事業構想大学院大学出版部編 SDGsの基礎 2018/9/3  2015年9月にニューヨークの国連本部において、「国連持続可能な開発サミット」が開催され、「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。この目標が17のゴールと169のターゲットからなる、持続可能な開発目標(SDGs)である。SDGsは「誰一人取り残さない」という理念のもと、世界の課題を網羅的にとりあげている。  同書は、これについて、「とりわけ企業で、経営の中枢に据えることが想定されている」とし、社会的責任としての取組みのみならず、社会課題を収益事業として取組む「本業化」も期待されているとしている。そして、健康・水・エネルギー・まちづくり・働きがい・ジェンダー等の「17のゴール」に関して、計画最終年2030年の望ましい未来はどのようなものか、なぜSDGsは新事業の開発に役立つのか、新たな広報・コミュニケーションとしてSDGsをどう活用すべきかなどについて述べている。  同書は、日本における経営哲学の代表例として、近江商人の「三方よし」を挙げる。「買い手が満足し、売り手が満足するというのは、商売として当然のこと。世間(社会)に満足、つまり、貢献できてこそよい商売」という、自らの利益のみを追求することをよしとせず、社会の幸せを願う「三方よし」の精神は、多くの企業にとって経営理念の根幹になっているというのだ。そして、「三方よし」の理念を時間的にも、空間的にも広げたものとしてSDGsをとらえ、たとえば、売り手と買い手だけではなくサプライチェーン全体が満足することや、地球環境全体、さらには、未来の社会を担う将来世代の満足までを視野に入れるよう提唱する。  ここで「新事業の開発」とは、気候変動、健康、教育、食料など、地球規模で広範な社会課題に対し、自社の経営資源を活用した解決策を考えることで、新たな事業の構想に役立つということ、「企業価値の向上」とは、金融や投資の側面でも、企業が環境や社会の課題にどう対応しているかが重視されるようになっており、SDGsに取り組むことで、企業価値の向上に結びつくということ、「ステークホルダーとの関係強化」とは、SDGsと経営上の優先課題を統合させる企業は、顧客・従業員・その他ステークホルダーとの協働を強化できるということだと説明される。  同書は、企業の公的役割を高らかに謳う。市民社会としても、社会課題の解決や、より良い社会の構築は公的セクターの役割であるという先入観を捨て、「人と社会を根本か ら支えている企業もある」という観点から広くパートナーシップを組むのが得策と言うのである。  そして、SDGsのような長期的な取り組みでは、次世代を担う若者に期待が集まりやすいとし、未来のある若者に対して、シニアの社会を変えた成功体験を提示するよう主張する。一見達成が難しそうな目標でもくじけずに社会的な努力が継続されるようにするには、そうした成功体験と希望を次世代にきちんと伝えるのが何より大事であるというのだ。そして、将来の幸福度を支える何か良い智慧や制度や社会を、今の私たちは残す必要があるのではないかと訴える。  だが、就職や起業において、自らの職業が、人類や地球の存続にも貢献するという夢のある職業観を持てる若者は、一部のエリートに限られてしまうのではないかと評者は危惧する。格差の拡大と不正の横行のなか、多くの若者は、仕事に夢を持てずにいるように思える。そこで脱落した者に対しては、個人化社会では、「それも自己決定なのだから自己責任」と断じられる。そこでは、「誰一人取り残さない」という理念は理想論にすぎないといえよう。せめて、われわれの教育活動においては、若者が自らの存在の社会的意義を確認し、これに基づいた自己決定ができるような社会的視野の獲得を促すものでありたいと願うものである。