サルマンカーン 世界はひとつの教室 世界はひとつの教室 「学び×テクノロジー」が起こすイノベーション サルマン・カーン:著 三木 俊哉:訳 価格(税込):¥ 1,680 発行年月: 2013年5月  筆者カーン氏の創設した「カーンアカデミー」は、「質の高い教育を、無料で、世界中のすべての人に提供」しようとする。サイトには、数学、科学、経済、ファイナンス、歴史、美術などのレッスンビデオが四千本以上並ぶ。  カーン氏は、「ほどほどの知識がある、聞き分けがよくて標準的な市民、労働者をつくりだす」プロイセン型モデルの学校に対して、「家では講義、学校では宿題」という「反転」モデルを提示する。個人のペースに合わせて、百%理解してから次の単元に進む。落ちこぼれはない。  MITに入学したカーン氏は、まわりのみんなの頭の良さにおじけづく。しかし、「途方もない時間の無駄」である大教室の講義を受動的に学ぶ学生を見て、そういう授業をサボり、本当に役立つ授業を受けるなどの「能動的学習」をすることによって、結局、彼らの2倍近い講座を取得することができたという。  われわれは、ユーチューブで検索して、「カーンアカデミー」の内容をつかんでおく必要があろう。しかし、それ以上に、カーン氏の学校教育への問題提起を真摯に受け止めるべきである。カーン氏は、生徒の時に「テストを受けて次に進みたい」と学校側に申し出たところ、「そんなことを認めたら、全員に認めなきゃいけません」と拒否されたのである。学校側の事情はよくわかる。だが、同時に、個人の状況に合わせて学習を支援しなければならないことを忘れてはなるまい。  過去の遠隔教育は、カーン氏が批判するような受動的な一方向授業の象徴であった。しかし、ネットのもつ自己選択性、進度自由性、双方向性は、これを逆転させようとしている。