最強の社会調査入門 −これから質的調査をはじめる人のために− 前田拓也、秋谷直矩、朴沙羅、木下衆 編 ナカニシヤ出版 2484円  この本は「面白くてマネしたくなる」を目指したという。そのために社会学の若手研究者が、失敗体験も含めて論文に仕上げるまでの進め方、カンやコツを惜しみなく紹介する。  筆者は質的調査の方法を、「聞いてみる」インタビュー調査、「やってみる」と「行ってみる」参与観察(フィールドワーク)、「読んでみる」文献資料の調査に分類する。参与観察では、「自分はあくまで調査者です」と距離を置くのではなく、「その場のメンバー」として同じ仕事を「やってみる」ことに重きが置かれる。そのために、男性客を接待するホステスや暴走族の「パシリ」を実際にやってみる。  資料調査では、758冊の「就職用自己分析マニュアル」を研究対象とした牧野智和が、次のように述べている。一見果てしない文献データベースの内に、画然とした境界を作ることで、「すべてを読み、すべてを研究」することはできなくても、「主なものをほとんど全部読んだことになる」。毎年版が改められるほどの売り上げを誇る9割近くは、改定箇所が少なく、ほぼ読まなくてよい、古本の半数はネット等でタダ同然で買える。このようにハードルは高そうに見えても、「愚直に」やってみれば、「網羅性」はクリアできるという。  評者は考える。教師にとっては、教育実践をルポルタージュではなく、「研究論文」として仕上げようとすると困難なハードルが立ちはだかる。普遍性、客観性、根拠などが問われるのだ。だが、他方で、既存の研究者に対しても、細分化された領域における目的や方法に対しての批判が高まっている。量的調査などが正しい手続きで行われたとしても、方法の選択自体が妥当だったのか、さらには目的は意義のあるものなのかが問題にされる。体系化されておらず、変化に対応すべき教育現場の臨床とは遊離した研究が多いのだ。日々の実践で生徒への対応に追われる教師が、自ら、あるいは研究者との協働により、仮説を検証して知見を示すことには、教師本人のキャリアアップのほか、社会的にも大きな意義がある。教職大学院においても、そのような成果が求められていると考えたい。