社会化・個人化の視点から見たキャリア教育の課題 ―生涯教育文化学科におけるキャリア教育体系化モデル設定の試み― (2011/  /  受理) 西村美東士 聖徳大学生涯学習研究所紀要『生涯学習研究10』(2012年3月)原稿 はじめに  現在、企業においては、学生時代の部活動などでの実際の問題解決行動を詳細に尋ねるコンピテンシー面接が増えている。これは、従来の学力や社会性などの能力評価から転換して、コンピテンシー(competency)(「職務や役割における効果的ないしは優れた行動に結果的に結びつく個人特性」,Evarts,1987)という観点から人材を評価しようとする動きとしてとらえられる。  また、経済協力開発機構(OECD)が1997年から組織したプロジェクトDeSeCo(デセコ、Definition and Selection of Competencies : Theoretical and Conceptual Foundations)は、キー・コンピンテンシーについて、「他者との関係をうまくつくり、異質な集団で交流」するなどの3つの広域カテゴリーを設定し、これらを「持続可能な社会」の形成のために必要な能力とした。  筆者は、これまで、科研費研究等を通じて、数的処理を含む青少年関連文献調査や、若者の記述内容の分析によって、社会化(社会的能力の獲得過程)と個人化(個人的能力の獲得過程)の関連と構造についての研究を進めてきた。また、生涯学習の過程において生ずる「癒し」について、原点回帰(個々人の持つ幼年期の記憶や人間本来の感情の取り戻し)及び人的ネットワーク(心と心のつながり)の機能を指摘してきた。  本研究では、先行研究の検討から、今日の大学におけるキャリア教育の課題を導き出す。次に、社会化、個人化、原点回帰の3側面の視点から、学生の職業能力獲得の構造を検討する。さらに、その結果に基づき、「社会で即戦力」を特徴とする生涯教育文化学科のキャリア教育体系化のためのモデル設定を試みる。 1 大学におけるキャリア教育の課題 1.1 研究対象  まず、大学におけるキャリア教育に関する先行研究において指摘されてきた課題について検討したい。そのため、本稿では、IDE大学協会の月刊誌『現代の高等教育』2010年6月号特集「大学とキャリア教育」を取り上げた。  本件に関する論考は、これまで、それぞれの立場から多数なされているが、本特集では、大学教員、職員、労働政策研究者、経営者団体などの多様な立場からの視点が総合的に明らかにされているため、最近の論点を整理するために有益であると考えた。  同号の巻頭言で、IDE大学協会会長は「(キャリア志向の)基本は家庭、小中学校辺りで教わり、身に付け、以後の各論・応用はむしろいろいろな機会に自ら学ぶもの」であり、「(従来の)大学では、先生の一挙手一投足から盗みとるもの」とされていたと述べている1。  このような観点からは、達成すべき能力(知識・技能・態度)を明示して、その実現に取り組もうとする現在の大学授業には、キャリア教育はとうてい馴染みようがないということになってしまう。そこで、ここでは、同特集で掲載された10件の論文から、記述内容を検討することにした。   1.2 大学におけるキャリア教育の困難性  最初に、国立大財務・経営センターにおいて高等教育論を専攻している金子元久の議論を検討したい2。  第1に、企業の求める人間像に関する学生の理解を促し、これに沿って学生の育成を図るという点に関して、金子はこれを「マッチング主義」と呼び、次のように指摘する。  金子01「企業の側が具体的に要求する資質のイメージがきわめて曖昧なままであれば、学生自身の能力の自己判断も曖昧にならざるを得ない」。  金子02「日本の採用は企業によって行われるので、具体的な職種に採用されるのではない。また、業種についての理解は、具体的な仕事との適合性にそのままつながるものではない。新卒就職者の3割は3年以内に仕事をやめるといわれるのは、これと無関係ではない」。  第2に、学生に対して、職業人として必要な構えを育成するという点に関して、金子はこれを「構え主義」と呼び、次のように指摘する。  金子03「職業に対する構えとは、本来は個々の学生の自分自身や社会に関するとらえ方そのものに関わるものであるはずである。キャリアという言葉によって、こうした基本的な問題が覆い隠されるべきではない」。  第3に、学生に対して、専門的職業知識の習得を図るという点に関して、金子はこれを「能力主義」と呼び、次のように指摘する。  金子04「職業知識志向は、現実的であるかに見えて、実は最も非現実的であるといえる。(中略)何よりも、企業の側が、具体的な職業知識を採用の基準としていない」。  さらに、金子は、以上の観点から、「むしろ重要なのは、コミュニケーション能力や論理的思考などの基本的な能力、コンピテンスだ、という考え方も一方で有力になってきた」としつつ、次のように指摘する。  金子05「コミュニケーション能力や論理的な思考というのは抽象的な概念であって、具体的にどのような能力であるのかは必ずしも明確ではない」。  金子06「(これらの能力は)個々の具体的なコンテクストにおいて意味を変えるものともみることができる」。  金子07「(これらの能力は)生得的、あるいは幼児期から形成される、いわばIQのようなものであるかもしれない」。  金子08「大学教育によって、(これらの能力が)どのように形成されるかが具体的に示されているわけではない」。  以上のことから、金子は、最近の学卒者に関してもっとも評価が低かったのが「人格的な成熟度」であったという自らの調査結果に関して、「生活経験の狭さに由来する、自己認識と社会における自分の役割についての認識の浅さ」の結果であると解釈している。  このことから、「固定観念を広い視野から問い直し、そこから再び自己・社会認識を形成することによって、より強固な人格の統合性を形成する」というリベラル・アーツを高く評価し、専門における基礎的知識の修得と補完しあうことによって、より有効になるとしている。  これらの金子の指摘は、大学におけるキャリア教育の意義と役割について検討しようとする場合、一定の有益な示唆を与えるものと考える。同時に、最初に述べた「大学に対する社会的要請の大きさや、学生にとっての重要性」に鑑みれば、大学教育、とくに専門教育においてキャリア教育に特化された授業において、指摘された問題をどう解決するかが重要な課題となる。  金子のいう「人格的な成熟度」は、生涯不変の「資質」を除けば、個人的能力と社会的能力に分類して構造化できると考える。  筑波大学大学研究センターの加藤毅は、大学教員がキャリア教育を行うことについて、次のようにその限界を指摘する3。  加藤01「いまや『高等』ではなく『第三段階』教育(OECD)の場となってしまった大学において、(従来の学問の世界の大学教員が)職業的レリバンスのある知識やスキルを教えることは、非常に難しい」。  このことから、加藤は、専門科目については、「そこで学ぶコンテンツ(知識)のレリバンスではなく、与えられた課題を完遂する(単位認定を受ける)というプロセス」に意義を見出し、「入職後に求められる(次々と現れる急流や荒瀬、岩場に立ち向かう)『筏下り』の事前演習として、難しい内容の専門科目を学ぶプロセスそのものが大きな職業レリバンスを有する」とする。そして、おもに「職員」に期待するキャリア教育として、「『筏下り』に例えられる入職後の学びのプロセスを完遂するためのスキル」を重視する。  しかし、加藤がいう職員によるキャリア支援機能とともに、教員がキャリア教育において果たす役割を追究する必要があるのではないか。それは、「大学が、教員が、キャリア教育について、できることはやる」という姿勢に基づくものである。  東京大学教育社会学専攻の本田由紀は、キャリア教育の困難性について、次のように指摘する4。  本田01「キャリア教育の諸目的は、一方ではきわめて一般的・抽象的な概念であり、他方では個々の学生に固有の自己と社会の関係についての理解・認識・振舞い方という側面を不可避的に内包している。そのような抽象性と個別性の両極に引き裂かれたようなキャリア教育の目的は、大学のみならずあらゆる教育機関にとって、担いきれるものなのか」。  このことから、本田は、「キャリア教育を振りかざすことではなく、個別の分野・領域に関して学習者に伝えられる知識や手法の内容そのものを、教育外部の社会や職業の実相に対して関連性・有用性・意義のある、すなわちレリバントなものへと地道に改善」するよう提唱している。  そのために、「なぜ特定の内容を学ぶよう求めるのか、それを学ぶことによって何ができるようになるのか、それは外部の社会でどのように活かされうるのか」を学生に明示することが必要としている。  本田の指摘は、一般の大多数の科目を社会や職業に関連づけるという意味で重要な示唆を与えると同時に、キャリア教育に特化された授業でどうするかについては展望が見出せないものといえる。これは、道徳教育を学校の教育活動全体を通じて行うとともに、「道徳の時間」をどう運用するかを考えなければ実際の道徳教育はできないことと同様であると考える。  ここでも、本田のいう「個々の学生に固有の自己と社会の関係についての理解・認識・振舞い方」という側面が、個人的能力と社会的能力を分解し、構造化することによって、「大学でできることは、大学でやる」ということが実現できるものと考える。   1.3 その他の指摘  日本経済団体連合会の井上洋は、同連合会が調査した「『競争力人材』(同連合会「競争力人材の育成と確保に向けて」、2009年)の育成と確保に向けた企業の取り組み事例」を紹介している5。なかでも、「国際的な教養人を社内で育成するため、ビジネス・スキルの研修のみならず、『リベラル・アーツ教育』を実施し、文学、芸術、社会などの一般教養研修を行う」という取組などは、大学で完結せず、職業生涯にわたって継続する教養教育の可能性を示すものとして注目される。  労働政策研究・研修機構の小杉礼子は次のように指摘する6。「需要と供給のバランスの中で決まる就職に、(「勤労観、職業観の育成を目的とし、進路・職業を考え、目的意識を持って学ぶことにつなげる」という)高校までのキャリア教育が直接の効果を持たない可能性は大きい」。  このことから、小杉は、とくに新規採用の枠に乗らない学生に対して、「学び続ける力につながる、学ぶ面白さや学ぶ方法を在学中に身につける」よう提唱する。  それでは、大学のキャリア教育において、生涯にわたって学び続ける意欲を、どのように育成するのか。その方法論の追究が課題といえよう。  関西大学キャリア・デザイン担当教員の川崎友嗣は、「生涯キャリア発達の支援」を基本とする同大学のキャリア教育プログラムを紹介し、次のように指摘する7。「本学では『勤労観・職業観』と『人間力』を重視してきたが、具体的に身につける能力については十分に議論されていない」。  川崎のいう「具体的に身につける能力」とは、これまでの検討から、職種や職業の違いによって、大きく異なることは明白である。そうだとすれば、それぞれの職業に対して、達成すべき能力を明らかにする方法論を伝えることが求められているといえる。  香川大学の加野芳正は、全学的に実施される「キャリア・デザイン」科目を「意識づけ」、「動機づけ」に、実学に関連した専門教育科目を「専門的知識・技術」に、実習やインターンシップのような体験型の教育プログラムについては、両方に位置づけたプログラムとして、同大学のカリキュラムを分類している8。キャリア教育の体系化にあたって、このような取り組みが求められよう。  さらに、ユニバーシティ・アクティブ社の大江淳良は、次のように述べている9。「大学生のキャリア形成支援の専門機関あるいは専門家が、わが国に多数存在しているとはとても思えない。また、同じ大学でも、学部・学科が異なればキャリア形成支援のコンセプトは、異なってくることもある。したがって、キャリア形成支援のコンセプトは、その原理原則を理解したうえで、大学が、あるいは学部・学科が独自に作り上げていかなければならないものなのではないか」。  その際、大学の内的論理に基づけば、専門か教養かという軸が持ち込まれやすいことについて、広島大学高等教育開発センターの小方直幸は、「専門分野にも職業直結型と非直結型があり、専門は職業的陶冶、教養は人格的陶冶という論理は成立しにくい」と注意を与えている10。  以上からは、各学科が固有の特徴と独自性を活かして、キャリア教育を計画する必要があることが示唆される。  そのほか、本特集には、経済産業省人材担当企画官による「社会人基礎力育成」に関する論文1件が収められている。   1.4 研究課題の設定  これまでの検討から、大学におけるキャリア教育に関する問題を次のように整理できる。   問題1:業種についての理解はできても、各企業における具体的な仕事内容にそのままつながるものではない。 問題2:職業知識の付与は、大学では、各学科の専門性によって限定される。企業は、それを採用基準にはできない。 問題3:企業の側が具体的に要求する資質・能力のイメージがきわめて曖昧なままであれば、学生自身の能力の自己判断も曖昧にならざるを得ない。 問題4:職業に対する「構え」は、学生が職業知識に則して自らの振る舞いを制限したり、発現したりすることによって獲得できる。そのため、個々の学生のとらえ方そのものに規定されてしまう。 問題5:コミュニケーション能力や論理的な思考は、生得的、あるいは幼児期から形成されてきたものであり、大学教育によってどのように形成されるかを具体的に示すことはできない。 問題6:コンピテンシー(ここでは、コミュニケーション能力や論理的な思考)というのは抽象的な概念である。個々の具体的なコンテクストにおいて意味を変えるものともみることができる。    上に示した「問題」について、それぞれ次のようにキャリア教育の「課題」を設定したい。   課題1:具体的な仕事内容の理解促進 課題2:必要な職業知識の明確化 課題3:具体的必要能力の明確化 課題4:学生個人の「職業への構え」の育成 課題5:職業上必要な交信力と論理力の育成 課題6:社会対応型能力活用力の育成    これらの課題は、次に述べる社会化、個人化、さらには原点回帰のアプローチなくしては達成できないものと考える。   2 社会化・個人化・原点回帰とキャリア教育の課題 2.1 社会性と個人性の両側面からのアプローチ  キャリア形成において、これまでの集団主義が反省され、「個性の発現」が多くの企業や若者自身から求められていることはいうまでもない(たとえば川端大二,2005年)。一方で、現在のニートの問題などから、「若者のライフコースの個人化」を批判する議論もある(宮本みち子,2002年)。  これらのいわば「混迷」の状態において、本学科が進めてきたキャリア教育におけるグループワーク等のもつ教育力を考えれば、その活動は、キャリア形成に必要な社会性と個人性をともに育成する効果があったと考える。  これまでのキャリア教育に関する研究では、社会性と個人性の育成の両側面からの視点が明確でなかったため、直接的な職業能力よりも学力に、そして個人性よりも社会性に重点が偏り、上の状況に十分に応える結果を出せなかったものと考える。  グループワークにおいては、個人間の異なりが重視されるとともに、とくにカード式発想法などにおいては、協調とは異なる「自己内対話」の時間などが、意識的に導入される11。  また、グループワーク及びそこでの支持的風土の人間関係は、個人化の側面から見れば「個人の充実」、社会化の側面から見れば「学びあい、支えあい(による社会性の伸張)」とともに、オリジン(子ども心や原風景の回復等による自己確認)、ネットワーク(人的交流による心のふれあい)という「癒し」による「原点回帰機能」を発揮してきたものと考える。それは図1に示したように、相互に効果を与えながら進展するものと考えたい12。 図1 個人化・社会化・原点回帰のプロセスモデル    それは、図2に示したように、現在の青少年に対して、個人化、社会化の不全状況を改善し、これらを進展させて、「自立して社会に参画する個人」を育むものということができる。 図2 青少年の個人化と社会化の不全と進展    そして、職業に求められるコンピテンシーについては、上図2の「自立して社会に参画する個人」としての「仕上がり像」が、これに一致すると考える。たとえば、その一環として、「関係調整力」が主要な柱の一つになる。対人能力については、家庭、学校等において、逐次学習し、その能力が育まれてきたが、大学のキャリア教育においては、それを応用し、発展させる一定の教育プランのもとで、意図的、効果的に取り組む必要があると考える。  そのことによって、「社会を知らない」、「職業を知らない」、「会社を知らない」、「世の中の仕組みを知らない」学生が、これまで育んできた対人能力を、職業で通用するコンピテンシーに置き換えていくことが可能になると考える。  そのためのキャリア教育の体系化については、次章で述べることとする。  次に、グループ学習における人的交流がもつ効果を図3 に示す。  ここでは、「他者との関与」については、教育の側から意図的に働きかける支持的風土の集団形成を「仲間づくり」、学生側が好みに応じて自然発生的に行う交流を「交友」とした。また、「自己の原点」については、これに戻る作用を「原点回帰」、他者などの環境に応じて変化させる作用を「状況対応」として表した。そのことによって獲得される「関係調整力」と「個の深み・味わい」は、ともに職業に求められるコンピテンシーを形成するものと考える。 図3 グループ学習における人的交流がもつ効果    ここで重要なことは、たとえば異質なもの、さらには迷惑な他者に対して、「排除ではなく、支えあう」という集団風土の担い手として育成するということである。このことが、実際の職業の場で求められるコンピテンシーにつながるものと考える。   2.2 「職業能力」の視点からの達成目標としての能力の構造化と明示  文部科学省は、「コンピテンシー(能力)とは、単なる知識や技能だけではなく、技能や態度を含む様々な心理的・社会的なリソースを活用して、特定の文脈の中で複雑な要求(課題)に対応することができる力」(中央教育審議会資料)としている。  このように教育側の要請としては、「能力」という言葉が出てくるのだが、それぞれのキー・コンピンテンシーを構成する、いわば「分解された能力」が明らかではないため、実際の教育現場では、同概念の導入については、戸惑いが見られる。また、反面、教育実践の立場からは「見えない学力」(岸本裕史,1996年)などが提起され、教育目標設定の面では、ますます多様化し、拡散しつつあるといわざるをえない。  本研究は、「学力」ではなく、「職業能力」の観点から、本学科におけるキャリア教育のもつ育成効果を分析的に明らかにすることによって、とくにこれまで職能分析が困難だったホワイトカラーに必要なコンピンテンシーを構成する能力を明らかにし、その達成目標設定を実現しようとするものである13。   2.3 本研究のめざす教育活動及び青少年政策への貢献  以上の特徴から、基本的な成果としての「キャリア教育体系化モデルの設定」のほか、本研究結果を次の成果に結びつけることができると考える。 (1) 教育活動への貢献  本稿では、先に、次の課題を導き出した。  @具体的な仕事内容の理解促進、A必要な職業知識の明確化、B具体的必要能力の明確化、C学生個人の「職業への構え」の育成、D職業上必要な交信力と論理力の育成、E社会対応型能力活用力の育成。  フォーマルな学校教育の視点からは、これらの多くは困難、または限定的な課題であるが、職業能力の明確化によって学習目標の設定を提示することができる。  また、これまでフォーマルな学校教育が苦手としていた分野について、グループワーク等の内容や方法の導入のあり方を提示することができる。これは、「必要能力」の明確化に基づいているため、たんに体験学習やキャリア教育の一部への導入にとどまらず、講義型授業や知識習得を主目的とする授業など、大学を含めた多様な教育活動に位置付けることができる。 (2) 青少年政策への貢献  現在、青少年政策の分野では、「個性重視」(臨時教育審議会,1987年)の方針は残しつつも、「社会規範」などの重視が叫ばれ、また、その状況の上に、青少年の社会参画(参加ではなく)の推進(青少年育成推進本部「青少年育成施策大綱」,2004年)が重ねられてきている。そして、それらの育成理念は十分に統合されているとはいえない。この状況に対して、青少年の個性を伸ばしつつ、職業への主体的関与や社会参画を進展させる理念と方法を提示したい。   3 キャリア教育体系化モデルの設定 3.1 学科キャリア教育体系化の方向  本稿でのこれまでの検討から、生涯教育文化学科のキャリア教育においては、年次毎に達成目標を設定し、これを高等教育としてのモデルと連動した「学科キャリア教育」としての体系化を図ることが必要であると考える。  そのためには、まず、学年進行に応じた高等教育のモデル仮説を設定する必要がある。これを図4に示す。    図4 高等教育のモデル仮説    ここで「社会化」とは、職業人など、社会の一員として必要な能力の獲得過程ということができる。それとの対照で、「個人化」とは、個人として充実した生涯を送るために必要な能力の獲得過程としてとらえたい。そして、学生の卒業時の到達像を凝縮して表現すれば、「一匹で社会に飛び出す」と考えたい。  本稿では、「職業に対する構えとは、本来は個々の学生の自分自身や社会に関するとらえ方そのものに関わるものであるはずである。キャリアという言葉によって、こうした基本的な問題が覆い隠されるべきではない」(金子03)という「構え主義」の非現実性を指摘する議論を見てきた。その点で、「一匹で社会に飛び出す」という卒業時の到達像に向けて、このような「個人化」と「社会化」をセットとして、高等教育全体としての年次目標を設定することが必要と考える。そのことによって、「統合能力としての(職業)コンピテンシー」を育成できると考える。  次に、キャリア教育については、図5のとおりモデル仮説を設定したい。    図5 学科キャリア教育のモデル仮説    図5に示したモデルは、@「働き方・人生の作り方・やりがいの作り方」を習得させる「キャリア形成支援」を2年前期から始める、A「専門的職業知識の獲得支援」を、3年次主体で行うなどの点を、これまでの本学科にはない特徴とする。  また、「生涯教育学」の専門的視点を生かして、就職を最終のゴールとせず、職業生涯、さらには家庭や地域(まちづくり)の一員としての充実を目指すものになっている。  このようにして、学科キャリア教育の体系化に取り組み、本研究を進めていきたい。 1 森亘「キャリア教育」、IDE大学協会『現代の高等教育』No.521、p.3、2010年6月。 2 金子元久「キャリア教育−小道具と本筋」、同上誌、p.4-10。 3 加藤毅「職員主導によるキャリア教育の転換」、同上誌、pp.26-31。 4 本田由紀「大学でキャリア教育が可能なのか」、同上誌、pp.36-41。 5 井上洋「企業が求める人材像とキャリア教育」、同上誌、pp.42-45。 6 小杉礼子「キャリア形成の視点からみた大学教育」、同上誌、pp.10-15。 7 川崎友嗣「総合大学における標準型キャリア教育の展開」、同上誌、pp.16-20。 8 加野芳正「地域連携型キャリア支援センターの新機軸」、同上誌、pp.21-26。 9 大江淳良「“キャリア○○”の氾濫と混乱」、同上誌、pp.31-36。 10 小方直幸「人事担当者の大学教育観」、同上誌、pp.50-55。 11 西村美東士「出産・子育ての自己決定能力を育む大学授業の方法と効果−女子学生(未来の母親)の社会化を支援する技法」、聖徳大学FD紀要『聖徳の教え育む技法』1号、pp.31-49、2006年12月。 12 西村美東士「生涯学習における癒し研究の展望」、聖徳大学生涯学習研究所紀要『生涯学習研究』9号、pp29-36、2011年3月。 13 本学科のキャリア教育実践の検討結果については、聖徳大学FD紀要『聖徳の教え育む技法』6号(2011年12月発行予定)において報告する予定である。 --------------- ------------------------------------------------------------ --------------- ------------------------------------------------------------ 1 1