1.研究発表者-------------------------- [1-1.氏名(漢字)] 西村 美東士 [1-2.氏名(英語)] Nishimura Mitoshi [1-3.勤務先] 聖徳大学 [1-4.所属] 人文学部生涯教育文化学科 5.発表題目---------------------------- [5-1.発表題目] 生涯教育文化学科キャリア教育におけるICT利用の効果−自己内対話と相互関与を相乗的に深める方法 6.教育分野---------------------------- [6-1.教育分野] ○ 初年次教育 × 情報基礎 × 人文科学系 × 語学系 × 社会科学系 × 理学系 × 工学系 × 農学系 × 情報専門 × 生活家政系 × 幼児初等中等教育系 × 医療系 × 芸術系 × スポーツ系 ○ その他の教育分野(キャリア教育) 7.本発表と教育目標との関連------------ [7-1.本発表と教育目標との関連] 基礎ゼミ1の教育目標は全学共通で「大学生になったことを自覚させ、節度のある生活態度と主体的な学習態度を育成する」とされている。また、2年前からキャリア教育としても明確に位置づけられた。生涯教育文化学科においても、初年次教育として位置づけ、取り組んできた。  本学科においては、「職業生涯」の充実に向けて、卒業時の到達像、すなわちディプロマポリシーに向けた年次ごとの到達目標のもとにキャリア教育を体系化するための組織的取り組みを行っており、その観点から、「卒業時の到達像」を暫定的に設定させ、「群れ(school)から離れて社会に一匹で飛び出す」ときの「社会のなかでの自己の位置決め」に向けてキャリア形成を意識した目標を設定させ、その達成計画を主体 的に作成させようとしている。  とくに初年次においては、学生の自己内対話と学生間の協働により、職業生涯への夢と期待、そして建設的な構えを育成することが重要になる。このことによって、明確な目的意識を持った「主体的な学習態度」の形成が期待できる。  本発表は、以上の目的意識に基づき、ICTのもつ自己内対話の促進機能と、リアルタイムな一覧表示による相互関与促進機能の効果を検討しようとするものである。 8.発表内容 --------------------------- [8-1.問題の所在] われわれは、すでに、キャリア教育体系化のための学科挙げての組織的取り組みの中で、大学がキャリア教育を行うことの「問題」を、次の5点として集約している。 問題1:業種についての理解はできても、各企業における具体的な仕事内容にそのままつながるものではない。 問題2:職業知識の付与は、大学では、各学科の専門性によって限定される。企業は、それを採用基準にはできない。 問題3:企業の側が具体的に要求する資質・能力のイメージがきわめて曖昧なままであれば、学生自身の能力の自己判断も曖昧にならざるを得ない。 問題4:職業に対する「構え」は、学生が職業知識に則して自らの振る舞いを制限したり、発現したりすることによって獲得できる。そのため、個々の学生のとらえ方そのものに規定されてしまう。 問題5:コミュニケーション能力や論理的な思考は、生得的、あるいは幼児期から形成されてきたものであり、大学教育によってどのように形成されるかを具体的に示すことはできない。 問題6:コンピテンシー(ここでは、コミュニケーション能力や論理的な思考)というのは抽象的な概念である。個々の具体的なコンテクストにおいて意味を変えるものともみることができる。  以上の「問題」について、キャリア教育の「課題」を次のとおり設定した。 課題1:具体的な仕事内容の理解促進 課題2:必要な職業知識の明確化 課題3:具体的必要能力の明確化 課題4:学生個人の「職業への構え」の育成 課題5:職業上必要な交信力と論理力の育成 課題6:社会対応型能力活用力の育成  これらの課題は、学生の言語や情報処理などの個人的能力とともに、今後の職場環境を考慮すると、インターネットと口頭コミュニケーションを適切に使いこなす社会的能力が重要になると考える。 [8-2.教育改善の目的・目標] 職業への意欲と自信の向上 教員の専門領域に左右されない効果的初年次教育 [8-3.教育改善内容と方法] 授業を受けたあとで、自分の気づきを書き込ませる「電子掲示板システム」(CGI)を開発して、セキュリティをかけたホームページにおいて、受講学生に公開した。これは、携帯電話からも書き込むことができる。このことによって、学んだことを文章化し、学生自身が血肉化できると考えた。  また、毎回の授業内容については、パワーポイントで授業科目ごとに作成し、学生が事前に当日の授業内容を閲覧することができると同時に、授業中に新たに出現したキーワード等については、即座に書き入れて更新し、学生が復習できるようにした。このことによって、ノートをとることだけに集中して、自らの頭を働かせようとしない学生に対して、安心して授業内容と対面できるようにした。また、ワークショップの成果も、パワーポイントに蓄積、閲覧できるので、学生の成果の継続性を確保することができた。  ペーパーレス・カード式発想法システムについては、フリーソフト(CGI)を利用して教員が自作した。 カード書き込みの時間が学生の自己内対話を深めることは、すでに以前のFD研究で明らかにしていた。ICTを利用してこれをペーパーレスのワークとすることによって、彼女たちの通常の携帯・パソコンによるコミュニケーションとは異なる奥の深い自己洞察を進めることができた。また、これをリアルタイムに一覧化し、カテゴライズできるシステム(EXCEL)を教員が自作して学生がダウンロードできるようにした。  そのほか、画像アップロードシステムを、フリーソフトを利用して導入した。自己の図解ワークの成果や、「人格磨き」や「研究をどう職業にいかすか」の抱負付きの顔写真をアップロードさせて閲覧できるようにすることにより、互いの思いを知り合う交流を促進し、自負を高めることができた。 [8-4.教育実践による改善効果] 去年の代表発表者の全授業については、計144人の受講学生のなかから、計367件の書き込みがあった。これは、残念ながら少ない数である。毎回書き込みができる学生は、概して、他の科目でも成績が良く、自分の言葉で書くことと成績とが因果関係があるのは明らかである。そこで、毎回書けない学生に尋ねたところ、「めんどくさいから」という答があったが、これは、「出席して、退屈しても我慢して授業を聴くことが大切」という消極的受講態度の学生の問題を示すものであると考える。  これは論外としても、「授業中、とくに気がついたことはない。だから書けない」と言う学生が多かった。彼女たちは、ほかの授業でも、何かに気づいたり、新しい知識に感動したりすることなしに過ごしているのではないか。  そこで、評価の時期が近づいた時期に、ホームページ上に別にたとえば「企業にとっての地域連携の意義と方法」レポートという形で提出システムを作成し、自分の意見をパソコンから書き込ませた。彼女たちの多くは、就職すれば、すぐパソコン入力の仕事が待っていると思われる。そのときに、自分の意見や提案を「書こうと思えば書ける能力」をもっているのかどうかは、その後のキャリアアップの成否を決める大きな要因になると思われる。  そのため、文書作成の形式がわからないもののために、小見出しを最初から付けて、「○○については、次のように考える」と書いておいて、箇条書きの番号まで付け、結論についても、「以上のことから次のように考える。」という文まで付けたひな形をダウンロードさせて、そのあとを書かせた。さらに、それでも書けない者には、口頭で意見をしゃべらせ、これを教師が文章化してみせるということまで行った。このことによって、自己の思考の文章化ができるようになった。「私、頭が良くなったみたい」という感想まで飛び出した。このことから、彼女たちに対しては、このような文章化の「訓練」の機会を与えることが重要なのではないかと考える。 [8-5.今後の課題] 他学生の記述をリアルタイムに一覧形式で見ることができることは、とくに大人数授業場合は交流ツールとして有効であることは自明といえよう。他方、自己内対話の遮断として機能することも明らかである。キャリア教育に多用されるワークショップの場面において、学生の協働(課題設定等)→沈思黙考(カード書き込み)→口頭コミュニケーションによる協働(カテゴライズ作業等)→協働・沈思黙考(振り返り)というプロセスに関して、「主体的な学習態度」を効果的に育成するための検討が必要である。  さらに、発想法としての「ブレーンストーミング」を考えた場合、ICT活用のカードシステムが効率的であるとはいえるだろうが、その場合、「便乗・結合ルール」はどのように活かせばよいのか。カード書き込みが自己内対話を促進するとしても、そこで終結感を与えてしまっては、「便乗・結合ルール」は活かせない。その後にあらためて沈思黙考型で「便乗・結合カード」を書き込みさせるか、それとも口頭コミュニケーションによる協働によってカードを増やさせるか(「質より量ルール」)。あるいは、自己内対話の最 初からリアルタイムに閲覧させて、「便乗・結合カード」も書かせるのか。  これらについては、他の多人数授業を対照群として設定し、学生の気づきのプロセスをより詳細に分析し、その結果を発表したい。 9.教育改善効果の確認方法について------ [9-1.教育改善効果を誰によって評価していますか。] ○ 1-a.教員自身による評価 ○ 1-b.学生による評価(学生数:8名) ○ 1-c.学内の教員による評価(人数:6名) × 1-d.学外による評価 × 1-e.その他 [9-2.どのような方法で確認していますか。] ○ 2-a.テストなど ○ 2-b.アンケートなど ○ 2-c.インタビューなど × 2-d.資格・検定試験など × 2-e.学習履歴など × 2-f.その他 10.他の発表との関連について---------- [10-1.本発表内容に関連した発表をしたことがありますか。] ない