―提言4― 「学び合い、支えあい」による自己形成と社会形成の一体化 西村美東士(聖徳大学生涯教育文化学科教授)  本稿では、2つの視点から、自己形成と社会形成の一体化による地域活性化の意義について提言したい。  第一に、「生涯学習のまちづくり」の視点から考えたい。佐野市では、平成20年3月、「私らしさ このまちに咲かせます」を基本理念とする佐野市生涯学習推進基本構想を策定した。この基本理念には、「自分が充実するとともに、社会にもかかわりをもち、まちづくりの仲間と出会って、まちの中での自己を位置付け、まちをよりよいものにしているという実感をもつことによって、より充実する」というメッセージが含まれている。そして、市民一人一人の「私らしさ」を、「このまちに」、参画という形で「咲かせる」ことを表している。このことから、同構想・計画では、市民が学ぶことによる自己形成活動と、まちづくりに参画することによる社会形成活動の一体化が提起された(図1)。 図1 佐野市生涯学習推進基本構想が提起した「自己形成と社会形成の一体化」の概念  今日の社会においては、個人化、流動化、多様化が進み、偽装が横行し、格差が拡大している。そのため、多くの人々が、これまで社会が共有してきた目標や価値を疑うようになり、社会形成の展望を見失いつつある。また、市民の側も、「社会の形成者」としての自負やプライドなど感じられない状況が拡大しているといえる。  このような状況において、「学びあい、支えあい」によって、市民が個人として充実し、社会の中で、つながり・広がり・深まり、社会を形成し、それが、市民一人一人の「私らしさ」や「自分さがし」に還元される展望を示すことは重要な意義をもつものと考える。  第二に、「子育てのまちづくり」の視点から考えたい。文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業聖徳大学子育て支援社会連携研究「連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究」(研究代表者松島別役案_暗黙知共同研究 鈞副学長)においては、個人完結型の子育てから社会に開かれた子育て観への転換というコンセプトのもとに、自己形成と社会形成の一体化による「子育てのまちづくり」のための研究を進めている(図2)。 図2 聖徳大学子育て支援社会連携研究における「自己形成と社会形成の一体化」の概  モンスターなどと呼ばれる親が出現し、子育て専門機関への「あなた任せ」の子育てが進行する今日、出生率向上のための施策ばかりをいくら講じたところで、本質的な問題解決には至らないことは明らかである。親が、子育て仲間をつくり、子育て学習のなかで学びあい、支えあい、「子育てのまちづくり」の中で役割を果たしてこそ、わが国の少子化インパクトは軽減されるものと考えたい。  以上の観点に基づき、地域活性化事業において、人々の「学びあい、支えあい」による「自己形成と社会形ーの一体化」を明確に位置づけた戦略を立てるよう提言する。