「若者」とは誰か:アイデンティティの30年 (河出ブックス 61) 浅野 智彦 (著) 2013/08出版 価格:¥1,575  教育は若者の「自分探しの旅」を支援(1996年中教審)し、彼らのアイデンティティ(自己同一性)の確立をめざす。しかし、浅野氏は、自らの青少年研究会の調査データ等に基づき、状況に応じて変化する「多元的自己」の拡大の事実を示す。その上で、これを従来の知見のように問題視するのではなく、多元的自己であっても、より生きやすい生き方や社会のために生かすことこそ重要という。  「ゆとり教育」でいわれる「個性」については、学力低下批判の嵐に出会い、成績のよい子は「能力を徹底的に磨くこと」、よくない子は「成績競争から降りること」の二重の意味を持つようになったと浅野氏は指摘する。その上で、「自己の多元化は、一つの個性への過度の依存によるリスクを低減させる」と、両方の若者に手を差し伸べようとする。  評者も、生徒の現在の個性を狭く固定的にとらえるとしたら、教師にも生徒にもよくないと考える。こぢんまりとまとまってしまうのでは、望ましい統合とは呼べないだろう。たくさんの個性の「かけら」は、多様な状況において、多様な箇所を光らせたいし、成長させていきたい。  また、生徒に友達感覚で接してもらおうとする教師がいるとしたら、それは現実的ではないといえる。むしろ、多様な友達と接するときの「多元的自己」とは異なる「支援者に対する作法」を学ばせたい。異議申立もあってよいだろう。そうすれば、「多元的自己」を説明する「統合的自己」の確立も可能になるかもしれない。教育においては、このようにして、生徒の自己内対話を深め、「自分とは何か」の追究を支援すべきと考える。