映画は社会学する 西村大志・松浦雄介編 法律文化社 (2016/7/27)  同書は社会学の思考法を次の3部に分けて伝える。T「社会学的思考に慣れる」は、典型的かつ根本的なもので、いろんなものに使え、古びない強い思考法、U「社会学の視野を拡げる」は、社会学から多少越境しているが、社会学を豊かにしてきた思考法、そしてVは「現代社会を読み解く社会学」である。さらに各章は、@映画から思考法のもととなるイメージをつかむ、A社会学的思考を原典の引用も入れながら解説する、Bさらなる思考の発展や他の思考法との連関を図る、の3つから構成されている。  章ごとに20の思考法が挙げられ、いずれも興味深い。とくに、動機の語彙、行為と演技、ラベリング理論、ジェンダー/セクシュアリティ、身体技法、組織と集団、親密性、ダブルバインド、消費社会論、規律訓練と主体化、想像の共同体、リスク社会などの社会学的な思考法は、冷静な判断基準をわれわれに与える。生活指導や進路指導を、現代に生きる生徒と今日の社会の現実に適合したものにするために、同書は有益な示唆を与えるといえよう。  近年、社会学的思考や想像力に乏しい実証研究が増えていると同書は批判する。社会学の大きな目標は人間や社会の「リアル」に迫ることであり、バーチャルな世界の拡大ともあいまって、そのリアルは事実と等号では結べなくなったという。評者も同感である。我々を翻弄する「小説よりも奇なる事実」に対して、ストーリーという質の良い虚構がもつ「人間的真実」は、感動をもたらし、追求し続けたいという気持ちにさせる。このようにして、細分化された学問領域の隙間を埋めたとき、体系的理解が深まるのだろう。