少年に関わる諸問題の議論にあたっては、一般的には数点の文献を引いただけで対応策や支援理念が論述されている。しかし、本研究では「青少年問題に関する文献データベース」を活用して、できるだけ網羅的に把握し、多様な支援理念の全体的構造と、その変容過程を明らかにしたい。  そのため、第1年次は次の5項目を実施する。 @ キーワードの抽出と、その出現率の量的把握  「青少年問題に関する文献データベース」はインターネット上で検索できるようになっているが、そのソース自体をパソコン上で活用すれば、より多様な分析ができる。これを利用して、個人としての充実や個性の尊重、社会のなかでの充実や社会化等に関わるキーワードを、探索的に検討して抽出する。  抽出したキーワードに関しては、量的な推移を中心に把握し、検討する。 A 家族問題に関する文献の補完とドキュメンテーション作業  少子化、食育、引きこもり、アダルトチュルドレン等、最近青少年に関わる問題としてクローズアップされている事項に関して、「青少年問題に関する文献データベース」に収録されていない文献を補完し、ドキュメンテーション作業を行う。 B 職業・就職支援に関する文献の補完とドキュメンテーション作業  フリーター、無業青年等の事項に関して、(2)と同様の作業を行う。 C 最近の支援方策に関するチラシ、プログラム等の生データを含めた文献の補完と電子化作業  ワークショップ型学習、居場所づくり、社会参加等については、部分的な支援方策としてだけでなく、支援理念の転換の契機となる動向として注目される。また、これらの取り組みは青少年の社会化と密接に結びついており、本研究が提供する社会化支援の視点は、その取り組みの理論的骨組みとして寄与することができると考える。  そこで、これら最近の支援方策に関連する事項については、過去の文献のなかに表れた理念だけでなく、チラシ、プログラム等の生データを含めた資料を収集し、電子化する。  この研究は、生データの収集・保管・整理・活用という側面などで、「青少年問題に関する文献データベース」自体の改善、発展にも資するものと考える。 D 「青少年問題ドキュメンテーション協力者」への聞き取り調査とワークショップ  「青少年問題に関する文献データベース」作成過程のなかで、「青少年問題ドキュメンテーション協力者ネットワーク」を形成することができた。そのほかにも、すでに現役を引退した以前の協力者とも連絡をとることができている。このネットワークを生かし、さらにそこから人脈を広げて、有識者に対する聞き取り調査を行い、上記Cまでの研究の進行や情報源について示唆を受けたい。  また、これらの有識者が一堂に会する機会を数回もってワークショップを開き、青少年問題ドキュメンテーション分析の枠組みのあり方を検討したい。 2-8 準備状況と今後の研究課題  現在、関連データを入力し、公開している。また、青少年の社会化の構造的理解については、科学研究費総合研究A「都市的ライフスタイルの浸透と青年文化の変容に関する社会学的分析」(研究代表者高橋優悦)において、神戸・杉並の青年意識調査により、「若者の友人関係の類型と社会化支援」として分析し、知見を得て公表した。さらに、大学授業において、アクションリサーチとして、社会化を促すワークショップを実施し、毎週300人程度の学生からの「気づき」を集約し、電子状態で整理、分析している。これらの研究成果と、本研究で新たに文献分析から得られる結果を組み合わせて、新しい社会化支援理念を立体的に検討したい。 3 ワークショップ型授業における学生の気づきの発展過程 3-1 抄録  われわれは2日間にわたる「生涯学習概論」の授業をワークショップ形式で行なった。その目的は、学生が安心して自己表現ができるようになり、将来にわたって生涯学習やボランティアなどの社会的自己決定活動に関わるという目標をもつことであった。本研究においては、この授業で学生がどのように自己や他者に対する気づきを得たのか、その変容の過程を解明することによって、学生の自己決定能力を高める授業の構成要素とその効果を明らかにすることを目的とした。  研究の結果、第1は、ワークショップ型授業によって、即自から対自へ、対自から対他者へと学生の気づきが促される過程とともに、対他者から再び対自や即自のより深い気づきへと循環する過程が明らかになった。第2は、学生の自己決定能力の到達段階の把握に基づく戦略的な指導内容と授業構成の必要性が明らかになった。 3-2 授業の進行に伴う学生の気づきの変容過程  表1に分析結果を示した。×は否定的、△は中立的、○と◎は肯定的な反応であるが、自覚的な反応は◎とした。この表によると下記の諸点が指摘できる。  第1に、「対自」への関心は、「あなたはどう生きてきたのか」と働きかけだけで十分に引き出すことができた。具体的には、15分程度の講義型の指導により、「対自」の○と◎が「即自」を上回る結果(20対32)を得た。もともと学生には「対自」に関する自覚・無自覚の関心があり、「この授業の関心はそこにある」と教師が表明するだけで成立したと考えられる。  第2に、カード式発想法による図解のグループワークでは、「対他」に関する肯定的・自覚的記述が高い。午前の文章表現では「対自」と「対他」が32対7であるのに対し、14対38と逆転している。この状況は、他学生の文章表現とそれに対する教師のコメント、第一印象ゲームにおける「その人らしさ」との交流を経ることによって生じたと考えられる。他学生の文章表現を聞くとともに、初対面の人とも安心して出会えるワークを体験できれば、他者の存在に対して関心を向けさせることができるといえよう。  第3に、価値観ゲームでは、結果や「メモ」を見る限り、上で述べたような学生の変容が見られない。本授業によるワーク等が効果をもつのは、もっぱら態度の変容に関してであって、短期間で学生一人一人の価値観を変えていくものとはなっていない。  第4に、最後のワークでは、「対他」に匹敵する「対自」の増加(39対45)が見られた。これは、2日目午前のグループごとのプレゼンテーションや午後の価値観ゲームによる他者との出会いから生じ、それが自己の存在を振り返ることにつながったと考えられる。  第5に、○に対する◎の割合については、1日目最後のワークでは「対自」で10対4、「対他」で32対6であったのに対して、最後では28対17、23対16と増えている。特に「対他」においては、親やその他の自己決定阻害要因に対する「自己決定へのアドバイスとしてとらえる」、「相手と本気でやりあう」などの結果は注目すべきと考える。さらに、「即自」に関しては、×と△と○の合計に対する◎の割合が、1日目午前35、1日目ワーク13に対してともに0であったものが、2日目最後のワークでは13対5に上がっている。そこでは、自己決定が運などの要因によって左右される人間の宿命を受容しつつ、しかも「他人があきれるような自分の世界を作ってしまう」などの方策が打ち出されていた。  このように授業進行に伴う学生の気づきには、「即自」→「対自」→「対他」の単なる一方通行ではなく、「対他」から「対自」に再度深まって戻っていったような、段階的でありながらも循環して深まっていく過程が明確に見出される。 3-3 授業イメージの変容過程  図2は本授業に対する学生の受け止め方の水準である。「そう思う」を4、「ある程度そう思う」を3、「あまりそう思わない」を2、「そう思わない」を1として集計した。中間値の2.5は「どちらともいえない」を表している。その結果から以下の諸点が指摘できる。(略)  1日目終了時と2日目終了時の本授業のイメージの変容量をランキングしたものを表3に示した。これは2日目に入ってのやや本格的なワークショップが学生にどのような変容をもたらすかを示している。その特徴は次のとおりである。  第1に、「対自」では「感情を大切にできる」ようになり、「対他」では「気持ちを話したく」なっている。ともに同率1位を占めている。前者も「対自」とはいえ、ワークのなかで先述の思い込みが解消した結果ととらえられる。すなわち、2日目のワークは他者と出会うことについての彼らの不安・不快の予想から安心・快感に向けた固定観念の打破にとってもっとも効果的であったといえよう。  第2に、「自分に気づける」(3位)、「自分の問題に気づける」(7位)の変容は、2日目のワークが、学生の間に最初から高かったそれらの関心に対して、他者との相互関与のなかでの気づきを与えたといえよう。  第3に、10位になって初めてaの「わくわくする」があがっている。ワークショップの効果は、学生の「即自」的な要求に応えるよりも、「対自」、「対他」の変容をもたらすものといえる。  第4に、「自分と関係のある」が低い。学生にとって授業が「自分と関係のある」ものとなるためには、「講義かワークショップか」とは異なる別の授業構成要素の検討が必要と推察できる。  第5に、微小な変容にとどまった下位5項目は、「わかりやすい」「人の痛みがわかるようになる」「授業に親しみがわく」「自分のペースで参加できる」「自分の目標をもてる」である。「人の痛みがわかるようになる」ためには、短期間のワークショップを行なうだけでは不十分といえる。しかし、「授業に親しみがわく」「自分のペースで参加できる」の低調さは、現代学生にとって対人ワークがあくまでも苦手な部類に属するということを裏付けている。 (西村美東士(研究論文)「ワークショップ型授業の構成要素とその効果−学生の自己決定能力を高める授業方法」、大学教育学会『大学教育学会誌』22巻2号、p194-202、2000年) 4 青少年施設経営に関する90年代文献の分析 4-1 抄録  本研究では、[ときの青少年施策が次々と迫ってくるため、青少年施設はその対応と成果の開示に追われ、青少年施策の理念に現代青年の価値観を反映させた実践の展開がおろそかになっている]という仮説を設定し、青少年教育施設に関する90年代の文献を分析した。その結果、青少年施策の進行と若干のタイムラグがあり、むしろ「あとになってから追い回され、成果を公開する余裕もない状態」と考察された。とくに公立施設については青少年教育施策への関与の低さが明らかになった。また、「生きる力」育成については、最近の傾向として、「自然体験活動への傾倒」と「総花化」を見出した。これらの結果から、本研究では、@受け身の自己都合の発想からの脱却、A公立施設の青少年教育施策との相互疎外の解消、B国立青少年教育施設の先導性の保持、C実践・研究の充実とその成果の開示・流通を論点として提起した。 4-2 公立施設の青少年教育施策への関与の低さ 第1表 研究対象文献数 年 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 2001 計 対 11 9 18 16 24 47 55 72 75 57 70 45 500 全 102 168 178 172 213 221 255 287 335 364 469 216 2980 % 10.8 5.4 10.1 9.3 11.3 21.3 21.6 25.1 22.4 15.7 14.9 20.8  ※1 対=研究対象文献数、全=全文献数。 ※2 2001年は3月まで。 第2表 国立施設関連文献の数 年 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 1999 2000 計 数 7 4 12 12 16 33 44 57 57 42 49 333 % 63.6 44.4 66.7 75.0 66.7 70.2 80.0 79.2 76.0 73.7 70.0 第3表 青少年教育施策のヒット数 アドベンチャー 生涯学習ボランティア 少年少女サークル 子どもプラン 年 全文献 公立 国立 全文献 公立 国立 全文献 公立 国立 全文献 公立 国立 1990 4 1 2 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1991 13 1 2 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1992 14 2 4 5 0 0 0 0 0 0 0 0 1993 11 1 1 6 0 1 7 0 0 0 0 0 1994 11 1 3 7 0 0 13 0 0 0 0 0 1995 10 0 7 8 1 0 10 0 0 0 0 0 1996 3 0 2 6 0 0 8 1 0 0 0 0 1997 5 1 4 6 1 0 2 0 0 0 0 0 1998 3 0 2 4 0 0 1 0 0 2 0 0 1999 6 1 1 2 0 0 0 0 0 13 0 1 2000 5 1 3 3 0 0 0 0 0 18 0 2 計 85 9 31 48 3 1 41 1 0 33 0 3  ※1 「全文献」は全文献(n=2,530)におけるヒット数である(以下同じ)。 ※2 「公立」と「国立」は「全文献」の内数である(以下同じ)。  ※3 2000年は3月まで(以下同じ)。 4-3 「生きる力」の項目ごとの経年変化 紹介列挙 生活体験 自然体験 体験活動 厳しさ 科学的態度 自己決定 自信回復 問題解決 共生 家学社連携 対社会 学校観転換 総合学習 1991 ○ 1995 ○ 1996 ○ ○ ● 1997 ○ ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ● ○ 1998 ○ ○ ○ ◎ ○ ◎ ● 1999 ○ ○ ○ ○ ○ ◎ ○ ○ ○ ◎ ● 2000 ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ○ ○ ● ○ ○ ● ● ● ● ※○は国立施設、◎は国立施設のうち講演・寄稿、●は公立施設。公立施設の講演・寄稿分については該当するものがなかった。 (西村美東士「青少年施策の進展に対応する施設経営の動向−90年代の関連文献の分析から」、『日本生涯教育学会論集』23号、p85-92、2002年)