ポスト〈カワイイ〉の文化社会学 −女子たちの「新たな楽しみ」を探る− 吉光正絵・池田太臣・西原麻里編著 ミネルヴァ書房 発売日:2017/4/20 ¥3,780  この本は言う。「かわいい」は、古典的な女らしさという意味から、伝統的な規範の圧迫から抜け出して自分らしく生きたいと願う女子たちの希望の表れに変わった。現代の女子たちは、より自由に「かわいい」を楽しんでいる。同書では、いまもなお多様化と洗練化を続ける女子文化を解明するため、ゲーム、ロック、歴女、ハロウィン、メイド、島ガールなどにおける「かわいい」を追求する。  池田氏は、「かわいい」が氾濫する社会に対する「文化的に未成熟」という批判に反対し、女性の活動領域の拡大など、社会がより多様性を求める時に必要となる感性のーつが 「かわいい」だと言う。従来の「男性的」とされていた領域に、もっと別のセンスや価値観を持ち込む。そのことによって、男性も女性も、ある程度心地よくその領域に関われるようになるというのである。西原氏は、「姫キャラ」を含めた広義のプリンセスについて、三〇代、四〇代の女性が社会貢献活動などによる努力型であったのに対して、一〇代後半から二〇代は、「生まれながらの」自分らしさ体現型だと言う。そこでは、「男性から見られる」という意識から解放され、「女子としての自分」という満足があるというのだ。永田夏来氏は、量的調査の結果から、「夏フェス女子」は、幼少期に美術館・博物館訪問やクラシック視聴を経験した者が多いと言う。そして、このような「文化資本の高い女性」が、「夏フェス」での写真写りの良さと「かわいい」をネットで発信しているという。以上の楽しみを、吉光氏は、「心躍ることや心囚われることに尽きない現代人の暮らし」と表現している。  評者は考える。人には個人として社会人としての成長とは別に、そのこと自体が癒しや楽しみになる時間が大切だ。それが社会における新しい価値や文化の創造につながる。しかし、そこに個人間の格差があるとすれば、能力目標だけでなく、貧しい者にも文化資本を提供するよう考えたい。