藤田結子・北村文 編 現代エスノグラフィー 新曜社 定価2415円 発売日 2013年3月7日 原稿字数=約650〜670字(14字×47行程度)  エスノグラフィーは、一般に民族誌と訳される。本書では、調査者が組織、コミュニティなどの「フィールド」に入り込み、人々の生活や活動に参加して観察し、記述する方法としてとらえる。また、従来の「科学的」な参与観察だけでなく、能動的に協働して、解釈を実践し、多元的な語りを得るインタビュー、自分の所属集団の内側からの観察、自分の問題を自覚した当事者とピアグループによる問題への対処、対話と相互行為の積み重ねによるライフストーリー構築など、新しいアプローチについても論考する。  「生きる力の育成」などの教育の目的を考えると、その多様性、動態性から、学習と指導の両側面において、エスノグラフィーの手法は有効であると考えられる。  第一に、教師の一番の勝負の場である授業が、ふだんは管理職にさえ観察されることもなく、評価を受けることもできない。効果測定などの量的評価だけでなく、エスノグラフィーの記述手法を活用した他者からの評価が、教師の自己客観視を育てるはずである。第二に、児童生徒個人の日々の変化、とくに社会性の獲得等に関する観察と記述を充実する必要がある。学習は、本質的に個人的事象だからである。第三に、総合的学習の時間などにおいて児童生徒が作成する「成果」を、学習成果としてだけではなく、エスノグラフィー的な研究成果として、科学的な評価や指導を行う必要がある。総合的学習の時間については、現在「ゆとり批判」の波にさらされているが、それよりも、今日の科学的方法へのわれわれの理解が不十分であったことを問題にすべきと言ったら言い過ぎか。