井上俊 編 現代文化を学ぶ人のために全訂新版 新品: ¥ 2,160 出版社: 世界思想社 発売日: 2014/7/30  井上氏は、現代文化を都市文化、消費文化、情報文化としてとらえる。都市文化とは、万博に象徴されるような「見せ物」の文化であり、「欲望喚起装置」として消費文化を形成してきた。百貨店のような魅力的な「見せ物空間」は「見せかけ」であるとともに、流行に遅れたくないとか、差をつけたいとかの「見せかけへの同調と差異」を消費者に呼び起こす。そのための情報操作も欠かせない。政府や企業だけでなく、われわれ自身が、崩れつつある慣例的な社交パターンに頼らず、意識的に「見せかけ」(キャラ)を演じて、自己を「情報化」し、他者を傷つけないように社会生活を成立させなければならないという。  井上氏は、そこで生まれる自己と他者と世界の物語が、シニカルな「裏話」も含めて、社会的現実を「意味の秩序」として成立させると評価しつつ、次のように問題を提起する。「何が疑似か」という基準が立てにくくなった今日では、見せかけが「どういう条件のもとで」通用するのかが問題である。「好みの物語を編集できる」としても、それをそのまま現実化できるわけではない。  本書では、この視点のもとに、各著者が、政府推進によるポップカルチャー、人助けと「心理学化」、スポーツイベント、ファッション、観光、恋愛などにおける現代文化の権力性、自己疎外、不自由さ、息苦しさをえぐり出す。  このような「好みの物語を勝手に編集できる」かのように錯覚させる個人化社会において、自己と社会とをマッチングさせ、自己の人生の物語を適切に編み出せるよう支援する教育は、たやすくはないが、意義深いものと評者は考える。