豊島区家庭教育推進員による子育てまちづくり計画策定 西村美東士 1.目的  「子育てまちづくり」を実現するためには、「まちづくりはあなたまかせ→わが子の問題解決のための学習→自分の子育て行動に対する気づき→自分自身や家族関係に対する気づき一親の会や地域社会における実践的学習→子育てまちづくりへの参画」という発展段階に沿った子育て学習の推進が求められる。  そこで豊島区家庭教育推進員の毎月の集合学習の場を利用して、推進員である母親たちに対して、各地区における「子育てまちづくり計画」の策定を指導し、その経過と成果を検討する。  そのことによって、親や市民の参画による子育てまちづくり計画策定の意義と方法を明らかにする。 2.方法  分析は、指導者の活動(発言内容、資料提供、ワークショップへの介入内容)、推進員による評価(アンケート)、計画策定成果等を対象に行った。 3.経過  家庭教育推進員とは、各区立小学校から委嘱された保護者によって、家庭教育に関する学習活動を行う豊島区独自の制度である。その概要は資料1のとおりである。  学習プログラムは、表1のとおり進行させた。  第1回のレジメで筆者は、次のようにワークショップの意義と方向性を示した。  一般のPTA会員等は、まちづくりへの具体的展望もなく、与えられた仕事をただこなしているだけ、「子育てまちづくり活動」は、行政や一部の「熱心な人」だけによって行われているという状態が続く限り、いくら政府や自治体が子育て支援に資金等を投入したとしても、本当の「子育てのまち」は実現できない。また、その「子育てまちづくり活動」の点検や評価も、一部の人たちの独善に基づくあいまいなものになってしまう。  これに対して、クドバスを活用して作成した「必要事項リスト」は、「わが街子育て環境改造計画」のそれぞれの到達目標が、計画した推進員の側にも、一般のPTA会員などの側にもはっきり見えるものになる。そのため、「子育てまちづくりへの市民参画」の道筋をよりいっそう具体的に明確にすることができる。また、これに基づいた「子育てまちづくり活動」は、一般のPTA会員等の納得のもとに行われることになる。  さらに、たとえば、ここで計画した「わが街子育て環境改造計画」に基づいてPTAで講座を計画する場合、特定の到達目標を達成するための「必要能力」を2時間ぐらいかけてリストにするワークを参加者といっしょになって行うとよいだろう。それをもとに「必要能力」を確実に習得できるような講座のカリキュラム(学習内容・方法)を編成する。そうすれば、参加者がたんなる参加者ではなく、自分の参加する学習会の企画にまで参加するということになる。そういう活動の積み重ねによって、「子育てまちづくり」への市民参画は実現すると考えられる。その活動は、きっと「楽しい活動」になるだろう。「やらされている」のではなく、「自分も参画している」のだから。 4.結果  第1回の講演で講師主導型の「クドバス」を行い、全員の発言を集約した結果として、クドバスチャート「豊島区子育て環境整備のためのアイディア」を表2に示す。  表2から、「安心」、「交流」、「自然」、「楽しさ」の4要素が、初回に確認されたことがわかる。  なお、筆者は、この結果に対して、「冒険教育」がもつ教育的効果について説明し、推進員の検討を促した。  資料2に「平成18年度豊島区家庭教育推進員学習発表会式次第」を示した。本資料には、各グループのテーマが示されている。  本発表会では、各グループの「子育てまちづくり」の計画策定活動において、次のような体験と気づきが報告された。  地域の公園の木が生い茂っていて、見通しが悪く、子どもの安全上、問題があると判断した。そこで、初めての体験だが、行政の公園所管部署に問い合わせたところ、次の日には剪定してもらえた。また、反面、緑化の観点からは、無制限に刈り取りなどをすることはできないことも教えてもらい、逆の視点からの問題もあることに気づいた。  表3に「平成18年度豊島区家庭教育推進員振り返りシート集計結果」を示した。  本表から検討すべきことは多いが、ここでは、次の点について指摘しておきたい。  各グループの活動において、「子育て仲間」としての交流、とくに「他校のお母さんとの交流」が大きな効果をもたらしている。それは、本事業に一番批判的回答であったと思われる推進員29でさえ、「他校との交流」を意味あることとしてとらえていることからも明らかである。  各グループの研究成果発表までの代表的な流れを下図に示す。 「他校の母親との交流・意見交換」   ↓ 「クドバス活用による地域課題の整理」   ↓ 「自主活動によるフィールドワーク」   ↓ 「他校の母親との共同研究」   ↓ 「研究成果の発表と他地区の母親」   ↓ 「クドバス活用による地域課題の整理」 5.課題  本事業の結果から、講師は、母親たちによる「子育てまちづくり計画」策定の意義と課題について資料を作成し、推進員に配布した。これを資料3に示す。  また、資料3に添付した図を資料4に示す。これは、目標達成型の子育てまちづくり活動を実現するために推進員に提起した課題である。われわれは、ネットワーク型を超える活動のあり方を検討する必要があると考える。  また、表3に示された推進員各人の気づき過程や阻害要因については、より詳しく検討したい。そこでは、個人の学習の側面から、活動のあり方を検討する必要があると考える。  とくに、表3の最後に示した「安全冒険公園」を計画したグループの母親の「安全冒険公園を作りたい一予算がなくてできない」(25)、「実現できないのに、話し合ったり勉強したりするのは必要なのでしようか?」(26)という記述については、一般の親たちが「子育てまちづくり」に参画する場合の、重要な課題を表していると考える。-  従来の親教育の研究において、「学習成果の社会還元」の重要性については認識されていたといえよう。しかし、自分たちの学習成果である「安全冒険公園づくり」などの提案を現実化して社会還元としての成果に結びつけるためには、行政や関連機関との協働に向けた学習がさらに必要になる。このことから、親の学習という自己形成の営みと、学習成果のまちづくりへの反映という社会形成の営みとが循環し、一体化して行われる動的構造を明らかにしていく必要があると考える。 資料1 家庭教育推進員制度の概要 豊島区家庭教育推進員制度(概要) ☆設置の趣旨  昨今の家族形態や意識の多様化、また、人口の流動が激しいなどの理由により、ともすれば家庭や地域への関心や結びつきが希薄になりがちな社会状況の下で保護者たちの家庭教育への理解を深め、個々の家庭における教育力の向上を図るために設置されました。 ☆活動内容 (1)家庭教育の参加、奨励及び普及 ・家庭教育に関する学習活動を行い、家庭教育への理解を深める。 ・調査活動を通じ、地域への関心を深める。 ・一年間の活動の成果を活動発表や地域活動などの形で、家庭・学校・地域にフィードバックする。 (2)家庭教育に関する情報の提供及び交換 ・PTAや地域のグループなどに情報提供を行うことにより、地域に、家庭教育に関する情報交換の場をつくる。 (3)その他地域における家庭教育の振興 ・家庭教育講座等の家庭教育に関係する事業への参加を促す。 ☆推進員の活動について ・月1回程度金曜日の午前中、定例会(家庭教育に関する研修・研究のための活動日)を開催いたします(事業時間内は保育つきです。保育を希望される場合は、定例会の1週間前までに担当係までご連絡くださいTEL3981‐1189)。 ・いくつかのグループに分かれ、各グループごとにテーマを決定し、研究の成果を研究発表会にて発表していただき、報告書にまとめていただきます。 ・年間の活動費をグループ単位で1万円支給いたします。活動に必要な消耗品(紙や文具など)は、区で支給します。月例会以外の日にも、必要に応じてグループ活動をすすめてください。 表1 家庭教育推進員活動日程表 表2 豊島区子育て環境整備のためのアイディア 資料2 平成18年度豊島区家庭教育推進員学習発表会式次第 表3 平成18年度豊島区家庭教育推進員振返りシート記述内容一覧 今年度の推進員活動を振り返って、改善点やご意見をお聞かせください。 1.テーマについて (1)テーマを限定して欲しかった。(身近なテーマで) (2)大きなテーマだったが、悩みながらもみんなで意見を出し合い、まとめていった過程が良かった。 (3)テーマを決めるのが難しいと思った。それがプレゼンの提案の段階でよいのか、具体的に実現させることが目標なのかが見えにくかった。 (4)家庭教育推進ということで、テーマは大きすぎない方が良いかと思う。 (5)テーマが広すぎて最初は何だかわからなかったけれど、クドバス等をすすめていくうちに、像が見えてきて形になった。同じテーマなのに、構成人員によって各班別々なものになり、研究に幅がでるのはすごい!!テーマが大きすぎたのが良い結果を生んだと思う。来年のテーマが少し絞られるようだが、その中で差がでてくるのは面白いかもしれない。 (6)最初は難しいテーマだと思ったが、グループで話し合い、私たちの地域にはこのような、あんなものがと意見が上がり、テーマを決めることができた。 (7)身近なテーマなので入りやすかったが、簡単なようで難しかった。ただ、こうしたい、ああしたいというだけでなく、その意見をどう形にするか、結果を出すのが、自分にできるのか考えさせられた。 (8)家推で取り上げるテーマとしては、難しかったように思う。あまりにも実現するには不可能はことが多くて悩んだ。 (9)子育てまちづくり計画だと、実現が難しいので、地域を改善するための計画だけでなく、もっと広い範囲のテーマ(食生活改善運動不足解消ゴミの出し方などなど)、地域と家庭の暮らし改造計画などのほうが、発表会でも見て楽しめると思った。 (10)テーマは最初、とても難しく感じました。でも、具体的に活動していくうちに、自分たちのテーマが見えてきた。それが夏休み前の段階だった。もう少し早い時期に自分たちのテーマが見つかれば、もっと時間を有効に使えたかなと思う。 (11)早い段階でテーマを絞ったほうがよかったが、テーマが広すぎて絞りきれなかった。夢を挙げるのはいいが、絶対実現不可能なものに取り組んでも意味がない。 (12)子育て環境改善計画ということで、少し堅いイメージがあり、最初どこから考えていけばよいのかわかりませんでした。クドバスの手法も初めてだったので、少し戸惑った。 (13)テーマが大きすぎて、結果を1年で出すのか、来年度に引き継ぐのかがわからなくて、もう少し身近なテーマが良かった。クドバスにちょっと時間が掛かりすぎて、後半に時間を掛けられなかった。 2.活動の進め方について (1)皆に解かる言葉で、ストレートにわかりやすく説明して欲しい。 (2)月に一度でちょうどいいと思う。 (3)良いペースで進められたように思う。 (4)テーマは大きいながらも、1回ごとの活動を行いながら、まとめることができた。 (5)グループ内でたくさん話しをする機会が多かったのは、団結信頼を得てGood!!来年も 個人の結びつきを重視して、話す時間が多いほうがよいと思う。 (6)各グループのテーマが決まったら、すぐに進めれば後半がバタバタしなかったかもしれない。実際、私たちが活動し始めたのは、9月位からだったと思う (7)グループごとの活動は良かった。予定が調整できる方が活動しやすいと思った。 (8)進め方は問題ない。楽しく活動できた。 (9)個人的な反省だが、発表のまとめを担当してみて、もっと早くに取り掛かれば、グループみんなの意見を取り入れられたのにと思った。 (10)パソコンが各グループに1台くらい必要。最後には何か実績を必ずあげるなど、目標を作らないと空論で終わってしまう。 (11)テーマが大きいわりに、月1回午前中の月例会では時間が足りない。かといって、みんな忙しいのでこれ以上の時間はなかなかとれないのが現状です。 (12)月例会以外の日に、発表前にもう何日か集まって、準備できればと思った。(他のグループはやっていたのかもしれないが。) (13)グループごとの活動を始めたのが9月だったのだが、6月くらいから活動にかからないと間に合わなくなってしまう。年末年始にもかかってしまい、忙しかった。 (14)3.その他 (15)色々なタイプの人たちと話せたことが自分の成長になったと思う。 (16)一年間の活動では、やりきれない部分が多いと思う。 (17)発表会に行政側が最初から最後までいて欲しかった。 (18)参加人数が少ないと盛り上がらないので、やはり参加が大切。初回は各人気持ちに温度差があるので、入り込みやすい、わかりやすいテーマ提示が必要。個人的には、地域を構成するのは個なので、個のあり方を育てるワークがいいのではと思います。学校で起きている問題は家庭の問題の集大成なので。行政がやっていることなので、最後まで行政が見守る姿勢が欲しい。 (19)11月からは、調査したことを冊子にまとめる作業でとても忙しかったけれども、楽しかったです。 (20)発表会は緊張して大変だった。何もかもが考えていたようなことではない活動で苦労した一年だったが、何とかやり遂げることができて個人的には満足している。 (21)4人だと、1人休んでしまうと3人になり、活動するのに不安になるので大変だった。発表会はすごく嫌で、意見など言えないと思ったのですが、前の方に観客がぜんぜんいなかったので、逆によかったです。 (22)推進員の役割が明確でない。最後の報告書は推進員がやるのではなく、課のほうですべきでは? (23)お菓子とても美味しかったです。ありがとうございました。(エライ!) (24)月曜日に集まるのはちょっと。なかなか来れる人は少ない様な気がします。今までどおり、金曜日のほうが良いのでは。 (25)安全冒険公園を作りたい→予算がなくてできない。 (26)実現できないのに、話し合ったり勉強したりするのは必要なのでしようか?