女子教育における社会化支援とその評価に関する研究 −社会開放型への転換の効果− 西村美東士 1 研究目的  子育てにおいては、子どもに対する適正な理解が重要である。そのために必要な能力は、未来の母親である女子学生に対して、どのようにして身につけさせることができるのか。現在、たとえば、共感的理解のための傾聴訓練などは見受ける。だが、実際の子育ての場においては、共感的理解だけでなく、相手の気持ちを推察したり、交渉の収束の先を予測したりしながら、子どもと関わり合うことが必要になる。これは、未来の親である現代青年に対して、社会的能力が求められるということを意味している。われわれは、そのような社会化のための効果的な支援方法を見出す必要がある。  このような社会化は、親が子ども以外の他者とも関わりを深め、その目が社会に開かれ、翻って自己の子育てをより充実したものにするという望ましいサイクルを実現するためにも、重要である。  しかし、今日の社会においては、学生にとっても、親にとっても、社会化は困難な課題となりつつある。子育てにおいても個人化が進行し1、メディアからは「モンスターペアレント」などの言説が流布され、「社会化されていない」親たちが問題にされている。ギデンズ(Gidens,A.)は「新しい個人主義」の概念を提示し、「個人化の進行が、個人のあり方を根本的な不安にさらす」という課題を提起した2。  先に述べた親や、未来の親としての学生の社会化と、それによる自己形成と社会形成の一体化は、個人的にも、社会的にも、緊急の課題といえよう。  本稿では、保育士、幼稚園教諭をめざす女子学生の、子ども・友達・親・社会との関わり度、それと自己との関係について、「社会化」の重要な一側面ととらえ、社会学のワークショップ(以下、WSと略す)型授業による社会化の効果を確かめたい。「社会に開かれた子育て観」をもつ「良き親」としての資質は、保育士、幼稚園教諭にとっても重要な資質であると考えるからである。  ここで研究対象とするWSは、大きくは次の2つに分けられる。第一に、自己と他者の意見の同異を明らかにしつつ、協働によってプロダクツを作成するWSと、第二に、自己と他者の推察を、協働によって分類、整理し、実用に値するプロダクツを作成する「クドバス」(後述)の2種類である。後者のWSにおいては、今回は、「仲間づくりのために必要な能力」に関してチャートを作成し、その能力獲得を支援するカリキュラムを学生に作成させた。   2 研究方法 2.1 方法の概要  クドバスを含むWS型授業について、アンケートを初期、WS後、クドバス後の3回行って、WS及びクドバスの社会化効果を測定する。同じ測定を他の講義型授業において同時期に行い、測定結果を比較する。  WSの後半は、職業能力開発手法「クドバス」(CUDBAS:CUrriculum Development Method Based on Ability Structure,森和夫,1990年)3を適用し、その効果を検証する。クドバスでは、通常5人前後の3時間程度のグループワークによって、必要能力をカードに書き出し、これを仕分けして、重要度順にリスト化して、チャートを作成する。本授業においては、クドバスによって、実用的プロダクツとして、実際にクラスで利用できるような仲間づくりの能力獲得支援プログラム「クラスで仲良くやっていくために必要な能力達成プログラム」を作成させた。クドバスでは、必要能力を分解して、知識、技能、態度の3側面から表記し、これを構造化して、そのまま学習プログラムに反映させるため、当然の結果として、各回において達成できる能力(学習目標)が明確に示される。   2.2 授業の経過  研究対象とした授業は、平成20年度前期に行われた「児童学の社会学的基礎」である。受講者は幼稚園教員や保育士をめざす女子学生1年である。授業の目標は次のとおりである。 @ 子ども・子育て支援者、未来の母親として、自分が相手を理解する方法をまとめることができる。 A 青少年の個人化と社会化を統合的に支援するための自分なりの留意点をまとめることができる。 B 青少年の「みんなぼっち」状態の解決の可能性と方法について、自分の言葉でまとめることができる。  各回の授業内容は次のとおりである。    表1 各回の授業内容 授業内容 効果測定 1期(WS型授業) 1-1社会学入門=自分らしさ、自己と社会、仲間の中の孤独、個人化と社会化 初期状態測定 1-2自己と異なる他者を受け入れる=第一印象ゲーム 1-3価値観の異なる他者との共存=価値観ゲーム 1-4個人化と社会化=「私らしさと社会性」図解WS 1-5一匹狼が生かされる組織運営=「幸せの瞬間」カード空間配置 1-6価値を共有する方法=「幸せの瞬間」表札付け 2期(クドバス型授業) 2-1仲間づくりのために必要な能力=クドバスチャート作成@ WS型授業効果測定 2-2仲間づくりのために必要な能力=クドバスチャート作成A 2-3仲間づくり能力の構造化=クドバスチャートに基づく科目編成@ 2-4仲間づくり能力の構造化=クドバスチャートに基づく科目編成A 2-5仲間づくり能力支援カリキュラムの作成=各科目における学習内容・方法の構造化と配列 2-6仲間づくり能力支援プログラムの作成=各回の「進行表」の作成 2-7仲間づくり能力支援プログラムの運営=広報計画、チェックリスト、事業評価票の作成 3期(まとめ) 3-1全体振返り クドバス型効果測定 3-2まとめ  WS型授業で行われたゲームのうち、「第一印象ゲーム」は「何色が好きか」などを当て合うワークである。通常の自己紹介では、自分の順番が回ってくるまで緊張し、自分のことにしか関心をもてないことが多い。また、「過去の文化遺産」を互いに見比べ合うような雰囲気になってしまいがちである。そのような雰囲気を崩して、楽しく他者に関心をもつための手法として導入した4。  「価値観ゲーム」は、愛、健康、自己実現、富、奉仕、正義の6つの価値観について、一対比較法によって自分にとっての優先順位を決め、次に各自の結果を、判断基準とともに発表しあうワークである。価値観が大きく異なっていても、その背景にある互いの判断基準については「許せない」というものがほとんどないことに学生は気づくことができる。「共存のための作法」ともいうことができよう。  「幸せの瞬間」は、幸せと感じる各人の瞬間をカードに書き出し、出されたカードを島分けして配置するワークである5。それぞれの島には、メンバーの共有できる「気持ち」を表わす「表札」をつけなければならない。和気あいあいと島分けしていたのに、翌週の「表札付け」になると、「難しい」という反応が多くなる。「価値観ゲーム」が「共存のための作法」を教えるワークであるのに対して、「幸せの瞬間」は「共有のための作法」を教えようとするワークといえるが、共存はできても、共有については、「面倒だから」といって避けてきがちであった現在の学生にとっては、やっかいなワークである。  以上のとおりWS型授業で行われたワークは、プロダクツを作るものの、主眼は他者とのコミュニケーションや他者理解にある。これに対して、クドバスでは、実用的な学習プログラムを作成させた。プロダクツの例を以下に示す。    図1 クドバスチャート「クラスで仲良くやっていくために必要な能力」プロダクト例    図1は、個人が書き込んだ能力カードが、チームの分類作業によって、仕事別、優先順にきれいに位置づいた様子を表わしている。以下の表2はすべての能力カードを網羅する科目をチームで考え出し、適切な方法と学習テーマを決定した結果を表わしている。表3は、ここで取り上げたチームにおいては、実際に大学で行われる教育活動に、自分たちで決定した学習テーマを組み込んでプログラムを作成したことを表わしている。     表2 「科目編成」プロダクト例 科目名 1 力をつけるために助けあう 方法1 テーマ1 1-1勉強会  試験に向けての対策会 達成能力 1-8苦手なものを知っている 3-7最近の流行やニュースを知っている 3-8相手が困っている時、助けることができる 7-5疑問をぶつけることができる 方法2 テーマ2 1-2ダンス  ダンスを皆で考え団結力・ゆずり合いを学ぶ 達成能力 3-5仲良くすることができる 4-2協力しあうことができる 4-5社交性を持って人と接することができる 5-1自己中ではない態度がとれる 6-6笑顔で話しかけることができる 7-7楽しめることができる 7-2明るい態度をとることができる 方法3 テーマ3 1-3先生ごっこ  先生と生徒になりきろう 達成能力 1-6子どものことを真剣に考えることができる 2-4相手が間違っていることをしていたら注意してあげることができる 2-7冷静な判断をすることができる 3-6だれに対しても平等な態度をとることができる 科目名 2 相手を知り、自分を知ってもらう 方法1 テーマ1 2-1好きなもの(こと)大会  1人ずつ好きなものを挙げていこう 達成能力 1-9好きなことを知っている 1-1人の意見を聞くことができる 6-1自分の意見を言うことができる 4-3相手との接点を見つけることができる 方法2 テーマ2 2-2茶話会  お菓子パーティー 達成能力 2-5話を聞いてあげることができる 3-4相談事を聞いてあげることができる 4-1親身になって話ができる 4-4相手の目を見て話すことができる 6-2積極的に話を聞いてあげることができる 6-3会話をすることができる 科目名 3 まわりや自分を観察する 方法1 テーマ1 3-1劇  クラスの様子を劇にしよう 達成能力 1-3人の気持ちを考えることができる 1-4相手を知っている 1-5相手の性格を知っている 1-7相手と共感することができる 1-10相手の個性を知ることができる 7-6文句を言うことができる 方法2 テーマ2 3-2話し合い  自分の悪いところを見直す会 達成能力 1-2相手を理解することができる 1-3人の気持ちを考えることができる 4-6だれにでも同じ態度をとることができる 5-2自分の負の感情を抑えることができる 5-3小さいことで愚痴を言わないことができる 5-4暴力をふるわないことができる 5-5我慢することができる 7-1素直に接することができる 科目名 4 今を楽しむ 方法1 テーマ1 4-1おとまり会  おとまり会で集団行動を学ぼう 達成能力 2-1あいさつができる 2-2相手の気持ちを考え行動することができる 2-3人に優しくすることができる 2-6空気を読むことができる 3-1だれとでも話すことができる 6-7自ら壁を作らないことができる    表3 「学習プログラム」プロダクト例 クラスの一員としての人間像:自分と向き合える自分になろう!! 日 時・場 所 内  容 テスト期間終了まで・談話室 1-1勉強会 〜試験に向けての対策会〜 テスト明け・リリブ(学生食堂) 2-2茶話会 〜お菓子パーティー〜(1人500円) 夏休み・志賀高原(研修旅行先) 4-1おとまり会 〜おとまり会で集団行動を学ぼう〜 2-1好きなもの(こと)大会 〜1人ずつ好きなものを挙げていこう〜 (キャンプファイヤーの時) 1-2ダンス 〜ダンスを皆で考えて団結力・ゆずり合いを学ぶ〜 3-2話し合い 〜自分の悪いところを見直す会〜 11月・聖徳祭・水のある広場(校庭) 3-1劇 〜クラスの様子を劇にしよう〜 12月・実習前(大学教室) 1-3先生ごっこ〜先生と生徒になりきろう〜 (先生役1人につき生徒役多数)  本授業では、このようにして、個人の書いたカードをチームの共同作業によって整理させ、そのチャートをもとに、「仕事」に必要な能力を達成するための学習プログラムとして完成させた。クドバスによるプロダクツの作成プロセスのもつ社会化効果としては、次の3点が期待された。 @ 協働作業によって学習目標が明示化される。そのため、学習者にとっての学習目標が、「与えられた目標」から「自ら達成したい目標」へと転換される。社会から与えられるタスクが、個人内のタスクと一致することになる。 A 同じくカードを利用して行うKJ法では、「情念」を重視して何日もかけて「探索」しようとする。これに対してクドバスでは、現場で働く人とその指導者が、ルールに従って能力(ここでは「クラスで仲良くやっていくために必要な能力」)を分解し、その能力カードを再構築(リスト化)することによって、仕事に必要な能力に関する実用的なチャートを短時間に作成できる。「情念」などの共有を必要としない。そのため、他者との協働による達成感を早く得ることができる。また、皆が守るべきルールの存在意義と必然性を体得することができる。 B カードを記入した本人がいなくても、ルールに基づいて、恣意性を排除して、他の者があとで手を入れることができる。この特徴は、カード著作者が解散したときには作業が終わってしまうというKJ法等の発想法と異なり、チームワークとしての発想や、組織のパフォーマンスのあり方を体得させるために効果的である。   2.3 効果測定の方法  効果測定は、各期の最初にそれぞれ「初期測定」、「ワークショップ効果測定」、「クドバス効果測定」のためのアンケート調査を実施した。あわせて、同時期に他の教員の同科目の授業において同じ調査を行い、結果を比較した。  比較の対象とした授業は、同じ平成20年度前期の「児童学の社会学的基礎」であり、学校における人間形成を社会学的に考察するものである。授業全期の進行は、「子どもの社会化環境としての現代」を検討した上で、学校の歴史、試験の意味、教科書等について把握し、「隠れたカリキュラム」(学校という制度を通しての社会化)としての「学校の人間形成力」に考察が及ぶ。同授業は同学科、同コースの他クラスの同じ1年生が受講する講義型授業であったため、比較の対象とした。  評価指標は、「1 他者理解の方法と可能性」、「2 自分らしさと社会性」、「3 若者の社会関係」の3ジャンルについて、子ども・友達・親・社会との関わり度と自己との関係を中心に設定した。ジャンル1においては、未来の親、保育者、教育者として重要な子どもや、青年期にとって重要な友達及び親に対して、相手の気持ちや立場の理解及び推察と交渉の可能性について尋ねた。ジャンル2においては、青年自身には関心の強い「自分らしさ」について、社会との適合可能性とともに、社会性と「自分らしさ」が両立して育つことの可能性を尋ねた。ジャンル3においては、仲間からの圧力のもつ弊害の理解、必要な距離を保った上での交流、仲間との共存や共有の可能性、仲間との社会参画の肯定感について尋ねた。質問はジャンルごとに9個ずつ設け、回答は5件法とした。比較対象授業も含めて、全6回分、すべて同じ設問とした。設問は以下のとおりである。    【他者理解の方法と可能性】  1-1 大人でも子どもの気持ちを理解できる  1-2 大人でも子どもの立場になって考えることができる  1-3 大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる  1-4 人は友達の気持ちを理解できる  1-5 人は友達の立場になって考えることができる  1-6 人は友達の気持ちを想像して確かめながら会話できる  1-7 子は親の気持ちを理解できる  1-8 子は親の立場になって考えることができる  1-9 子は親の気持ちを想像して確かめながら会話できる  【自分らしさと社会性】  2-1 人が自分らしさを優先することはよいことだ  2-2 人は友達とつきあうことによって自分らしさが育つ  2-3 人は社会で働くことによって自分らしさが育つ  2-4 社会のルールを守ることによって人はより幸せになれる  2-5 若者に公共マナーを身につけさせることは可能だ  2-6 社会に役立つことによって人はより幸せになれる  2-7 自分らしさを失わずに社会性は身につけられる  2-8 自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる  2-9 個性があって主張する人が多い社会は良い社会だ  【若者の仲間関係】  3-1 仲間といても孤独を感じる若者がいる  3-2 仲間にあわせるために自分を失う若者がいる  3-3 適度な距離感をもちながら親密につきあうことは可能だ  3-4 触れられたくないことには触れなくても理解し合える  3-5 お互いの好みが違っても、よい仲間になれる  3-6 お互いの価値観が違っても、よい仲間になれる  3-7 仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい  3-8 仲間が悪いことをしたときは、厳しく批判したほうがよい  3-9 社会に役立つ活動を仲間とすることは楽しいことだ    結果の分析にあたっては、初期状態、WS後、クドバス後のそれぞれについて、講義型授業とワークショップ型授業の結果の差について、ピアソンのカイ二乗検定(両側)により有意確率を確かめた。なお、実習等の関係から、各回の調査人数が多少変化した。第1回の調査人数は、講義型、WS型それぞれ、120人対119人、第2回は、148人対111人、第3回は、139人対90人であった。   3 結果と考察 3.1 講義型・ワークショップ型授業比較による効果検証  WS後の比較においては、5%レベルで見ると、27全項目において講義型との有意差を示した項目がなかった。クドバス終了後の比較においては、5%レベルで見ると、17項目が有意差を示した。クドバス型と講義型の比較結果を下表に示す(表4)。なお、初期状態においては、5%レベルで見ると「自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる」が、1%レベルで見ると「お互いの価値観が違っても、よい仲間になれる」が、講義型の方が高い肯定率を示した。    表4 クドバス型と講義型の社会化効果測定結果(各設問の上段はクドバス型、下段は講義型) 設   問 N 平均 標準 偏差 p値 (両側) 他者理解の方法と可能性 Q1_1 大人でも子どもの気持ちを理解できる 90 4.16 0.73 0.007** 139 3.73 0.97   Q1_2 大人でも子どもの立場になって考えることができる 90 4.28 0.67 0.001** 139 3.79 0.97   Q1_3 大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる 90 4.17 0.74 0.065 139 3.83 0.88   Q1_4 人は友達の気持ちを理解できる 90 4.08 0.80 0.025* 139 3.74 0.94   Q1_5 人は友達の立場になって考えることができる 90 4.34 0.60 0.002** 139 3.92 0.83   Q1_6 人は友達の気持ちを想像して確かめながら会話できる 90 4.26 0.73 0.003** 139 3.83 0.88   Q1_7 子は親の気持ちを理解できる 90 3.68 1.07 0.135 138 3.41 1.01   Q1_8 子は親の立場になって考えることができる 89 3.70 1.02 0.006** 139 3.27 1.03   Q1_9 子は親の気持ちを想像して確かめながら会話できる 89 3.83 0.97 0.011* 139 3.41 1.00   自分らしさと社会性 Q2-1 人が自分らしさを優先することはよいことだ 90 4.13 0.75 0.075  139 3.95 0.68   Q2_2 人は友達とつきあうことによって自分らしさが育つ 90 4.22 0.76 0.007** 139 3.86 0.83   Q2_3 人は社会で働くことによって自分らしさが育つ 90 4.12 0.79 0.033* 138 3.76 0.88   Q2_4 社会のルールを守ることによって人はより幸せになれる 90 3.92 0.86 0.032* 139 3.58 0.86   Q2_5 若者に公共マナーを身につけさせることは可能だ 90 4.30 0.71 0.123 139 4.02 0.80   Q2_6 社会に役立つことによって人はより幸せになれる 89 4.03 0.85 0.019* 139 3.76 0.81   Q2_7 自分らしさを失わずに社会性は身につけられる 90 4.04 0.87 0.033* 139 3.68 0.88   Q2_8 自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる 90 4.00 0.85 0.006** 137 3.62 0.88   Q2_9 個性があって主張する人が多い社会は良い社会だ 90 3.64 0.93 0.769 139 3.48 0.93   若者の仲間関係 Q3_1 仲間といても孤独を感じる若者がいる 90 4.28 0.69 0.279 138 4.12 0.81   Q3_2 仲間にあわせるために自分を失う若者がいる 90 4.21 0.85 0.376 139 4.25 0.74   Q3_3 適度な距離感をもちながら親密につきあうことは可能だ 90 4.33 0.73 0.012* 139 4.01 0.77   Q3_4 触れられたくないことには触れなくても理解し合える 90 4.08 0.91 0.069 139 3.83 0.88   Q3_5 お互いの好みが違っても、よい仲間になれる 90 4.50 0.57 0.001** 139 4.12 0.78   Q3_6 お互いの価値観が違っても、よい仲間になれる 90 4.29 0.72 0.099 139 3.98 0.87   Q3_7 仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい 90 4.28 0.69 0.009** 138 3.87 0.87   Q3_8 仲間が悪いことをしたときは、厳しく批判したほうがよい 90 3.87 0.85 0.51 138 3.65 0.89   Q3_9 社会に役立つ活動を仲間とすることは楽しいことだ 90 4.40 0.67 0.017* 138 4.04 0.81     3.2 他者理解の方法と可能性  「子どもへの理解」について1%レベルで見ると、「大人でも子どもの気持ちを理解できる」、「大人でも子どもの立場になって考えることができる」において、顕著な効果が認められた。後者は、講義型授業においては、「子どもの立場になって考えること」の難しさに気づいたためか、肯定率がむしろ減少する傾向が示されている。  これに対して、「大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる」、すなわち子どもへの推察に関する項目については、有意差はみられない。しかし、講義型の「そうだ」が回ごとに減少する傾向とは対照的に、徐々に肯定率は上昇している(図2)。   図2 「大人でも子どもの気持ちを想像して確かめながら会話できる」肯定率の変化    「友達への理解」については、5%レベルで見ると「人は友達の気持ちを理解できる」、1%レベルで見ると「人は友達の立場になって考えることができる」、「人は友達の気持ちを想像して確かめながら会話できる」と、クドバス効果が顕著である。これは、人がもつ、「相手の気持ちを推察して交流する能力」への気づきの表れと見ることができる。  「親への理解」については、子どもや友達に対する理解と対照的に、各項目とも初期状態は「そうだ」が10%前後と低調であった。しかし、クドバス後は、「子は親の気持ちを理解できる」を除いて、1%レベルで見ると「子は親の立場になって考えることができる」、5%レベルで見ると「子は親の気持ちを想像して確かめながら会話できる」と、効果の差を示している。親の気持ちの理解よりも、それ以前に必要な「相手の気持ちを推察して交渉する能力」の獲得について効果があったといえよう。   3.3 自分らしさと社会性  1%レベルで見ると、「人は友達とつきあうことによって自分らしさが育つ」は、友達づきあいと自分らしさとの関係の肯定的認識に関するクドバス効果を示している。また、講義型授業においては、「そうだ」(34.2%→27.0%→20.1%)という積極的肯定から「まあそうだ」(36.7%→40.5%→52.5%)の消極的肯定への変化が著しい。講義型のこの結果は、「社会化」が個人を抑圧する側面をもっていることを、講義または学生生活の中で学んだことを示すものと考えられる。  5%レベルで見ると、「人は社会で働くことによって自分らしさが育つ」は、社会的労働と自分らしさとの関係の肯定的認識に関するクドバス効果を示している。  5%レベルで見ると、「社会のルールを守ることによって人はより幸せになれる」は、社会化の一側面としての規則遵守と個人の幸福追求との関係の肯定的認識に関するクドバス効果を示している。クドバスは、他の多くのWSと異なり、カードの記述やチャート作成に関するルールが細かく定められているため、「協働」を効率的に進めることができる。その効果が表れたものといえる。これに対して、「若者に公共マナーを身につけさせることは可能だ」は、有意な差が見出せなかった。  5%レベルで見ると「社会に役立つことによって人はより幸せになれる」は社会貢献意欲の向上、「自分らしさを失わずに社会性は身につけられる」は社会化への肯定感に関するクドバス効果を示している。  5%レベルで見ると、「自分らしさを育てることによって社会に役立つ人にできる」は、初期状態では講義型の方が肯定的であったのに対して、クドバス型が逆転して1%レベルで見て肯定的になった項目である。子どもに対して、個人化と社会化を一体的にとらえて支援するために必要な資質を育成するために顕著な効果があったことを示すものといえる。   3.4 若者の仲間関係  「仲間といても孤独を感じる若者がいる」、「仲間にあわせるために自分を失う若者がいる」とする仲間のもつ社会化圧力のマイナス面の認識については、「あまりそうではない」、「そうではない」とする否定率が初期状態から5%以下であり、彼らのもともとの認識の高さを表わしている。また、WSやクドバスによる認識の向上傾向も見出せなかった。  5%レベルで見ると、「適度な距離感をもちながら親密につきあうことは可能だ」は、先述のクドバスにおける「推察と交流」及びルールの存在等の効果を示すものと考えられる。  1%レベルで見ると、「お互いの好みが違っても、よい仲間になれる」(p=0.001)は、クドバス効果が表れたものといえる。「好みの違い」については、初期状態からどちらの授業でも受容的であったが、講義型授業においては、「そうだ」の率が次第に減っている。入学後、クラスで友達ができるにしたがって、好みが重要な要素になることを示しているといえる。そのため、クドバスによる、仲間との交流時の個人の好み志向に対する抑止効果は注目に値するといえる。「価値観の違い」については、「好みの違い」より、比較的、全般に受容傾向が弱かった。  1%レベルで見ると、「仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい」は、「交渉」に関するクドバスの顕著な効果を示している。講義型授業の方のグラフは、入学後、とことん話し合う「交渉型」がだんだんと減っていく様子を示している(図3)。その意味からは、WSは、若者の非交渉志向の進行を抑止する重要な効果を果たしたことがわかる。また、5%レベルで見ると、若者の社会参画促進効果についても、「社会に役立つ活動を仲間とすることは楽しいことだ」に示されたといえる。   図3 「仲間同士で意見が対立したときは、とことん話し合うとよい」肯定率の変化   4 結論  社会学のワークショップ型授業による社会化の効果を講義型授業と比較して、クドバス型授業の場合に、顕著な効果が見られた。  クドバス型授業の場合、「@自分が提案・仲間で分類・きれいに位置づく」、「Aチームで考える・決める」、「B一人の限界と他者との関わりの意義づけを体得できる」という3点の理由から、「自己の推論や他者との合意の収束の先が見える」という効果が高まったのだと考えられる(図4)。    図4 講義型授業とクドバス型授業の特徴比較    学生生活や家庭での気づきの機会やチャンスが減衰する現代において、他者に気づき、他者との合意形成の収束の先を自分の中で見出すことができるようになることは、非常に重要といえる。「講義型授業」においては、筋道・体系を明示されるため、「結論が明瞭に見える」という効果があると考えられる。しかし、人が実際に他者や社会の中で生きるためには、結論が見えない問題について、自己の問題を推論し、他者と折り合いをつける必要がある。WS、とりわけクドバス型授業によって、学生の社会化を促進し、子どもに対する共感的理解力を高めることができたと考える。  最後に未来の母親に対するクドバス型授業のもつ社会化効果として、次の3点を挙げておきたい。 @ 子ども、友達、親に対して、相手の気持ちを推察して交流、交渉する能力を向上させた。それは、自己のカードだけでなく、他者のカードを含めて、必要能力をリスト化して共有するプロセスのなかに、普段の生活にはない気づきのチャンスがあったと考える。 A 自分らしさと社会との関わりについて、肯定的にとらえる態度を身につけさせた。それは、クドバス型授業のプロセスのなかに、協働による達成の喜び、「与えられた目標」から「自ら達成したい目標」への転換などがあったと考える。 B 仲間関係については、「距離と親密の両立」など、好みが異なる者同士の共存、共有の「作法」を身につけさせた。それは、クドバス型授業のプロセスのなかに、メンバーがルールを守ることによる効率性、個人の事情により欠席などの事態が起こっても、チームのパフォーマンスとしては、さほどダメージを受けないものと考える。  このようにして、学生は、「一人では限界がある」が、自分が積極的に提案し、他者の「個人の事情」や「情念」(前出KJ法の場合)等に立ち入ることなく、しかし、積極的に推察し、交渉し、協働することによって、実用的なプロダクツを作成し、達成感を得ることができた。クドバス型授業は、社会化の一定の側面で、学生の普段の生活では減少しつつある気づきのチャンスを与えたものといえよう。  しかし、未来の母親に対する社会化支援という視点からは、クドバスによって得られた社会化効果については、質的には低次のものであったと考えられる。なぜなら、情念の交流ではなく、考え方、合意事項という一定の壁の中でのワークであったからである。これに対して、「幸せの瞬間」の表札付けなどは、そのワークショップの目指すものが情念も含む高次の活動であったために、学生に忌避されたものと考える。入門、導入、あるいは社会的即戦力としてのクドバスの社会化効果は認められるが、子育てや職業に必要な社会化に向けた活動としては、さらに工夫が必要と考える。共存はできても共有はできないという壁を越えさせ、他者の情念を理解し、自己の情念を伝え、共有すべき価値観を創造できる人材を育てる必要がある。  本稿の終りにあたって、今回の比較調査を快く引き受けていただいた聖徳大学児童学部木村敬子教授に、深く感謝の意を表したい。 1 柴野昌山『しつけの社会学−社会化と社会統制』、世界思想社、pp.15-16、1989年。柴野は、「個性や個人差の強調」が、「積極的な個人本位」ではなく、「情緒的で矮小化された私的自己本位的性格を帯びる」とした。 2 Giddens, A., The Third Way: the Renewal of Social Democracy, Polity Press, 1998. 佐和隆光訳『第三の道―効率と公正の新たな同盟』, 日本経済新聞社, pp.67-71, 1999年。ギデンズ(Gidens, A.)は、近代市民社会の成立による個人の解放とは別の意味での、新しい「個人化」の進行を指摘し、そこでは、個人が社会的帰属集団などとの関係においてではなく、個人それ自体としてとらえられるようになり、個人それ自体が社会や制度を構成する「制度化された個人主義」に至るとし、個人の自己選択が再帰的に求められるこのような社会について、個人のあり方を根本的な不安にさらすことになるとした。 3 前掲森和夫ほか『PROTS INSTRUCTER'S HANDBOOK - Drawing up a Training Program』。 4 「第一印象ゲーム」及び「価値観ゲーム」は、坂口順治『実践・教育訓練ゲーム』、日本生産性本部、1989年5月。 5 西村美東士『癒しの生涯学習−ネットワークのあじわい方とはぐくみ方』、学文社、p.136、1997年。 --------------- ------------------------------------------------------------ --------------- ------------------------------------------------------------ 4未来の母親としての視野の拡大 4.3未来の母親としての視野の拡大 4.3.2女子教育における社会化支援とその評価に関する研究−社会開放型への転換の効果 12 1