「日本の伝統」の正体 藤井 青銅 (著) 単行本: 240ページ 出版社: 柏書房 発売日: 2017/11/23 ¥ 1,620  この本では、各種の「伝統」がおおよそ何年くらい前からのものなのかを推察し、概算で示す。学校で教えるような確実な年号しか扱えないとしたら、このような大胆な本はできなかっただろう。  「初詣」は明治時代に鉄道会社の宣伝として始まった。傘を差した人同士がすれ違うとき、相手を濡らさないように互いの傘を傾ける「傘かしげ」などの「江戸しぐさ」は、これを記録した史料が一切ないにもかかわらず「江戸時代からの伝統」と言われる。だが、「江戸しぐさ」という言葉の初出は、1981年の読売新聞である。  藤井氏はこう述べる。「伝統があって、人間がある」のではなく、「人間があって、伝統がある」。そして次のように警鐘を鳴らす。「伝統」を強調することで正統性をアピールでき、権威ができ、価値が増す。よって、「日本の伝統」はビジネスになり、権威で人を従わせることもできる。私たちには、これを見極めるための、いわば「伝統リテラシー」が必要である。古くから「連綿と続く伝統」のように見えるしきたりや風習・文化だが、新しい時代に「発明された伝統」もある。もっともらしい「和の衣裳」を身にまとった「あやしい伝統」と、「ほんとうの伝統」とを対比・検証することで、本当の「ものの見方」を身につけることが必要である。  評者は考える。教育では、不確かな情報を排除することが大切である。だが、以上のような「伝統」や「モラル」に関することは、思い込みで語られたまま流通してしまうことが多いように思う。正確な年号はわからないとしても、時系列に関する大きな勘違いは、なんとか解消したいものである。