8.1.1. クドバスワークショップによる子育て支援社会連携研究センター機能の検討 クドバスワークショップによる 子育て支援社会連携研究センター機能の検討 西村美東士 1.目的 「地域連鎖の形成支援」により、「連鎖的参画による子育てのまちづくり」と「社会に開か れた子育て観への転換」を実現するために果たすべき「聖徳大学子育て支援社会連携研究センター」(以下、支援センターと呼ぶ) の機能について明らかにする。 2.方法 職業能力開発手法クドバス(CUDBAS = Curriculum Development Method Based on Ability Structure)の手法を援用して、センター機能に関する「クドバスチャート」を作成する。 その成果を分析し、求められるセンター機能の全体像を検討する。 3.経過  クドバスの創始者である森和夫(技術・技能教育研究所所長)を指導者として依頼し、本研究テーマのもとにクドバスワークショップを実施した。その当初の趣旨は次のとおりであった。「本研究の3つのプロジェクトすべてに共通する不可欠の専門的技術的基盤としての職業能力開発手法クドバスに関して、学内研究員の技能習得を図る。また、支援センターにおける研究開発の一環として、子育て支援者等の職能分析とその構造化のための「ラダーづくり」を行い、職能段階の明確化を図る」。  しかし、実際には参加者が少数であったことなどの事情から、テーマを支援センターの機能に焦点化して実施した。また、「ラダーづくり」については、今回の成果をもとに、支援センターにおける子育て支援実践をとおして開発することとした。  2回にわたって実施したワークショップの進行は表1のとおりである。 表1 ワークショップの進行 ワークショップ集会※1 10:30〜12:00 講義「クドバスの概要と進め方」(森和夫) 12:00〜12:20 グループ課題打合せ 12:20〜13:30 休憩・移動 13:30〜15:30 | クドバスチャート作成 15:30〜15:40 ブレークタイム 15:40〜16:30 成果物の検討 16:30〜17:30 講師まとめ フォローアップ集会※2 14:00〜15:00 講義「クドバスチャート・ラダーづくりの他領域実践例」(森和夫) 15:00〜15:10 ブレークタイム 15:10〜17:00 成果物の相互評価と修正及びコンセプトの作成 17:00〜18:00 講師を交えた情報交換 ※1 平成18年3月7日 ※2 平成18年3月29日 その結果、表2のとおりクドバスチャートを完成させた。 現在は、支援センター担当教員と保育者が、その成果を実践的に継承し、支援センター経営戦略や事業評価等のためにさらなる開発発展を進めている。 表2に示したチャートをもとに行われたフォローアップ集会において、センター機能全体を表すコンセプトとして、「本センターは子育て支援を支援する「センター オブ センター」である」というフレーズが作成された。 表2 期待される聖徳大学子育て支援社会連携研究センターの機能 4.結果  求められるセンター機能の全体像を検討するため、本チャートに示された「仕事」を類型化して整理した。また、各「機能」については、Aを2点、Bを1点、Cを0点として「仕事」別に集計し、全体からみた比率を算出した。その結果を表3に示す。 表3センター機能の類型(仕事の系列)  表3の結果から、各系列について、得点に応じた面積比に基づいて図1を作成した。これをもとに、センター機能の全体像について検討しておきたい。  この結果は、第1に、「ネットワーク系」の機能の得点が最大であることを示している。ここでいうネットワークは、機能カードを見ると、機関間連携でもあり、人的ネットワークでもあることがわかる。また、「商品開発」の得点は低いが、ネットワーク構築のなかで実現すべき機能であると考える。第2に、場や情報の提供など、親を直接対象とする「サービス系」の機能の得点が高い。しかし、機能カードを見ると、その一つ一つは開発的であり、親の自己形成とともに、社会的課題を意識し、よりよい社会形成を目指したものが多いことがわかる。これらは、次の「研究系」と連動するものといえる。 第3に、「研究系」は、クドバスチャートでは重要度が1位(最上段に配置)とされたにもかかわらず、「系列」としては「実践研究」のみで、「仕事」も一つだけであり、得点比率は22%にすぎない。しかし、上に述べたとおり、第1の「ネットワーク系」、第2の「サービス系」の機能のほとんどは、第3の「研究系」につながっていくと考える。このことから、支援センターの「研究」は「純粋研究」ではなく、「実践」と連動して「センター・オブ・センター」としての役割を発揮するために行われる性格のものであると考える。 5.課題 われわれは、今後も、「大学の子育て支援センター」としての役割を追求し続けたい。そのコンセプトは、「センター オブ センター」であり、それは、東葛地域をはじめとする全国の子育て支援センター、関連機関、関連団体を支援対象として、「社会に開かれた子育て観」を形成しようとするものである。その役割発揮のためには、日々の子育て支援実践活動と、その成果から情報や知見を生み出す研究活動との不断の交流が必要になる。 本稿では、そのための鍵概念として、@機関間ネットワーク及び人的ネットワークの構築、A社会形成を目的化した親の自己形成支援サービス、B子育て支援実践と連動した研究の3点について検討してきた。支援センターは、上の3概念に対応して、次の3点について、今まで以上に積極的な役割を発揮することが重要であると考える。それは、@「発信」:社会に向けて本学からの情報やメッセージを発信すること、A「開発」:「子育てのまち」という社会形成に結びつく支援プログラムを開発すること、B「分析」:支援センター、大学教育、地域社会における子育て支援実践に関わる諸機能を構造的に理解するため、クドバスの手法等を活用して、いったん諸機能を分解してリスト化し、これを再統合して構造化すること、の3点である。本稿の終りにあたって、とくにBの「分析」について、今後の研究課題を考えておきたい。  本稿では、クドバスチャートを掲げ、その成果から支援センターの機能について検討した。これを便宜上「表」としたが、本来の表は行・列ともに統合されたものでなければならない。その点では、「表2」は、行については「仕事」への分類という形で一定の整合を図り、さらには系列化も試みているが、列については重要度順に並べただけで、他の行(「仕事」)に所属するカードとの整合は図られていない。このように、クドバスチャートの段階では、正しくは「構造化」された状態とはいえないのである。  クドバスで職業能力開発カリキュラムを作成する場合、チャート作成の次の段階として、「科目」列を設け、各カード(分解された達成能力)を「仕事」横断的に「科目」ことに再配置する。このことによって初めて一定の構造化が行われ、「構造的カリキュラム」の作成が可能になるのである(筆者注:別稿「クドバス活用による親能力確実習得プログラム研究」参照。同稿の表「必要能力・資質構造図」がこれに該当する)。本稿では、クドバスのもつ汎用性に基づいて、これを機能分析の手法として導入し、支援センター機能のあり方について検討した。しかし、上に述べたことから、センター機能の「構造的理解」としては不十分な面がある。さらに、支援センターが「センター オブ センター」としての機能を十全に発揮するためには、大学の教育・研究機能及び社会の子育て支援機能をも構造的に関連づけて理解する必要がある。そのため、クドバスの「科目」列に換えて「課題」列を設定した場合の構造化のイメージを図2に示した。 図2では、大学及び社会における「子育てのまちづくり」支援機能も含めて、その構造を示そうとした。行については本稿で設定した「仕事の系列」を用いた。また、「課題」については、仮に、本研究の研究課題に基づいて設定した。そのため分解した機能の課題への帰一性や網羅性に欠ける面がある。今後は、それぞれの諸機能を分解してカード化し、これを「仕事の系列」別にリスト化するとともに、そのカードに基づいて、より適切な「課題」を設定し、支援センター、大学、社会を貫く構造化を図りたい。これは、大学だからこそできる研究であり、大学だからこそ発揮しなければならない社会的役割であると考える。本センターを拠点とし、本学固有の「児童学」教育研究機能を最大限に活用して、本研究を進めていきたい。 図2センター機能の構造化イメージ 西村美東士:クドバスワークショップによる子育て支援社会連携研究センター機能の検討、聖徳大学子育て支援社会連携研究「連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究」平成17・18年度研究集録、pp.11-15、2007から再掲。