早田幸政「大学の質保証とは何か」 本体価格:3000円 出版社: エイデル研究所; (2015/5/31) 本書は、大学基準協会、大学評価・学位授与機構、日本高等教育評価機構、短期大学基準協会、日本技術者教育認定機構、教員養成評価機構(教職大学院評価)における大学評価のポイントを、それぞれの代表者が紹介している。 次に、各界の大学教育研究者が、学修成果から見た高等教育の質保証、教学マネジメントからの質保証、大学教育の質保証を担う大学教員の教育能力の質保証、職員が大学の質保証にどうのように関わるべきか、大学の質とグローバリゼーション、東アジアにおける高等教育質保証、大学入学者選抜・高校教育・大学教育の三位一体改革について論ずる。 本書によれば、大学教育は、中等教育までに追求されてきた「確かな学力」の裏付けを伴う「生きる力」を一層発展させ、生涯にわたって求められる力を培うよう求められている。そのためには、ゴール設定とその到達度を評価し、その結果を大学の質向上のための改善に結びつけ、大学が生涯学ぶ基盤としての役割を発揮することが重要である。 本書では「ラーニング・アウトカム」(学修成果)について、日本では「知識、スキル、態度」のことを指しているが、米国ではアカデミックなものだけではなく、「学生たちが4年間で学ぶ学術的、社会的、人間的な素養を包括した幅広いもの」ととらえられるとして、コネチカット大学の「アウトカム・ピラミッド」の例を紹介している。そこでは、最上位の建学の精神が、多様、複雑となり、最底辺の1回ごとの授業目的と学修成果が明確にされる。そして、科目群が密接に関連し合う「科目順次性」が重視されるという。日本では、一般教育科目、専門科目を含め、明確なアウトカムが示されておらず、学生たちは単位を積み上げて卒業要件を目指す傾向があるという。  本書巻末の座談会では、教職員がこのような大学改革に対して、研究時間が奪われるなどの「被害者意識」に染まらずに協力するよう求めている。たしかに、大学教員の教育能力開発の取り組みが本格化する今日、このような「被害者意識」は、裏で蔓延しているような気がする。しかし、評者は次のように感じている。研究はできるけど、教育はできない教員など、実際にいるのか。研究も教育もできるか、どちらもできないかのどちらかなのではないか。繁忙感のみに終わる空しい時間を削ぎ落として、研究と教育の両方の質の向上に時間をかけるようにすることが必要だ。