国立教育政策研究所 (編集) 資質・能力[理論編] 出版社: 東洋館出版社 発売日: 2016/2/9 価格: \2,160  本書は、子供が自ら思考を広げ深める「学びの構造」を理論的に読み解き、「知」「徳」「体」を一体化させる授業を追求する。その背景には、「これからの社会は、誰も正解がわからない世界で、みんなが少しずつ考えや知恵を持ち寄って、答えを作り出し、それを現実に適用した結果も見守りながら、さらにより良い答えを求めていくようになる」という、「持続可能な社会」及びそのための「生涯学習社会の構築」を目指す前向きな時代認識がある。そして、そのために、大人も子供も一人一人が自分なりの考えを持って、人と対話し、協働しながら、新しい考えを創造する力が必要であり、子供たちにこうした力を育成するための「考え方」と「手立て」を明らかにしようとする。  本書は、国立教育政策研究所によるプロジェクト研究の成果として整理された「21世紀に求められる資質・能力」を、さらに学術的に精緻化・構造化し、教育目標や内容、学習・指導方法、評価等の一体的・実証的な検討を行う中でまとめられた、言わば「理論編」として位置づけられるものであるという。次期学習指導要領改訂に向けた議論の参考に資するものである。本書を通して、子供が自ら思考を広げ深める「学びの構造」を明らかにするとともに、これから目指すべき日本の教育の目標・内容、学習・指導方法等など、より多面的な視点からカリキュラム・デザインを考え、学校教育法に規定された学力の三要素(1基礎的・基本的な知識・技能の習得、2知識・技能を活用して課題を解決するために必要な思考力・判断力・表現力等、 3主体的に学習に取り組む態度)のもとに生きる力を育成する授業のあり方を明らかにしようとしている。  「知・徳・体をいかにつなげるか」については、保育園での実践事例を引き、「体を動かし、体で感じ、話し合いながら考え、他人を思いやることを感じ取るという一体的な体験」さらにその根底に「自分たちなりに『なぜなのか』という理由まで納得する過程」があるとして、教科、道徳・特活、体育の「分業モデル」を超えよと主張する。「学力三要素をいかにつなげるか」については、「まずは知識習得」というような「分離・段階モデル」に対して、指導者の「問題化」等の働きかけによる「問いと答えの間が長い学習活動」による知識・技能・態度の一体的授業デザインを提示する。その他、「社会化と個性的発達と学問の系統性という三つの教育理念に基づく目標の融合」、「講義が役立つとき」、「わかって初めて疑問が生まれる」など、アクティブラーニングであっても、教育の目標、内容、方法、評価の根底的視点を貫くための実践に有益な理論が示されている。  評者は、過去の能力主義教育の貧しさと、その批判の不毛な繰り返しを思い起こす。にもかかわらず、今、社会に出た若者と雇用者がともに求めているのは、必要能力の獲得である。ただ、本書は、変化しようのないはずの資質を能力とつねにセットで扱っており、その点については個人的には疑問が残る。資質は良くも悪くも、その人らしさそのものではないのか。だが、社会形成者育成の視点から、そこで必要になる能力をまともにとらえて理論化しようとする本書の存在価値は、若者と社会のニーズに応えるという意味で大きいものだと考える。