子育てまちづくり政策検討の実質化の試み −佐野市における政策立案過程を通じて− 西村美東士 1 佐野市の生涯学習推進政策立案における市民参画の経緯 1.1 佐野市生涯学習推進における市民参画の特徴  佐野市の生涯学習推進は、いわゆる「平成の大合併」をまたいで進められてきた1。そこには、@市民委員としての推進計画策定への参画、A学習指導者としての推進事業への参画、B学習者としての生涯学習活動への参画の3種類の市民参画を見出すことができる。これらの参画は、連鎖しながら、「生涯学習のまち」を形成してきた。  佐野市の生涯学習推進の特徴は、市民の「私らしさ」追求を基点とした参画と、社会形成としてのまちづくりとが連続体として進められているところにある。そこでの市民参画には、生涯学習活動の「個人主導」としての側面と、まちづくり活動の「社会参画」としての側面を同時に見ることができる。  その成果は、「私らしさ、このまちに咲かせます」という同市の生涯学習推進における統一テーマに象徴的に示されている。   1.2 「生涯学習推進協議会答申」作成の経緯  旧佐野市においては、平成5年4月に「佐野市生涯学習推進基本構想」を策定し、同年10月2日には「楽習のまち佐野」都市宣言を行い、「私らしさ咲かせます 楽習のまち佐野」をキャッチフレーズとして、「私」という個人をキーワードとした生涯学習のまちづくりを全市全庁的に進めてきた。それは、地域住民一人一人の「私」を最上段において、「生涯学習のまちづくり」を実現しようとしたものである。  平成17年2月28日、一市二町が合併して、人口約12万7千人の新佐野市が発足した。そこで、同年8月30日、岡部正英市長から佐野市生涯学習推進協議会に対して、新佐野市における生涯学習社会の構築を図るための新しい佐野市生涯学習推進基本構想について諮問があり、同協議会は、筆者を原案作成者とし、中間答申作成のための会議形式による検討を始めた2。検討は、専門部会ごとに行われた後、その成果を起草委員会で集約した。  第1回協議会で、原案作成者は、旧佐野市「生涯学習推進基本構想」の成果を発展させるため、「私らしさ このまちに 咲かせます」というテーマを設定した。これは、「旧佐野市生涯学習推進基本構想」でいう「私」が、学びを通してまちづくりに関わり、まちづくりを通して学ぶことによる「自己形成と社会形成の一体化」の実現の課題を提示したものといえる。  また、「生涯学習を個人の充実だけでなく、田中正造のような社会正義の視点から提言していきたい」、「一人一人がいつからでも始め、学びの仲間をつくって生きていくという生涯学習社会を目指す」、「市民の自主性を尊重した推進が重要」などの方向付けをした。このことは、まちづくりという「公的課題」の学習を、いかに「私らしさ」の充実という個人的課題と結びつけて推進するかという生涯学習推進の課題を提示したものといえる。  第1回専門部会で、原案作成者は、専門部会ごとに議論すべき「基本的な柱」を表1のとおり示した。その後、各専門部会は2、3回の会議を行って、原案を検討した。ここで議論された内容は、原則としてすべて原案に盛り込んだ上で、その後の起草委員会で検討することとした。   平成18年10月、佐野市生涯学習推進協議会答申は、「生涯学習活動は、個人の必要のために行われ、その結果、個人が充実する」と生涯学習の個人主導の側面を強調した上で、「そのことによって、私らしさも、より確かなものに」なり、これをもとに「わがまち、わが国、わが地球」のために求められる社会参画を推進するよう提唱した3。このように「個人が必要とするもの」と「社会が必要とするもの」を結び付ける重要な要素として「郷土愛」や「社会正義」を掲げた中間答申の特徴は、平成19年3月の最終答申を経て、平成20年3月の「佐野市生涯学習推進基本構想・基本計画」に継承された。   1.3 「生涯学習都市宣言」文案作成の経緯  平成19年12月、佐野市は、同協議会の起草をもとに、市議会の議決を経て、生涯学習都市宣言4を行った。  宣言文冒頭の「私たち佐野市民は、ひとりひとりが楽習をとおして個人として深まり、」は、個人主導の「楽しい」学習による個の深まりを表わしている。  続く「その個性を生かし、協働して佐野のまちづくりに参画します。」は、学習によって深まった個によるまちづくり参画の意義を訴えている。同協議会は、その参画の範疇について、「挨拶から始まる社会形成」という視点から、幅広く、すべての市民が現に行っていることとしてとらえている。これを、「個人主導」としての生涯学習活動と、「社会参画」としてのまちづくり活動との連結ととらえることができる。  次の「たがいに自分らしさを認めあい、支えあい、はぐくみあう仲間をつくります。まちづくりへの参画のなかで、自分らしさを佐野のまちに咲かせます。」は、個の深まりが、防衛的風土から支持的風土5へと転換した集団においては、他者と関わることによってより深まるとともに、「私らしさ」へのニーズを充足させることを表わしている。  同宣言は、市民委員のワークショップ成果に基づき、「ふるさと」「環境・安全」「子育て」の3領域について、楽習と参画による生涯学習のまちづくり像を示したものである6。  同宣言文案は、以下の手続きで作成された。原案作成者(筆者)が前掲3領域を示した。各領域チームは、それぞれのID(推進イメージ)要素のリスト化のためにクドバスを適用して文章作成を行った。  原案作成者は、各チームのID要素作成成果と文章化成果及び後日提出された「個人文章」から抽出されるキーワードを、3領域と協議会答申の主要な柱である「学習」「交流」「参画」のマトリックスによって分類して示した。その分類をもとに、各チームのほぼすべての文章化成果を含み、また、ほとんどのキーワードの趣旨を組み込んだ原案を作成した。協議会は、これを、行政側の事務局を入れて会議形式で検討し、精査して宣言文案を作成した。文案の中に盛り込みきれなかった文章や、表しきれなかった内容については、「宣言文の補足説明」として裏面に掲載することとした。   1.4 「放課後子どもプラン」提言作成の経緯  平成19年5月28日、第1回「佐野市放課後子どもプラン運営委員会」が開かれた。同委員会は、青少年団体関係者、PTA関係者、学童クラブ関係者(保護者会)、児童福祉関係者(民生委員)などと、学校教育関係者、関係行政機関(福祉部局・教育委員会)の職員との協働により、本プランの取り組みに関する「具体的な企画・立案、評価等」を行おうとするものである。  「放課後子どもプラン」においては、市民参画により計画立案がされることが期待されていることは文部科学省による資料から明らかであった7。そこで、この趣旨に基づき、コーディネータ(筆者)は、「放課後子どもプラン」策定に必要な成果を、ワークショップの方法で実際に生み出すことによって、策定過程における市民参画の実質化を図ろうとした。  運営委員会の日程と成果目標については、次のとおり設定して作業を進めた。 第1回:平成19年5月28日(月)13:30〜16:00(ワークショップは2時間) 子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所づくり)を確保していくため、今、地域にどのような課題があるか、地域住民の参画による「ナナメの関係」8によって提供できる機能を関係図にまとめ、「放課後子どもプラン」の目標設定をする。 第2回:平成19年6月22日(金)13:30〜16:00(ワークショップは2時間30分) 前回作成した目標を現実化するために、放課後子ども教室等の機能や活用する資源をチャートにまとめ、「放課後子どもプラン(居場所づくりのメニュー)」を作成する。 第3回:平成20年2月4日(月)13:30〜16:00(話し合いのみ) 「放課後子どもプラン」に基づき1年間実施してきた状況を評価し、次年度に向けた行動計画を作成する。  運営委員会において、コーディネータは、「佐野市放課後子どもプラン活動のPDCA」を示した。2回にわたるワークショップでは、「待機型」「日常型」「イベント型」「子どもクラブ型」の4タイプのチームに分かれて、各居場所の「機能チャート」「機能関係図」「資源チャート(活用法を含む)」と、これらに基づく「事業メニュー」を作成した。   2 研究目的 2.1 研究1:「生涯学習推進協議会中間答申」作成過程における、会議形式による青少年と親の社会化支援方策に関する議論の意義と限界  会議形式の検討においては、各委員が一定時間、全員に意見を述べることができるため、生産的な意見をそのまま文案作成に取り入れることができる。反面、「委員が会議に慣れるまでに時間がかかる」、「協働とは異なる非生産的な構えがある委員の場合、会議では態度変容は期待できない」、「意見が対立した場合、合意形成が困難」、「行政にとって不都合な意見を生産的に対処できない」、「実質の伴わない意見であっても、それがいわゆる正論として受け止める雰囲気になった場合、対論があっても出しづらい」などの問題がある。  その場合は、最終的には委員長や担当職員による文章化作業に委ねることになり、市民参画が形式化する恐れがある。  研究1では、佐野市生涯学習推進協議会最終答申の策定過程における、青少年と親の社会化支援方策に関する議論の経過を、青少年と親の社会化促進要因の視点から分析することによって、会議形式の意義と限界について検討する。   2.2 研究2:「生涯学習都市宣言」起草文作成過程等におけるワークショップスタイルの導入による市民参画実質化効果  今後の生涯学習やまちづくりの推進において、多様な市民が参画するようになった場合、メンバー全員が出席して、議論を重ねて合意形成に至るという従来の活動形態は困難になってくる。  そこで、佐野市では、原案作成者(筆者)が前掲3領域を示し、それぞれのID(推進イメージ)要素のリスト化のためにクドバスを適用して文章作成を行った。その結果、各領域チームはメンバーの自由なIDを効率的にリスト化することができた。これにより、生涯学習推進のためのID表現について、レベルアップした発想を発見することができた。また、クドバスチャートに裏打ちされたID表現をもとに、共通の構造的理解に基づく文章化作業を行うことができた。  研究2では、「生涯学習都市宣言」起草文作成過程の分析を中心として、ワークショップスタイルの導入による市民参画実質化効果について検討する。あわせて、「放課後子どもプラン」の「機能チャート」、「機能関係図」、「資源チャート」の各ワークショップ成果について検討する。   3 研究1:「生涯学習推進協議会中間答申」作成過程における、会議形式による青少年と親の社会化支援方策に関する議論の意義と限界 3.1 研究方法  「青少年と親の社会化状況に関する生涯学習推進関係者の認識」及び「生涯学習推進関係者が重視する青少年と親の社会化促進要因」を明らかにするため、中間答申作成過程における委員の青少年育成及び子育てのまちづくりに関する発言(全50件)の内容を分析した。分析は、以下の項目を「社会化促進要因」として設定して行った。  A 居場所  B 参画  C 仲間づくり  D 文化や労働の伝承  E 地域の教育力  F 自然の教育力  G 教育機関の教育力  H 家庭の教育力  次に、以上の研究で確かめた委員が議論で提起した社会化促進要因と、中間答申の起草結果を対照することによって、政策立案における会議形式の効果を分析した。   3.2 研究結果 3.2.1 青少年と親の社会化状況に関する生涯学習推進関係者の認識  審議の最初から多く出された意見は、青少年や親の社会化不全に関するものであった9。  「(教育熱心なお母さんのため)、有名な遠い所に通う。親も子どもも地域との交流がまったくなくなっている」、「自分自身だけの考えで行動している。人との関わりが希薄になり、事件につながる要素がある」、「私らしさを取り違えると、自由奔放に何でもしていいということとなる。子どもにしつけることはもちろんだが、しつけをする若い親にしつけ方を教えるといった、世代に応じたしつけが、まちの中で必要」、「民主主義は、基本的に必ず責任を伴う。そういったことを、戦後教育ではあまり教えてこなかったことが、自分が自由にやればいいという環境を引き起こしている」、「今の若い子は何で子ども産まないのって、もう親の責任じゃないけど、社会情勢が悪いから生まないとか、今の自分たちの生活が楽しいから生まないとか、自分たちの心の貧しさがそういうことを物語っている」。  これに関して、「子どもというのは、叱らなければ人間にならない。どうやって叱ってあげるかが問題」として、「他人のことなんかどうでもいい」という風潮に対して、「叱られて、叱られて、ぎゅっと抱きしめられることが子どもの真の幸せ」という旧佐野市「こどもの街宣言」が掲げるしつけのあり方を支持している。   3.2.2 生涯学習推進関係者が重視する青少年と親の社会化促進要因  各回の委員の発言に表れた社会化促進要因の分布は表1のとおりであった。  各委員の発言に表れた社会化促進要因の分布は表2のとおりであった。  なお、本表の数字は、「青少年育成」と「子育てまちづくり」に関する発言のみ取り上げて計上したものであり、各委員の発言の活発、不活発を示すものではない。  委員の発言に表れた社会化促進要因の出現回数は図1のとおりであった。   3.2.3 各要因活性化のための「まちづくり」及びそれに伴う「公的課題の学習」の推進方策  中間答申起草結果10のうち、青少年と親に関連する記述のある箇所は、5項目、計39件であった11。そのうち、社会化促進要因に関連する記述の延べ出現回数は37件で、その分布は表3のとおりであった。 表1 各回の発言に表れた 社会化促進要因の分布 回 A B C D E F G H 実数 03 1 1 2 05 1 1 2 6 1 1 13 07 1 3 3 3 9 09 1 1 2 10 1 1 3 3 12 1 2 1 2 4 3 13 13 4 2 1 2 1 1 2 8 計 7 4 4 6 13 1 9 12 50 注 最右列のみ発言件数(実数n=50)。他の列は各要因に関する発言の延べ出現回数(n=56)。○は起草委員会。  図2 委員の発言に表れた  社会化促進要因の出現回数     表2 各委員の発言に表れた 社会化促進要因の分布 委員 A B C D E F G H 実数 01 1 1 1 1 5 02 1 1 1 3 03 1 1 2 04 0 05 0 06 1 3 07 1 1 1 1 2 2 4 8 08 2 1 2 09 0 10 0 11 1 1 12 1 1 13 1 1 14 1 1 2 15 2 1 1 3 16 2 1 1 1 2 6 18 3 1 2 2 4 1 9 19 1 1 3 20 1 計 7 4 4 6 13 1 9 12 50 注 最右列のみ発言件数(実数)。他の列は各要因に関する発言の延べ出現回数。○は起草委員。 表3 起草結果に表れた社会化促進要因の分布 項目 A B C D E F G H 計 1 少子高齢社会の問題解決 4 4 2 家庭・地域に支えられる「中心市街地活性化」 2 2 3 支え合う仲間との活動の重要性 3 4 1 8 4 家庭教育の回復と親学習プログラムの開発 3 1 4 5 13 5 子どもや若者の居場所をつくろう 5 3 1 1 10 計 5 13 6 0 8 0 0 5 37   3.3 考察 3.3.1 青少年と親の社会化状況に関する生涯学習推進関係者の認識  審議で指摘された「社会化不全」の要素としては、@親子の交流不足、A地域の希薄化、Bしつけの不在、C自由と民主主義のはきちがえ、D自己中心主義と個人的快楽志向、E心の貧しさなどが挙げられる。  とくに、前出の「こどもの街宣言」が子どもを甘やかす結果になるという危惧に対してなされた発言は、社会化不全に対して、一方的に糾弾するのではなく、何らかの生産的な対応を考えようとしたものと考えられる。  以上のことから、生涯学習推進関係者は、現在の青少年や親に関して「社会化不全」という認識を強く持っているといえる。それは、当然ながら社会化としての「しつけ復活への期待」につながる。しかし、それを繰り返し述べていても、先に示した「社会化不全要素」を解決するための展望は見えてこない。危機感だけに終始すれば、現在の青少年や親に対する不信感と可能性の否定に陥りかねない。  ここに、「まちづくり」及びそれに伴う「公的課題の学習」の推進における青少年と親の社会化支援方策を検討することの重要性が示されていると考える。   3.3.2 生涯学習推進関係者が重視する青少年と親の社会化促進要因  地域教育力およびこれを支える家庭教育、さらに、これらの教育力を専門的に支援する学校教育、社会教育等の教育機関への期待が大きかったと考えられる。  また、起草委員会に移ってから、「居場所づくり」、「参画促進」などの育成活動の具体的な展望が活発に論じられたことがわかる。   3.3.3 社会化促進要因に関する委員の発言と推進政策立案結果との関連  青少年と親の社会化促進要因のうち、ここでは、とくに親の社会化と強く関わる「B参画」、「E地域の教育力」、「G教育機関の教育力」、「H家庭の教育力」を取り上げる。  これに関する中間答申の起草結果としての推進方策に関する記述を、これまでに確かめた社会化促進要因の視点から検討するとともに、関連する委員の具体的発言内容を対照することによって、会議形式の場合の社会化支援政策検討の効果を確かめたい。   B 参画  子どもの参画の意義と必要については、「子どもたちの意見を取り入れる学校経営があってほしい」、「小学4年生から中学生中心で、『子ども白書』というのを作った。自分たちが遊ぶ当事者だから、そういうものは子どもの意見を直接聞いたほうが、本当に子どもが喜ぶようなものができる」、「中学生が中心になって子ども市民憲章を作っています。これから高浜市の中心になっていくのは中学生である。これをはっきり謳っている。まちづくりに参加させている」などの委員発言があった。  これに対して、起草結果は、「世代を越えた参画の中での合意形成が重要になる」、「子どもの参画によって、子どもたち自身の意見も聞きながら『子育てのまちづくり』を進めていくことが重要である」となっている。  委員の個別的意見を一般化して組み込むと同時に、年金制度の健全な運営など、重要な公的課題の解決のため、インタージェネレーションによる合意形成の「鍵」として、「子育てまちづくり」への子どもの参画の意義を位置づけて実質化したものととらえられる。  「子育てまちづくり」への参画活動については、起草結果では、ほかにも次のように述べている。「親が支援される立場だけでなく、自分のできる範囲で、子育てしやすいまち、子育てしていて楽しいまちにするために力を合わせることが重要である」、「わが子のことから出発して『あなた任せ』にしない子育てまちづくりへの参画」、「自らが仲間をつくって、自分たちのできる範囲で支え合い、実践的な学習を通してまちづくりに参画し、その『福祉』をつくりだす主体にもなる」、「親たちが仲間づくりを通して互いの子育てを支え合い、地域もそれを支えること、さらには、生涯学習やまちづくり活動を通して『子育て環境の改善のための市民参画』を行う」。  この起草結果は、委員の合意形成のもとに、「あなたまかせ」の状態から、「わが子の子育て」をとおして「子育てまちづくり」への参画に至る親の社会化過程の概要を示したものととらえられる。そこで重要になる要素は、「PTA、保護者会、子ども会、町会などの仲間との活動」と考えられる。  委員発言「子どもが活動する場所、その確保は大人の最低の義務。さわやか指導員の若い子が来ていたので、ちょっとバスケットをやってみないかと、バスケットを月1回その子に頼んだら、仲間を連れてきて子どもと遊んでくれる」に対して、起草結果では、「現代の若者たちの一人一人に適した形での『まちづくり活動』を開発し、その活動への参画を促進するようにしたい」と述べている。  1980年代にすでに、「青少年が地域社会のゲストから、大人とともに主体的に役割参加を進められるメンバーになることのできるコミュニティ形成」が提起されている12。しかし、その後の青少年施策のなかで必ずしもこれが実現しているとはいえない。「コミュニティ形成に対する若者の主体的な役割参加」のための実効性のある展開の一方策として、起草結果が述べているような「子育てまちづくり」への若者の参画が考えられる。  その場合、「子育てまちづくり」の範疇を広げ、委員発言「仲間を連れてきて子どもと遊んでくれる」というような活動も、重要な参画活動として認識する必要があるといえよう。また、「現代の若者たちの一人一人に適した形」を実現するためには、現代青年の社会化過程に関するより詳細な検討が必要と考える。  さらに、起草結果では、次のように親教育における「達成目標」の必要性を強調している。「達成目標(できれば各回ごとの)を設定し、それを明示して学習者側の理解を求め、目的意識的な学習を促進することは、むしろ『学習者主体』の考え方に基づくものだと私たちは考える」、「獲得能力目標の明示された親学習プログラムとして編成する手法を開発したい。このことによって、親学習プログラムの作成における親自身の参画が可能になると考えられる」。このように、「達成目標を設定し、これを学習者に明示し、さらにはその達成目標の設定自体に学習者側の参画を取り入れていく」よう提言しているのである。  先述の青少年と親の社会化不全の実態からいえば、このような教育側の「指導性」は不可欠といえよう。ここに「参画教育」の意義と必要性が示されていると考える。  委員発言にはこの点についての言及が少なかった。これについては、専門家の立場からの示唆が必要と考える。今後は、目標設定から、実施後の達成度の測定・評価に至るまでの手法について、専門的な視点から、具体的に明らかにする必要があると考える。   E 地域の教育力  「ふるさと」については、「子どもとふるさとづくり、子どもとまちづくりという観点からの働きかけが必要」などの委員発言があった。  これに対して、起草結果では、筆頭章に「郷土愛をはぐくみ、ふるさとを守るために」を置き、次のように述べている。  「ふるさと」は、「他国を排斥しない愛国心」、「自然への畏敬の念」、「宗派を問わない宗教心」、「自分を育ててくれた自然、地域、人々への感謝の念」、そして、「社会の中で生きる力」につながるための「始まり」として、個人にとって格段に重要な意味をもっている。しかし、時代変化の中、とりわけ「平成の大合併」の影響を受けて、郷土、郷土愛が少しでも失われるとすれば、これは深刻な社会問題というべきである。  市民全般にとっての「ふるさと」の重要性とともに、「平成の大合併」によって、「ふるさと意識」が衰退することのないよう提言したものととらえられる。  そのため、起草結果では、「市民がふるさとに能動的に関わり、ふるさとを守り再生させる営み」として「まちづくりや生涯学習の活動」の意義を重視したものになっている。  青少年と親の社会化不全および課題解決のための地域教育力への期待については、「小さい時から地域との交流がないと難しい」、「昔は町内にガキ大将がいて、親分がいて、子どもたちのなかにルールができていた」、「幼児期から親と子ども、親と地域との交流がなくなる。自分自身だけの考えで行動している。人との関わりが希薄になり、事件につながる要素がある」、「しつけを学ぶおじいちゃん、おばあちゃんの存在もいない。しつけをする若い親にしつけ方を教えるといった、世代に応じたしつけが、まちの中で必要」、「しつけといって抑えつけるよりも、子どもには愛情が必要。親が抱きしめれば、その暖かさから何かを学ぶ。家族愛とか子どもへの愛情が大切。愛を含めた学習を楽しむことを、まちとして何ができるか。若い方に是非考えてほしい」、「地域ぐるみ、まちぐるみでしつけを考える核になるのは家庭」、「私たちは家庭教育の中で教わった。それが地域社会に生きるための術」などの委員発言が多数あった。  これに対して、起草結果では、「今の家庭、今の大人自身のあり方に危機を感じる。私たち自身が、今の生き方を見直さなければならないと考える」とし、次のようにその方策を提言している。「親が子に、地域の店で買うことを教えることによって、地域の人々が支え合う姿勢を伝える」、「アウトレットに来たお客様を、『家庭・地域に支えられる商店街』に誘導して、アウトレットの魅力とともに、佐野のまちづくりの良さを味わってもらう」。  これは、上に述べた子育てまちづくりの視点からの産業振興に関する発言を取り入れ、「子育てまちづくり」が、地元商店街の活性化などの公的課題としての地域振興とともに進められるよう提言したものととらえられる。  しかし、委員発言のなかには、「妻が地元の人間ではない。周りをみるとそういった方は結構いるが、地元のコミュニティに参加しづらい」などと、ある層の市民のなかには、地域にとけ込みづらい者もいることを指摘する発言もあった。  このような意見を重視し、地域と交流しようとしない親を責めるのではなく、現在のコミュニティをどのようにしたらそういう親たちがとけ込めるようになるのか、検討を進める必要があると考える。とくに「参画」と「仲間づくり」によるまちづくり推進の観点から、その方法について検討することが重要であるといえよう。   G 教育機関の教育力  教育機関に関しては、委員からは次のように数多く期待が述べられた。「(親は)わからないから学校に行くということが大事」、「昔の家族・学校制度の方が良かったが、今の世の中にあった形で親に受け入れてもらえるようにしたら良いのでは」、「身近な公民館を中心として展開していきたい」、「公共の施設の場所を広げていく」、「公民館は子どもたちで借りるなんて見たことがない」、「子どもたちの意見を取り入れる学校経営があってほしい」、「これから親になる中・高校生から親育てをしてもらう学習プログラムを提言する『親育て学習プログラム』を考えてワークショップなりを授業の一環の中に入れてもらう」。  以上のことから教育機関への期待としては、「教育機関に実施してもらう」、「教育機関と連携して実施する」、「教育機関を拠点として(市民が)実施する」という3種類があるといえる。  これに対して、起草結果では、「わたしたちからの呼びかけ」の章のなかの「市民の仲間たちへ」において、「追いつめられた子どもたちを出さないまちをつくろう。支持的風土と人権尊重のまちづくりの中で、若者のあこがれる大人になろう」と提言し、市民主体のまちづくりを呼びかけている。その上で、「佐野市行政へ」においては次のように提言している。  既存施設については、「まちづくりへの市民参画」と「市民としての生涯学習」の往復運動の観点から、新たな活性化を図ってください。たとえば、旧田沼地区の地区公民館などについては、その観点から、組織変更、人員配置を含めて、「貸し施設」から「活動拠点施設」への抜本的転回を図ってください。  職員、とりわけ専門職員に関して、市民の求める職能を分析し、それに応えることのできる資質・能力をもった職員を適正配置してください。  公的施設の夜間ボランティア館長の導入、広報の「まちづくり」、「生涯学習」関連ページにおける市民の企画・編集など、公的部門への市民参画の機会を拡大してください。  以上から、起草結果は、委員の意見として多数見られた市民参画の原則に立った施設運営の希望と、それらとは異なる専門的視点からの専門職員等の指導者の必要性の提言の両方を組み込んで提言したものととらえられる。さらに、「生涯学習推進構想への提言」としては、次のように述べている。  これまで、多くの自治体の推進構想では、あくまで行政としてすべきことを計画化し、表明することを主眼としていて、市民に対する露骨な注文はややもすると抑制されてきたように感じます。しかし、佐野市生涯学習推進協議会としては「協働」の観点から次のように逆注文しておきたいと思います。  行政として、市民の協力なしにはできないこと、市民でなければできないととらえていることは遠慮なく、はっきり示してください。まちづくり、生涯学習推進における、行政の課題、市民の課題、協働の課題のそれぞれを、官民協働で互いに検討しましょう。これが、今後の各自治体の生涯学習推進構想の本来のあり方になると私たちは考えます。  この起草結果は、まちづくり等の公的課題の学習に対して、行政側が市民主体の姿勢を鮮明にし、なおかつ公的課題の「提起者」の一員として、行政としての主体的役割を積極的に果たすよう求めたものととらえられる。この点については、市民委員の視点からはなかなか出てこない提言だと考える。協働のためのより具体的な方策を見出して、それを背景として政策検討を進める手法が求められているといえよう。  教育機関においても、青少年や親などの学習者側の社会化不全の実態を嘆くことにとどまらずに、まちづくり等の公的課題の提起によって、社会参画活動の推進のための政策検討を市民委員に促す必要があると考える。  その場合、教育機関による公的課題の提起、参画活動との連携、参画活動の拠点機能の発揮、活動支援などの方法について、より詳しい検討を進める必要があると考える。また、一般行政とは異なる独自の機能としての「教育力」を実現するためには、集団の参画活動過程における個人の社会化過程の構造を明らかにし、効果的な社会化支援の方法を実践的に明らかにする必要があるといえよう。   H 家庭の教育力  家庭の教育力については、次のように、委員から多くの発言があった。「社会を形成しているのは家庭」、「しつけといって抑えつけるよりも、子どもには愛情が必要。親が抱きしめれば、その暖かさから何かを学ぶ。家族愛とか子どもへの愛情が大切。愛を含めた学習を楽しむことを、まちとして何ができるか。若い方にぜひ考えてほしい」、「しつけを学ぶおじいちゃん、おばあちゃんの存在もいない。しつけをする若い親にしつけ方を教えるといった、世代に応じたしつけが、まちの中で必要になってくるのではないか」、「中高生が中心になって自分たちで子どものまち条例を作っているしつけを、家庭・地域・職場でやっているか、日本では疑問」、「わが子のことを真剣に考えているかいないかわからない親が多い中で、ましてや他人のことなんかどうでもいいやっていうのが現実」、「『今の自分たちの生活が楽しいから生まないんだ』とか、いろんな人が言いますが、私は、自分たちの心の貧しさがそういうことを物語ってくるのかなと感じています」、「家庭教育をどのように勉強し直すか、ということから入っていっていただきたい」、「私たちは家庭教育の中で教わった。それが地域社会に生きるための術」、「昔の家族・学校制度の方が良かったが、今の世の中にあった形で親に受け入れてもらえるようにしたら良いのでは」、「地域ぐるみ、まちぐるみでしつけを考える核になるのは家庭」、「居場所であるべき家庭が居場所ではなくなってきている子たちが多くなってきている。家庭はどういうふうに夫婦で築いていくものなのかということを、しっかり今の子どもたちから考えて」。  これに対して、起草結果は、「家庭教育の回復を挙げたい。親子の交流、共有、感動、絆、そして感謝の気持ち、このような大切なことが、今、失われつつある」、「今の家庭、今の大人自身のあり方に危機を感じる。私たち自身が、今の生き方を見直さなければならない」と、家庭の教育力に対して委員のもつ大きな期待を反映する結果となっている。  その上で、起草結果では、一方策として、次のように「親教育」の意義と方法について述べている。「親の不安や悩みに的確に応える親学習プログラムを提供することの重要な意義が示されている」、「獲得能力目標の明示された親学習プログラムとして編成する手法を開発したい。このようなことによって、親学習プログラムの作成における親自身の参画が可能になると考えられる」。  従来から、青少年教育関係者のあいだでは、「子どもの問題以上に、それを育てる親に問題がある」、「社会教育で親のための学習プログラムを実施しても、学校教育のように義務教育ではないので、本当に学ぶ必要があると思われる問題のある親は参加しようとしない」ということがよく言われてきた。  今回の起草結果は、その「閉塞状況」に転機をもたらす要素として、「子育てまちづくりへの参画」およびそれに伴う「仲間づくり」の重要性を指摘したものととらえられる。親教育も、このような公的課題への参画活動推進の一環として位置づけられているととらえることができる。  市民活動をしている委員でも、具体的な問題提起の発言に終始することが多い。今後、さらに検討を進め、親の社会化過程の実態と基本的構造に的確に対応した支援の内容と方法のあり方を専門的視点から明らかにする必要があると考える。   3.4 結論  以上の佐野市生涯学習推進基本構想作成過程の検討結果から、次の点が明らかになったと考える。 @ 「まちづくり推進」という公的課題の学習において、生涯学習推進関係者のあいだでは、青少年と親の社会化不全の状況が問題視された。 A 社会化不全状況の解決のためには、先述の「社会化促進要因」が重要であると委員に認識された。 B 「まちづくり推進」において、これらの「社会化促進要因」を活性化するための方策については、委員発言および起草結果から、「居場所」、「参画」、「仲間づくり」などに関して、実践的で有益な提言が行われた。 C しかし、「地域教育力」、「家庭教育力」などに関しては、現在の「衰退」や「閉塞」等の状況に対する憂慮がややもすると強く表れ、生産的な議論に進むまでに時間を要したため、実効性のある現実的な支援方法を十分に具体的に明らかにするまでには至らなかった。 D 会議では、社会化未達に関する具体的な問題提起は多く発言されるが、これをまとめて政策としての文章作成に結びつけることは難しい。結局、専門家の意見や執筆に頼ることになってしまう。 E このほか、会議形式の場合、教育の場や家庭、地域で子どもがどう育つのかという本質的課題には関知せず、自己への振り返りもしないままに、行政の政策上の手続きの問題等について「一言、言いたい」という点に集中して市民委員が発言するようなケースも考えられる。  C、D、Eのような問題を解決し、「地域教育力」、「家庭教育力」などの社会化促進要因への理解を踏まえた政策立案を進めるためには、単なる会議形式にはとどまらない、より生産的、効率的な方法を検討する必要があると考える。   4 「生涯学習都市宣言」起草文作成過程等におけるワークショップスタイルの導入による市民参画実質化効果 4.1 研究方法  「生涯学習都市宣言」起草文原案作成に伴う委員会活動の検討では、ID成果及び各委員の発言が起草に反映される過程を分析した。とりわけ、WSに適用した職業能力開発手法「クドバス」(CUDBAS:CUrriculum Development Method Based on Ability Structure,森和夫,1990年)13の効果を検証しようとした。時期は2007年5月〜7月、3回の開催中にWSを1回実施したものである。  クドバスでは、5人前後の3時間程度のグループワークによって、必要能力をカードに書き出し、これを仕分けして、重要度順にリスト化して、チャートを作成する。汎用性が高いため、本研究においては、「生涯学習都市宣言」のための生涯学習推進ID作成や「放課後子どもプラン」のための居場所事業メニュー作成等に、このチャート作成の手法を活用した。  「佐野市放課後子どもプラン」策定過程の検討では、本年度活動全体の目的である「地域住民の参画による『ナナメの関係』によって提供できる機能の実現」の観点から、その計画化作業の過程とプロダクツを分析した。とりわけ、居場所事業の到達目標の明確化と委員間の共有のために適用した前掲クドバスの効果を検証しようとした。時期は2007年5月〜6月、3回の開催中にWSを2回実施したものである。   4.2 結果と考察 4.2.1 平成19年度第1回協議会におけるワークショップの内容と成果  佐野市生涯学習推進協議会(以下協議会、亀田武司会長)は、平成19年3月29日、平成18年度審議結果として、「私らしさこのまちに咲かせます−佐野市生涯学習推進基本構想について」(答申)を市長に提出した。そこでは、生涯学習推進政策立案にあたって、「『私』の充実から、さらに『社会に参画してまちをつくる私』の充実へと発展する市民の主体的活動としての重要な意義」を示そうとした。なお、協議会委員の構成は全体で20人であり、そのうち5人が公募委員である。また、会長も、公募委員の中から選出された。  平成19年度第1回協議会(平成19年5月21日開催)において、「生涯学習都市宣言起草のための『佐野市生涯学習推進ID』作成ワークショップ」を行った。原案作成者である筆者は、これをもとにして宣言文の第1次案を作成しようとした。  原案作成者は、ワークショップの目的を次のとおり示した。「生涯学習都市宣言起草のためのレベルアップした発想を発見し、ID表現としてまとめ上げる。ここで作成されたIDをもとに宣言文案を起草することによって、構造的な内容に裏付けされた宣言文を実現する」。また、原案作成者が提示した宣言文素案は次のとおりである。  私たち佐野市民は、一人一人が「個」を深め、個を生かし、協働して佐野市のまちづくりに参画します。  その活動をとおして、私たちは「私らしさ」を認め合い、育み合い、支え合う仲間をつくり、私たちのふるさと・佐野を未来へ残します。 1.ふるさとを守り、育みます。 2.地球環境を守り、地域の安全を守ります。 3.青少年と子育てのまちをつくります。 ここに佐野市は生涯学習都市を宣言します。  上の素案の前文は、前掲協議会答申の趣旨に沿って作成した。「ふるさと」「環境・安全」「子育て」の3つの領域は、前掲協議会答申のキーワードを集約して設定した。  ワークショップは、クドバスの手法を用い、素案の1から3までを起草するために必要なID表現項目の整理と文章化を、3つのチームに分かれて行った。  ここでは、「子育てチーム」のID要素作成成果(クドバスチャート)を示しておきたい(図1)。各委員の多様な思いが6つのID要素として共有されたものととらえられる。  図1 「子育てチーム」作成生涯学習推進ID要素クドバスチャート  (行・列ともに重要度順。A:非常に重要、B:ふつう、C:あまり重要ではない。) 4.2.2 第1回協議会ワークショップ成果の結果と分析  各チームのID要素作成成果と文章化成果について、その記述内容から抽出されるキーワードを、3領域に沿って分類し、これをさらに協議会答申の主要な柱である「学習」「交流」「参画」に分類した。各チームの成果を見て、後日、個人文章を提出した委員があったので14、分類にはこれも含めた。その結果を表4に示す。    表4 キーワードの分類   @学  習 A交  流 B参  画   ふるさと ふるさと再発見 若者 ふるさとの良さ 芸能 世代間交流拠点 地域人材の活躍 文化 若い世代への伝承 佐野の自然を守る 民話 世代間交流 発表 伝説 お年寄りとの交流 フェスティバル 昔話 地域間交流 情報発信 祭り 家族の絆 地域アピール 文化財 仲間づくり 遊び場づくり 食文化 近隣コミュニケーション 子どもの安全確保 遊び 心温かい人々 本物の田舎の良さを発信 学び合う心   地域人材の発見 昔の遊び研究   地域情報発信 ふるさと学習   自然資源マップづくり 野仏、道祖神   観光振興方法の開発 田中正造     里山     小川     愛郷心育成       環境・安全 あらゆる学習機会 天災時の集合 美しい自然 食 地域住民連帯 安心 消費生活 挨拶運動 安全 規律遵守 一声運動 防犯 規範意識 笑顔 自衛パトロール 安全指導   安全宣言 構造的学習機会   防災マップづくり 消費者教育   犯罪のないまちづくり 経済観念   ボランティア活動 金銭感覚   市民参加 エコ学習   豊かな自然 先人に学ぶ   河川清掃 家庭ゴミ処理学習   森林保護 生活改善   空気 ポイ捨て防止学習   水     まちの緑     農村山間部     ふるさと     リサイクル活動 子育て 円満な人格形成 世代間愛情 青少年育成 子育ての責任と喜び 世代間交流 子育て応援 郷土愛 傾聴 子どもの地域参加 人間愛 相互理解 学校行事をバックアップ 人格形成 誠実 子育てまちづくりへの参画 個人の目標の実現 言葉がけ 子どもが安全に遊べる場をつくる 自立 心優しい青少年 放課後の居場所づくり 子どもの実り豊かな人生を支援 人間愛 地域実態に応じた青少年育成 子どもに尊敬される大人の自己形成 家族愛 真の学力を育てる地域 子育ては親育ち 挨拶   命の尊さへの気づき 世代間断絶解消   地域は百科事典 近所の子どもを見守る愛情   親子共育ち 各自の生きがいの交流   親学の実践 前向きな友達関係   子育て世代の学習支援 三世代交流   将来像の自己設定 片親、不登校の子を見守る地域   五感を育てる     遊びからの学び     個人文章 文化、趣味、教養学習   伝統文化芸能伝承 市民一人一スポーツ   健康づくり     スポーツ振興     国際化に対応するまちづくり     参画活動による新しい公共性の創造   4.2.3 第1次案の内容と検討  以上の結果をもとに、原案作成者は、第2回協議会(平成19年7月13日)に提出するための「佐野市生涯学習都市宣言」起草文原案第1次案を作成した。第1次案は、各チームのほぼすべての文章化成果を含み、また、ほとんどのキーワードの趣旨を組み込んだものである。  以上の結果から、われわれの行った「佐野市生涯学習都市宣言」起草文原案第1次案作成のためのワークショップには、次の効果があったと考える。 @ 生涯学習推進のためのID表現について、レベルアップした発想を発見し、まとめ上げることができた。 A 作成されたID表現をもとに、各チームで宣言文の文章化を行うことによって、「構造的な内容に裏付けされた」宣言文を作成することができた。 B 以上の成果をもとに起草文原案を作成することによって、市民代表としての協議会委員の実質的な合意形成のもとに宣言文(第1次案)を作成することができた。  以上の効果から、生涯学習推進に関するイメージを「会議」ではなく、「ワークショップ」でまとめ上げたことは、都市宣言文作成過程における市民参画実質化の方法として効果的であったと考える。   4.2.4 第2次案及び第3次案の作成  「第1次案」は、各チームのワークショップ成果をできるだけ取り入れたことから、分量が多すぎる結果になった。これを解決するため、原案作成者は協議会会長および事務局と協議し、第2回協議会に提出する「佐野市生涯学習都市宣言」起草文原案第2次案を作成した。  「第2次案」は、結果としてはコンパクトなものになったが、その背景には、協議会委員のワークショップ成果という貴重なバックデータが控えている。このことから、「起草文原案」は、協議会委員の生涯学習推進に求めるイメージを凝縮して表現したものととらえることができる。これを確実にするため、本宣言が市議会で決定された後は、行政の発行する都市宣言普及資料等において、ワークショップ成果や説明資料をできる限り添付することとした。  第2回以降の協議会は、通常の会議形式で行われたが、審議の結果、最終的に議会に提出された宣言文案はワークショップの成果を反映して、委員の多様な意見を取り入れつつも、一貫性のあるものとなった15。   4.2.5 「放課後子どもプラン」ワークショップ成果から見た市民参画実質化効果  ここでは、「日常型チーム」のワークショップ成果を示す(図2〜4)。     図2 放課後子どもプラン「日常型」の機能チャート 図3 「日常型」の機能関係図 図4 「日常型」の資源チャート    各チームは、以上のとおり作成した「機能チャート」「機能関係図」「資源チャート」をもとに、「事業メニュー」を作成した。そのため、事業メニューにおいては、それぞれの事業について、実現すべき機能と達成すべき目標を明確化することができた。  市民参画によって「居場所づくりメニュー」を作成しようとする場合、市民としての立場や思考が自由かつ多様であるため、メニュー内の一貫性とメニュー間の関連性に欠けるものになることが多いと考える。これに対して、クドバスを導入した場合は、居場所づくりの各事業における達成目標が明示されるとともに、居場所機能全体が構造的に把握されるため、共有された目標を前提としたメニューづくりが可能になると考える。   4.2.6 市民参画実質化の方法  生涯学習推進政策に関わる文章化の作業過程において市民参画を実現しようとする場合、次の問題が生ずると考える。 @ 市民の意見のなかには、文章全体のイメージについてのものがあり、その意見が重要であっても、現実の文章化においては反映するのが困難な場合がある。 A 市民のそれぞれの意見をそのまま機械的に取り入れると、文章全体の整合性に欠ける場合がある。 B 市民間で意見の対立があった場合、最終的には、多数決や両論併記という方法によって対処するしかない場合がある。  これに対して、今回の「佐野市生涯学習都市宣言」起草文原案の作成過程においては、次の方法によって、市民参画を一定程度実質化することができたものと考える。 @ ワークショップによって生涯学習推進イメージが共有でき、委員の協働作業としての文章化の成果を得ることができた。 A その成果と原案修正結果をフォローアップするための会議を開き、ワークショップに欠席した委員も含めて「原案修正」に関わる合意形成を図ることができた。 B 原案作成者は、フォローアップで形成された合意のほか、前年度からの協議会での検討結果も踏まえ、委員一人一人の「背後の想い」まで推察しながら、それを宣言文に反映させることができた。さらに、「宣言文」の本体部分には質や量の面からなじまない事項については、ワークショップ成果や説明資料の添付によって実質的な反映を可能にした。  また、「放課後子どもプラン」ワークショップ成果の検討からは、市民としての立場や思考の自由性、多様性にもかかわらず、達成目標や構造的理解の共有が可能になることが明らかになった。  このような方法をとることによって、生涯学習推進政策決定過程における市民参画はより実質化できるものと考えたい。   4.2.7 政策検討実質化のためのクドバス手法の活用方法 @ フォローアップ検証  市民委員から、「欠席委員の多い中で急ぎ考えたものでは、よいものはできない。全員で議論を交わして、よりよいものを作り上げていきたい。議論をつくして満足のいくものにしたい」という指摘があった。このことについて検討しておきたい。  今回、活用した職業能力開発手法「クドバス」においては、必ずしも該当する職能者全員が参加しなければならないものではない。これは、業務を抱えて多様な勤務環境にある職能者の実態を考えれば、致し方のないことといえよう。また、たとえ参加できた者についても、日常の業務が控えており、KJ法などのように何泊もして成果を出すというわけにはいかない。クドバスでは、通常は、5〜7人程度で、2時間以内でチャートを作成する。  今後の生涯学習やまちづくりの推進において、多様な市民が参画するようになった場合、同様の問題が生ずると考えられる。メンバー全員が出席して、議論を重ねて合意形成に至るという従来の活動形態は困難になってくると考える。  しかし、クドバスの場合、しばらく期間をおいてから「フォローアップ集会」を実施することがある。そのときまでにはパソコンでチャートを作成しておくので、効率的にチームとしての改訂作業をすることができる。この「フォローアップ集会」では、前回のチャート作成者は、冷却期間をおいた冷静な目で見直し、前回の欠席者は、前回の出席者と対等な立場でこれに参加する。そして、このようにして精査し、完成された「チャート」は、メンバー全員の合意として確認され、共有される。  今後の起草作業にあたっては、「チャート」や「原案」の両者について、このような多様な異なった観点からの検討を深めて、完成度を高めていく必要があると考える。  なお、今回の作成過程においては、協議会として有志委員による「臨時協議会」を開き、ワークショップ成果をフォローアップすることにした。そこで、宣言文案そのものについて修正意見があった場合は、原案作成者が、宣言文の全体像を勘案しながら、協議会に提出する「起草文原案」に反映させることにした。 A 実態検証  学校代表の委員から、「子育てに関わることや学校教育に関わることをチャート図から読むと、本市の実態をどのように捉えたのか、または検証したか、あるいは、昨今のマスコミ報道からそのように捉えたのかなど、その根拠の提示が必要な内容が見られた」という指摘について検討しておきたい。  クドバスの場合、当事者である職能者と、それより少し上位の職能者(初任者に対する主任など)がチームをつくって、対等な立場でチャートを作成することが多い。また、その職能について熟知している異なった立場の者の参加も歓迎される。それでも、なお、最初に、その職能のプロフィールや課題を話し合って、「課題シート」を作成し、チャート作成の目的等を確認する。  今後、生涯学習推進に対する市民の参画が進行した場合、上に引いた実態検証の必要性は、ますます大きな問題になると考える。  このことについては、次のように考える。「市民参画」が進められるということは、行政や専門機関が「手を引く」ということであってはならない。むしろ、市民の手による「実態検証」のために、必要な情報提供や、専門的技術的指導・助言を、行政や専門機関は積極的に行わなければならないと考える。これを「官民協働」の一形態ととらえることができる。  今後の起草作業にあたって、クドバスの「課題シート」16に匹敵する前提についても、「フォローアップ」によって立ち返って確認して訂正した時点で、完成及び協議会合意とみなす必要があると考える。   5 子育てまちづくり政策検討実質化に関する今後の研究課題  各種の起草文原案作成やプラン策定過程において、市民の形式化を避け、実質的な参画を実現するためには、どのような方法が効果的なのか。ここで示したワークショップ等の参画方法の効果は十分には検証されているとはいえない。  とくに親の社会化支援方策を計画化するにあたっては、すでに見てきたように、市民委員の間に否定的な見解が強く表れ、実効性のある現実的な支援方策を生産的、効率的に計画化するまでには時間がかかることが多い。  今後は、会議形式の場合の方法論を含めて、以下の3側面から、より全体的、立体的に詳しく検討を進めたい。 (1) 成果及びプロセス面の検討  次の視点から比較することによって、参画効果とその現実性について明らかにする。  @ 事例の議事録、プロダクツ  A 所要時間、発言者の偏り、方法のわかりやすさ、無駄時間の少なさ  B 自己内対話時間の効果 (2) 関わる委員、事務局職員の意識面の検討  委員の気づきやストレス、担当職員の達成感や委員への共感度に関する比較を行う。このことによって、市民委員の原案作成やプラン策定に向けた主体的意識の形成過程や、事務局職員の参画支援者としての意識形成過程を明らかにする。 (3) 関わる委員間及び事務局職員との相互関係の検討  市民参画の実質化のためには、市民間及び行政職員との相互関与過程を分析し、そこでの合意形成の促進要因を明らかにする。  「社会開放型子育て観」の視点と、これに基づいて開発してきた記述分析、活動分析などによる個人・社会の一体的分析手法を適用して、これらの研究課題にアプローチすることによって、新たな研究の展開を見ることができると考える。 1 年表:佐野市生涯学習推進の経緯 1993年(平成 5年) 4月 佐野市生涯学習推進基本構想「私らしさ咲かせます」策定 10月 佐野市「私らしさ咲かせます 楽習のまち佐野」都市宣言 1997年(平成 9年) 4月 田沼町生涯学習推進計画「素敵だね いつでも何かを学ぶ人」策定 1998年(平成10年) 4月 佐野市・田沼町・葛生町合併協議会設置 1999年(平成11年) 3月 葛生町生涯学習支援計画「くずう活躍人プラン」策定 2005年(平成17年) 2月 新佐野市発足(人口12万7千人) 8月 岡部正英市長から佐野市生涯学習推進協議会(亀田武司会長)に対して佐野市生涯学習推進基本構想について諮問 2006年(平成18年) 10月 佐野市生涯学習推進協議会「私らしさ このまちに 咲かせます−佐野市生涯学習推進基本構想について」中間答申 2007年(平成19年) 3月 佐野市総合計画基本構想・基本計画「育み支え合うひとびと、みずと緑と万葉の地に広がる交流拠点都市」(平成20〜29年度)策定 佐野市生涯学習推進協議会「私らしさ このまちに 咲かせます−佐野市生涯学習推進基本構想について」最終答申 5月 佐野市生涯学習推進協議会「佐野市生涯学習推進ID作成ワークショップ」 佐野市生涯学習推進本部設置(本部長:岡部正英市長) 佐野市放課後子どもプラン運営委員会設置 7月 佐野市放課後子どもプラン運営委員会「放課後子どもプランの推進方策について−青少年の居場所づくりと子育てのまちづくり」提言 12月 佐野市「楽習と参画のまち佐野」都市宣言 2008年(平成20年) 3月 佐野市生涯学習推進本部「佐野市生涯学習推進基本構想・基本計画−私らしさ このまちに 咲かせます」策定  本研究では、下線(ゴチック)の政策立案過程を分析した。 2 表「中間答申作成スケジュール」  ○は青少年育成及び子育てまちづくりに関する審議のあった回である。本研究では、該当全7回の委員の発言内容を分析した。 3 中間答申の構成は次のとおりである。 1 まちづくりへの参画 (1)郷土愛をはぐくみ、ふるさとを守るために (2)田中正造などの郷土の偉人の整理と提示 (3)少子高齢社会の問題解決 (4)男女共同参画によるまちづくり活動 2 子育てのまちづくり (1)支え合う仲間との活動の重要性 (2)家庭教育の回復と親学習プログラムの開発 (3)子どもや若者の居場所をつくろう (4)地域子育て宝物マップづくり (5)河川、山林、農地等に関する学びと山村振興活動 (6)家庭・地域に支えられる「中心市街地活性化」 3 幅広い生涯学習活動の活性化 (1)趣味・教養分野の市民研究成果の社会還元と大学による支援 (2)健康づくりと仲間づくり 4 表「生涯学習都市宣言」の構成 「楽 習 と 参 画 の ま ち 佐 野 」 都 市 宣 言 【まちづくりへの参画】 私たち佐野市民は、ひとりひとりが楽習をとおして個人として深まり、その個性を生かし、協働して佐野のまちづくりに参画します。たがいに自分らしさを認めあい、支えあい、はぐくみあう仲間をつくります。まちづくりへの参画のなかで、自分らしさを佐野のまちに咲かせます。 【環境・安全】 私たちはふるさとを守り、はぐくみます。家庭、地域、学校、職場のなかで、世代や価値観の違いを越えた心の交流を広め、安全で安心なまちをつくります。 【子育て】 子育てのなかで親が育ち、こどもが愛されて育つまちをつくります。 【ふるさと】 私たちは佐野のもつすばらしい自然と文化を学びます。ふるさとの自然を守り、ふるさとから文化を発信します。 【宣言】 ここに佐野市を「生涯学習都市」とすることを宣言します。 平成19年12月25日 佐野市  本研究では、研究2において、同「都市宣言」の原案作成過程を分析した。 5 図「防衛的風土から支持的風土への転換」(Gibb,C.A.、1969から筆者作成)  同都市宣言の「個を生かした支持的風土への転換」という概念は、その原案作成過程としての市民委員のワークショップにおいても重視された。 6 以上の経緯については、西村美東士「佐野市の市民参画による生涯学習推進」、日本生涯教育学会『生涯学習研究e事典』、http://www.j-lifelong.org、2009年4月。 7 文部科学省は、平成19年度政府予算において、「本プランは、これまで実施してきた『地域子ども教室推進事業』同様、地域の方々の積極的な参画が事業の推進に欠かせない」とした。「教育再生会議」は平成19年1月に第一次報告を発表し、「社会総がかり」で子どもの教育にあたることの重要性を指摘し、同プランの全国的な展開を求めた。「子どもを守り育てる体制づくりのための有識者会議」は、同年2月、「第一次まとめ」において、「社会全体で子どもを育て守るためには、親でも教師でもない第三者と子どもとの新しい関係(ナナメの関係)をつくることが大切」とし、同プランにおいて、「地域社会と協同し、校内外で子どもが多くの大人と接する機会を増やす」よう提言した。 8 前掲「子どもを守り育てる体制づくりのための有識者会議」による「第一次まとめ」。 9 委員の発言内容に関する逐一的データは、西村美東士「まちづくり推進における青少年と親の社会化支援方策−佐野市生涯学習推進基本構想作成過程からの検討」、pp.17-37、聖徳大学生涯学習研究所紀要『生涯学習研究5』、2007年3月に掲載されている。 10 前掲脚注3参照。 11 逐一的データは、前掲西村美東士「まちづくり推進における青少年と親の社会化支援方策−佐野市生涯学習推進基本構想作成過程からの検討」。 12 東京都青少年問題協議会「東京都における青少年健全育成のための行動計画策定にあたっての基本的考え方と施策の方向について−自立と参加のユースコミュニティを(答申)」、1984年1月。 13 クドバスでは、職業能力を分解して、知識、技能、態度の3側面から表記し、これを構造化して、そのまま学習プログラムに反映させるため、当然の結果として、プログラムの各回において獲得できる能力(学習目標)が明確に示される。 14 クドバスでは、当日の欠席者も、フォローアップの時点から参加することができる。 15 佐野市「楽習と参画のまち佐野」都市宣言、平成19年12月25日佐野市議会議決 16 クドバスでは、作成する学習プログラムの目的、対象、条件などを、メンバーで話し合って設定する。 --------------- ------------------------------------------------------------ --------------- ------------------------------------------------------------ 7まちづくりと関わる子育て支援 7.4行政による親の社会化支援のあり方 7.4.1子育てまちづくり政策検討の実質化の試み−佐野市における政策立案過程を通じて 18 1