池上彰(著) 知の越境法−「質問力」を磨く 光文社 発売日:2018/6/13  池上氏の転機は、「週刊こどもニュース」キャスターへの異動にある。「建前の答え」を許さず、リスペクトしつつも「子どもにわかるように」と注文をつけ、「ぬけぬけとした質問」によって、相手の深い回答を得る。  氏は異動や転身を、現状を脱し新天地に飛び込むという意味で「越境」であり、積極的な行為だと言う。他の専門分野にまたがると、領空侵犯と批判されがちである。そのため、他の専門分野を串刺しにする人が少ない。左遷は、領域を跨ぐ越境のチャンスと考えよう。歳をとると越境の機会が減るが、無理にでもその機会を作ろう。自分にとって異なる文化と接すること、自分が属している組織に異質な存在を送り込むこと、それによって多様性を生み出すことができる。「ゆとり教育」についても、現在活躍中の若者たちについて、学校教育のカリキュラムに余裕が生まれ、さまざまな活動ができるようになった成果だと言う。そして、「円周率を3にした」などの批判の不当性を明らかにする。  「質問力」については、素朴なギモンは貴重な情報源、人に説明して自分の理解を深める、異分野の知恵を借りて停滞を破る、想定外の問いで本音を引き出すなどと、その効果と方法を述べる。評者は、この「質問力」について、インタビューによる暗黙知可視化手法との共通点を多く見出す。池上氏の言う「一見役に立たないと思うこと」でも疑問を持つことで知識が拡がり越境の機会も増えていく。これはすぐに陳腐化する「すぐに役立つもの」と対照的だ。そして、狙いは定めておくものの、そこで発生する偶然の果実は取りこぼさないという「ゆるやかな演繹法」。教育も、このような既定の解答のないことを追求する「質問力」を生徒に身につけさせることが重要と言えよう。