川島 高之 (著) いつまでも会社があると思うなよ! 2015/9/16 PHP研究所 ¥ 1,512  今の多くの若者が仕事に求めることは、私生活を犠牲にしないことのほか、仕事内容や収入よりも、人間関係が良いことや上司が評価してくれることだ。そのような若者を、会社で有用な人材に育てるにはどうしたらよいのか。  川島氏は、自らも「イクメン」で、今は上場企業の社長として社員育成のための「イクボス」の必要性を提唱する。「イクボス」とは、部下の私生活に配慮しながら、業績目標を達成させるという「新しい管理職像」である。その要件は「部下の私生活とキャリアを応援している」、「自らも仕事と私生活を両立させている」、「業績目標の達成に強くコミットしている」の3つである。氏は、仕事(ワーク)と共に、私生活(ライフ)と社会活動(ソーシャル)という「3本柱の生活」が人生を強く豊かなものにしてくれると言う。それが、若手エリートからも支持されているようだ。  氏は、経済成長期の「オヤジ」が、「圧倒的な権力」を背景とした理不尽な命令や支配に対するストレスで、家庭を暗くさせたとし、若者に、結果志向で「柳に風」のしたたかさでやっていこうと言う。  ただし、生産性重視は譲らない。時間泥棒トップ3として、資料作成、メール、会議を挙げ、たとえば会議については、ゴール決め、資料の事前配布、人数絞りの3つで時間は8分の1になると言う。ただし、その生産性とは、アウトプット÷インプットであることから、分母である時間の削減幅以上に、分子である成果を収縮させないよう警告する。  氏は、怒鳴り続ける少年野球のコーチを例に上げて批判し、代表を務めるNPOゴヂカラ・ニッポンの方針を示す。それは、部下や子どものを自主性を育てるためには、苦手や弱点ではなく、得意に注目すること、社会で役に立つ経験を与えて「貢献心」を育むことなどである。そのうえで、残業している社員より成果を出すことを若手社員に求めるのだ。  氏は「三本柱の生き方」によって、次の仕事能力が身に付くと言う。人脈が広がる/視野が広がる/多様性が身に付く。頭の中で、仕事とは別の視点との化学反応を起こせる。コミュニケーションカが高まる。組織運営力が高まる。自分の素の実力、強み・弱みがわかる。プロジェクトマネージメントなど、OJTトレーニングの場を得られる。  評者は考える。帰属意識が不足し、個人的親密さを求める若者を否定するだけでは、教育は始まらない。仕事、私生活、社会活動のそれぞれの場で、幸せな生涯を送るための基礎・基本を身につけさせることこそ、生涯学習時代における学校教育の役割といえよう。