若者離れ −電通が考える未来のためのコミュニケーション術− 電通若者研究部編 吉田将英、奈木れい、小木真、佐藤瞳共著 発行株式会社エムディエヌコーポレーション 発売日: 2016/7/29 1620円 本書は、次のように述べる。若者少数社会である日本の組織や大人たちは、若者の「量の影響力」が少ないことを理由に、「(社会の)若者離れ」に陥っている。そのため、若者特有の感性やアイデアといった「質の影響力」を社会に還元できずにいる。そして、好きなこと、悩み、将来、友達関係、SNSなど、「わかってもらえている」という安心感や信頼があってはじめて、若者の行動はガラリと変わるのに、世の中にあふれる若者論のほとんどが、若者からすれば「わかってないなあ」ととらえられているという危機感を訴える。 どうすれば本当の意味で、彼ら若者たちと社会との間にもっとよい形の相互理解や、それを起点とした新たな価値を生み出せるのか。これまでさまざまな企業や団体と「若者と社会のよりよい関係性のデザイン」を実現してきた者として、今までの研究結果を総棚卸ろししたのが本書だと言う。 「まとめ」としては、次の項目が挙げられている。本来、若者には「量の影響力」と「質の影響力」がある。しかし、いまの日本の若者少数社会は、「量の影響力」が少ないことを理由に、「社会の若者離れ」を起こしている。社会が見過ごしている若者の「質の影響力」の最たるものが、情報革命後の子どもたち特有の「前提打破力」である。若者の可能性を最大限活かすために、大人は対話できるための「通訳のマインド」をもつことが重要。それが彼らの「こころの氷山」を理解する第一歩になる。 2章のまとめは、次のとおりである。いまの若者は多様化しているが、「若者まるわかりクラスター」を通じて、昔から変わらず存在し続ける若者像と、いまだからこその若者像があることがわかる。いまの若者はSNSを通じた発信=自己表現を行う。“見られている意識”に行動が規定され、他者が見ている自分のイメージを想像してそこから逆算をした振る舞いをする。 3章のまとめは次のとおりである。若者を理解するには、表面的な行動だけではなく、価値観を育んだ時代背景・成長背景を知ることが大事である。いまの若者たちは3つの変化の波にさらされるなかで、価値観が育まれた。変化の波@継続する不況と将来の不安→身の丈志向。A人口減少と教育の変化→競争よりも“協調”。変化の波B情報環境の変化→正解志向。社会全体で目指すべき方向性が曖昧になり、各人が自己判断で自分の方向性を選ぶ時代になった。こうあるべき、というロールモデルが消失したことで、若者は迷いがちになっている。リスクよりも安定。リスクテイクからリスクヘッジ重視へ。その結果、個よりも集団に価値基準の重きを置く「WEの時代」に生きている。 4章のまとめは次のとおりである。「WEの時代」の若者の行動は「ワカモンSEAモデル」で構造化でき、「本当に求めていること」と「それをまわりがどう見るか」のふたつの関係性が行動を左右している。その関係性が「自分らしさのあり方」も左右している。「自分らしさのあり方」は時代の変遷とともに変化してきた。帰属欲求→優越欲求→承認欲求。内輪コミュニケーションや情報量爆発による「つながり過多」と、生きる上での「ロールモデル消失」によって、若者の日々は「総相対化」された。すべてが相対的になりつつある世の中で、若者は「本当は『I』がほしい=自分のなかに絶対的なものさしをもちたい」と「こころの氷山の奥底」で感じ始めている。そしてそれは、成熟社会になった日本がはじめて直面している「自分らしさのあり方」への肯定欲求である。「I」をもてるかどうかで、若者らしさは良い方向にも悪い方向にも出る可能性がある。@寛容さ⇔無関心、A客観性⇔評論病、B素直さ⇔盲信、C謙虚さ⇔自信喪失、D自由さ⇔優柔不断、E協調性⇔気にしい、F合理性⇔頑固。若者自身も、まわりの人も、互いに良い関係性を築き、総相対化された社会をポジティブに生きるためには「Iへのゆるい肯定感」が重要。 5章のまとめは次のとおりである。「I」との対話をどのようにするかが、若者と良い関係性を築き、動かせるかどうかの最大のポイント。しかし、「大人からのコミュニケーション」のほとんどは「I」まで届いていない。規模の大小に関わらず、「I」との対話において大事なのが、「ズレ愛のある大人の5つのスタンス」である。ズレ愛スタンス@“誰かが”ではなく“私が”で向き合う。A“集団”ではなく“個”に向き合う。B“上から”ではなく“尊重”。C“Whyなき命令”ではなく“Whyの共有”。D“どちらの論理”ではなく“共通の論理”。さらに、若者のなかの「3人の自分」全員から「アリ!」をもらえると、実際の行動まで変わる。「世の中における自分」→いまの世の中の空気と照らしてアリかどうか。「内輪の中の自分」→友だちや身近な人たちからの見え方としてアリかどうか。「純粋な自分」→まわりのことは関係なく自分自身がアリかどうか(=I)。  本書は次のようにメッセージを送る。若者を研究することは「切り離して論じるため」ではなく、「違いを知ったうえでしかわからない、その先の未来のつながり方を見通すため」だ。世代の違いや常識、価値観の違いを認めたうえでいかに超えていくか。少しでも気づきやヒントを感じていただけたらとてもうれしい。  本書は、次のように述べる。若者のコミュニケーションがサークルという「内輪」に閉じてしまうことによって「ほかのことに興味が持てない」「めんどくさい」といった外の社会に対する排他性につながってしまう。さらに、限られたコミュニティであることが、個人にとっての行きづらさにつながる。評者の所属する青少年研究会では、この傾向を「みんなぼっち」と呼んで分析している。本書では、サークルの持つWEの居心地の良さをそのままに保ちつつ、新たな社会とのつながりの形と、人とのほどよい距離感をIとして保てる形を両立したサークル用スマホアプリを開発したと言う。教育関係者としては、「みんなぼっち」の若者に対して、その心情を尊重しつつ、社会的視野を拡大させる方策を考える必要があろう。