クドバスワークショップによる子育て支援センター機能の検討 西村美東士 1. 目的  「地域連鎖の形成支援」により、「連鎖的参画による子育てのまちづくり」と「社会に開かれた子育て観への転換」を実現するために果たすべき「聖徳大学子育て支援社会連携研究センター」の機能について明らかにする。 2. 方法  職業能力開発手法クドバス(CUDBAS=CUrriculum Development Method Based on Ability Structure)の手法を援用して、センター機能に関する「クドバスチャート」を作成する。  その成果を分析し、求められるセンター機能の全体像を検討する。 3. 経過 機能カードの「山分け」  クドバスの創始者である森和夫を指導者として依頼し、本研究テーマのもとにクドバスワークショップを実施した。その当初の趣旨は次のとおりであった。  本研究の3つのプロジェクトすべてに共通する不可欠の専門的技術的基盤としての職業能力開発手法「クドバス」に関して、学内研究員の技能習得を図る。また、支援センターにおける研究開発の一環として、子育て支援者等の職能分析とその構造化のための「ラダーづくり」を行い、職能段階の明確化を図る。 しかし、実際には参加者が少数であったことなどの事情から、テーマを支援センターの機能に焦点化して実施した。 また、「ラダーづくり」については、今回の成果をもとに、センターにおける子育て支援実践をとおして開発することとした。 2回にわたって実施したワークショップの進行は表1のとおりである。 表1 ワークショップの進行 ワークショップ 集会 ※1 10:30〜12:00 講義「クドバスの概要と進め方」(森和夫) 12:00〜12:20 グループ課題打合せ 12:20〜13:30 休憩・移動 13:30〜15:30 クドバスチャート作成 15:30〜15:40 ブレークタイム 15:40〜16:30 成果物の検討 16:30〜17:30 講師まとめ フォローアップ 集会 ※2 14:00〜15:00 講義「クドバスチャート・ラダーづくりの他領域実践例」(森和夫) 15:00〜15:10 ブレークタイム 15:10〜17:00 成果物の相互評価と修正及びコンセプトの作成 17:00〜18:00 講師を交えた情報交換 ※1 平成18年3月7日 ※2 平成18年3月29日  その結果、表2のとおりクドバスチャートを完成させた。  現在は、支援センター担当教員と保育者が、その成果を実践的に継承し、センター経営戦略や事業評価等のためにさらなる開発、発展を進めている。 カードの優先順位付け 表2 期待される聖徳大学子育て支援社会連携研究センターの機能 テーマ:期待される聖徳大学子育て支援社会連携研究センターの機能(重要度順) 作成日:平成18年3月7日(火) 修正日:平成18年3月29日(水) 指導者:森和夫 第1回作成者:眞壁哲夫・西智子・蓑輪裕子・齊藤ゆか・西村美東士・佐々木朋 仕事 機能-1,6,11,16,21 機能-2,7,12,17,22 機能-3,8,13,18 機能-4,9,14,19 機能-5,10,15,20  1     A 1-1  A 1-2  A 1-3  A 1-4  A 1-5  A 子育て支援・ボランティア育成につながる実践的研究を行う 全国の支援者の研修・交流センター 子育て支援者マニュアル作成 ボランティア育成のカリキュラムが蓄積されている 市民が教員と一緒に研究する 学生の子育て支援能力を向上する 1-6  A 1-7  A 1-8  A 1-9  A 1-10  B 学生が子育て中の親に触れる機会がある 学生の実習やボランティアができる 子どもに関する専門的研究を進められる 聖徳大学教員の学科横断的サロン 子育て支援の現状と効果を知ることができる 1-11  B 1-12  B 1-13  B 1-14  B 1-15  B 母親達に場・職員に対する評価やアンケートを実施 院生や学生の横断的交流・研究活動 新しい遊具を子どもがどのように扱うか観察できる ボランティアが何をやりたいかを知っている ボランティアを参入させることができる 1-16  B 1-17  C 1-18  C 1-19  C 1-20  C サークルリーダーとボランティアをつなぐ場になる 保育の聖徳としてモデルになる子育て支援ができる 保育の聖徳としての専門性が高まる 子育て支援学会の設立 利用者が支援者になれるような支援・援助 1-21  C 1-22  C 視察来訪者にサポーターになってもらう ひととき保育ができる人材を育成できる  2     A 2-1  A 2-2  A 2-3  B 2-4  B 2-5  B 多角的ネットワークの構築と発信を行う 学生・地域・聖徳が連携できる 行政と地域(ボランティア)をつなぐことができる 他の子ども関係組織とのネットワークがある サロン間の連携が取れる 生涯学習貢献センターと連携が取れる 2-6  B 2-7  B 2-8  C 2-9  C 学生の地域に対する貢献度が上がる(イメージアップ) 学生の出張講座(うた・踊り) 雇用への支援をすることができる 他大学の学生でも学んだり参加したりできる  3     A 3-1  A 3-2  A 3-3  A 3-4  B 3-5  B 子育て情報を収集し提供する 子どもの遊び場(公園・博物館)・情報が得られる 多種多様な子育て情報を知ることができる 松戸市の子育てサロンの現状を知っている 良い絵本(童話)の情報が得られる 良いおもちゃの情報が得られる 3-6  B 3-7  B 3-8  B 3-9  B 3-10  C ホームページでイベント情報や空き状況が調べられる 多く問い合わせのある質問への回答をHPで掲載 育児テーマのブログを開設 育児用レシピをHPで提供 (親同士)子ども用品をあげたりもらったりできる 3-11  C 3-12 C サロンに職員の顔写真・担当などを掲示 新生児教育の特別モデルをHPで提供  4     B 4-1  A 4-2  A 4-3  A 4-4  A 4-5  B 異世代・異文化交流ができる機会や場を提供する 親になる人が実際に子どもに触れることができる 地域の人々が気軽に集まることができる 地域の子どもや親との出会いの機会が持てる リタイアした人々と子どもが遊ぶことができる 創年層と若い親が交流できるイベントがある 4-6  B 4-7  B 4-8  B 4-9  B 4-10  C 子ども・親・学生・市民などが互いに交流できる 中・高校生が子どもと触れ合うことができる 中学生も子育て・子どもについて勉強や手伝いができる お年寄りから伝承遊びを学べる おじいさん・おばあさんに携帯利用法を教える講座 4-11  C 4-12 C 外国人と子どもの交流ができ、語学力 をアップできる 世界の子どもたちの様子を映像で見ることができる  5     B 5-1  A 5-2  A 5-3  B 5-4  B 5-5  B モデルとなる遊び場を提供する 家族みんなで遊びに来れる 五感を使った遊びができる サロンの時間内にうた・本読みの時間がある 絵や音楽など芸術を教えてもらえる 木製のおもちゃで遊べる 5-6  B 5-7  B 5-8  B 5-9  B 5-10  C 良い絵本(童話)が読める 障害児と健常児が一緒に遊べる (お絵描き・昔の遊びなど)多くの遊びが体験できる バリアフリーで誰でもアクセスできる 子どもの能力が向上する(英語や体操) 5-11  C 子どもが汚してもシャワーを浴びられる  6     B 6-1  A 6-2  A 6-3  B 6-4  B 6-5  C 子どもたちのニーズに合った商品を開発する 使いやすい子どもグッズを知ることができる 年齢・月齢に合った遊具を利用できたり、情報が入る 手作りおもちゃの作り方やうたをプリントにして配布 子どもが楽しむ教育動画作成 母子家庭の自立支援のための起業家要請 6-6  C 6-7  C 6-8  C 子どもに関する商品(食べ物)が手に入る 子どもの泣き声翻訳機開発 障害を持った子どもの遊具開発  7     B 7-1  A 7-2  A 7-3  B 7-4  B 7-5  C 幅広い分野での子育て相談を行う 子育て中の育児技能(ワザ)を知ることができる 特定の母親(育児不安など)に対する個別相談ができる 対夫婦の子育てカルテの作成 子どもの病気について相談にのってもらえる アレルギー児へのレシピの用意(口頭説明) 7-6  C しつけで行ってはいけないことの提示(HP)  8     B 8-1  A 8-2  A 8-3  A 8-4  B 8-5  B 親同士の交流と父親の子育て参加を支援する 父親・母親の育児の苦労を解消できる 自主的な子育てサークルを育成する 父親の役割について新モデルを提示 母親たちのグループが集まれる場 同年齢や近所同士の母親たちに”友達紹介カード”を渡す 8-6  B 8-7  B 8-8  B 8-9  B 8-10  B 子どもの年齢・月齢ごとに時間・曜日分けする 子どもから離れて親たちが会話を楽しむことができる 父親でも気楽に足を踏み入れられる 父親対象の育児講座がある 父親に子どもとの遊び方を指導 8-11  B 8-12  C 8-13  C 8-14  C 81-15  C 父親向け離乳食教室 おやじの会のリーダーを養成 高校生・大学生を持つ親同士の交流と支援 中高生の親と乳幼児の親とが交流できる場の提供 父親が参加できる料理教室(イベント) 8-16  C ヤンママ(元ヤンキー)の子育ての拠点  9     B 9-1  A 9-2  A 9-3  A 9-4  B 9-5  B 親子がリラクゼーションできる場を提供する 親の心身解放スペースの提供 リラックスできる場(ソファー・緑)の提供 親がリフレッシュできる講座がある 講座(育児に関するもの・関連しないもの)の開催 昼食を親子ができるようランチタイムを設定 9-6  B 9-7  C 9-8  C 9-9  C 子どもを預けて親がサークル等に参加できる 美容院・病院などに行く間の短時間の一時保育 子どもの昼寝スペース 子どもを預けて親が仮眠できる  10    B 10-1  A 10-2  A 10-3  A 10-4  B 10-5  B 親子で楽しみ学ぶイベントを実施する 行政と地域が一体となった親子参加のイベントの開催 子育て中の親が力を発揮できる企画がある 母親サークルが行うイベントの会場提供 母親サークルのイベントでの手伝いやうた・遊びの提供 子どもの遊び講座がある 10-6  B 10-7  B 10-8  C 10-9  C 10-10  C 遊びを披露する場の提供 子どもの成長記録ビデオの撮り方(音響)教室 ちょっとした幼児教室のような会の実施 親子寝そべりパソコン教室 手製料理持ち寄りパーティー 10-11 C 10-12 C 10-13  C 歌舞伎の「ミエ」を切る教室 母と子のファッションショー 他会場でのペット自慢の会 A:非常に重要で、よくできる必要がある。 B:普通であって、一般的にできればよい。 C:あまり重要でなく、必要に応じてできればよい。 表2に示したチャートをもとに行われたフォローアップ集会において、センター機能全体を表すコンセプトとして、「本センターは子育て支援を支援する『センター オブ センター』である」というフレーズが作成された。 4. 結果  求められるセンター機能の全体像を検討するため、本チャートに示された「仕事」を類型化して整理した。また、各「機能」については、Aを2点、Bを1点、Cを0点として、「仕事」別に集計し、全体からみた比率を算出した。その結果を表3に示す。 表3 センター機能の類型  表3の結果から、各系列について、得点に応じた面積比に基づいて図1を作成した。これをもとに、センター機能の全体像について検討しておきたい。 図1 センター機能の全体像  この結果は、第1に、「ネットワーク系」の機能の得点が最大であることを示している。ここでいうネットワークは、機能カードを見ると、機関間連携でもあり、人的ネットワークでもあることがわかる。また、「商品開発」の得点は低いが、ネットワーク構築のなかで実現すべき機能であると考える。  第2に、場や情報の提供など、親を直接対象とする「サービス系」の機能の得点が高い。しかし、機能カードを見ると、その一つ一つは開発的であり、親の自己形成とともに、社会的課題を意識し、よりよい社会形成を目指したものが多いことがわかる。これらは、次の「研究系」と連動するものといえる。  第3の「研究系」は、クドバスチャートでは重要度が1位(最上段に配置)とされたにもかかわらず、「系列」としては「実践研究」のみで、「仕事」も一つだけであり、得点比率は22%にすぎない。しかし、上に述べたとおり、第1の「ネットワーク系」、第2の「サービス系」の機能のほとんどは、第3の「研究系」につながっていくと考える。このことから、支援センターの「研究」は「純粋研究」ではなく、「実践」と連動して「センター オブ センター」としての役割を発揮するために行われる性格のものであると考える。 5. 課題  われわれは、今後も、「大学の子育て支援センター」としての役割を追求し続けなければならないと考える。  そのコンセプトは、「センター オブ センター」であり、それは、東葛地域をはじめとする全国の子育て支援センター、関連機関、関連団体を究極的な支援対象として、「社会に開かれた子育て観」を形成しようとするものである。  しかし、すでに述べたように、その役割発揮のためには、日々の子育て支援実践活動と、その成果から情報や知見を生み出す研究活動との往復運動が必要になる。  この往復運動を実現するためには、@開発的であること、A分析的であること、B情報を発信することの3点が重要になると考える。