子育ての暗黙知に関する研究 ―映像解析による保育者の子育て支援行動の分析― 森和夫1、加藤敏子、西智子、津留明子、位田かづ代、西村美東士 1.問題関心  核家族化が進展して多くの時間が経過した。親から子へ、子からその子ヘと代々受け継かれてきた子育ての方法が、伝承されない状況で時間は経過した。このため、子どもの発熱に際して、やみくもに薬や医師に頼ったり、夜泣きに際しては放置するなど、これまで考えられなかった状況が生まれている。かつての母親たち、家族が共有したノウハウ・暗黙知はどこにいってしまったのだろうか。暗黙知とは「経験やカン・コツ」に由来するものをさしている。暗黙知は経験・体験によって獲得した知恵・知識のことで言葉には表現しづらい内容を含んでいる、ものづくりの現場では技術・技能伝承の中心部分を暗黙知として特定し、その解析と伝承が進められている。この手続き、研究の方法を子育て支援研究に適用することにしたい。  子育て行動にある暗黙知を明確化するには、その行動の根軒をなす部分について、まず明らかにすべきであろう。行動の背後にあるものを明瞭化する試みが必要になる。もっとも大事な内容は状況把握にあり、どのような視点、考え方で状況を捉えようとしているかを明らかにする必要がある。この中核部分に「作業概念」がある。われわれは熟練作業者の行動を支える「作業概念」には4つの内容があると考えている。第1は「場の概念」と 呼ばれるもので「環境(作業環境)に対する十分な認識)のことである。作業者の事態や状況、作業の実行上の諸条件(作業環境の変更を含む)なども含む。第2は「到達目標概 念」である。最終目標としての成果の概念、到達成果のイメージである。これには品質や 評価の測面を含む。第3は「空間上の運動概念」である。動作の心覚や行為の全体的な姿 のことを指している。第4は「手段と時間の概念」である。最適な作業遂行のプラン、作 業者の行動、状況の変化等を時系列で想定できることである。「作業概念」は「場」、「到達目標」、「空間上の運動」、「手段と時間」で構成されており、熟練者はこれらを経験他によって身につけていると考えられる。  今回、ここで主に取り扱おうとした内容は「場の慨念」「手段と時間の概念」である。状況をどう捉えるか、どう動こうとしたかという視点から検討することにしたい。とりわけ、子どもを見る視点の確立というものが母親の子育て能力として重要な位置を占めると考えたい。  子どもを取り巻く場の概念はどのようになっているであろうか。図1−1は子どもを取り巻く場を示している、この状況の把握は子どもと母親とでも異なる。子ども自身においても年齢、性格他で異なると推測できる。保母がその場に関わるとすると、また、異なった状況を生み出すであろう。本論では母親の状況把握、場の概念の主要部分としての、子どもの把握を取り上げることにする。これは子育てにかかわる基本認識として必需のものと考えられるからである。図1−2は母親のおかれている生活空間を示している、このような生活空間が行動の背景にあると考えられる。  本研究では子どもへの関わり方の暗黙知についても触れることにしたい。母親の位置は子ども自身を含めて場の外にあり、場を変える力を待っていると考えたい。従って、子どもが限られた空間の中で遊ぶことについての全体のコントローラーとしての役割を持っている。子どもの親察の結果、どこに働きかければ、子どもがより良く育つかを考えて対応していると考えられる、分析的に記述すれは図1−3のようになる。子どもの状況観察をして、子どもにどのようになってほしいかを明確にし、どこにどのように働きかけるかを判断して、実際に働きかける。「現状の把握・状況確認→到達日標の設定→働きかけの手 段と時間計画→行動する」のようになる。「場の概念」→「到達目標慨念」→「手段と時間の概念」→「空間上の運動概念」と進展する。  このような子育て行動のプロセスをとると考えられる。本研究ではこの枠組みによって保育者の子育て支援場面の情報を収集し、分析することで暗黙知を明らかにしようとした。 2.研究方法  聖徳大学子育て支桟センターにある保育施設「二コニコキッズ」での子育て場面を、ビデオ映像に収録した。「二コニコキッズ」は親子で利用する施設である。専任の保育士が常駐する「遊びと保育に関する支援機関」として2007年にオープンした。定員は25家族までの受け入れが可能である。保育士は4名体制で活動している。利用者の多くは地元の松戸市在住の方たちであり、一定の評価が確立しつつある。本研究にかかわる場面撮影は2009年7月27日の午後に行った。当日の来館家族数は天候の関係もあって5家族と少ないが、子どもの年齢は1歳から5歳までに広く分布していた。撮影は館内の状況撮影、保育士の巡回場面、母親の子育て場面、保育士の行事指導場面の合計1時間30分にわたって連続で撮影した。  この後に、収録映像を聖徳大学保育学科の教貝3名によって分析的に検討し、その検討場面を映像と音声によって収録した。これを次の分析枠組みによって整理した。各場面別に「場の概念」「到達目標概念」「手段と時間の概念」「空間上の運動概念」の内容を音声記録から分類して整理した。 3.結果と考察 3−1、二コニコキッズでの子どもの遊び場面の種類  施設の特微から、野外で行われる遊びは少ない。その意味で野外遊び、室内遊びという分類からすると主に室内遊びに限定されていると言って良い。室内には玩具と遊具が整備されている。特に道具は野外と同様の体験ができるように整備が充実している。従って、玩具遊びと遊具遊びの2つの場面がある。こどもの遊びを同時に遊ぶ人数から分けるとひとり遊び、平行道び、二人遊び、仲間遊びになる。二人遊びには仲間同士であったり、親子であったり、保育士とであったりする。遊びの内容で分類するとスポーツ・運動系遊び、読書系遊び、製作系遊び、用具系遊び、楽器・音学系遊びのように分けられる、年齢から考えると0歳は「室内、玩具、親子、用具系遊び」のように構成される。1歳では「室内、玩具および遊具、ひとり遊びもしくは二人遊び・平行遊び、用具系遊び」が想定できる。このように子どもの年齢とともにその範囲と種類は拡大する。  「場の概念」「到達目標概念」「手段と時間の概念」「空間上の運動概念」という観点での対応をみると同じ遊び場面でもこれらの観点からは内容が異なると推定できる。 3−2、遊び場面別の子どもの観察と対応の仕方  収録した映像記録の中から、特に子育てに有益な情報と考えられる内容について、3件ほど抽出して詳細に検討することにしたい。  場面@「磁石玩具の遊び」は分類としては、1〜2歳児、玩具遊び、保育士との二人遊び、用具系遊びに属するものである。場面A「仰向けの子どもと遊ぶ」は7−10ヶ月児、玩具遊び、母親もしくは保育士との二人遊び、用具系遊びに属している。場面B「玩具を奪い合う」「転倒して泣く」は、玩具遊び、仲間との二人遊び、用具系遊びに属している。 場面@「磁石玩具の遊び」  こどもの玩具遊びに保育者がかかわる場面について見てみよう。好奇心が旺盛な子どもが玩具を扱う際にしても自己の経験の範囲から逸脱することは少ない。場合によるとステレオタイプに物事を考えがちに見えることさえある。玩具の特性を発見することは玩具遊びでは本来のおもしろさを発展させる可能性がある。子どもにもっともドライブをかける要因は不思議さであろう。「磁石玩具遊び」の魅力は磁石同士が反発したり、吸引することにある、この玩具を教材としてとらえたときに保育者が次のような気づきがあると子どもへの関わり方、プレゼンテーションの仕方に広がりが出るだろう。  @同じ磁極は反発して、くっつかない。  A違う磁極は吸引して、よくくっつく。  B磁極間の距離が近いほどその力は大きくなる。  C遠いとその力はなくなる。  Dくっついたものは多少の力では離れない。  E磁石が軽い場合、床に置いて棒の中心を支えると反発力で回転する。  F磁石が軽い場合、床に置いて棒の置き方によっては反発して飛んでいく。  G磁石か軽い場合、空中にぶら下げたとき、吸引力でブラブラする。  これらのことを子ども自身で発見する場合と保育者が直接演示する場合とで内容の深まりは異なる。今回の事例では保育士が子どもを観察していて、子どもの状況を「くっつくことの認識はあるが、反発することは理解していなかった」ととらえてそれを気がつかせるように演示している。また、「こどもは模倣することでその再現性を確認するものだ」ととらえている、では、こどもをどの方向に向かせていきたいかをみると「玩具の原理を知る」「再現性のある現象を知る」「自分でもできることを確かめる」を狙っていることである。この経過の中で重要なことは保育者が共感すると、また、子どもは意欲を持ってくることである。一層、やる気を起こすことに光を当てている点である。母親も共感し、子どもも共感すると、ひとつの場面をめぐって三者が一体化されることである。相手に感動を与える力は感動を共感できる体制が保育者の側に無ければならないことである。  これらを表に整理すると表3−1のようになる。また、インタビュー内容についての扱 粋を表の後に示した。 ※インタビュー記録 A:磁石になっているよと言ったら、あの子が「エーッ」ていう喜びなんだと思いますね。逆だと離れて行って、SとNの関係で。 B:自分もやってみようと・・・・。 A:やりましたね。 くっつきました。逆にしたらつかない。おかしいね。 B:プレゼンテーションしなかったから、そういうものは発見しないで遊んでいたのでしょうか。なぜ、保母さんがやっているときキラキラするんですかね。 A:保育者が一回見せましたでしょ。SとNが逆でくっつくのを見せたから、あの子がそれを見て、自分もそれを試したわけですよね。凄いということで、うちの子もこういうことができるんだということを、多分、親御さんは喜ばれたのではないかと思いますよ。得意げですからね。「これ、できたぞ」という。 D:くっつくだけでなく、回転したり、NとSで反発し合ったり。また、向こうにくっついたのも、また不思議で。そのあと、もうちょっと工夫をしてもいいのにと思った。 B:保育者が「くっついた」と言って笑っているのは、子どもと同化することですかね。 A:やっぱり、共感しているんですね。そうすると、また、子どもは意欲を持ってきますからね。やる気を起こして。 B:くっついたというのは理解できるんですか、子どもは。 A:分かっていると思いますよ。 C:もちろん。 B:そうですか。 A:その面白さが分かっています。本当にできるかなということを追っかけていますでしょ。離れて、大人の会話を無視して。 B:無視していますね。反発するのを楽しんでいる。 A:そういうのが面白くって、お子さんは凄い興昧を示しましたね。「良かったですね」という励ましをします。そうすると、お母さんも安心される。 B:母親も共感し、子どもも共感すると、ひとつのシーンをめぐって三者が共感すると、そこで一体化されたわけですね。 A:そういうことです。ここで通じ合ったわけですね。それが玩具の媒介物があって、こういう繋がりができた。 場面A「仰向けの子どもと遊ぶ」7〜10ヶ月  子どもの年齢が低く、まだ、立位歩行ができない場合について事例を検討しよう。子どもの年齢は7ヶ月から10ヶ月である。寝返り、ハイハイはできるが立つことはできない。このような子どもにどう関わるかである。仰向けに横になっている。このような子どもを「天井の穴をジッと見るだけで楽しんでいる場合があるし、自分の手をかざして見ているだけの時もある」「全身を動かして喜びを表現する」ととらえている。目標は、子どもが全身運動を大いに動かすようにし、感情を表現できるようにしていく。子どもとの距離は遠すぎず、近すぎない位置をとる。真上から見るようにすると威圧感があるので、少し離れて横にいるとちょうどよいのである。このとき、声をかけてあげたほうがいい。声による刺激は様々な効果をもたらす。保育者側からの感情や表現としてのメッセージとして機能する。また、玩具を与えて刺激することで活性化するのである。表情の変化がなかなかとらえづらいが、顔や、体の動きから察知することが求められる。具体的には子どもが楽しめるように適切な距離を置いて話しかけ、玩具を手渡してみることによって、こどもの全身運動を引き出すとよいと考えられる。  これらを表に整理すると表3−2のようになる。 ※インタビュー記録 B:寝転がっている子どもに対しては。これ、1歳になっていないですね。 A:10ヶ月です。 B:なかなか表情を判断するまでに時間がかかりまししたね。私、ズーと見ていたんですけど。違いが分からなくて。 A:本当は10ヶ月ぐらいになると、ズリハイをしたり、少し動き出すんです。 C:本棚の横あたりから声をかけると。 A:真横に行くとね、寝返りを打つと思うんですよ。 C:だから、あの子は見にくいので、表情は出にくいです。 B:なるほど。真上に行ったら見やすいんですか。 A:真上というより、横に来ると。 C:前に来たら圧力あっていやですよね。 C:お母さんの位置は悪くないですよね。 A:保育者も一歩踏み込めばいいですね。中へ。そうすると、コロンと寝返りを打つだろうと思いますよ。 B:どこを見ているのかなと思って、天井を見ているのかなとか、何を考えているのかなと。 C:視線としては遠いし、見にくい位置にいますよね。 A:意外とこのくらいの子は天井の穴を「ズーッ」と見るだけで楽しんでいる場合があるんです。自分の手をかざして見ているだけの時もありますのでね。 B:これ、やっぱり話しかけるんでしょ。 A:やっぱり、声をかけてあげたほうがいいですね。 B:ここで振り向いたですね。物を渡したんですね。今度はこっちはどうと渡しましたね。 B:体を動かす意味があるんですか。 A:全身運動ですから、大いに動かした方がいいです。 B:心情としてはどういう心情で足を上げたりしているのでしょうか。 A:やっぱり、楽しい。花をもらったから喜びの一つの表現だろうと思いますよ。全身を動かしますからね。 C:全部、意識的に動かせない部分もあるので、こっちを動かせば動いちゃうという。 B:物をもらったところから、体の動きが激しくなりましたね。 A:喜びだと思いますよ。 C:いい刺激きたので・・・。 B:お母さんの位置はいいんですか A:いいですね。お母さんを見る目、とてもいい目をしていますでしょ。やっぱり大好きなお母さん。 C:お母さん、いい位置に、ちゃんと。 B:お母さんの動きはどうなの。 A:足が一緒にドンドンと動いていますよね。 C:よく見ていますよね。 A:これから匍匐前進みたいにこうやってズリバイをさせるといいと思います。 C:お母さんにいいですね。保育士が声をかけてくれるから、お母さんがモチベーションが上がって、お子さんにね。           I. B:鏡に反応するんですね。子どもは。 A:鏡は大好きですよ。 C:お母さん一人だとやっぱり辛いんですよね。ズーと赤ちゃんだけに声をかけているのがム保育士が声をかけてくれるからお母さん、自然にやる気になっていい関わりになっているという、これすごくいい場面ですね。お母さんが凄く良くなって、意欲的になって、子どもが遊ぶのを。大人の話し相手もいるから気持ちが楽になりながら。でも、保育士の方はどちらかというと無視で、お母さんに一生懸命。それも凄くいいし。 A:声掛けていますね。お母さんに向かって。 場面B「玩具を奪い合う」「転倒して泣く」1〜2歳                 子育ての場面ではいろいろな問題が起こる。玩具を奪い合ったりすることはよくあることだ。また、転倒して泣き出す子どももよくあることだ。このような場合にどのように受け止めればよいのだろうか。年齢が近いのでトラブルが起きやすいし、当然あり得ることと考えられる。子どもは自分は悪くないと主張する。「自分も興昧があったから上と主張していることはよくある。3歳までは譲ることができない年齢であり、白分のものは自分のものという考えがある。子どもに対するあるべき姿としては「自己主張できること」「気持ちの切り替えができること」などを目指す。また、どんなときに危ないかを知ったり、他の人に譲ることを知ることも大事なことである。その結果、自分の希望を出しながら、互いにどう折り合うかがわかることが求められる。指導していく計画としては「やりたかったんだ」という気持ちがきちんと受け止めてもらえば、また、チャレンジできるので気持も変わっていくのでそのようにしていくと良い。この年齢では抱きしめてあげることもよい。「大丈夫?」って聞くと、ちょっと痛くても、我慢をすることもある。「ここ は登ると危ないね」と言うべきときは言う必要があるが、痛がっているときに、「登っちゃダメなのよ」とは言いません。  方針としては@交代の意味を言い聞かせる、A代用品を与える、B納得させる、@気分転換させるを挙げている。具体的な行動としては子どもの主張、言いたいことを受け止め、「痛かったね」と共感し、抱きしめる。また、気持ちを他のものに向けるようにする。そして、「かわりばんこ」を言って聞かせる。それでも難しい場合には似たような玩具を与える。言い聞かせて納得させることも大事である。  これらを表に整理すると表3−3のようになる。 表3−3 場面B「玩具を奪い合う」「転倒して泣く」における行動の背景 ※インタビュー記録 A:これは年齢的に譲れない年齢なんですね。3歳になると譲るということができますけど、自分のものは自分のものですから。 B:取り合いというのは、この年齢ではあまりない。 A:ありますよね。 B:ありますか。喧嘩したりとか。 A:だから、ちょっと引くカタカタなんか、最初一個ずつ種類の違うのをやっていたら、凄い人気だったので、数を多くしたりということはやっています。 B:人気のあるのと、そうでないのとありますか。 A:ありますね。 B:基本的には奪い合うのは自然に任せますか。それとも仲裁に入るのですか。じゃんけんさせるのですか。 A:じゃんけんはわかりませんのでね。親御さんがいながらですから、そこら辺、やっぱり代わりばんこと親御さんが言ってくださっている時もありますし。 B:例えば、あと3分にしたらとか、5分にしたらとか。 A:時間感覚がないので・・・。 B:納得するにはどうしたらいいですかね。 A:やっぱり似たような玩具を、別のものを与えたり、それから、「これ面白いからあの子も使いたいんだって、貸してあげてくれる」と本人に納得させて、だから納得しない場合はちょっと飽きるのを見て、「さっ」とさりげなく、ころ合いを見て。自分が一回使ったものは自分のものだと思っているお子さんもいますのでね。 B:それぐらい集中できるのは凄いですよね。大人になると逆になくなってしまうんですよね。 C:年齢的には一番そういう時期だから、しっかりとそれは出していいのですね。それを上手に気分転換してみたりとか、もう少し大きくなれば一緒に使ってみたりとか、年齢的には自己主張が出てほしいというのがいいのです。 B:そういう時に、2人の母親がいて奪い合っている2人の子どもを見たとき、お互いにどうするのが良いのでしょうか。 A;この年齢は当然そういうのがあってしかるべきだから、自分の意思が出せたことはいいことなんだと言うことで、あなたのお子さんが悪いんじゃないということも親御さんに言わないと・・・。 B:公園で出会った二人の家族が同じような場面になったら、どうすべきなんですかね。一つの遊具をめぐって奪い合う時です。どうしたら良いのでしょう。 A:争って当たり前だと。危なくなかったらね。「誰ちゃんも欲しい。誰ちゃんも欲しい。どうしようね。ほしいよね」と言ってね。ほしいというアク ションは出してもらって、出さないと我慢してうなだれる子もいますのでね。 B:発散してもらった方がかえっていい。 A:出していく。そうするとすぐにボカンとかなるから、「それは駄目」とかいうことでね。そこでその子がなにかアクションを起こした時に、「それは痛い痛いよ」とか、「これも貸してあげよう。これを貸してもらおう」というように・・。 B:遊具には一人で楽しむものと、複数で楽しむものとあって、もし、一人で楽しむもの場合は順番とか、あるいは自分の希望、望みとかをストレートに出しながら、お互いどうやってそれを折り合っていくかを少しずつ分かちせるということですね。 A:そうですね。 B:二人以上で遊ぶものに一人で関わっているとき、また、逆に寂しい思いですよね。その辺は介入をして。 A:プラレってありますからね。プラレのレールがあって、それは本当は大勢でやった方がレールは面白いんですけどね。来るなと囲って来させないお子さんもいるんですよ。気に入っているエレベータがあるとね。それもあげて、下げて、みんながこっちから通そうとすると排除したりね。ありますね。自分の家にないものということで。 B:もう、嬉しくてたまんないんですね。 (中略) A:あの人は、ずーっとミニカーを持っていますの  でね。あれを放さないから。 B:手にミニカーを持っていて転んだ。左手を使えないんですね。 A:自分の大事なものは離さない。 B:叱るんですか、こういうときは。 A:「怪我しなかった?大丈夫」って聞くと、ちょっと痛くても、声をかけてもらうと我慢をすることもあるんです。 B:この場面ではどういうことを狙いにしたらいいんですか。ひっくり返したことについては。 A:「大怪我しなくてよかったね。痛くなかったって、どこか痛くなかった」って聞きますよね。「ここは登ると危ないね」と言わないといけないときは、「ここは危ない、だから登らないようにしよう」と、そこで言葉は添えますね。ただ、転倒したときに、「登っちゃダメなのよ」とは言いませんけどね。時間をおいて言う。 B:手をかけて登ろうとしたんですかね。 C:登ろうとしていますね。 A:水道の水があるから、水に興味があったんだと思います。 C:あの子は学習をしましたよね。柔らかいのでは登れないんだということを。 A:あの人はね。好奇心旺盛ですよ。 C:叱られることではない。自分で、物の特性が分かっていくという時期ですし。 B:他に注目させて。 A:それで悲しさを取り除いてあげるわけです。 C:でも、気持ちはこちらに。 A:全然、執念深くはありませんからね C:1歳児のトラブルってほとんど気持ちを上手に切り替えてあげる。 B:気持ちの切り替えってすごく大事ですよね。 C:大事ですね。むきになって叱っては駄目。 3−3.子どもの行動の認識の仕方  子どもの年齢に応じて対処方法は異なる。その特徴をよく知って対処すればよく育つ考えられる。  今回のインタビューの中でも次のような見解が示されていた。「2歳ぐらいですと、誰かそこにいるという感覚だけでね。あそこに誰かいるなということで、時々じゃまするなという感じで認識している。」「まだ、自分が中心で、対親というのが基本ですので、時々一緒の遊びになっても関わりというよりか並行遊びです。」「いないよりはいた方がいいということぐらいで、まだ、友達関係は3歳ぐらいにならないと、ちゃんとした友達関係はないんです。」「1歳児の特徴なんです。探求しながら自分の興味のあるものを見つけていくんです。」「3歳ぐらいになると、気に入ったものだと、集中して30分でも遊びます。」と述べている。  また、同年齢の子どもが遊んでいる場面では、「同年齢だと一緒に遊ばなくても、お互いに刺激し合って、アンテナ張っているんですよ。」と述べている。母親と子どもとの関係について「1歳未満の場合、母親に関わることで気持ちが楽になり、やる気も起こる。」と関わり方が重要であることを述べている。また、「母親は子どもが目の届く範囲にいればよい。必ずしも物理的な距離で判断しないでよい。」「すぐに手の届く範囲に子どもがいる必要はない。親子関係が安定している場合には少し遠くても意志は通うものだ。」のように親子の場合には特定の関係が存在していることを示している。  子どもの遊び方は年齢によって発展していく。「こどもはひとり遊び→平行遊び→連合遊びとなっていく」のである。単独から群れ、そして協働することへと動くのである。  年齢の特徴を保育に限定して簡潔に示すと「0歳=日々、発達する」「1歳=全身で感情を表す」「2歳=意思を通そうとする(第1反抗期)」「3歳=気に入ったものを長時間やる時期」「4歳=譲らない、頑固さが出てくる(第2反抗期)」「5歳=責任感・協調性が出てくる」のように示すことができる。このようなことを実践に生かせば求める子育てになっていく。 4.結論  これまでに述べてきた子育て事例には共通して示すことのできる内容がある。たとえば、子どもを観察するとは何を指しているのか。まず、優先的に考えなければならないことは何か・・・など共通した内容を示唆している。ここではこれらを整理して結論としたい。 4−1.子育ての暗黙知の傾向性  今回扱った子育て事例の中から見いだされた暗黙知の傾向性についてふれたい。図1−3で示した内容を補強するように個々の事例から得られたものを整理すると図4−1のようになる。 図4−1 保育者の行動の仕方  「子どもの観察」では、年齢による特性をまず考え、事実を受け止める。そして、なぜそのようになったか分析的に見るのである。子どもの心情を理解し、共感することが入っている。さらに、子どもの発想・思考の流れを読むことがある。何が起こるかを予測することも欠かせない。  「どうなってほしいか」とは目標を明確に示すことである。この年齢の子どもとして妥当な目標を描いてやるのである。親としての願いや想い、そして期待事項を理解して示すようにする。特にしつけるべきことをわかりやすく到達可能な範囲で明示することが求められる。  「どこにどう働きかけるか」という計画化においては、子どもが受け入れやすい形を作り出したり、必ず成功する定石ともいえる方法を採用する。また、いくつかのケースを想定して対応の仕方を用意する。自然の道理・人問行動の原理にあわせて組み立てることは原則と言って良いだろう。方法は必ずあるという前提で考え出す姿勢も欠かせない。  「実際に働きかける」には子どもの目線で行動し、共感し共有できる方法を生み出して実践することである。相手中心に考えその子どもにとっての前進は何かを実現する。場合によっては理屈でわからせることも使うとよい。 4−2.保育者の行動プロセス  熟練した保育者は「場の概念」→「到達目標概念」→「手段と時間の概念」→「空間上の運動概念」という流れで行われるという考え方で子育ての具体的な事例を検討してきた。しかし、具体的な行動に至るまでのプロセスには省略された部分があるように考えられた。そこで、図4−2に示すようになるものと考えられる。その差異の第1は子どもをとらえると同時に行動に移す場面が想定されることである。第2に計画化するに際しては過去のストラテジィを参照しつつより充実した計画化を図るのではないかとした点である。  図において左下の「子どもをとらえる」から開始する。現在の子どもの状況・ポジションを確認するのである。そして、@の方向に入る。子どもの課題に合わせて仮説や目標を設定する。Aをたどってその状況・場面に適合した方法の計画化を図る。ここで行動のストラテジィを確立するのである。この際に@の道をたどってストラテジィのバックデータを参照しながら作り上げる。作り上げたものは即座にバックデータとして格納される。 このようにして組み上げられた計画でBを経て働きかけを行う。行った結果は予想と現実の差異が検証されて収束する。大きな差異が見られる場合にはこれまでのプロセスの振り返りが行われ、改良されて実施される。  さて、子育てをしているときにこのようなルートをたどる以外に即座に対応せざるを得ない場面がある。これがDである。最短時間で処理されると同時に適切さも要求される。従って、はじめの判断の妥当性が重要となる。 図4−2 保育者の行動までの流れ  このように子育ての暗黙知を考えれば、より有益なノウハウや事実認識などの情報が逐次収集できると考える。今後は多くの事例を扱うことによって、より精緻な暗黙知の描きだしができると同時に適切な子育て支援のチャンネルを確立できると考えたい。  終わりに映像の収録および分析に際して、ご協力いただきました二コニコキッズの職員の方々に感謝いたします。 <文献> (1)森 和夫「技術・技能伝承の現状と到達点−−「技の伝承」から「暗黙知の管理」へ」、生産と電気60(12)、3-9、2008 (2)森 和夫「職人の熟練技能とその伝承をめぐって」、技能と技術2006求A(241)2-7、2006 (3)森 和夫「職人の熟練技能と伝承」、日本ロボット学会誌23(7)、(163)785-789、2005 (4)森 和夫「人材育成の見える化」、上巻、下巻、JIPMソリューション、2008・2009 (5)森 和夫「技術・技能伝承ハンドブック」、JIPMソリューション、2005 1 技術・技能教育研究所