「子育て支援学」の学的体系の構築 ―聖徳大学「連鎖的参画による子育てのまちづくり」研究成果から― 西村美東士(聖徳大学) キーワード:子育て支援学、社会開放型子育て観、自己形成と社会形成、 連鎖的参画、子育てのまちづくり 1.研究課題の設定  平成17年度〜平成21年度「私立大学学術研究高度化推進事業」社会連携研究推進事業「連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究」において、われわれは、学生、教員、市民、親子、産業、自治体等の連鎖的参画による「子育てのまちづくり」に関わる多様な開発実践を行った。  その結果、次のキー概念が「子育てまちづくり研究に関わるすべての領域にわたってキー概念を成す」という結論を得た。この成果から子育て支援研究の全容が明瞭になり、これを発展させて「子育て支援学」の学的体系構築の構想を持つに至った。  そこで本研究では、同研究のプロセスと、課題への接近について扱うことにする。 2.キー概念としての「社会開放型子育て観」  同研究では、「個人完結型」(母親もしくは父母が自己の子育てに関する問題を解決するスタイル)から「社会開放型」(地域社会の支援・協働のもとに親が自己及び他者の子育てに関する問題を解決するスタイル)への子育て観の転換をキー概念とした。  本概念の内実を確かめ、中核概念としての一貫性を確立することは、子育て支援学の構築にとって大きな意義があると考える。  同研究では、3プロジェクト及び1センターを組織し、「社会開放型子育て観への転換」に向かう「まち・産業の社会形成」と「子育て及び子育て学習による自己形成」の一体的アプローチにおける要素と構成を、右図のとおり明らかにした。子育て支援学に関わるこれまでの関連領域の研究においては、いずれかのアプローチから結果を見ようとしてきたため、上図の一面しか見ることができなかったと考える。  子育て支援学は、自己と社会の2面から、各要素の働きを一体的、動態的に理解する必要がある。そのためには、いわば「生身(なまみ:血も通い感情も働いている身)の親」のニーズやレディネスを出発点として、独立した個人と社会の成員としての個人の2面を併せ持つ親の存在を確認しながら、その人生の一環としての子育ての時期をより充実したものにするための活動として子育て支援を位置づける必要がある。  これまでの子育て支援学においては、その点で不十分であったため、社会変動の中で個人化、多様化する「個人完結型」及び「社会開放型」の親の子育てニーズや子育てレディネスに的確に対応できる学の構築にまでは至っていなかったと考える。  また、今日の「子育て支援社会」ともいうべき状況のなかで、社会的、時代的要請に応えるという意味でも本キー概念の意義は大きい。なぜならば、親の子育てを社会が支えるという意味での「子育ての社会化」は、親の社会化や社会形成者としての参画をも意味するものと考えるからである。 3.子育て支援学の学的体系構築の試み  われわれは、研究の発展と、関連学問のコラボレーションを図るため、子育て支援学の学的体系の構築を試みた。   「社会開放型子育て観」のキー概念のもとに、各学問分野から関連テーマを追究することによって、その概念、研究方法、成果の領域別整理などを見ることができたこれを原理及び関係する学問群・関係学会、歴史、分野・領域・研究対象・テーマ、研究方法・手法群、境界領域の各側面から整哩した。その一部を下図に示す、本研究で得られた成果により、今後の子育て支援学構築、子育て支援に関連する研究のあり方、子育て者の専門家養成プログラムの開発等、広い応用が可能になったと考える。