秋山千佳 ルポ保健室 −子どもの貧困・虐待・性のリアル 朝日新書 ¥842 出版社: 朝日新聞出版 (2016/8/10)  本書は、現代の子どもたちが抱える問題の最先端が現れる保健室と、そこで彼らを支えて奮闘する養護教諭」の活動に密着したルポルタージュである。秋山氏は貧困の連鎖を断ち切ることについて、学校の役割がもはや見限られていることについて異議を唱え、保健室を「子どもを救う最前線」にしようと訴える。  本書では、素顔を見せないマスク依存症に始まり、薬物依存、ネットいじめ、スクールカースト、性非行、性同一性障害、虐待などの問題を保健室の現場から書き上げる。「困った子は、困っている子」だと言う。そして、それは、教員には気づきづらいものらしい。  秋山氏は「どうして子どもたちは、保健室の中だとこんなに自然体になるのだろう」と提起し、成績で評価されないから、否定されないからという理由以前に、養護教諭に、取り繕うようなところがないことを指摘する。心にないことは言わない。わからないことはわからないと認めるというのだ。子どもだからと下に見ることなく、一人の人間として尊重する。相談に対しては「どうしたの」と耳を傾け、熱っぽいと言われれば「どれどれ」と額に手で触れ、五感と神経をフル稼働して向き合う。  筆者は考える。一般の教師にとって、養護教諭のこの自然な対応は見習うべきところがあると同時に、役割上すべてを真似するのは無理もあるだろう。しかし、本書に登場する「生徒が保健室に入るのをブロックするベテラン教師」などは何とかならないか。さらには、秋山氏のいう「居場所を求める声なきSOS」に対しては、保健室のほか図書室などの重要性を感じる。余談だが、本書では、安らぎを感じる場所として保健室のほかにトイレという話が出てくるが、妙にリアリティを感じる。