クドバス活用による子育て支援社会連携研究センター事業評価に関する研究 西村美東士 1.目的  子育て支援社会連携研究センター(以下、支援センターと呼ぶ)の経営において、PDCAサイクル(plan、do、check、act)を実現するため、効果的な評価(check)のあり方を提起する。 2.方法  支援センターの機能に関する「クドバスチャート」成果を利用して、「センター評価票試案」を作成し、期待できる効果を検討する。  また、おもにテーマ2「親能力確実習得」に関する研究で得られつつある仮説に基づき、「利用者評価票試案」を作成し、期待できる効果を検討する。 3.経過  平成18年3月7日及び同月29日にクドバスワークショップを実施し、支援センターの機能に関する「クドバスチャート」を作成した(西村美東士「クドバスワークショップによる子育て支援社会連携研究センター機能の検討」、本書)。  本成果をもとに、支援センターのスタッフである教員と保育者の努力により、現実のセンター事業の実践をとおして、適正な事業評価のための検討が進められつつある。  しかし、本稿では、「クドバスチャート上から直接作成できる「評価票試案」を示し、期待できる効果を検討したい。  また、本研究全体をとおして、子育て支援事業のもつ効果が明らかになりつつある。  とくにテーマ2「親能力確実習得」の研究においては、関連事業が、親及び親子関係 に対して与える効果について、一定の仮説の設定が進みつつある。  この仮説に関して、筆者の検討結果として、「親の能力開発ラダー」(図1)を示しておきたい(西村美東士「構造的理解に基づく子育て学習の支援のために―子育て支援学習における学生の社会的視野拡大の事例からの検討−」、『日本生涯教育学会論集』、27号p.51、2006年7月)。  現段階では、上記仮説の妥当性は、まだ十分には検証されていない。また、一般の職業能力開発ラダーとは異なり、循環、後退、飛び越しなどの過程が多く見られると推察される。それらの過程の分析も含めて、今後詳しく検討していきたい。 本稿では、本仮説に基づいて、「利用者評価票試案」を作成する。すなわち、親の対「わが子」、対「自分自身」、対「他の親」、対「社会上のそれぞれの気づきを、子育て支援効果の重要な要素として認識し、その効果について親自身が回答する「評価票」を作成し、期待できる効果を検討したい。 4.結果 4−1 「センター評価票」の効果  「センター評価票試案」を表1に示す。なお、表1では、重要度レベルCのカードは割愛してある。表1から、本試案は次の効果が期待できると考える。 @「必要度/達成度」から、事業計画における優先度を導き出すことができる。また、優先度の最低点0.2(1/5)から最高点5.0(5/1)までを5つに区切り、各機能を1から5までに分類することができる。 A 各機能について、1と2を灰色系、3を青系、4と5を赤系の色で棒グラフのように塗りつぶせば、可視的に「温度差」を表すことができる。 B 本票の右半分をセンター職員の職能により、1:できない、2:指導者がいればできる、3:一人でできる、4:工夫や改善ができる、5:職員に教えることができる、  の5分類で分析すれば、適正な人員配置計画や効果的な研修計画が可能になる。  なお、クドバスは、必ず実行計画に結びつけることが原則である。そのため、支援センターの日々の実践のなかから実現困難であると判断される事項については削除するなどして、本票を「実行するための評価ツール」として完成させる必要がある。 4−2「利用者評価票」の効果  「利用者評価票試案」を表2に示す。表2から、本試案は次の効果が期待できると考える、 @ 親の気づき過程に対する支援効果を分析的に明らかにすることができる。 A 支援センターの他の事業や、他団体の事業のもう効果との比較研究の対象にする ことができる。 B 子育て支援社会連携研究の趣旨について、回答する親の理解を得る機会になりうる。そのことによって、支援される客体から、「個人内完結型」から「社会に開かれた子育て観」への転換の契機になり、参加、協力、参画する主体に発展する可能性が期待できる。 なお、本票は比較研究のため、「にこにこキッズ」の利用者評価票としては、ほとんど期待できない項目も含まれている。すべての項目において効果が毎回表れるはずがないことは当然の前提であるが、「にこにこキッズ」の日常の実践のなかで、必要に応じて現実的な項目に修正する必要があると考える。 5.課題  「check」の結果を「act」、「plan」に結びつけるためには、機能分析とともに、その機能を実現するための職能分析が必要になると考える。この点について、検討を進めていきたい。  また、親の気づき効果については、「後戻りのない」本来の能カラダーの究明を目指したい。 西村美東士:クドバス活用による子育て支援社会連携研究センター事業評価に関する研究.聖徳大学子育て支援社会連携研究「連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究」平成17・18年度研究集録、pp.17-20、2007 から再掲。