河野 真太郎 戦う姫、働く少女 発行:堀之内出版 2017年7月20日 価格 1,944円  この本のテーマは「ジブリの少女やディズニープリンセスは、何と戦い、どう働いたのか」である。まず、戦闘美少女を社会的視点から分析する。『風の谷のナウシカ』から『新世紀エヴァンゲリオン』、『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』にいたるまでのポップカルチャーにあふれる「戦う姫・少女」の姿は、いかなる社会の変化や、願望を示しているかを明らかにしようとする。次に、労働を軸としてその考察を深める。少女たちが文字通りに「働く」ジブリ作品はもちろんのこと、現代に氾濫する「解放された女性」たちの物語と、新自由主義のもとでの女性的労働や女性化された労働の世界を批判的に論ずる。大幅な規制緩和によって自由競争を促す「新自由主義」、工業化社会の次の労働が、過去のフェミニズムを困難にしていると言う。  たとえば「魔女の宅急便」は、肉体労働であるはずだが、「大事なのは心」「笑顔でいること」などの言葉で表される感情労働が主になり、他の労働が隠蔽されていると言う。さらに、筆者は、主人公がアイドル化したことについて、新たな労働の姿としつつ、「全存在を労働に提供」するものとして批判する。  また、別の章では、「会社に使われない新しい生き方」と称して、会社とキャリアから「選択的に離脱」し、健康で持続可能な環境保全を目指す「主婦回帰」の流行について、主たる収入源の男性が危うくなっている現在では「砂上の楼閣」と釘を刺す。  評者は考える。まず、同書によって、ポップカルチャーが青少年の意識や労働観に与える影響を考えたい。格差拡大、不安、不透明な社会であるにもかかわらず、若者の幸福感の高まりと性差別に関する保守化が進行していることには、このようなメディアの影響もあるのだろう。次に、彼らの気持ちを共感的に理解しつつも、現実社会に適合した考え方、生き方、働き方を提起し、創造できるような働きかけを考えたい。不安、不透明の中でも、自由を尊び、納得がいく自己決定ができるようにすること、そのための新しい価値の創造が求められている。  ポップカルチャーのおかげだろうか、「とても幸せ」と答える若者が増えている。これは伸ばしてあげたい。だが、大人になって「こんなはずではなかった」となるのでは気の毒だ。夢をもちつつも、自己と社会のリアルな認識と位置づけのもとに労働と生活を選択する力を育てたい。