未来の母親に対する社会化支援の方法と効果 −子ども・友達・親・社会との関わり度を中心に− 西村美東士 聖徳大学児童学研究所紀要『児童学研究』No11(2009年3月)原稿 1 研究目的 子育てにおいては、子どもに対する適正な理解が重要である。そのために必要な能力は、未来の母親である女子学生に対して、どのようにして身につけさせることができるのか。現在、たとえば、共感的理解のための傾聴訓練などは見受ける。だが、実際の子育ての場においては、共感的理解だけでなく、相手の気持ちを推察したり、交渉の収束の先を予測したりしながら、子どもと関わり合うことが必要になる。これは、未来の親である現代青年に対して、社会的能力が求められるということを意味している。われわれは、そのような社会化のための効果的な支援方法を見出す必要がある。 このような社会化は、親が子ども以外の他者とも関わりを深め、その目が社会に開かれ、翻って自己の子育てをより充実したものにするという望ましいサイクルを実現するためにも、重要である。 われわれは、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業(社会連携研究推進事業)として「連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究」(研究期間:平成17年度〜平成21年度、研究代表者:松島鈞副学長)を進めている。本研究は、学内に「子育て支援社会連携研究センター」を新設するにあたって、大学院の総合的指導性のもとに、地域のすべての構成員の連鎖的参画による地域活性化と関連産業の振興に結びつけて子育て支援を実践し、子育てのまちづくりのための開発的研究を行おうとするものである。本研究では、子育てのまちづくりの中に、親の自己形成と社会形成の一体化の展望を求めようとしてきた。そして、その実現のためには、「個人内完結型の子育て観から社会に開かれた子育て観への転換」が研究全体を統合する鍵概念となることを明らかにしてきた。 しかし、今日の社会においては、学生にとっても、親にとっても、社会化は困難な課題となりつつある。子育てにおいても個人化が進行し*1 、メディアからは「モンスターペアレント」などの言説が流布され、「社会化されていない」親たちが問題にされている。ギデンズ(Gidens,A.)は「新しい個人主義」の概念を提示し、「個人化の進行が、個人のあり方を根本的な不安にさらす」という課題を提起した*2 。 先に述べた親や、未来の親としての学生の社会化と、それによる自己形成と社会形成の一体化は、個人的にも、社会的にも、緊急の課題といえよう。 本研究では、保育士、幼稚園教諭をめざす女子学生の、子ども・友達・親・社会との関わり度、それと自己との関係について、「社会化」の重要な一側面ととらえ、社会学のワークショップ(以下、WSと略す)型授業におけるその効果を検証したいと考えた。「社会に開かれた子育て観」をもつ「良き親」としての資質は、保育士、幼稚園教諭にとっても重要な資質であると考えたからである。 2 研究方法 2-1 授業の経過 授業科目名は「児童学の社会学的基礎」(前期)で、受講者は幼稚園教員や保育士をめざす女子学生1年90人である。授業の目標は次のとおりである。 @ 子ども・子育て支援者、未来の母親として、自分が相手を理解する方法をまとめることができる。 A 青少年の個人化と社会化を統合的に支援するための自分なりの留意点をまとめることができる。 B 青少年の「みんなぼっち」状態の解決の可能性と方法について、自分の言葉でまとめることができる。 各回の授業内容は次のとおりである。 1期(WS型授業) 1-1社会学入門=自分らしさ、自己と社会、みんなぼっち、個人化と社会化 1-2自己と異なる他者を受け入れる=第一印象ゲーム 1-3価値観の異なる他者との共存=価値観ゲーム 1-4個人化と社会化=「私らしさと社会性」図解WS 1-5一匹狼が生かされる組織運営=「幸せの瞬間」カード空間配置 1-6価値を共有する方法=「幸せの瞬間」表札付け 2期(クドバス*3 型授業) 2-1仲間づくりのために必要な能力=クドバスチャート作成@ 2-2仲間づくりのために必要な能力=クドバスチャート作成A 2-3仲間づくり能力の構造化=クドバスチャートに基づく科目編成@ 2-4仲間づくり能力の構造化=クドバスチャートに基づく科目編成A 2-5仲間づくり能力支援カリキュラムの作成=各科目における学習内容・方法の構造化と配列 2-6仲間づくり能力支援プログラムの作成=各回の「進行表」の作成 2-7仲間づくり能力支援プログラムの運営=広報計画、チェックリスト、事業評価票の作成 3期(まとめ) 3-1全体振返り 3-2まとめ WS型授業で行われたゲーム等は、プロダクツを作るものの、主眼は他者とのコミュニケーションや他者理解にある。これに対して、クドバスでは、5人前後の3時間程度のグループワークによって、必要能力をカードに書き出し、これを仕分けして、重要度順にリスト化してクドバスチャートを作成する。さらに、このチャートをもとにカリキュラム等を作成する。本授業では、クドバスによって、実用的プロダクツとして、実際にクラスで利用できるような「仲間づくり能力支援プログラム」を作成させた。 2-2 効果測定の方法 効果測定は、各期の最初にそれぞれ「事前測定」、「ワークショップ効果測定」、「クドバス効果測定」を行った。あわせて、同時期に他の教員の同科目の受講学生139人の授業において効果測定を行い、結果を比較した。比較の対象とした授業は、社会化を主テーマとしたものではなかったが、第一に、それが理想的な講義型授業であると判断できるため、ワークショップ型授業の効果との比較に適していること、第二に、同学科、同コースの他クラスの1年生が受講する授業であったため、学年の大学1年前期という節目の時期において、経過日数による変化という要素が影響している場合に、その影響を差し引いて検討できることの2つの理由から、比較の対象とした。 評価指標は、「1 他者理解の方法と可能性」、「2 自分らしさと社会性」、「3 若者の社会関係」の3ジャンル点について、子ども・友達・親・社会との関わり度と自己との関係を中心に設定した。設問は、各ジャンルに9個ずつ設け、5段階評価とした。表1のとおりである。比較対象授業も含めて、全6回分、すべて同じ設問とした。 表1 アンケート項目 1 他者理解の方法と可能性 1-1 大人でも子どもの気持ちを理解できる 1-2 大人でも子どもの立場になって考えることができる 1-3 大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる 1-4 人は友達の気持ちを理解できる 1-5 人は友達の立場になって考えることができる 1-6 人は友達の気持ちを想像して確かめながら会話できる 1-7 子は親の気持ちを理解できる 1-8 子は親の立場になって考えることができる 1-9 子は親の気持ちを想像して確かめながら会話できる 2 自分らしさと社会性 2-1 人が自分らしさを優先することはよいことだ 2-2 人は友達とつきあうことによって自分らしさが育つ 2-3 人は社会で働くことによって自分らしさが育つ 2-4 社会のルールを守ることによって人はより幸せになれる 2-5 若者に公共マナーを身につけさせることは可能だ 2-6 社会に役立つことによって人はより幸せになれる 2-7 自分らしさを失わずに社会性は身につけられる 2-8 自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる 2-9 個性があって主張する人が多い社会は良い社会だ 3 若者の仲間関係 3-1 仲間といても孤独を感じる若者がいる 3-2 仲間にあわせるために自分を失う若者がいる 3-3 適度な距離感をもちながら親密につきあうことは可能だ 3-4 触れられたくないことには触れなくても理解し合える 3-5 お互いの好みが違っても、よい仲間になれる 3-6 お互いの価値観が違っても、よい仲間になれる 3-7 仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい 3-8 仲間が悪いことをしたときは、厳しく批判したほうがよい 3-9 社会に役立つ活動を仲間とすることは楽しいことだ 3 研究結果  ―講義型・ワークショップ型授業比較による効果検証― 講義型とクドバスワークショップ型の授業の効果を、第1回調査結果において差がないことを前提にして比較した結果を示す(表1)。本表では、第3回調査の講義型とクドバスワークショップ型の結果の差について、ピアソンのカイ二乗検定(両側)により有意確率を示し、その信頼度が95%以上の項目に*、99%以上の項目に**を付した。 表1 講義型・クドバスワークショップ型授業の効果比較 設問 有効数 効果の差 N パーセント 有意確率 信頼度 Q1_1 大人でも子どもの気持ちを理解できる 229 99.6% 0.007 ** Q1_2 大人でも子どもの立場になって考えることができる 229 99.6% 0.001 ** Q1_3 大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる 229 99.6% 0.065   Q1_4 人は友達の気持ちを理解できる 229 99.6% 0.025 * Q1_5 人は友達の立場になって考えることができる 229 99.6% 0.002 ** Q1_6 人は友達の気持ちを想像して確かめながら会話できる 229 99.6% 0.003 ** Q1_7 子は親の気持ちを理解できる 228 99.1% 0.135   Q1_8 子は親の立場になって考えることができる 228 99.1% 0.006 ** Q1_9 子は親の気持ちを想像して確かめながら会話できる 228 99.1% 0.011 * Q2_1 人が自分らしさを優先することはよいことだ 229 99.6% 0.075   Q2_2 人は友達とつきあうことによって自分らしさが育つ 229 99.6% 0.007 ** Q2_3 人は社会で働くことによって自分らしさが育つ 228 99.1% 0.033 * Q2_4 社会のルールを守ることによって人はより幸せになれる 229 99.6% 0.032 * Q2_5 若者に公共マナーを身につけさせることは可能だ 229 99.6% 0.123   Q2_6 社会に役立つことによって人はより幸せになれる 228 99.1% 0.019 * Q2_7 自分らしさを失わずに社会性は身につけられる 229 99.6% 0.033 * Q2_8 自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる 227 98.7% 0.006 ** Q2_9 個性があって主張する人が多い社会は良い社会だ 229 99.6% 0.769   Q3_1 仲間といても孤独を感じる若者がいる 228 99.1% 0.279   Q3_2 仲間にあわせるために自分を失う若者がいる 229 99.6% 0.376   Q3_3 適度な距離感をもちながら親密につきあうことは可能だ 229 99.6% 0.012 * Q3_4 触れられたくないことには触れなくても理解し合える 229 99.6% 0.069   Q3_5 お互いの好みが違っても、よい仲間になれる 229 99.6% 0.001 ** Q3_6 お互いの価値観が違っても、よい仲間になれる 229 99.6% 0.099   Q3_7 仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい 228 99.1% 0.009 ** Q3_8 仲間が悪いことをしたときは、厳しく批判したほうがよい 228 99.1% 0.510   Q3_9 社会に役立つ活動を仲間とすることは楽しいことだ 228 99.1% 0.017 * 以下、表1に示した項目ごとに測定結果を示す。欠席者は少なくなく、回答漏れも各項目31件を超えない程度であったので、無回答については比率から除いた。ここで、左図「WS型」については、第1回調査の結果(太黒線、◆菱形マーカー)は「初期状態」、第2回の結果(灰色細線、■正方形マーカー)は「WS効果」、第3回の結果(白線、△三角マーカー)は「クドバス効果」をそれぞれ表すものである。 (1) 他者理解の方法と可能性 1-1大人でも子どもの気持ちを解できる  クドバス効果が顕著である。これに対して、WS効果については、「あまりそうでない」とする者がやや増えており、対照的である。また、次に示す「子どもの立場になって考える」よりも、「そうだ」とする率が全体的に低い中にあって、この結果は注目される。 1-2大人でも子どもの立場になって考えることができる  クドバス効果については、「そうだ」とする者の増加が顕著である。これに対して、WS効果については、「まあそうだ」の方が増加している。また、講義型授業においては、肯定率がむしろ少しずつ減る傾向が示されている。講義型授業によって、むしろ「子どもの立場になって考える」ことの難しさに気づき始めたからなのか、18歳の若者の一般的な変容なのかはわからないが、いずれにせよ「逆転現象」として注目される。 1-3大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる  ここでも「逆転現象」が示されている。また、変化量から考えると、クドバス効果よりもWS効果の方が強かったといえる。 1-4人は友達の気持ちを理解できる  講義型授業の結果から、友達理解については、一般に肯定(「まあそうだ」の消極的肯定)が初期より増えるという結果が示されている。これを前提に比較すると、クドバス効果によって「そうだ」の積極的肯定が増えたことが注目される。ただし、この設問については、2つの授業で初期状態が大きく異なるため、十分な比較はできないと考える。 1-5人は友達の立場になって考えることができる  ここでも「逆転現象」が示されている。そして、WS型からクドバス型へと次第に肯定率が高まることが示されている。 1-6人は友達の気持ちを想像して確かめながら会話できる  クドバス効果が顕著である。これは、人がもつ、「相手の気持ちを推察して交流する能力」への気づきの表れと見ることができる。 1-7子は親の気持ちを理解できる  親理解に関する以下の3つの設問の回答は、初期状態においては、すべて極端に低い傾向が示された。しかも、WS効果についても、目立った変化は示されていない。その点で、クドバスは劇的ともいうべき効果があったといえる。 1-8子は親の立場になって考えることができる  上と同様である。 1-9子は親の気持ちを想像して確かめながら会話できる  上と同様である。 (2) 自分らしさと社会性 2-1人が自分らしさを優先することはよいことだ  「自分らしさを優先すること」への肯定率の増加に関して、クドバス効果があったことは、クドバスに「個人化」の承認作用があったことを示すものといえる。これに対し、WS効果は認められなかった。ただし、講義型においても「まあそうだ」が増えている。これは、個人と社会の関係をテーマとする社会学の体系を講義形式で学んだことによる効果を示すものと推察される。 2-2人は友達とつきあうことによって自分らしさが育つ  友達づきあいと自分らしさとの関係については、すでに初期状態から肯定的な傾向が示されている。しかし、WS効果としては、「まあそうだ」が少し減っていることから、若干の逆効果が認められる。クドバス効果においては「そうだ」が少し増えていることが示された。また、講義型授業においては、「そうだ」という積極的肯定から「まあそうだ」の消極的肯定への変化が著しい。この結果は、「社会化」が個人を抑圧する側面をもっていることを、講義または学生生活の中で学んだことを示すものと考えられる。 2-3人は社会で働くことによって自分らしさが育つ  社会的労働と自分らしさとの関係については、講義型とクドバス型とでは逆の現象が示された。ただし、初期状態において否定的回答は総体的に少ないことに注意する必要がある。 2-4社会のルールを守ることによって人はより幸せになれる  社会化の一側面としての規則遵守と個人の幸福追求との関係については、WSではなく、クドバスにおいて顕著な効果が示された。 2-5若者に公共マナーを身につけさせることは可能だ  他の若者に対する公共心育成の可能性に関しては、初期状態から否定的回答は極端に少なかった。だが、WS効果については、「そうだ」がわずかながら減っている。 2-6社会に役立つことによって人はより幸せになれる  クドバスに大きな効果が認められる。 2-7自分らしさを失わずに社会性は身につけられる  クドバスに大きな効果が認められる。 2-8自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる  クドバスに大きな効果が認められる。 2-9個性があって主張する人が多い社会は良い社会だ  クドバスに大きな効果が認められる。 (3) 若者の仲間関係 3-1仲間といても孤独を感じる若者がいる  WSに大きな効果が認められる。逆に、クドバスにおいては「そうだ」の回答がWSのときより減っている。 3-2仲間にあわせるために自分を失う若者がいる  上と同様である。 3-3適度な距離感をもちながら親密につきあうことは可能だ  クドバスに効果が認められる。これに対して、講義型授業では、積極的な肯定がむしろ減っている。 3-4触れられたくないことには触れなくても理解し合える  上と同様である。 3-5お互いの好みが違っても、よい仲間になれる  「好みの違い」については、下の「価値観の違い」とは対照的に、初期状態から受容的であった。しかし、講義型授業においては、「そうだ」の率が次第に減っている。入学後、クラスで友達ができるにしたがって、好みが重要な要素になることを示しているといえる。そのため、WSやクドバスが、「好み重視」をこの程度に抑えていること自体が注目に値するといえる。 3-6お互いの価値観が違っても、よい仲間になれる  「価値観の違い」については、「好みの違い」についてよりも非受容的な傾向が示されている。しかし、WS型と授業型とは、初期状態において大きな違いが示されているので、単純には比較できない。 3-7仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい  講義型授業の方のグラフは、入学後、とことん話し合う「交渉型」がだんだんと減っていく様子を示している。その意味からは、クドバス型は、若者の非交渉志向の進行を食い止める重要な役割を果たしていることを示しているということができる。 3-8仲間が悪いことをしたときは、厳しく批判したほうがよい  「批判しあえる仲間関係」については、クドバスよりWSの方が効果があったことが示されている。 3-9社会に役立つ活動を仲間とすることは楽しいことだ  仲間との社会貢献活動については、講義型授業の結果からは、一般的には積極的な肯定が減っていくことが示されている。その点では、クドバスによって「そうだ」が少し増えていることが注目される。 4 考察 講義型授業と比較して、とくにクドバス型授業の場合に、劇的変化が見られた。 クドバスの場合、「@自分が提案・仲間で分類・きれいに位置づく」、「Aチームで考える・決める」、「B一人の限界と他者との関わりの意義づけを体得できる」という3点の理由から、「自己の推論や他者との合意の収束の先が見える」という効果が高まったのだと考えられる。 学生生活や家庭での気づきの機会やチャンスが減衰する現代において、他者に気づき、他者との合意形成の収束の先を自分の中で見出すことができるようになることは、非常に重要といえる。「理想的講義型授業」においては、筋道・体系を明示されるため、「結論が明瞭に見える」という効果があると考えられる。しかし、人が実際に他者や社会の中で生きるためには、結論が見えない問題について、自己の問題を推論し、他者と折り合いをつける必要がある。このことによって、学生の社会化を促進し、子どもに対する共感的理解力を高めることができると考える。 本稿の終りにあたって、今回の比較調査を快く引き受けていただいた聖徳大学児童学部木村敬子先生に、深く感謝の意を表したい。 *1  柴野昌山『しつけの社会学−社会化と社会統制』、世界思想社,pp.15-16,1989年。柴野は、「個性や個人差の強調」が、「積極的な個人本位」ではなく、「情緒的で矮小化された私的自己本位的性格を帯びる」と指摘している。 *2  Giddens, A., The Third Way: the Renewal of Social Democracy, Polity Press, 1998. 佐和隆光訳『第三の道―効率と公正の新たな同盟』, 日本経済新聞社, pp.67-71, 1999年。ギデンズ(Gidens, A.)は、近代市民社会の成立による個人の解放とは別の意味での、新しい「個人化」の進行を指摘し、そこでは、個人が社会的帰属集団などとの関係においてではなく、個人それ自体としてとらえられるようになり、個人それ自体が社会や制度を構成する「制度化された個人主義」に至るとする。そして、個人の自己選択が再帰的に求められるこのような社会について、個人のあり方を根本的な不安にさらすことになると指摘した。 *3  クドバスについては、西村美東士「子育て学習の構造的理解序説−親の社会化支援の視点からの整理」、聖徳大学児童学研究所紀要『児童学研究』10号、pp.1-10、2008年。