小巻亜矢サンリオピューロランドの人づくり 来場者4倍のV字回復! サンリオピューロランドの人づくり 出版社: ダイヤモンド社 発売日: 2019/7/18  本書には、専業主婦11年からの復職、幼い息子の死、シングルマザーの苦闘、2度のガン、52歳からの働きながらの東大大学院進学など、そのキャリア論、人生論、死生観、時間術も掲載されている。  著者は、低迷して大赤字だったサンリオピューロランドに専業主婦から復職して、わずか2年でV字回復させた。設備投資する予算もないので、施設もスタッフもほぼ同じままなのに、マネジメント、研修、コミュニケーション、バックヤード(従業員トイレなど)を変えることで、職場の雰囲気を大きく前向きにさせた。本書は、抵抗の多い変革を「お試し」「期間限定」といって次々と受け入れさせる技術、コーチング、スタッフのやる気を取り戻したコミュニケーション術など、すべて結果が出ている受け入れやすいノウハウを紹介する。また、ビジネス戦略については、インバウンド対応、自社の資産(キャラクターなど)の最大活用、顧客ターゲットの変更(幼児向けを大人向け)、インスタ映え、SNS活用などの実際を紹介している。  著者は、人を育てることを最重視する。コーチングや心理学の知識も交えながら、スタッフの意識を変え、職場の雰囲気を変え、やる気を引き出すために取り入れた仕掛けと、日々心がけているコミュニケーション法を紹介する。それは、「いろいろな価値観をもつ社員をひとつにまとめる」「役職や部署の壁を壊す」「自由にアイデアが飛び交うチームを作る」ということにつながると言う。  具体的には、挨拶だけで社内の雰囲気はぐっと良くなる、「コンセプト会議」で組織に横串を剌す、「期間限定」「お試し」と言えば反対されない、男性脳には「数値化」が効く、廊下ですれ違いざまに「2行メッセージ」を送る、「バックヤードこそテーマパークに」、トイレの落書きは心の叫びを表すサイン、「いつでも遠慮なくメールを送ってください」、ミッションはみんなの「お母さん役」になること、などの示唆が並ぶ。  SDGs(持続可能な開発目標)については、世界規模で「みんななかよく」(サンリオのコンセプト)を考えるための国際指標として、ユーチューブでSGDsをはじめとした社会問題にも触れながら、いろいろなコンテンツを届けることの意義などを強調する。   ピューロランドでは、従業員トイレを「バックヤード」として、きれいに大切にしている。その誇らしいトイレに、あえて落書きをする人がいた。がっかりしたのと同時に、著者はスタッフのなかにプライドが湧き上がるのを感じた。そしてネガティブなことにどう対処するかを、社員やアルバイトと一緒に考える機会とした。「この出来事の意味は何か」「そもそもなぜ、こんなことをしてしまったのか」。今のビューロランドが抱えている痛みを、みんなで真摯に受け止めることかできたとして、スタッフの心の声に関心を寄せ、聴く耳をもつことの大切さを改めて痛感した出来事だと著者は振り返る。  著者は、「自ら考える社員」について、次のように述べる。どの組織にも言えることだが、上司から指摘を受けたら、「その本質は何か」を見極めることが重要である。イベントの内容を修正するように言われた。でも客観的に考えて、イベントを修正する必要性はないように思う。それならワンクッション置いて、指示の真意はどこにあるのか、この指示から何を学ぶべきなのかを考えるよう助言する。著者は、イベントのアイデアが社長から突き返されたことを、「満足するな」「もっと上を狙え」というメッセージだと理解した。自己の成長や組織の未来につながる学びだと思えば、ベストを尽くそうというモチベーションにもなると言うのだ。これに対して、「直せと言われたから直しました」では、何もいいことがないと言う。残業が増え、みんなが疲弊し、現場のモチベーションが下がる。「考えない体質」になる。結果に対して無責任になる。よくないスパイラルに陥るリスクが高くなる。  評価について、筆者は次のように述べる。仕事をしていると、組織の中で板挟み的な状態に陥ることも、優先順位を決めかねることもある。そんなとき、「育てる」「育ててもらっている」という気持ちがあるかどうかだけで、物事の受け取り方はかなり変わる。成果に対する評価はもちろん大切だが、そこだけを見てはいけない。時間がかかるが、職場のコミュニケーションの前提として、徹底して取り組んでいく。評価シートにどんな欄を設けるかは、会社の姿勢を顕著に表す。そこには「育成し合える会社、成長し続ける組織になろう」というメッセージが詰まっている。人事評価制度は処遇や報酬に直結するだけに、改良するにもかなりハードルがある。まさに、人事チームの踏ん張りと熱意がなければ実現できなかったことであると、胃が痛む思いで制度改善に取り組んできたチームに、筆者はエールを送る。  社員の成長について、筆者は次のように述べる。営利企業だから、売り上げ目標や動員目標を達成したり、合理的にコストを削減して利益率を上げる努力をするのは当然のことであり、そもそも、仕事は成果をあげてこそ楽しいという面もある。だが、一番大事なことは、仕事を通じて自分もスタッフも、どう成長できるかである。スタッフがその人なりのちょっとしたハードルを越えた瞬間に触れると、ものすごく感動する。そして、「偉かった、そこ頑張ったよね」とちゃんと言葉にして返してあげたいと思っている。著者は、「みんなが自分の中にあるハードルを越えた瞬間って、すごく素敵」と言う。あら探しではなく、素敵なところを見つけようと心がけていると、魅力的なシーンが目につくようになるとして、美点凝視という言葉の意義を強調する。  著者は、社長からダメ出しされた事業を、部下の自発的なデータ収集などに支えられ、「やんわりと」社長を説得した。このようなプロセスを経て「みんながお互いを思いやり、会社の状況を把握し、できることを自分で考える」というチームに育ったというのだ。評者は、学校管理職としても、うまくいかないときこそ、教職員に自ら考えさせ、「チームとしての学校」を実現する方向で教職員を導くことが大切であり、このことこそ、今後の学校経営にとっては、重要なリーダーシップといえるのだと考える。