社会開放型子育て観への転換 西村美東士 (聖徳大学文学部) キーワード:社会開放型子育て観、参画型子育てまちづくり、 1.本発表の概要   「参画型子育てまちづくり」は、社会における自己の役割を果たしつつ社会形成に関わる活動といえる。そこでは、子育て活動のもつ、仲間との交流や、まちの子育て行政との関わりを通じて社会との交流が行われる。そのプロセスと効果を明らかにすることによって、「個人完結型子育て観」と対置される「社会開放型子育て観」への転換の展望と、これをもとにした子育て支援のあり方を提示できる。  本稿では、筆者が下案作成者及び研究統括として関わった、文部科学省私立大学学術研究高度化推進事業(社会連携研究推進事業ド連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究)(平成17年度〜21年度、研究代表者:聖徳大学副学長松島鈞)の研究成果に基づいて作成した下掲自著論文をもとに「社会開放型子育て観への転換」の意義と方法についてまとめることとする。  なお、当日の発表では、子育て支援を含む支援者の養成を目的とした聖徳大学生涯教育文化学科ICTシステムにおける学生の発言、フェースブックにおける子育て中の卒業生の発言を分析する。その上で、これに対する筆者の教師としての「社会開放型子育て観」の観点に基づく課題提示や、揺さぶり介入等の指導行為の内容を振り返り、学生、卒業生への効果をその記述内容の変化から確かめることによって、より詳しく検討したい。 2.「連鎖的参画による子育てのまちづくりに関する開発的研究」の研究内容と成果  われわれは、学内に「子育て支援社会連携研究センター」を新設するにあたり、子育て支援の基本的問題として、「閉鎖型子育てモデル」と「開放型子育てモデル」を設定し、従来の前者のモデルから今後の後者のモデルヘの転換を骨子とする論理を展開してきた。 「閉鎖型子育てモデル」では、子育て支援は社会の側からの一方向のものとなり、現在の少子化社会において求められる「子育ての社会化」は達成できないことになる。  これに対して、社会の単位としてエリアの小さい「まち」について見ると、人々が子育てに相互に関わることは社会化の契機となる。子育てと連関しながら、親は社会で働き、子は社会で育ち、親も子も周囲の人間と関係をもち、集団や組織に関与することによって、社会の構成員として生活している。また、子育てそのものも、結果としては子を自立させ、社会に送り出すという意味で、社会形成のための活動ということができる。このような個人が社会と交わるリアルな契機として、子育てをとらえることができる。  しかし、そのようにして子育ての社会化が進まないことには、ある理由が考えられる。問題は、多くの人々が、このような社会の構成員としての自覚や自負を十分には持っていないこと、あるいは持ち得ない社会状況にあるということにあると考える。子育て活動のもつ、社会との交流や社会形成の機能及び相互関係性のメカニズムを明確にする必要があるといえよう。  そこで、われわれは、子育て活動による社会形成の枠組みとして、「連鎖的参画による子育てのまちづくり」を研究課題として設定した。本研究では、「子育て支援社会連携研究センター」を実践と研究の「センター・オブ・センター」として、地域活性化と産業振興に結びつけた「子育て支援」を行うこととした。これにより、わが国の子育て支援、次世代育成と、子育てを中心とした地域振興の質的向上に貢献し、子どもたちがすこやかに成長できる地域環境づくりに資することができると考えたからである。同時に、われわれは、学生、教員、市民、親子、産業、自治体等の連鎖的参画による「子育てのまちづくり」に関わる多様な開発実践を行った。これを「子育て・子育て学習による自己形成」と「まち・産業の社会形成」の両側面から検討した。  その結果、われわれは、次の結論を得るに至った。これまでのわが国においては、子育て支援が施策化された当初から、「子どもを産み育てることは、個人の自由意思に属することが尊重されるべきものである」という考え方が強く、「閉鎖型子育てモデル」を前提とした[個人完結型子育て観]に基づくものになっていた。そのため、子育て支援は、社会形成に寄与するかどうかについて、確かな見通しのないままに、個人の「自由意思」による子育てを支援すること以外に方法は取り得なかった。  これに対して、「参画型子育てまちづくり」は、同じく「個人の自由意思」によるものでありながら、社会における白己の役割を果たしつつ社会形成に関わる活動といえる。そこでは、子育て活動のもつ、仲間との交流や、まちの子育て行政との関わりを通じて社会との交流が行われる。その結果、個人を社会化させる促進要因が明瞭に示されることになる。そのプロセスと効果を明らかにすることによって、「個人完結型子育て観」と対置される「社会開放型子育て観」への転換の展望と、これをもとにした子育て支援のあり方を提示できる。 3.「社会開放型子育て観」の設定  われわれは、個人と、その参画の連鎖を2軸として研究を進めた。その結果、この2軸を関連付けてとらえるためのキー概念として、「個人完結型から社会開放型子育て観への転換」を設定した。  この2軸の設定に基づき、子育て活動による自己形成と社会形成の2側面を一体的にとらえることにより、社会開放型子育て支援研究の内実を豊かなものにすることができると考える。  「個人完結型から社会開放型子育て観への転換」というキー概念の設定に当たって、われわれはそれぞれの「子育て観」について、次のとおり「操作的定義」を定めた。 個人完結型=母親(もしくは父母)が自己の子育てに関する問題を(自らの範囲内で)解決するスタイル 社会開放型=地域社会の支援・協働のもとに母親(もしくは父母)が自己及び他者の子育てに関する問題を解決するスタイル 4.「社会開放型子育て観」の社会的意義  現在、核家族化、少子化が進行し、とくに都会では、たとえば親子3人だけで家庭生活を送るといった状況が一般化している。この状況と、地域コミュニティの弱体化や個人主義的価値観の強まりが相まって、それぞれの親の子育て自体については個人内(自らの範囲内)で完結する傾向が生じたものと考える。社会全体が子育てを支えようとする「子育て支援のあり方の検討」において、このことは、これまで十分に検討されてこなかった。  他方、従来の「子育て研究」においては、個人内解決型のアプローチが多く、子育ての個人化傾向そのものの改善については展望を見出していないといえる。また、「行政施策」としての「子育てまちづくり」についても、施策のほとんどが、個人完結型の子育てについてはそのままにして、「子育てしやすいまち」としての外的条件の整備を図ろうとするものといえる。このままでは、支援は拡大しても、子育て主体や、子育てのまちづくり主体は育たないおそれがある。  その他、「社会開放型子育て支援研究の展望については、ここでは割愛する。下掲ホームページで確認されたい。 (引用文献) 西村美東士「参画型子育てまちづくりから見た社会開放型子育て支援研究の展望」、前掲『研究集録』、pp3-14、2010年3月。参照:http://mito3.jp