佐野市生涯学習推進における「子育てまちづくり」の検討 西村美東士 1.目的  平成19年3月、佐野市生涯学習推進協議会は、「子育てのまちづくり」を大きな柱の一つとする「生涯学習推進基本構想について」を市長に答申した。本研究では、その審議過程を検討する。 2.方法  答申作成過程における委員の青少年育成及び子育てのまちづくりに関する発言内容を、「社会化促進要因」の視点から逐語的に分析する。 3.経過  平成17年2月28日、一市二町が合併して、人口約12万7千人の新佐野市が発足した。そこで、同年8月30日、岡部正英市長から佐野市生涯学習推進協議会に対して、新佐野市における生涯学習社会の構築を図るための新しい佐野市生涯学習推進基本構想について諮問があった。  佐野市は、現在、第1次佐野市総合計画策定基本方針を示し、将来像を「育み支え合うひとびと、水と緑と万葉の地に広がる交流拠点都市」として、市民参加を基本方針に掲げて「総合的なまちづくり」に取り組もうとしている。  筆者は、答申の原案作成者として、次のように考えた。市民一人一人の個人としての充実とともに、その個人が新佐野市のまちづくりのなかで市民としての役割を発揮することによって、ますます個人としても新佐野市としても充実するという「自己形成と社会形成の一体化」を実現する生涯学習推進の展望を示したい。  旧佐野市においては、平成5年4月に「佐野市生涯学習推進基本構想」を策定し、同年10月2日には「楽習のまち佐野」都市宣言を行い、「私らしさ咲かせます楽習のまち佐野」をキャッチフレーズとして、「私」という個人をキーワードとした生涯学習のまちづくりを全市全庁的に進めてきた。それは、地域住民一人一人の「私」を最上段において、「生涯学習のまちづくり」を実現しようとしたものである。  この成果をさらに発展させるため、中間答申作成に当たり、「私らしさこのまちに咲かせます」というコンセプトを設定することとした。それは、「旧佐野市生涯学習推進基本構想」でいう「私」が、学びを通してまちづくりに関わり、まちづくりを通して学ぶことによる「自己形成と社会形成の一体化」の実現の方向でもある。  以上から、本答申の作成過程は、まちづくりという「公的課題」の学習を、いかに「私らしさ」の充実という個人的課題と結びつけて推進するかという課題に直面しながら進められたということができる。  そこで、本研究では、答申作成過程における委員の青少年育成及び子育てのまちづくりに関する発言(全50件)の内容を分析した1。  中間答申の作成スケジュールは表1のとおりであった。 表1 中間答申作成スケジュール  起草結果の概要は表2のとおりであった。 表2 中間答申本体部分のキーワード  分析にあたって、以下のように「社会化促進要因」を仮説的に設定して、その妥当性を確かめようとした。 A 居場所 B 参画 C 仲間づくり D 文化や労働の伝承 E 地域の教育力 F 自然の教育力 G 教育機関の教育力 H 家庭の教育力 4.結果 「社会化促進要因」ごとに集計した結果は表3、表4、図1のとおりである。 表3 各回の発言に表れた社会化促進要因の分布 表4 各委員の発言に表れた社会化促進要因の分布 図1 委員の発言に表れた社会化促進要因の出現回数  上記結果及び該当発言の詳しい検討から、以下の4点が結論づけられた。 @「まちづくり推進」という公的課題の学習において、生涯学習推進関係者のあいだでは、青少年と親の社会化不全の状況が問題視された。 A社会化不全状況の解決のためには、先述の「社会化促進要因」が重要であると認識された。 B「まちづくり推進」において、これらの「社会化促進要因」を活性化するための方策については、委員発言および起草結果から、「居場所」、「参画」、「仲間づくり」などに関して、実践的で有益な一定の提言が行われた。 Cしかし、「地域教育力」、「家庭教育力」などに関しては、現在の「衰退」「閉塞」等の状況に対する憂慮がややもすると強く表れ、実効性のある現実的な支援方法を十分に具体的に明らかにするまでには至らなかった。 5.課題  平成19年度は、佐野市生涯学習推進本部が設置され、基本構想及び基本計画が策定される予定である。  本研究においては、その策定過程に積極的に関わりながら、「子育てまちづくり」の施策立案のあり方について、実践的に検討していきたい。 1 詳しくは、次稿を参照されたい。西村美東士、「まちづくり推進における青少年と親の社会化支援方策―佐野市生涯学習推進基本構想作成過程からの検討―」。聖徳大学生涯学習研究所紀要『生涯学習研究5』,pp.17-35,2007.3