今どきコトバ事情 −現代社会学単語帳− 井上俊・永井良和 編 出版社 ミネルヴァ書房 発売日: 2016年1月30日 ¥2,160  本書は、時代の空気を読み解く55個の言葉をとりあげ、その起源や由来、流通の過程、類語との関係等を解説する。その領域は、若者・世代、メディア・ネット、恋愛・結婚・家族、仕事、つながり、食・健康、環境・災害の7つである。  各項目の副題が端的で興味深い。「若者・世代」については次のとおりである。アラサーは女ざかりからの逃走、オタクは成熟社会のロールモデル、キャラは「空気」の中を生き抜く作法、ゆとり世代は「自己管理」を他者に管理される矛盾。ほかでも、炎上はネット・イベント、ソーシャルメディアは社交と孤独の世界、婚活は自由化の罠、ワーク・ライフ・バランスは一生の支援そして介入、居場所はリスク化する社会の拠り所、新型うつは深まる承認不安の果てなど、社会学らしい切り口が光る。  ただ、本書全体を通して、コミュ力(コミュニケーション能力)を「正体のない能力」ととらえ、「教育不能」とする論調が強い点が、教育の視点からは疑問が残る。グループ内でコミュ力不足と思われないよう努力する若者の姿はたしかに切ない。だが、若者や社会の現場においては、コミュ力を分解すれば「正体のある能力」として理解されるはずである。これを構造化したものがカリキュラムにほかならない。とかく批判される「ゆとり世代」についても、既存の学問体系に頼りすぎて、彼らが必要としているコミュ力に目が向いていなかったという教育側の責任もあるだろう。その上で、ある意味難しい「身内」とのコミュ力とは異なる、ある意味シンプルな「社会」の現場で必要なコミュ力に、生徒の目を向けさせることも考えたい。