子育て支援関連文献データベース化及び活用に関する研究 西村美東士 1. 目的  子育て支援社会連携研究センターの中核機能の一環としての研究・情報機能を充実するため、子育て支援関連文献の「要旨」を含めた書誌情報をデータベース化して、広く提供する。  このことにより、子育て支援研究における先行研究の検索、知見の継承を支援し、「社会に開かれた子育て観」形成のための研究のさらなる充実を図る。 また、子育て支援実践の報告書等に示された成果と課題の公開を促進し、子育て支援事業の継承的発展を図る。 2. 方法  聖徳大学図書館が所蔵する関連文献のほか、支援センターや本学教員、各教員がもつネットワークを活用し、文献を把握する。 各文献については、次のインデックスを付け、検索の便宜を図る。@論文名・記事名、A著・編者名、B収録誌名、C巻号数又は通号数、D掲載頁、E発行年月、F要旨。 これをCSV(Comma Separated Value)形式で電子的に入力することにより、WEB上での検索と閲覧を可能にする。 3. 経過  筆者は、平成14年度から16年度の3年間、日本学術振興会の科学研究費補助金(研究成果公開促進費)の交付を受け、「青少年問題に関する文献データベース」を構築・公開してきた。これは、これまで自らが作成に携わった『青少年問題に関する文献集』作成のため行ってきた主に「社会」と「文化」に関する「青少年問題ドキュメンテーション」を中心として、他の委員が担当した分野や、平成元年以前の昭和45年度発刊当初からの『文献集』のデータ、さらには他機関の関連書誌データもあわせ、約6万件以上のデータベースを収録したものである。その第一の特徴は、昭和53年度以降発行の文献については、著作権を侵さない範囲内でできる限り「要旨」を収録しているところにある。これによって、テーマに関わる研究に貢献することができたと考える。  また、平成17年度から18年度の2年間、日本学術振興会の科学研究費補助金(基盤研究C)の交付を受け、「現代青少年に関わる諸問題とその支援理念の変遷−社会化をめぐる青少年問題文献分析」の研究代表者として、上記「青少年問題ドキュメンテーション」等を活用した文献分析等によって、支援理念の変遷を明らかにしようとした。  ここでは、キーワードに関しては、文脈まで含めて細部にわたり分析した。その分析を通して、社会化支援理念が、青少年個人の即自、対自己、対他者、対社会の気づきにどう対応しようとしてきたかを検討した結果、その変遷過程に一定の特徴を見いだし、より効果的な支援方策のための知見を得た。  家族問題に関しては「引きこもり」問題などについて、職業・就職支援に関してはフリーターやニート等の問題について検討した。その結果、行政・教育・職業訓練関連の文献と社会学等に関連する文献との間に論点の相違を見いだし、今後の学際的な研究・実践のあり方に関する知見を得た。青少年対策行政機関や青少年教育機関等が発行する関連文献については、社会化支援理念を共有し、発展させるための事業成果公開のツールとしての意義を明らかにした。  以上の研究成果から、子育て支援の実践や研究におけるドキュメンテーション(documentation:文献情報活動)と、その成果の公開のもつ意義と効果が示唆された。  4. 結果  前記「青少年問題ドキュメンテーション」の作成に当たって、文献資料のうち、行政資料の送付に関する依頼先は関係省庁、都道府県・政令指定都市等で、これについては平成13年度(2002年3月発行分)まで網羅的に行われてきたが、市町村には直接は依頼していなかった。  筆者は、これに、青少年問題関連雑誌や単行本、学会誌等の文献を補完してドキュメンテーション作業を行ったが、文献収集については不備な点もあった。とくに、市町村の関連機関の報告書等については、上記理由から、収録漏れがあると考える。  しかし、「青少年問題に関する文献データベース」が以上の限界を抱えるものだとしても、子育て支援関連文献データベース化に当たって、その利用価値は大きいものと考える。  そこで、「青少年問題に関する文献データベース」により、1990年1月から2002年3月までに発行された関連文献で筆者が担当したドキュメンテーション3430件から、「子育て支援」、「親子」を検索した結果、ヒット数はそれぞれ図表1、図表2のとおりであった。発行年度ではなく、発行年で集計してある。なお、「総合」は、「題名」または「要旨」のいずれか、または両方に含まれた文献を示している。 図表1 「子育て支援」ヒット実数と比率 発行年 文献総数 題名ヒット数 要旨ヒット数 総合ヒット数 90 102 0 0 0 91 168 0 0 0 92 178 1 1 1 93 172 0 1 1 94 213 0 3 3 95 221 0 3 3 96 255 0 1 1 97 287 1 8 8 98 335 2 11 11 99 364 1 6 6 00 469 2 14 14 01 385 3 5 6 02 281 0 3 3   3430 10 56 57 図表1で1992年のヒット文献は「子育て支援のための新たな児童福祉・母子保健施策のあり方について(答申)」(東京都児童福祉審議会、1992年11月)である。同文献について、データベースに収録された「要旨」では、次のとおり記載されている。 本答申は、福祉、保健・医療にとどまらず、関係各行政分野が、また、家庭、地域社会、企業を含めた社会全体が、総合的な取り組みを行うことの必要性について提言している。答申では、「子育ての現状と社会的背景」として、東京都における児童人口と出生数について述べたあと、子育てを取り巻く環境として、@広い範囲に見られる子育て不安、A子育て不安の原因、B住宅環境及び負担感の増大、C子育て支援に当たって留意すべき課題(学校教育に関する問題、児童虐待の問題、外国人の増加に伴う問題)についてまとめている。つぎに、「施策の展開に当たっての基本的視点」として、@健やかに子どもを産み育てる環境づくり、A児童福祉と母子保健及び関連分野との連携、B都と区市町村における施策の展開について述べている。さらに、「子育て支援のための新たな施策のあり方」としては、@子育て支援のためのシステムの構築、A新たな児童福祉施策の展開、B新たな母子保健施策の展開、C児童の虐待防止対策の新たな展開について述べている。 ここでいう「子育て支援」の理念とは、「子どもを産み育てることは、個人の自由意思に属することが尊重されるべきものである」としつつ、「行政は都民が希望と喜びをもって子どもを産み育てたいという動機づけになるような基盤づくりと、子どもを産み育てたいと希望する人々への支援策を行うものである」というものである。そして、出産・育児に関する不安、親が自ら何らかの障害をもちながら行っている子育て、または、障害をもった児童を育てている子育てなどは、相談や支援の制度から潜在化しがちであることから、適切な情報提供と発見のシステムを要する問題をも児童福祉施策の対象に含めていくべきであるとしている。 このように、「子育て支援」ヒット文献については数は少ないものの、公開された知見を継承、発展させる文献データベース活用の意義が大きいことは明らかといえよう。 図表2 「親子」ヒット実数と比率 発行年 文献総数 題名ヒット数 要旨ヒット数 総合ヒット数 90 102 0 10 10 91 168 2 10 11 92 178 0 4 4 93 172 1 9 10 94 213 2 15 15 95 221 1 8 8 96 255 1 14 14 97 287 1 26 26 98 335 3 18 18 99 364 5 38 39 00 469 7 33 37 01 385 4 16 17 02 281 2 16 16   3430 29 217 225  これに対して、図表2からは、「親子」のヒット文献が文献総数の1割を前後する年も多くあったことがわかる。この傾向は、データベース収録対象初年の1970年から続いてきている。  このことは、「親子関係」に関する研究や、その改善のための実践が、長年にわたり続けられてきたことを示すものであると考える。そこで得られた知見や成果を継承、発展させて、今後の子育て支援の研究や実践を進めることの重要性も、明らかといえよう。 5. 課題  子育て支援関連文献データベースを構築するに当たっては、著作権を侵害しないよう十分留意することが必要になる。  「青少年問題に関する文献データベース」の構築において、われわれは、原著者の書いた「要旨」についてさえ、それぞれの原著者に許可を得ることなく、ドキュメンテーションの要旨として掲載することはできないことを知った。多くの原著者は、成果公開のために要旨を書き添えていると推察されるのだが、著作権法上では、上のとおりとなる。反面、「文献の構成」については、原著に忠実に紹介することには問題がないこともわかった。  しかし、文献データベースの活用に当たって、とくに重要になるのは、すでに述べたように「要旨」である。「要旨」によって、先達の研究や実践による知見や成果を活用するための見通しをもつことができる。 さらに、原著者が許すならば、「全文データベース」を構築したい。そのことによって、全文テキストからの自由語検索が可能になり、子育て支援の「研究仲間」や「実践仲間」が、時空間を超えて「協働」する条件が飛躍的に整うと考える。 研究には、同じ問題意識を持って研究を志す「未知の人」同士の仲間意識の存在が指摘されよう。実践には、各所、各機関で、ときには孤軍奮闘している者同士が連携、協力して、互いに高めあうためのネットワークが必要といえよう。 筆者は、そこに、財産権としての著作権は開放して、自己の成果公開を促進しようとするボランタリズムの可能性を見る。 子育て支援関連文献データベースの構築経過においては、根気よく原著者の承諾を得ながら、ゆるやかだがボランタリーで広範な「原著者・実践家ネットワーク」を形成し、そのことによって子育て支援研究と実践の往復運動の活性化に寄与したい。