活躍する組織人の探究: 大学から企業へのトランジション 中原 淳, 溝上 慎一 出版社: 東京大学出版会 発売日: 2014/3/28  この本の目的について、中原氏は次のように述べる。組織研究においては、組織という「暗黙の枠組み」が存在し、その範囲を超える社会的現象には注意が向かない。ただし、組織社会化研究においては、予期的社会化研究があり、そこでは、組織からどのような働きかけをすれば、新規参入者の社会化が促進されるかが探求される。本書では、さらに、企業に参入する以前の「教育機関に所属していた時代の個人の意識・行動」と、当人が「組織に参入したあとに担うキャリアや組織行動」の二項関係を探求した。  溝上氏は、職業生活や社会生活でも必要な「汎用的技能」を学士力の一環として定めた「学士課程答申」(2008年中教審答申)、学生を成長・発達させるという観点の米国の国家レポート『学習への関与』(1984年)を引き、「学生の学びと成長の実態や構造を明らかにするための大規模調査」の必要を説く。そのため、氏は、「1週間の過ごし方」に関する大学生対象アンケート(インターネット調査、2652人)を行い、授業・授業外・自主学習の時間数から、クラスタ分析によって4つの学習タイプを設定した。  調査結果から、大学1・2年生時におけるキャリア意識及び自主学習や主体的な学修態度が組織への適応に結びつくことが明らかにされている。また、クラブ・サークル活動やアルバイトによる「豊かな人間関係」については、「良好な友達づきあい」以上の質が求められ、異質な他者からの影響が大きいことが示唆された。なお、「勉学第一」とした者は良い結果にならなかった点も興味深い。  評者は、生徒の生涯の充実を考え、学校から社会の組織への移行と適応を意識した教育が必要と考える。また、組織人として活躍している卒業生がどのような学校生活を送っていたのか、この本ではカバーしきれなかったデータについて、多くの経験を集めて要素分析をすることも有益だと思う。